本計画は強い「危機感」に基づいている。
気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの危機に直面している。2023 年の世界の年平均気温は観測史上最も高く、産業革命以前の平均と比較して1.45℃(±0.12)高くなり、我が国を含む世界で異常高温、気象災害が多発した。2020 年に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、人類が生態系の一部であること、環境、生態系のバランスの乱れには巨大なリスクを伴うこと等を明らかにした。このような環境への危機意識は、今でこそ広く共有されているが、ローマクラブによる「成長の限界」、国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」など、実に 50 年以上前から先人達が警鐘を鳴らしていた。また、1995(平成 7)年版の環境白書は、現代文明の地球的限界を述べていた。人類の活動は、地球の環境収容力(プラネタリー・バウンダリー)を超えつつある。2023 年のCOP28 においては、パリ協定の下での初めてのグローバル・ストックテイクが行われ、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行が初めて盛り込まれた。
また、我が国は本格的な人口減少社会に突入する中で、東京一極集中は引き続き進行し、若年層を中心に人口流出が続く地方では様々な分野に深刻な影響が生じている。
更に、我が国の経済は1990 年代以降長期停滞にあり、一人当たりGDPは2 位(2000 年)から 30 位(2022 年)に低下し、賃金もほとんど伸びず、局面の打開が図られているところである。2000 年の経済白書では、「根本的な問題は、日本が 100 余年をかけて築き上げた規格大量生産型の工業社会が、人類文明の流れに沿わなくなったという構造的本質的な問題である。」と記述されていた。
国際関係では、民主主義国家と非民主主義国家の分断、ロシアによるウクライナ侵略など、地政学等に大きな転換をもたらしつつある事態が生じている。
現在の環境、経済、社会の状況は、現状の延長線上での対応では限界がある。本計画は、現代文明は持続可能ではなく転換は不可避であり、社会変革(Transformative Change)が必要であるとしている。1994 年に策定された第一次環境基本計画が示した本質的な問題提起に対応し、産業革命以降の近代文明を支えてきた、化石燃料等の地下資源へ過度に依存し物質的な豊かさに重きを置いた「線形・規格大量生産型の経済社会システム」から、地上資源基調の、無形の価値、心の豊かさをも重視した「循環・高付加価値型の経済社会システム」への転換が必要である。しかもこの大変革に残された時間は少ない。今後、約 30 年の間に新たな文明の創造、経済社会システムの大変革を成し遂げる必要があるとともに、2030 年頃までの 10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ可能性が高いとも指摘されている(「勝負の 10 年」)。
2024年の元日に発生した「令和6年能登半島地震」は、私たちに自然の脅威を改めて認識させることとなった。自然に対する畏敬の念を持つ等の、我が国の伝統的な自然観の下、自然との共生を目指すとともに、地球の健康と人間の健康とを一体的に捉える「プラネタリー・ヘルス」の考え方が重要となる。更には、個人、地域、企業、国、地球がいわば「同心円」の関係にあるとして、一人一人が意識し、行動することが求められる。
「循環」と「共生」を始め、累代の環境基本計画が目指してきた概念を発展させ、環境を基盤とし、環境を軸とした環境・経済・社会の統合的向上への高度化を図り、環境収容力を守り環境の質を上げることによって経済社会が成長・発展できる文明を実現していく。それが、本計画が目指す持続可能な社会としての「循環共生型社会」(環境・生命文明社会)である。
本計画は、この循環共生型社会を目指すことで、国民に「希望」をもたらすものとしたい。
現在及び将来の国民が、明日に希望を持てるよう、長年続いてきた構造的に問題に対して「変え方を変える」姿勢で、環境政策を起点とし、経済・社会的な課題をカップリングして同時に解決していくことを目指す。そのため、環境基本法第 1 条の趣旨を踏まえ、「現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」を最上位の目的とし、市場的価値と非市場的価値の双方において「新たな成長」の実現を図っていく。そのための鍵は、基盤としての自然資本、自然資本を維持・回復・充実させる資本・システムについて、国民が、市場の失敗の是正を含め「あるべき」「ありたい」状態を想定して、この目的と「共進化」させていくことにある。そこには、無形資産である環境価値を活用した経済全体の高付加価値化も含まれる。
現下の危機を克服し、循環共生型社会、「新たな成長」を実現していくためには、利用可能な最良の科学的知見に基づき、「勝負の2030 年」にも対応するため、取組の十全性(スピードとスケール)の確保を図ること、また、海外の自然資本に大きく依存する我が国として「人類の福祉」への貢献が必要である。複合する危機に対応し、諸課題をカップリングして解決するため、諸政策の統合・シナジーが不可欠であり、この問題意識に基づき、具体的には第2部第2章において重点戦略を設定した。更に、「全員参加型」のパートナーシップの下、政府(国、地方公共団体等)、市場(企業等)、国民(市民社会、地域コミュニティを含む。)が、持続可能な社会を実現する方向での相互作用、すなわち共進化することを目指す。
第五次環境基本計画で打ち出された地域循環共生圏については、地域資源を活用した自立・分散型の社会の実現の鍵となる。地域の「ありたい未来」に向けて、「新たな成長」の実践・実装の場として発展させていく。
加えて、汚染への対処、水俣病問題や東日本大震災などによって失われた環境と地域の復興等、環境行政の原点ともいうべき分野における取組についても、なお一層進めていく。
本計画は、第一次環境基本計画の策定からちょうど30 年の節目に策定されるものである。第五次環境基本計画までを貫く根本的な考え方を踏襲し、更には発展させ、現下の危機を克服して今後を「希望が持てる30 年」とできるよう、持続可能な社会を構築する一助となるための考え方及び方策について記載する。
人類は深刻な環境危機に直面している。
G7広島首脳コミュニケ(2023 年5月 20日)では「我々の地球は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機に直面している」と明確に述べられた。
特に「気候危機」とも言われる気候変動問題について、世界平均気温は上昇傾向にあり、1970 年以降、過去 2000年間のどの 50 年間よりも気温上昇は加速している。世界気象機関(WMO)の報告によると、既に温室効果ガスの排出をはじめとする人類の活動が、産業革命以前の1850~1900年の平均と比較して2014〜2023年に約1.20℃(±0.12)の地球温暖化を引き起こしている。特に2023 年においては、世界の年平均気温が観測史上最も高く、産業革命以前より1.45℃(±0.12)高くなったと報告した。こうした状況の中、2020 年には、衆・参両議院において、「私たちは「もはや地球温暖化問題は気候変動の域を超えて気候危機の状況に立ち至っている」との認識を世界と共有する」旨の「気候非常事態宣言」を決議しており、2023 年7月には、国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と表明した。
COP28(国連気候変動枠組条約第 28 回締約国会議)における決定によれば、2015 年に採択されたパリ協定に基づく各国の取組が完全に実施された場合、地球の平均気温の上昇は 2.1~2.8℃の範囲になると予想されている。他方、1.5℃の上昇に首尾良く抑えることができたとしても、広い意味では12023 年のような現状と比べて特異な状況2が常態化してしまうおそれがあることを念頭に、強い危機感を持つ必要がある。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第六次評価報告書統合報告書では、極端な高温、海洋熱波、大雨の頻度と強度の増加などを含む気候システムの多くの変化は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大しており、その結果、何百万人もの人々が急性の食料不安に曝されるとともに、世界の人口の約半分が現在までのいずれかの期間、深刻な水不足に陥っているとしている。また、約33~36 億人が生活している気候変動に対する脆弱性が高い地域では、2010~2020 年の洪水、干ばつ、暴風雨による人間の死亡率は、脆弱性が非常に低い地域と比べて15 倍高いと報告している。
我が国においても、2023 年の年平均気温は 1898年以降で最も高く、1898 年から 2023年の間に 100 年当たり 1.35(P)℃の割合で上昇した。日本の年平均気温の上昇は世界平均よりも速く進行しており、真夏日や猛暑日、熱帯夜等の日数が増加していることが指摘されているほか、日本国内の大雨や短時間強雨の発生頻度も増加しており、各地で被害が発生している。加えて、高温による農作物の生育障害や品質低下が発生するなど、様々な地域、分野への気候変動の影響が既に発生している。2010 年以降、熱中症による救急搬送者は年間4万人を超えているが、最も温暖化が進むシナリオ(RCP8.5シナリオ)では、その人数は 3.2~13.5 倍程度増加する予測結果を示す研究事例3もある。また、地球温暖化による異常気象の発生確率や強さの影響を定量的に評価するイベント・アトリビューションの手法によって、国内の異常高温や大雨、頻発する災害などの因果関係も明らかになりつつある。
さらに、こうした気候変動の影響は、被災地に留まらず、サプライチェーンや物流の断絶等によって世界各地の民間企業の事業活動に大きな被害をもたらす4ことが懸念されている。
これらの現象について長期的な改善傾向は確認されておらず、ますます悪化することが懸念されている。気候変動による人為起源の変化があるレベルを超え、いわゆるティッピングポイントに達したときには、気候システムにしばしば不可逆性を伴うような大規模な変化が生じる可能性があるとされており、最も温暖化が進むシナリオ(RCP8.5 シナリオ)では、西南極の一部の氷床の崩壊が突然発生し、何千年も元に戻すことができない事象の発生が危惧されている。
また、生物多様性の観点からは、我々が生きる現代は「第6の大量絶滅時代」とも言われる。生命が地球に誕生して以来、生物が大量に絶滅した「大絶滅」が過去に5回発生したといわれるが、6回目たる今回の大絶滅は、過去の大絶滅と比べて、種の絶滅速度が速く、その主な原因は人間活動による影響と考えられている。生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」では、世界の陸地の75%は著しく改変され、海洋の 66%は複数の人為的な要因の影響下にあり、1700 年以降湿地の 85%以上が消失した、と報告されている。また、調査されているほぼ全ての動物、植物の約25%の種の絶滅が危惧されているなど、過去 50 年の間、人類史上かつてない速度で地球全体の自然が変化していると報告されている。さらに、地球上の種の現在の絶滅速度は、過去 1,000 万年間の平均の少なくとも数十倍、あるいは数百倍に達していて、適切な対策を講じなければ、今後さらに加速するであろうと指摘されている。
海洋環境に関しては、過去150 年間で生きたサンゴ礁の面積がほぼ半減し、ここ 20年から 30 年では、水温上昇と海洋酸性化がその他の減少要因と相互に作用して影響を増幅し、減少が著しく加速している。サンゴ礁海域では、サンゴの致死率の高い大規模な白化現象が生じ、1.5℃の気温上昇でサンゴ礁が今よりも70%~90%、2℃上昇で99%減少すると予測されている。
鳥獣被害についても深刻化している。我が国において、クマ類による人身被害の発生件数は長期的に増加傾向にあり、2023 年度は統計のある 2006年度以降最も多く、また地域的には北日本を中心に多くなっている。クマ類の分布域は拡大する傾向を示しており、人間の生活圏にクマ類が侵入し、国民の安全・安心を脅かしている。この背景には、自然環境の変化や社会環境の変化など様々な要因が考えられる中、近年の少子高齢化・過疎化の進行により人による自然への働きかけが減少したこと等の土地利用の変化の影響があると考えられ、鳥獣の生息域と人間の活動域、その間の緩衝域のゾーニング等を考慮した土地利用や鳥獣管理の立て直しが急務となっている。
さらに、汚染への対応は「人の命と環境を守る基盤的取組」であり、我が国の環境行政の不変の原点として進めていくことが重要である。化学物質やマイクロプラスチック等による水・大気・土壌等の環境汚染等は、生物多様性など自然資本への大きなリスクであると同時に、人の健康、ウェルビーイングへのリスクとして引き続き対応が必要な課題となっている。
例えば、水環境を巡っては、世界の排水の80%以上が未処理のまま環境中に放出され、工業施設から排出される年3~4億トンの重金属、溶媒、有害汚泥及びその他の廃棄物が世界各地の水域に投棄されていると報告されている5。我が国においては、公共用水域における生活環境の保全に関する環境基準(生活環境項目)の達成率は、湖沼や閉鎖性海域で低い傾向にある6ほか、過去に幅広い用途で使用されてきた PFOS7、PFOA8は、難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質があるため、現時点では北極圏なども含め世界中に広く残留し、国内でも主に都市部やその近郊の公共用水域、地下水において暫定目標値の超過する事例が確認されている。
プラスチック汚染については、世界で排出されるプラスチック廃棄物の量は 2019 年から 2060 年までにほぼ3倍になり、環境への流出量は 2060 年には年間 4,400 万トンに倍増し、湖、河川、海洋に堆積されるプラスチックの量は3倍以上に増加する見込みとされている9。マイクロプラスチック(一般的に5mm 未満とされる)による影響を含め、海洋環境を含む生態系への深刻な影響が懸念されている。
こうした環境上のリスクに関しては、外交・安全保障上の危機によってもたらされる影響も大きい。とりわけ、ロシアによるウクライナ侵略については、環境も含めた破滅的な影響だけでなく、前例のない世界的なエネルギー危機、人々の生活に現実に経済的影響を与えるインフレ、食料不安や栄養不良を助長させる世界の穀物及び肥料価格を巡る状況の悪化等を引き起こしている。
上記の危機的な状況を踏まえると、人類の活動は、地球の環境収容力、プラネタリー・バウンダリーを超えつつあり、自らの存続の基盤である限りある環境、自然資本の安定性を脅かしつつあると言える。例えば、環境収容力の観点では、地球温暖化を 1.5℃に抑える確率を 50%とした場合、過去の累積の二酸化炭素排出量は既にカーボンバジェット10(炭素予算)全体の5 分の4 に達しており11、また、IPCC 第六次評価報告書統合報告書によれば、追加的な削減対策を講じていない既存の化石燃料インフラに由来するCO2排出量は、1.5℃(50%)の残余カーボンバジェットを超えると予測されている。また、グローバル・フットプリント・ネットワークの報告によると、世界のエコロジカル・フットプリントは2010 年代後半には既に地球 1.7 個分に達したとされている。加えて、「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」の研究では、2015 年に既に判明していた種の絶滅の速度と窒素・リンの循環に加え、最新の2023 年の結果では新たに気候変動、土地利用変化、新規化学物質12と淡水の利用について、不確実性の領域を超えて高リスクの領域にあるとされた。【P】
本来、人類はあまたの生物とそれをとりまく環境により構成される生態系の中の一生物種に過ぎない。2020 年から世界が直面している新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、人類が生態系の一部であること、環境、生態系のバランスの乱れには巨大なリスクを伴うこと等を改めて明らかにした13。
これまで人類は、化石燃料を始めとした地下資源を著しく多量に消費し、環境の大きな改変を伴いながら文明を築き、その個体数(人口)を指数関数的に増大させてきた。その結果、新たな地質年代である「アントロポセン(人新世)」14の提唱が象徴するように、生態系あるいは環境において特殊な存在となっている。
人類がこのような危機に直面することについては、今から50 年以上前の 1972 年に、ローマクラブによる「成長の限界」と題した研究報告書15や、国連人間環境会議(ストックホルム会議)で採択された「人間環境宣言」16において既に警鐘が鳴らされていた。当時の我が国では、既に各地において公害による甚大な被害を経験しており、同会議には胎児性水俣病患者らが参加して、水俣病の被害を世界に発信した。1970 年のいわゆる「公害国会」における多数の公害関連法の制定、1971 年の環境庁の設置など対策が急速に講じられつつあった一方で、水俣病を発生させた企業に対して長期間にわたり適切な対応をすることができず、被害の拡大を防止できなかったという経験は、時代的・社会的な制約を踏まえるにしてもなお、初期対応の重要性や、科学的不確実性のある問題に対して予防的な取組方法の考え方に基づく対策も含めどのように対応するべきかなど、現在に通じる課題を投げかけている。
1995(平成7)年版の環境白書は、人類の文明がその文明を支える環境の収容力を突破し、その結果、当時の文明が対応できない程度に環境が変化し、文明が滅んでいった過去の例を教訓としつつ、現代文明の地球的限界と持続可能な社会への転換の必要性を説いていた。我が国における人口減少社会の本格化、世界人口の伸びの鈍化は、環境収容力に向かって人口が収斂し、文明の転換点を迎えていくという歴史的な経験と整合的である17。
現代文明は持続可能ではなく転換は不可避であり、社会変革(Transformative Change)が急務である。
我が国では、江戸時代までは水力や森林といった地上資源を基調とした文明を築いてきた。しかし、明治以降、化石燃料を始めとする地下資源を大量に利用することで産業革命を実現し、現在の繁栄をもたらした一方で、深刻な環境危機に直面している。
再生可能エネルギーやデジタルなどこの百数十年間で生まれた様々なイノベーションを土台に、再び地上資源を基調とした新たな文明の創造が不可欠であり、経済社会システムの大変革が求められる。
しかも、その大変革のために残された時間は少なく、特に気候変動においては、1.5℃目標の達成に向け、今後、約 30 年の間に新たな文明の創造、経済社会システムの大変革を成し遂げる必要があるとともに、2030 年頃までの 10年間に行う選択や実施する対策は現在から数千年先まで影響を持つ可能性が高いとも指摘されている(「勝負の10 年」)。2023 年のCOP28 においては、パリ協定の下での初めてのグローバル・ストックテイクが行われ、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行(Transitioningaway from fossil fuels in energy systems)、この重要な 10 年間における行動の加速、科学に沿った 2050 年ネット・ゼロの達成などが合意された。
加えて、生物多様性の観点からは、2022 年 12 月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」において、生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとることが 2030 年ミッションとして定められ、2030 年までに達成すべき 23 のグローバルターゲットが盛り込まれている。2030 年にはまた、2015 年9月の国連総会において採択された「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」(以下「2030 アジェンダ」という。)に記載された「持続可能な開発目標(SDGs)」の 17 の目標の達成度も問われる。
第4部に記述しているとおり、本計画は、2050 年及びそれ以降の中長期的な環境・経済・社会の目指すべき方向を踏まえ、その実現のための施策の実施期間は概ね2030年まで(本計画策定後5年を目途で見直しのプロセスに入る。)を想定している。2030年までの本計画に基づく施策の到達点が、今後の長きにわたり、現在及び将来の国民や人類の福祉に大きな影響を及ぼす可能性があることを踏まえつつ、利用可能な最良の科学的知見に基づき、国際社会の一員として、これらの目標の達成に向けて全力で取り組むことが求められる。
2006(平成 18)年に策定された第三次環境基本計画には、「環境先進国」18を目指すことが盛り込まれている。我が国は、これまで、激甚な公害の克服等の経験を踏まえ、海外への技術やノウハウ等の移転、高い環境性能を有する財・サービスの輸出を進めるとともに、諸外国から国内への視察等を数多く受け入れてきた。
しかし、例えば、第三次環境基本計画の策定当時、世界のトップを誇った太陽光パネルやリチウムイオン電池等の生産量のシェアは、現在大きく低下しており、また、近年急速に世界で普及している電気自動車については、現時点で高い販売シェアを獲得できていない19。環境関連産業の育成については、既存の経済社会システムの延長線上ではなく、文明の転換、社会変革の実現に向け、官民連携により国際競争力を一層強化し、付加価値の創出につなげることが重要である。
さらに、炭素生産性、資源生産性については、世界各国が改善を続ける中で我が国は低迷している。先進国では、1990 年代と比較して炭素生産性、資源生産性と労働生産性の相関が高まり、経済成長がエネルギーや資源の消費とデカップリングしつつある状況下において、特に炭素生産性については、我が国は1990 年代半ばまでは世界最高水準であったが、現在は世界のトップレベルからは大きく乖離している20。
他方、我が国の環境関連の特許出願件数は、依然として現在も世界でトップクラスであり、知的財産に関する高い競争力を保有しているとみられる。世界全体の脱炭素社会21への移行に伴い、こうした技術へのニーズは今後ますます高まると考えられ、我が国の技術に対する国際的な期待は高い。
アジアで最初に近代化を成し遂げ、発展の過程で課題先進国でもあった我が国には、アジア唯一のG7メンバー国である等、国際社会において特有の地位があり、地球規模の課題解決に当たって果たすべき役割がある。特に、今後エネルギーやモビリティ等の需要の大幅な伸びが見込まれるアジア地域において、我が国がその地理的・歴史的なつながりを踏まえつつ、知見・技術を活用して協力・連携を進めることで、アジア地域、ひいては地球全体の持続可能な発展に寄与することが期待されている。
第三次環境基本計画で掲げた「環境先進国」の目標に向けて、上記のような期待に応えるためにも現在は正念場にあると言え、あらゆる主体による取組の強化が求められている。
第五次環境基本計画において「我が国は、今、環境、経済、社会に関わる複合的な危機や課題に直面している。」と述べたが、我が国は、引き続きそれらの危機や課題に直面している。
我が国の人口は 2008 年をピークに減少に転じ、本格的な人口減少社会に突入した。
総人口はこの5年間で約 200 万人減少し22、また、2022 年の出生数は、統計開始以来初めて 80 万人を割り込んだ23。また、明治期以降、産業構造の変化等に伴っていわゆる太平洋ベルト地帯、とりわけ東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)への人口集中が進行したが、この 30 年においても、東京圏の総人口に占める割合は 1990 年の25.7%24から 2023 年の 29.3%25に増加し、明治の中頃に比べると3倍近くになった26。東京圏のGDP シェアは約 34%、金融機関の貸出金のシェアは約 53%に上るが27、2010 年から 2018 年にかけての東京 23 区の人口一人当たりの地域内総生産の伸び率は 0.6%と全国平均の 11.6%に比べて大幅に低い28。
若年層を中心に人口流出が続く地方では、地域コミュニティの弱体化を招き、また、地方公共団体の行政機能の発揮の支障が生じ、持続可能な国土管理など地域の様々な分野に深刻な影響を与えている。なお、大都市圏と比べて地方圏の住民の満足度は低く、特に地方圏の中でも人口規模が小さい自治体の満足度が低い傾向にある29。
また、拡散型の市街地を有する都市(市街化区域やDID の人口密度が低い都市)は、集約型の市街地を持つ都市と比べて住民一人当たりの自動車の走行距離が長く、CO2 排出量が多い傾向にある。特に地方において、都市構造のスプロール化等が進行することは、中心市街地の衰退等の問題だけでなく、CO2 の増加につながる。しかし、依然として市街化区域の人口が減少しているにもかかわらず、市街化区域を拡大している自治体も少なくない30。また、地表面被覆の人工化31、都市形態の高密度化、人工排熱の増加などにより、東京の平均気温は、気候変動とヒートアイランドの影響が相まって、1961 年から1990 年の期間と1991 年から2020 年の期間との比較で、約0.9℃上昇した32。
一方で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、テレワークやオンライン学習等、非接触・非対面での生活様式を可能とするICT の利活用が一層進展したことに伴い、東京都心からの転出超過傾向が見られる等、上述のような都市・地域の課題にも変化が見られつつある。東京在住者に対するアンケート調査によると、地方移住への関心理由として、「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため」が最も多く、地方の良好な環境を活用した自立・分散型社会の可能性を示している。
1990 年代以降、我が国は長期停滞の状態にあるとされる33。ここ30 年間、我が国の名目 GDP は微増に留まり、為替相場が円安に大きく振れた影響もあり、2023 年は 55 年ぶりにドイツに抜かれて世界4位となる見通しである。我が国は「ものづくり国家」と言われているが、製造業の GDP34は、1990 年代後半と比較して、米国、ドイツが 1.7 倍程度に伸びているのに対して、我が国は横ばいである。一人当たりGDP の世界における順位は2位(2000 年)から 30 位(2022 年)に低下し35、実質賃金、名目賃金ともに、他の先進国と違ってほとんど伸びていない。また、当初所得のジニ係数は、2005 年の0.5263 から 2021 年の 0.5700 と拡大傾向にある(社会保障を中心とした再分配所得ではほぼ横ばいで推移している。)36。
しかしこの間、我が国の企業は、売上高が伸び悩む中においても経常利益を引上げることに成功してきたが、国内での設備投資や人件費には積極的に支出してこなかった37(海外における投資は活発化したが、その果実が国内に十分に還元していないとの指摘もある。)。企業部門の貯蓄超過は、2000 年代以降他の主要国より高い水準で推移し、民間非金融法人企業の現預金は、2023 年 6 月末現在、340 兆円を超えている38。企業経営の合理化の中で進められたこれらの固定費削減は、企業収益の改善に大きな役割を果たしてきたが、イノベーションの停滞、不安定な非正規雇用の増加、格差の固定化懸念39、中間層の減少など新たな課題に直面し、経済の好循環を弱め、国民生活の改善に結び付いていない可能性が指摘されている(個別の企業活動はある意味合理的に行動しているにもかかわらずマクロ経済上の問題を引き起こす、いわゆる「合成の誤謬」が生じていたとされる。)40。
また、近年先進国の経済成長に大きく関係しているとされる無形資産投資の内訳を見ると、我が国は研究開発投資等の「革新的資産」の割合が大きく、GDP 比も先進国でも高い水準である一方、ブランド資産(広告宣伝費などのマーケティング関連資産)や人的資本、組織構造などからなる「経済的競争能力」の割合が小さく、GDP 比、も先進国でも最も低い水準である。その結果、我が国は「経済的競争能力」のGDP 比と相関が高いプロダクト・イノベーション実現割合の水準も、他の先進国に比べて低い。加えて、我が国は人口当たりの特許出願数が多い一方で商標出願は少ないという特徴があり、固有技術には強みを持っているが、新製品や新たなサービスの導入による収益化には課題を有している。また、開廃業率の和も主要先進国と比べて小さく、我が国における企業の新陳代謝は非常に低くなっている。
デジタル関連投資の伸びも他の先進国に比べて低く、1990 年代からほぼ横ばいである。特に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際等においては我が国のデジタル化の遅れが指摘され、「デジタル敗戦」41と表現されることもある。
我が国の交易条件42は、輸入価格の上昇を輸出価格に転嫁できないなどの理由により、2000 年代から大幅に悪化している。2022 年の化石燃料の輸入額は史上最高の 33.5 兆円に上り、貿易収支の悪化の主要な要因となっている。また、実質実効為替レートは2023 年には 1990 年代と比べて約6割下落し、統計的に遡れる 1970 年以来の最低の水準となり、1ドル 360 円だった固定相場制の時代よりも円安となった。
近年、新興国・途上国が台頭し、相対的にG7諸国の地位が低下する等、国際的なパワーバランスに大きな変化が生じている(いわゆる「Gゼロ」)。民主主義国家と非民主主義国家の分断、新型コロナウイルス感染症の世界的まん延、ロシアによるウクライナ侵略等、歴史的転換期とも言える変化の中で、世界はかつてなく多様化しているが、中でも最貧国など脆弱な国ほど大きな影響を受けている。
特に、ロシアによるウクライナ侵略により、エネルギー安全保障、食料安全保障、経済安全保障の重要性が再認識され、国際的なエネルギー・資源・食料価格の上昇、供給の途絶・混乱への懸念と、世界及び地域の安定に影響を及ぼすリスクが増大している。ドイツを始め多くの欧州諸国では、そのような状況に対応して、ロシアによるウクライナ侵略後に再生可能エネルギーの導入目標を大幅に引き上げている。
そのような状況の中、我が国は、依然として海外からの輸入に依存している。我が国のエネルギー自給率は約 13%、カロリーベースの食料自給率は約 38%である。また、食料生産に必要な肥料原料、半導体等の先端技術に不可欠なレアメタル等は、一部の国に偏在している状況において、我が国はほぼ輸入に依存している。これに伴い、我が国に輸入されたバーチャルウォーター量(食料、畜産物等を輸入国が自国で生産すると仮定した場合に必要な水の量)は、2005年は約800 億立方メートルとなっており、我が国で消費される水利用の国外依存度は1000%を超え、世界で最も高くなっている。
加えて、木材については日本の森林蓄積量は人工林を中心に年々増加43しているにもかかわらず、木材の約6割を輸入している。このように、我が国は、海外の自然資本に大きく依存するとともに、海外における環境負荷の増大にも大きな影響を与えている。
食料、水、エネルギー、金属資源等の資源調達は、従来から環境問題と深く関わるとともに外交・安全保障上の重要課題であったが、新興国の台頭に伴い、天然資源の国際的な調達の競争が激化してきたほか、環境破壊に起因する紛争や難民の増加、地域の不安定化のリスクも増大し、「環境」が以前にも増して安全保障上の課題の一つと位置付けられるようになった。
特に、2000 年代以降、気候変動が人類の存在そのものに関わる安全保障上の問題であるとの認識、いわゆる「気候安全保障」の認識が浸透してきた。IPCC 第六次評価報告書統合報告書は、「気候変動は、食料安全保障を低下させるとともに水の安全保障に影響を与え、持続可能な開発目標を達成するための取組を妨げている」としている。
また、気候変動がもたらす異常気象や海面上昇等は、自然災害の多発・激甚化、災害対応の増加、エネルギー・食料問題の深刻化、国土面積や排他的経済水域の減少、北極海航路の利用の増加、それら事象に伴う地政学的な変化等、我が国の安全保障に様々な形で重大な影響を及ぼす可能性がある。
また、IPBES 地球規模評価報告書は、遺伝的多様性を含む多様性の消失は、多くの農業システムの害虫、病原体、気候変動などの脅威に対する強靱性(レジリエンス)を損ない、世界の食料安全保障にとって重大な脅威になると指摘しており、安定的な食料生産の観点からも、生物多様性を維持・回復させることが欠かせないとしている。
我が国の世界に占める GDP の割合は、第一次環境基本計画が策定された 1994 年の17.9%をピークに近年は5%を下回る水準に低下し、1960 年代と同程度である。同じく、我が国の人口の世界に占める割合は、1994 年の約 2.2%から現在は約 1.6%に低下した。
そのような状況においては、世界の平和と安定が我が国にとって以前にも増して重要である。国際的な協調の下、環境危機の克服など人類の福祉に貢献することは、我が国の存在感の向上につながるとともに、国益に直結すると言える。
近年の環境危機の顕在化は、いわゆるSDGs のウェディングケーキの図に象徴されるように、経済社会活動が、自然資本(環境)の基盤の上に成立し、自然資本の毀損が経済社会活動に悪影響を及ぼすとの認識を世界的に定着させつつある。例えば、「世界経済フォーラム」のグローバルリスク報告書においては、気候変動の緩和策の失敗や生物多様性の損失などの環境関連のリスクが、コロナ禍であっても長期的なリスクの深刻度ランキングで最上位を占めた。また、特に気候変動問題が現在の資本主義における典型的な「市場の失敗」の例と見なされているなど、環境危機の背景にある経済社会システムの構造的な問題を解決する必要性、すなわち持続可能な社会の実現の必要性に対しての認識を広めることとなった。
2020 年初頭からの新型コロナウイルス感染症の世界的な流行(パンデミック)と、2022 年2月に始まったロシアのウクライナ侵略は、持続可能な社会の必要性について改めて考える契機となった。例えば、気候変動や生態系の破壊等に伴って感染症リスクは増大すること等から、地球の健康(地球環境の健全性)と人の健康は一体不可分である、という「プラネタリー・ヘルス」に関する議論が活発化している。グローバルなサプライチェーンの脆弱性が明らかとなり、2(3)でも述べたとおり、サプライチェーンの多様化の動きに加え、食料、エネルギー、重要物資等の持続可能な調達と利用についての重要性が高まっている44。
このような動きも相まって、持続可能な社会の実現は、我が国が設置を提案した国連「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)による 1987 年の提言から数十年かけて、確固たる人類共通の目的に位置付けられてきたと言える。
このような環境危機の顕在化を踏まえ、各国では、基盤としての自然資本を維持、回復、充実させていくこと、すなわち環境保全が経済成長の源泉、という考え方に基づき、政策の導入が加速化している。欧米では、米国のインフレ抑制法など脱炭素分野に多額の投資を促す仕組みが導入され、我が国においても、2020 年の 2050年カーボンニュートラル宣言を期に、グリーン・トランスフォーメーション(GX)関連の施策の導入・実施が加速化している。脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(令和5年7 月)では、一つの試算として今後10 年間で 150 兆円を超える投資に言及しているが、かつて全設備投資に占める公害防止投資の割合が17%(1975 年)に達したことがあることにも鑑みると、脱炭素分野の投資は巨額になることは確実と言える。また、このような環境保全を目的とする各国の政策が、グローバルな産業・企業活動に大きな影響を与え得る状況となっている。
環境危機の顕在化は、人々の環境と経済との関係についての認識を決定的に変化させたと言える。以前は「環境対策はコストである」という認識45が根強く残っていたが46、環境問題への対応は、デジタル化の進展等とともに新たな経済社会システムを規定する要件として、いわば所与のものとして捉え、その対応の在り方が競争力等に影響する、との考え方が広まってきている。特に2050 年カーボンニュートラル宣言以降、我が国の企業においても、ESG 投資の拡大、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)等の取組の浸透など、気候変動や生物多様性の損失等はリスクであるとともに機会という認識が更に広がり、また、環境問題を含む社会課題の解決を企業価値の創造につなげていく動きが活発化している。他方、デジタル化については、コロナ禍も契機として、ビッグデータを活用したビジネスの興隆、電子商取引やリモートワークの普及など経済・社会的に急速な変化を起こしつつある。デジタル化は、電力消費量の増大をもたらすと考えられるものの、エネルギーや製造工程の管理の効率化、シェアリング・エコノミーの普及によるモノの稼働率の向上等の環境負荷の低減に資する可能性がある。さらに今後、生成 AI の普及など、デジタル化は経済社会システムを大きく変革していくと考えられる。
また企業行動においては、国際的に水平分業が進み、グローバルにバリューチェーンが広がってきたことも背景として、バリューチェーン全体の環境負荷の低減が求められてきている。事業活動における再生可能エネルギーの活用への努力47と適応への取組などのように、環境保全の在り方が、グローバルのバリューチェーンへの参加とその持続可能性、財・サービスの差別化、国際競争上の要件となりつつあり、さらには再生可能エネルギーや水資源などの自然資本へのアクセスの容易さが事業所の立地に影響を与えている。その点、我が国の電源構成に占める再生可能エネルギーの現時点の割合は約2割で、G7各国の中では米国と並んで最も低い水準であり、我が国において事業活動を行うに当たっての課題の一つと言える48。
加えて、脱炭素社会など持続可能な社会の実現に向けては、経済社会システムの構造的な問題の解決が必要であり、いわゆる破壊的なイノベーションを伴う場合もある。
今やそのイノベーションの覇権を巡る国際競争の局面にもある49。
国際関係においては、ロシアのウクライナ侵略、中東情勢等を受けて、国際社会を分断と対立ではなく協調に導くことがかつてなく重要となっている。この点、地球環境の課題は国際社会共通の課題であり、環境を軸とした国際協調を発展させることは、環境・気候変動に関する国際約束の達成に向けた取組の加速化のみならず、世界の安定と人類の福祉に貢献し、ひいては我が国の国際社会における地位向上につながり得る。
地域レベルにおいては、1990 年代頃から、水俣病の甚大な被害を経験した水俣市が「環境モデル都市宣言」を行うなど、環境を軸としたまちづくりが進められてきたが、第五次環境基本計画策定以後、200 に近い自治体・団体が地域循環共生圏づくりに明示的に取り組んでいる。また、74(令和5年11 月現在)の脱炭素先行地域を始め脱炭素や環境保全の取組を地域の経済の再生などの課題解決に結びつける動きが加速化している。
これに加え、ライフスタイルや文化も環境に配慮した形への変化が見られる。例えば、2018 年のCOP24(国連気候変動枠組条約第24 回締約国会議)では、ファッション業界気候行動憲章が採択された。
さらに、環境問題を人権問題として捉える考え方も浸透してきた。2022 年7月の国連総会において「クリーンで健康かつ持続可能な環境に対する人権」に関する決議50が、161カ国の賛成で採択された51。また、国際的にいわゆる「人権・環境デュー・ディリジェンス」52の重要性が増してきており、脆弱な人々への配慮や世代間衡平性等を重視する「環境正義」「気候正義」の重要性が高まってきている。加えて、世界で気候変動関連訴訟が 2000 年代半ばから増え始め、パリ協定採択後に更に増加傾向にあり53、現在は、年間 200 件近い訴訟が新たに提起されている54。
上記のとおり、近年の環境危機の顕在化に伴って、経済、外交、安全保障、地域政策、その他の幅広い分野において、着実に環境が「主流化」してきたと言える。
テップ・高度化 ~「成長の限界」から「環境収容力を守り、環境の質を上げることによる経済社会の成長・発展」への転換~
これまで見てきたように、第一次環境基本計画策定後の約 30 年間の我が国の環境、経済、社会の状況は、必ずしも大多数の国民が希望を持ち続けることができる状況とは言い切れなかった。近年、ウェルビーイングの考え方が注目を集めているが、幸福度を比較すると、我が国は先進国の中でも最も低い水準が続いているほか、生活が苦しいと意識している世帯の割合は約半数となっている55。また、諸外国に比べ、自分の将来に明るい希望を持てていない若者が多いという調査結果がある56。
また、先人たちが懸念したとおり、将来の希望に関わる問題として、人類の存続の基盤である環境の危機が現実のものとなりつつある。我が国も含め世界的に、環境危機に対する慢性的な不安や恐怖を感じる「エコ不安」が指摘されている57。
第二次環境基本計画から、環境・経済・社会の統合的な向上を図る旨を明記していた。今後起こり得る様々な変化に対応しながら、環境、経済、社会に関わる複合的な危機や課題に対処し、持続可能な社会の実現を目指すに当たっては、この概念は以前にも増して重要となる。さらに、人類の存続の基盤を損なうおそれもある現下の環境危機を踏まえるならば、国民が不安から解放され、将来に希望が持てるよう、環境・経済・社会の統合的向上を次なるステップに進める、すなわち、経済、社会の基盤である環境を軸に据えた統合的向上へと高度化し、環境危機の回避とそのための行動をいわば梃子・牽引役にした経済・社会的課題の同時解決が求められる。
この点、30 年前の第一次環境基本計画の冒頭に記述されている「物質的豊かさの追求に重きを置くこれまでの考え方、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式は問い直されるべきである。」との問いかけは、環境・経済・社会の統合的向上の高度化を実現する上での本質を突いている58。
2000 年代頃から、我が国では、物質的な豊かさより心の豊かさを重視する国民が2倍程度多くなっている。また、そもそも「豊かさ」について、物質的な豊かさの象徴でもあったGDP で測ることができるものは一部に過ぎない、という認識が広まりつつある59。さらに、その GDP についても、特に現在の先進国経済においては、単なる「物量」の拡大ではなく、製造業、非製造業を問わず人的資本、研究開発、データ、ブランド価値等の無形資産を活用した「高品質・高付加価値」な商品・サービスの生産の拡大、いわば「質的」な向上が、現在、成長の多くの部分を担っているとの指摘もある。また、脱炭素を始めとした環境対策が投資活動を牽引し始めている。それらの結果として、多くの先進国で、環境負荷が下がりつつ経済成長が実現する「絶対的デカップリング」が観察されている。
産業革命以降の近代文明を支えてきた化石燃料等の地下資源へ過度に依存し、物質的な豊かさに重きを置いた「線形・規格大量生産型の経済社会システム」から、地上資源基調の、無形の価値、心の豊かさも重視した「循環・高付加価値型の経済社会システム」60への転換(その実現のための投資活動等を取組の過程を含む。)は、現代における真の「豊かさ」の実現、すなわち経済の長期停滞からの脱却などGDP で捉えられるものだけでなく、GDP で捉えられない部分も含めた人々の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上のために共通した基盤と指摘できる。
そうした観点からは「環境の主流化」は必然的な流れと言える。これは、「成長の限界」から「環境収容力を守り、環境の質を上げることによる経済社会の成長・発展」への転換である。今や環境と経済は対立、矛盾する関係ではなく、基盤である環境とその上で成立する経済は、いわば「同期」「共進化」していくべきものとなった。
環境危機に対応するためには、1.5℃目標に整合させるなど利用可能な最良の科学に基づくことが求められる。世界において、人類の存続の基盤を守るための持続可能な経済社会システムの構築を巡る競争が起きていることを踏まえると、各主体が、科学が要請するスピードとスケールで対策が講じられる否かが、環境危機への対処のみならず、その競争の結果をも左右する。
以上のような現状と課題認識に基づけば、環境・経済・社会の統合的向上のためにも、「勝負の 2030 年」と言える。第六次環境基本計画では、環境を軸として、環境・経済・社会の統合的向上の「高度化」を図り、現在及び将来の国民が、明日に希望を持って高い生活の質を享受できる持続可能な社会の実現を目指し、今後の環境政策の展開の方向性を明らかにする。
この環境基本計画は、1994 年の第一次環境基本計画の策定からちょうど 30 年の節目に策定されるものである。そのため、過去の 30 年程度を対象に、環境問題・環境行政に係る主な経緯、知見、教訓等を振り返り、今後の施策の立案・実施に活用していく。
1980 年代に入ると、気候変動、オゾン層の破壊、生物多様性の損失、砂漠化、熱帯林の減少等の地球規模の環境問題が急速に大きなテーマとして認識されるようになった。こうした中、ブルントラント委員会の 1987 年の報告書において「持続可能な開発」61の概念が提唱され、1992 年の環境と開発に関する国連会議(リオ・デ・ジャネイロ地球サミット)の「環境と開発に関するリオ宣言」に盛り込まれたことで、持続可能性(サステナビリティ)の概念が世界に浸透していった。我が国においても「持続可能な開発」は、1993 年に制定された環境基本法(平成5年法律第91 号)、また同法に基づく累次の環境基本計画で指し示してきた基本的な方向性である。
持続可能な開発を実現するためには、環境問題の背景にある経済社会システム(文化やライフスタイル等を含む。)の構造的な問題を解決する必要がある。第一次環境基本計画においては、具体的に「物質的豊かさの追求に重きを置くこれまでの考え方、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式は問い直されるべきである。」との根本的な問題提起が示されており、今に引き継がれている。
地球環境問題は、一国で解決できない人類共通の課題であり、各国が協力して取り組むべき問題である。逆に、各国の協力なくして自国の環境は保全できず、自国の国民の生命と財産は守れない。1980 年代以降、国連気候変動枠組条約(1992 年)や生物多様性条約(1992 年)など地球環境保全に係る国際枠組みは様々な分野で急速に整備されていった62。さらに、1997 年 12 月に京都で開催されたCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)において「京都議定書」が採択され、当時世界の温室効果ガス排出量の過半63を占めていた各先進国に対して拘束力のある温室効果ガス削減義務を課すなど具体の削減行動についての重要な一歩となった64が、開発途上国に対しては削減義務を課さない等の課題も残った。また、生物多様性条約の下では、2010 年の COP10(生物多様性条約第 10 回締約国会議)において、2020 年までに生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施することに合意し、その具体的な行動目標として愛知目標が設定されるとともに、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分の着実な実施を確保するための手続きを定めた名古屋議定書が採択された。
国際枠組みの進展と呼応した国内の大きな動きとしては、1997 年の地球温暖化対策の推進に関する法律の制定と2018 年の気候変動適応法(平成 30 年法律第 50号)の制定がある。また 2000 年には循環型社会形成推進基本法(平成 12 年法律第 110号)が制定され、その後の各種のリサイクル法制の整備につながるとともに65、2008 年に生物多様性基本法(平成 20 年法律第 58 号)が成立している。
IPCC第三次評価報告書(2001 年)において、同報告書として初めて気候変動が及ぼす観測された影響について言及され、IPCC 第六次評価報告書(2021~2023 年)では、人為起源の気候変動は、極端現象の頻度と強度の増加を伴い、自然や人間に対して「広範囲にわたる悪影響とそれに関連した損失と損害」を引き起こしていることが初めて明記された。損失と損害は、気候変動の進行に伴い更に増加すると予想されている。さらに、世界経済フォーラム(ダボス会議)が毎年公表している「グローバルリスク報告書」では、2011 年以降は環境リスクが継続して上位を占める傾向にある66。
2030 アジェンダにおいて掲げられた持続可能な開発目標(SDGs)では、地球環境そのものの課題及び地球環境と密接に関わる課題に係る数多くの目標及びターゲットを提示し、地球環境の持続可能性に対する国際的な危機感を表した。
2015 年 12 月に採択されたパリ協定は、世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること、このために今世紀後半に人為的な温室効果ガス排出の実質ゼロ(人為的な温室効果ガス排出量と吸収量を均衡させること)を目指している67。これは、世界全体での脱炭素社会の構築に向けた転換点となった。パリ協定の目標を達成するためには、吸収源を踏まえた人為的な累積排出量を一定量以下に抑えることが必要であり、我が国においても、利用可能な最良の科学に基づき、迅速な温室効果ガス排出削減を進めていくことが重要である。
IPCCからは、2018 年に「1.5℃特別報告書」が公表され、1.5℃と2℃の地球温暖化の間には、平均気温の上昇、極端な高温の増加、強い降水現象の増加、並びに一部の地域における干ばつの確率の上昇等において有意な違いがあること、1.5℃に抑える排出経路においては、2050 年前後に世界全体の人為的な CO2 排出量が正味ゼロに達することが示された。さらに、COP26(国連気候変動枠組条約第 26回締約国会議)では、気候変動の影響は、1.5℃の気温上昇の方が2℃の気温上昇に比べてはるかに小さいことを認め、気温上昇を 1.5℃に制限するための努力を継続することが決定された。
我が国は 2020 年に、2050 年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「2050 年カーボンニュートラル」を宣言するとともに、2030 年度において、温室効果ガス 46%削減(2013 年度比)を目指すこと、さらに 50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明した。
前後して、世界の多くの国・地域でも同様に2050 年等の年限付きのネット・ゼロ、カーボンニュートラル等の実現を表明しており、2023 年 12月時点で、世界の GDP の87%を占めるに至っている68。気候変動の緩和について一定の取組が進む一方、2023 年3月に公表されたIPCC 第六次評価報告書統合報告書において、2021 年 10 月までに発表された「国が決定する貢献(NDCs)」によって示唆される 2030年の世界全体の温室効果ガス排出量では、温暖化が21 世紀の間に 1.5℃を超える可能性が高く、温暖化を 1.5℃に抑えるためには、温室効果ガスの排出量を2019 年の水準から 2030 年度までに約 43%削減する必要性が示された。1.5℃目標達成に向けた取組は大幅に不足しており、世界全体で、大幅で急速な、そして即時の排出削減を行い、2025 年までに世界全体の排出量のピークを迎える必要がある。G7広島首脳コミュニケでは、「遅くとも2050 年までに温室効果ガス排出ネット・ゼロを達成するという我々の目標は揺るがない。」、「世界のGHG 排出量を2019年比で2030 年度までに約43%、2035 年までに約60%削減することの緊急性が高まっていることを強調する。」と盛り込んだ。また、同コミュニケでは、「我々は、2035 年までに電力セクターの完全又は大宗の脱炭素化の達成及び気温上昇を摂氏 1.5 度に抑えることを射程に入れ続けることに整合した形で、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた、具体的かつ適時の取組を重点的に行うというコミットメントを再確認し、他の国にも参画することを求める。」、「我々は、世界規模での取組の一環として、世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前の水準よりも摂氏1.5 度に抑えるために必要な軌道に沿って、遅くとも 2050 年までにエネルギー・システムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させるという我々のコミットメントを強調し、他国に対して我々と共に同様の行動をとることを求める。」とした。
2023 年のCOP28 においては、パリ協定の下で世界全体の気候変動対策の進捗状況を評価するグローバル・ストックテイクが初めて行われ、1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性が強調されるとともに、2025 年までの世界全体の排出量のピークアウトの必要性が認識された。そのための具体的な行動として、全ての部門・全ての温室効果ガスを対象とした排出削減目標の策定、2030 年までに世界全体での再生可能エネルギー発電容量を3倍及びエネルギー効率の改善率を世界平均で2倍とすること、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズダウンの加速、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行、持続可能なライフスタイルと持続可能な消費・生産パターンへの移行などが決定された。これらの成果を踏まえつつ、各国は 2025 年までに次期NDC を提出することが要請されている。
また、温暖化を 1.5℃程度に抑えられたとしても、その影響は避けられず、さらに、極端な高温や大雨等の頻度と強度が増加すると予測されている。世界的には、熱波により日最高気温が更新される地域が発生し、また、大雨・洪水により人命だけでなく社会経済活動への甚大な被害が報告されている。
現在生じており、又は将来予測される被害を回避・軽減するため、気候変動への緩和・適応や気候変動の悪影響に伴う損失及び損害(ロス&ダメージ)への対応も同様に、喫緊の課題である。また、IPCC 第六次評価報告書では、次の 10 年間における社会の選択及び実施される行動において、気候変動に対する緩和と適応のオプションを実施する「気候にレジリエントな開発」を進めることの重要性を指摘している。
2019 年に公表された IPBES「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」によれば、世界的に生物多様性と生態系サービスは今なお劣化を続けており、現在は第6の大量絶滅期とも言われている。また、同報告書では、このような生物多様性の損失を引き起こす直接的な要因を、影響が大きい順に①陸と海の利用の変化、②生物の直接的採取、③気候変動、④汚染、⑤外来種の侵入、と特定し(海では①と②が逆転)、自然劣化の直接的・間接的な要因を大幅に減少させ、生物多様性の損失を止め、回復させるためには、経済、社会、政治、技術全てにおける横断的な「社会変革(Transformative Change)」が必要であることを指摘している。
さらに、2020 年に公表された生物多様性条約事務局「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)」においては、愛知目標について、そのほとんどにかなりの進捗が見られたものの、20 の個別目標で完全に達成できたものはないと評価され、生物多様性の損失を回復軌道に乗せるためには、自然保護に関する施策に加えて、気候変動、汚染物質、侵略的外来種、乱獲、持続可能な生産活動や消費などの統合的な取組が必要であることが示された。こうした中、2022 年に昆明・モントリオール生物多様性枠組が策定され、2050 年目標「自然と共生する世界」と、その実現に向けた 2030 年ミッションとして「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」という、いわゆるネイチャーポジティブの考え方が示された。
地球規模での森林開発や気候変動等により動物等を媒介とする感染症のリスクが増大し、また、グローバリゼーションの進展等により、人獣共通感染症等が国境を越えて国際社会全体に拡大する事態が発生し、2020 年以降、世界は新型コロナウイルス感染症のパンデミックという危機に直面している。また、これらの感染症は、人の健康や社会経済活動のみならず、生物多様性保全にも大きな影響を及ぼすおそれがある69。
こうした問題の解決に向けて、人間の健康、動物の健康、環境の健全性はどれが欠けても成立せず、これらの達成に統合的に取り組むことを提案するワンヘルス・アプローチが提唱されている。
国際資源パネル(IRP)が2019 年に発行した「世界資源アウトルック 2019」報告書において、資源採取と加工による環境影響が明確に示された。グローバルな環境影響として、天然資源の採取と材料・燃料・食料への加工は、全世界のGHG 排出量(土地利用に関連する気候影響を除く)の約半分、生物多様性の損失と水ストレスの要因の 90%以上、粒子状物質の健康影響の約3分の1を占めていると報告されている70。
同報告書は、資源の採取及び加工に関する経済システムが、気候変動、生物多様性損失、汚染という主要な環境問題と密接に関係していることを示している。これは、循環経済へ移行することで資源採取を可能な限り削減し、より効率的に資源を用いる経済システムを構築すれば、複数の主要な環境問題に同時に対処できることを意味している。
また、同報告書は、1970 年から 2017年までの約 50 年間において、人口が倍増する中で、年間の世界的な物質採掘量は270 億トンから 920 億トンへと約3倍に増加し、現在も増加し続けていることを指摘しているほか、こうしたトレンドを踏まえ、天然資源の使用・環境影響と経済活動・人間の幸福のデカップリングは、持続可能な未来への移行に欠かすことができない要素であると指摘している。
IRP 報告書等も踏まえ、国連やG7、G20 等の国際場裡においても、近年天然資源利用・環境影響と経済成長のデカップリングや、循環経済や資源効率性が主要な環境課題に対処する重要なツールであることが議論されている。例えば、2023 年のG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケにおいては、経済成長と環境劣化や一次資源の利用とのデカップリングの重要性を強調し、科学的データと知見に導かれたバリューチェーン全体における資源効率性及び循環性の向上が、一次資源の利用を減少し、三つの地球規模の危機(気候変動、生物多様性の損失、汚染)に取り組む努力をサポートすることが強調された。
我が国の国土に関しては、累次の全国総合開発計画の下、主に 1990 年代までの間に、地域間の均衡ある発展、豊かな環境の創造、多極分散型国土の構築を目的として、大規模開発プロジェクトや全国にわたる地域整備が進められてきた。
例えば、1962 年の全国総合開発計画(第一次)においては、工場開発の基本方向として「良港あるいは良港建設可能地を中心とした遠心的な立地であり、鉄鋼、石油精製などの企業が用地、用水、港湾などの自然的立地条件がすぐれた地点に新しい立地を求めていること」が記載されていた。これに基づき、海外資源に依存し、広大な用地と大型の港湾施設を必要とする鉄鋼、石油化学等の重化学工業が、大消費地に隣接し良好な港湾を有する太平洋ベルト地帯に集中して立地してきた71。このように、現在に至る我が国の国土構造は、化石燃料を始めとした海外の大量の地下資源の輸入、利用を前提としてきた側面を持つ72。
高度経済成長期以降、全国的に急速で規模の大きい開発・改変が進展した。「生物多様性及び生態系サービスの総合評価2021(JBO3)」によれば、過去 50~20 年の間で自然性の高い森林、農地、湿原、干潟等の規模や質が著しく縮小し、人為的に改変されていない植生は、現在国土の 20%に満たない。陸水生態系でも生物種の絶滅リスクが増大しており、環境省レッドリスト2020 に掲載された脊椎動物の 50%以上が生活の全て又は一部を淡水域に依存している陸水生態系の種である。例えば、かつては日本各地で見られるもっとも身近な魚であったメダカ(キタノメダカ、ミナミメダカ)も環境省レッドリスト 2020 において絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)に選定されている 。
生物多様性の損失は、生態系サービスの低下という形でわれわれの生活に影響を与えている。海洋生態系は、気候変動等様々な環境の変動に対し、脆弱であるとされており、海面漁業の漁獲量は大きく減少した73ほか、近年はプラスチック汚染による生態系への影響等が懸念されている。また、土砂災害による被害者数は、直近 20 年では豪雨の増加や激甚化等もあって増加傾向にあるが、人口減少や高齢化の影響により手入れ不足の森林においては、防災・減災等、森林の多面的機能が十分発揮されないことが懸念されている。さらに、湿原面積の大幅な減少により、湿原が持つ洪水調整機能も減少傾向にあると考えられている。
また、里地里山は、我が国の生物多様性保全上重要な地域であるが、過去 50 年間の人口減少や農林業に対する需要の変化等、社会経済の構造的な変化に伴って、従来の里地里山の利用が縮小している74。我が国の絶滅危惧種の両生類、汽水・淡水魚類、昆虫類の約7割が二次的自然に分布しているとされ、環境省レッドリスト 2020 において絶滅危惧Ⅱ類に選定されているタガメやゲンゴロウのように、かつては身近な存在であった里地里山等に生息・生育する動植物も絶滅の危機に瀕しているなど、国内の生物多様性の損失の要因の一つになっている。さらに、耕作放棄地や利用されない里山林等が鳥獣の生息にとって好ましい環境となることや、狩猟者の減少・高齢化で狩猟圧が低下すること等により、ニホンジカ、イノシシの個体数は著しく増加するとともに75、生息域は拡大しており、生態系への影響や農林業被害は依然として深刻である。
加えて、外来種による地域の生態系や生物多様性、人の生活環境等への影響も増大している。これらは、安心・安全な地域づくりへの脅威、ひいては地域コミュニティの劣化等の複層的な地域の課題ともなっている。
近年、環境問題や人口減少、価値観の変化等を背景として、多自然居住地域の創造や持続可能な地域の形成、美しく暮らしやすい国土の形成という視点が国土の開発に加わってきた。これにより、高度経済成長期やバブル経済期と比べると、直近 20 年の開発・改変による生態系への圧力は低下しているものの、相対的に規模の小さな改変は続いている状況にある。また、再生可能エネルギー発電施設の設置に当たって、自然環境や生活環境への影響の観点で軋轢が生じている地域は少なくなく、2050 年カーボンニュートラルの実現等に向けた再生可能エネルギーの必要量の導入と自然環境との共生を如何に図っていくかが重要な課題となっている。
2023 年7月に閣議決定された新たな国土形成計画においては、世界に誇る美しい自然と多彩な文化を育む個性豊かな国土づくり等の推進を目指し、ネイチャーポジティブに向けて 30by30 目標の実現を図るため、国立公園等の保護地域の拡充や保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理等による健全な生態系の保全・再生や広域的な生態系ネットワークの形成を促進するとともに、グリーンインフラ等による自然の力を生かした地域問題解決等の取組を推進していくことにより、「グリーン国土の創造」を図ることが重要なテーマとなっている。
我が国においては、かつて全国的に生じた激甚な公害に対する対策は一定の成果を挙げている。しかし、例えば、1956 年に公式確認され環境行政の原点とも言われる水俣病問題については、公害健康被害の補償等に関する法律(及びその前身である公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法)に基づく認定・補償や平成7年及び平成21年の二度の政治解決による救済が行なわれるとともに、医療・福祉の充実や地域づくり(もやい直し)の取組も進められてきたものの、現在もなお認定申請や訴訟は継続しており、水俣病問題は終わっていない。また、光化学オキシダントや新幹線鉄道騒音等の環境基準達成率の低さ、湖沼や閉鎖性海域の水質汚濁や健全な水循環、物質循環の維持・回復、環境基準の見直し、有害大気汚染物質の環境目標値の設定等は、引き続き取り組むべき課題と言える。また、再生可能エネルギーを始めとする非化石エネルギーの導入促進等の気候変動対策と水・大気環境の保全との両立、地域ニーズに即した環境基準の在り方の検討、良好な環境の創出、近年、一部の地域で局地的に比較的高濃度のPFOS、PFOA が検出されるなど関心が高まっているPFAS76等、新たな課題もある。
また、水、大気などの環境中の様々な媒体にまたがって存在する反応性窒素、マイクロプラスチックを含むプラスチックごみ、人為的な水銀排出や難分解・高蓄積性・毒性・長距離移動性を有する有害化学物質によるグローバルな汚染が深刻化しており、水、大気、食物連鎖等を通じた健康影響や生態系への影響が懸念されている。プラスチック汚染については、2022 年3月に設置が決議され、同年 11 月に開始された、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた政府間交渉委員会(INC)等において「プラスチック汚染を終わらせる」ための議論が進んでおり、国際的な取組が広がっている。また、窒素については、国際的に 2030 年までの大幅な削減に向けて持続可能な窒素管理の議論が進められている一方、国内の栄養塩類管理では「きれいで豊かな海」に向けて窒素やリンの供給が必要な場合も存在するとされている。水銀や有害化学物質については、水銀に関する水俣条約や残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約に基づき国際的な取組が行われている。
化学物質管理の分野では、第一次環境基本計画(平成6年)において、化学物質の「環境リスク」の概念が打ち出され、第二次環境基本計画(平成 12 年)において、有害性と曝露を考慮し、規制に加え自主的取組等の多様な対策手法を用いて環境リスクを低減するという方向が明示されて以降、規制的手法と自主的管理手法の組み合わせによる対策が講じられ、科学的知見の収集及びリスク評価の取組が推進されてきた。
また、第三次環境基本計画(平成 18 年)においては、製造・輸入から使用、リサイクル、廃棄に至るライフサイクルの各段階に応じた対策の必要性が指摘され、各法による取組が進められてきた。しかし、2019 年4 月に国連環境計画(UNEP)が公表した報告書(Global Chemicals Outlook II)において、2002 年の持続可能な開発に関する世界サミットにおいて採択されたヨハネスブルグ実施計画の目標であった「2020 年までに、人の健康と環境に対する重大な悪影響を最小化するような方法で化学物質が使用・生産されることを達成する」ことは困難と評価された。同報告書では、2030 年にかけて世界の化学品市場は倍増すると予測されている。化学物質のライフサイクルの流れも、世界的な循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行の加速化と合わせて、製造から使用、廃棄へのワン・ウェイでなく、循環利用を考慮した化学品管理が必要となっている。加えて、PFAS 等国内外で新たな課題が浮上し、個別物質ごとの有害性評価・曝露情報収集のみならず、物質群での対応の必要性も指摘されている。動物福祉等の観点を考慮した新たな評価手法の検討、有害性分類のハーモナイズの取組などが国際的に進む中、我が国の化学物質の管理のあり方について、国際的潮流を踏まえた統合的な検討が求められている。国際的には、化学物質が健康に与える影響の解明に資する疫学調査がいくつかの国で実施されており、我が国において約10万組の親子に協力を得て実施されている「エコチル調査」は、大規模疫学調査として、その成果の活用が期待されているところである。
条約等に基づく規制的手法に加えて、新たな国際的な潮流の一つとして、「国際的な化学物質管理に関する戦略的アプローチ(SAICM)」の後継となる新たな枠組み「化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)―化学物質や廃棄物の有害な影響から解放された世界へ」が 2023 年9月に開催された第5回国際化学物質管理会議で採択された。この枠組は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの危機に取り組むため、ステークホルダー間の協調と協働を強化し、政府機関だけでなく全ての関係者に対してオーナーシップを持った行動を促す、マルチセクター・マルチステークホルダーアプローチで形成された自主的取組の枠組みである。ここに掲げられた「安全で健康的かつ持続可能な未来のために、化学物質や廃棄物による悪影響から解放された地球」あるいは第1部に述べられたプラネタリー・ヘルスを達成するため、現在設立交渉が進んでいる化学物質と廃棄物の適正管理及び汚染の防止に関する科学・政策パネルなどでの国際的な科学的知見も基礎として、脱炭素、循環経済、さらに昆明・モントリオール生物多様性枠組の目標にも貢献していく必要がある。
環境問題は特定の汚染源への対策にとどまらず、気候変動問題や生物多様性の損失に代表されるように、問題解決のために経済社会システムや生活様式の見直しが必要となり、個別の環境政策間の連携が必要となってきた。第四次環境基本計画では、「安全」が確保されることを前提として、「低炭素」・「循環」・「自然共生」の各分野が統合的に達成されることを目指した。第五次環境基本計画では、循環共生型の社会の実現に向け、6つの重点戦略の下、経済・社会的課題の同時解決の視点をも盛り込みつつ、施策の統合的な実施の更なる具体化を図る方針、また地域におけるその実践の場として地域循環共生圏の概念を示した。
また、SDGs は、17 の目標及び 169 のターゲットが相互に関係しており、複数の課題を統合的に解決することを目指すこと、一つの行動によって複数の側面に利益を生み出すマルチベネフィットを目指すこと、という特徴を持っている。
さらに、2023 年のG7広島首脳コミュニケ、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケにおいて、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機に対し、経済社会システムをネット・ゼロ(脱炭素)で、循環型で、ネイチャーポジティブな経済へ転換すること、また、課題の相互依存性を認識してシナジー(相乗効果)を活用する旨が盛り込まれている77。
環境基本法第4条において、環境保全は「科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として」行うことを求めている。
歴史的にその時点の利用可能な最良の科学的知見は重要な役割を果たしてきた。例えば、我が国の南極地域観測隊による、いわゆる「オゾンホール」の発見は、その後のオゾン層保護の国際的取組を加速させていたことが知られている。
また、先に述べたとおり IPCC や IPBES の各種の報告は国際社会に大きな影響を与えてきた78。そのうち、IPCC の人為起源の気候変動影響の評価については、第一次評価報告書(1990 年)では「地表表面の平均気温上昇を生じさせるだろう。」と述べたに過ぎなかったが、その後の報告で徐々に確信度が高まり、第六次評価報告書において「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」と結論付けられるに至った。また、2021 年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏が 1989年に行った、第一次評価報告書に掲載された気候モデルのシミュレーション結果は、その後実際に観測された変化の傾向と整合していた79。このことは、利用可能な最良の科学的知見を活用し、予防的な取組方法の考え方に基づいて対応することの重要性を改めて示している。
「戦後の経済復興期とこの後の昭和30 年代以降の高度経済成長期を通じて経済の拡大が重要視され、人々が一致して願う、言わば社会的目標であった時代」80においては、工場から排出される煙などを産業活動が盛んな地域の繁栄の象徴とする市歌や校歌が制定されていた81。その後の激甚な公害経験等を経て、国民の環境に対するニーズは高度化し、快適な環境(アメニティ)の重要性が指摘されるようになった。また、新型コロナウイルス感染症に伴う行動制限は、東京を始め世界の都市で、大気汚染物質の濃度が減少し大気環境の改善に向けた余地があることなどを明らかにした。さらに、Z世代と呼ばれる若い世代は、世界的に環境意識が高く、環境保全のための行動に積極的とされる。我が国においては、若い世代の環境意識の形成に環境教育の成果も確認できる82。また、地方移住への関心理由として「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため」を挙げる人が全体の3分の1に上り最も多くなっている83。国民のニーズへの対応、海外からの高度人材の獲得等の観点からも、環境保全上の支障の防止に止まらず、良好な環境の創出の取組が重要となる。
しかしながら、現実には我が国の国民の環境意識は、国際的には決して高いとは言えず、現状に対する危機感が弱いことが調査結果から見て取れる84。また、「実際に環境や社会の問題を意識した行動へとつなげるためには何が必要か」という問いに対して、43.1%の人が「経済的なゆとり」と回答し、他の要素を大きく引き離して最も多いとの調査結果がある85。
東日本大震災・原発事故によって発生した放射性物質による環境汚染が発生したことから、その影響を速やかに低減することを目的とした環境再生の取組が必要となり、原発事故の影響を受けた地域において、除染や特定廃棄物の処理等を行ってきた。それらの取組により、令和2年3月までに、帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示が解除されたほか、帰還困難区域については、令和5年 11 月までに6町村(葛尾村、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、飯館村)における特定復興再生拠点区域全域の避難指示が解除された。しかし、引き続き取り組むべき課題は残っており、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた取組を始めとした環境再生の取組、それらの取組に関する全国的な理解醸成を行うとともに、脱炭素・資源循環・自然共生といった環境の視点から地域の強みを創造・再発見する未来志向の取組を推進していく必要がある。
また、原子力災害に起因した放射線に関する健康上の不安のケアについては、特定復興再生拠点区域の避難指示解除により帰還者等が増加する中、これまでの自治体や相談員を通じたリスクコミュニケーションだけでなく、帰還者等が地域で主体的に活動を行う取組と連携していくことも重要となる。さらに、放射線の健康影響に関する不安の解消の取組についても、福島県内のみならず県外においても正しい知識・情報の発信やリスクコミュニケーションを継続して実施していくことが求められる。併せて、車座意見交換会等の対話を通じて得られる参加者の意見を今後の放射線健康不安対策に生かす取組を行う必要がある。
また、東日本大震災以降、リスク評価と予防的な取組方法の考え方は、防災の観点だけでなく、環境政策においてもその重要性が再認識されている。今後、できる限り科学的知見に基づく客観的なリスク評価を行いながら、「環境リスク」や「予防的な取組方法」の考え方を活用し、政策を推進していくことが重要である。
なお、社会活動の基盤であるエネルギーの確保、安定供給については、東日本大震災を経て自立・分散型エネルギーシステムの有効性が認識されており、エネルギー利用の効率化の推進とともに、地域に賦存する再生可能エネルギーの活用、資源の循環利用が重要である。
環境基本法第1条の規定86を、現在の文脈において捉え直すと、環境政策の目指すところは、「環境保全上の支障の防止」及び「良好な環境の創出」87からなる環境保全と、それを通じた「現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」(以下「ウェルビーイング/高い生活の質」という。)であり、また、人類の福祉への貢献でもある。前提として、人類の活動が地球の環境収容力の限界を超えつつある状況において、現在及び将来の国民の生存に係る「健康で文化的な生活の確保」が必要条件であることは言うまでもなく、また、人類の福祉への貢献なくして「ウェルビーイング/高い生活の質」も成立しない。
第1章で述べた現下の危機の下、環境的側面、経済的側面、社会的側面が複雑に関わり、現代の経済社会システムの在り方が人類の存続の基盤である環境・自然資本の安定性を脅かしつつある状況において、健全で恵み豊かな環境を継承していくためには、環境収容力の範囲内で経済社会活動が営まれ、さらには良好な環境が創出されるようにしていく必要がある。このため、ネイチャーポジティブの考え方にも基づき、経済社会システムに適切な環境配慮と環境が改善されていく仕組み(計画など早い段階からの環境配慮の組み込み、環境価値の市場における適切な評価等)が織り込まれる必要がある。
環境的側面から持続可能であると同時に、それが、経済・社会の側面においても健全で持続的で、全体として「ウェルビーイング/高い生活の質」につながる経済社会システムが求められる88。持続可能な社会を実現するため、環境的側面、経済的側面、社会的側面を統合的に向上させることが必要である89。
このことを踏まえ、第五次環境基本計画が示した「循環共生型の社会」の考え方を更に発展させた、第六次環境基本計画において目指すべき持続可能な社会は、以下のとおりとする。
持続可能な社会を構築するためには、人類の存続の基盤である環境・自然資本を健全な形に維持、回復させ、変化に対するしなやかさを保ち、将来にわたりその恵みを受けることができるよう、循環と共生に基づく自然の理に則った行動を選択することが重要である。
環境は、大気、水、土壌、生物等の間を物質(炭素や窒素等の元素レベルを含む。)が光合成・食物連鎖等を通じて循環(物質・生命の「循環」)し、地球全体又は特定の系が均衡を保つことによって成り立っており、人間もまた、その一部である。しかしながら、人間はその経済社会活動に伴い、環境の復元力を超えて資源を採取し、また、環境に負荷を与える物質を排出することによってこの均衡を崩してきた。この均衡の崩れが気候変動、生物多様性の損失及び汚染の形で顕在化し、人類による環境負荷はもはや地球の環境収容力を超えつつある。
これを解決するためには、「循環を基調とした経済社会システム」90の実現が不可欠である。環境収容力を守ることができるよう、いわゆる「地上資源」91を基調とし、資源循環を進め、化石燃料などからなる地下資源92への依存度を下げ、新たな投入を可能な限り低減していくことを目指す。また、相乗効果やトレードオフといった分野間の関係性を踏まえ、環境負荷の総量を減らしていくことが重要である。さらに、人類の存続の基盤である環境・自然資本の劣化を防ぎ、環境収容力の臨界的な水準から十分に余裕を持って維持するだけでなく、森・里・川・海の連関を回復するなど「循環」の質を高め、ネイチャーポジティブを始めとする自然資本の回復・充実と持続可能な利用を積極的に図る。このようにして、「環境保全上の支障の防止」及び「良好な環境の創出」からなる環境保全を実現していく。
ここでいう「共生」とは、人は環境の一部であり、また、人は生きものの一員であり、人・生きもの・環境が不可分に相互作用している、すなわち、人が生態系・環境において特殊な存在ではなく、健全な一員となっている状態である。私たち日本人は、豊かな恵みをもたらす一方で、時として脅威となる荒々しい自然を克服・支配する発想ではなく、自然に対する畏敬の念を持ちながら、試行錯誤を重ねつつ、自然資本を消費し尽くさない形で自然と共生する知恵や自然観を培ってきた。しかし、第1章で述べたとおり、現在、日本人を含めた人類全体が、生態系あるいは環境において特殊な存在となっている。「共生」を実現するためには、人類の活動が生態系を毀損しないだけでなく、人類の活動によって、むしろ生態系が豊かになるような経済社会に転換することが望ましい。
第1章でも述べたとおり、近年、地球の健康と人間の健康を一体的に捉える「プラネタリー・ヘルス」の考え方が重要視されている。
また、一人一人が、どのような意識を持ち、どう行動するかが、地域や企業等の集合体としての取組、我が国全体の経済社会の在り方、さらには地球全体の未来につながるものであり、個人、地域、企業、国、地球がいわば「同心円」の関係にあると言える。
加えて、第五次環境基本計画で例示されたように、自然と人との共生に加えて、地域間の共生を図ることも重要である。さらに、環境基本法第1条の規定に立ち返り、国民一人一人との共生、現在及び将来の国民との共生(世代間衡平性の確保)、人類(世界)との共生も求められている。
このように「循環」と「共生」を実現することで、DX の活用などと相まって、経済社会システムの変革を導き、「環境収容力を守り環境の質を上げることによって経済社会が成長・発展ができる」文明の構築を図っていく。食料・エネルギー・資源など他国の自然資本への依存度を下げることは、地球規模での気候変動、生物多様性の損失、汚染の危機を軽減するとともに、我が国の安全保障にも資する。このような循環共生型の社会(「環境・生命文明社会」)が、我々が目指すべき持続可能な社会の姿であり、現在及び将来の国民が希望を持って、「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現できるよう取り組んでいく。
我が国全体がこうした循環共生型の社会(以下「循環共生型社会」という。)となり、また、現在及び将来の国民一人一人の「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現していくためには、その暮らしの場であり、また我が国の国土や社会経済を支える基盤である地域においても、地域住民が、各地域の目指すべき将来像、すなわち「ありたい未来」を描き、実現していく必要がある。第五次環境基本計画で打ち出した「地域循環共生圏」は、持続可能な社会が実現した我が国の姿や、そこに至るための考え方を示したものであり、地域の環境・経済・社会の課題を解決するための事業創出や土地利用のあり方などの地域経営について、地域が主体性を持ち、オーナーシップを発揮しつつ、環境政策の分野間の統合に加えて環境・経済・社会を統合的に向上させるエリア・ベースド・アプローチを実践する場である。
「持続可能な社会、すなわち本計画でいう循環共生型社会」(以下「持続可能な社会」という。)の構築のためには、健全で恵み豊かな環境を基盤として、その上で経済社会活動が存在していることを前提に、経済の成長や社会基盤の質の向上等を主たる目的とした取組が環境負荷の増大につながらないようにすることが必要不可欠であり、また、むしろ、更なる環境の改善にもつながるような形に社会を展開していくことが重要である。
そのため、率先して努力した人が報われるインセンティブの付与、環境保全への需要(マーケット)と新たな雇用の創出、リ・スキリング等による公正な移行、汚染者負担の原則も考慮し汚染者に負担を課すことによる外部性の内部化、計画段階からの環境配慮の組み込み、科学的知見を始めとする環境情報の整備と公開、家庭・学校・職場・地域等のあらゆる場面において行動につながるような多様な主体・手段による実質的で探究的な環境教育や持続可能な開発のための教育(ESD)を通じた環境意識の醸成、将来像を関係者と共有しながら地域における環境保全の取組を進めていくための人材育成や体制構築、多様な主体の参画によるパートナーシップを促進するための施策等、持続可能な社会の構築を支える仕組みづくり等に取り組む必要がある。
また、第五次環境基本計画では、今後の環境政策が果たすべき役割として、「環境政策による経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からのイノベーションの創出と経済・社会的課題の同時解決を実現することにより、将来にわたって質の高い生活をもたらす『新たな成長』」(以下「新たな成長」という。)につなげていくことを提示した。
第一次環境基本計画の問題提起のとおり、気候変動などの環境問題は、経済社会の構造的問題に起因するところが大きい。また、その環境問題を生む経済社会の構造的問題が、現在、我が国が抱える経済社会的課題の一因となっていることも少なくない93。各制度の補完性にも鑑みれば、環境政策を起点として、経済・社会的な様々な課題をカップリングして同時に解決していくことが可能である。ただし、「長期停滞」に代表されるように、この構造的問題が長年継続してきたことを踏まえると、解決のための視点を改めて整理すること、いわば「変え方を変える」姿勢が求められる。
そのため、「新たな成長」の実現に向け、環境・経済・社会の統合的向上の共通した上位の目的として、環境基本法第1 条の趣旨も踏まえ「ウェルビーイング/高い生活の質」を設定する。この「ウェルビーイング/高い生活の質」は、市場的価値と非市場的価値によって構成され、相乗的効果も図りながら双方を引き上げていく94。
「ウェルビーイング/高い生活の質」を目的に置いた場合、その実現のための視点として、例えば、以下の事項を挙げることができる。
① 「ウェルビーイング/高い生活の質」のためには、GDP に代表されるフローだけでなく、ストックの充実が不可欠である。その際、ストックを含む将来のあるべき状態、ありたい状態を想定し、その実現のために何をすべきかを検討することが重要である。
② 構造的な問題の解決のためには、「人生 100 年時代」と指摘される今日において、目先重視に陥って問題を先送りしたり、短期的な収益のみを追い求めたりするのではなく、我が国に多く存在する「100 年企業」95が実践してきたように、未来に向けた積極的な投資など長期的視点の行動が不可欠である。また、将来の自分や将来世代への配慮(世代間衡平性の確保)を始めとした、包括的、利他的な視点が、社会の持続可能性の確保には必要である。
③ いわゆる「経路依存性」「イノベーションのジレンマ」96のように、供給者が持つ現状のシーズ、強みに過度にこだわることなく、将来のあるべき、ありたい姿を踏まえた現在及び将来の国民の本質的なニーズへの対応が重要であり、その一つとして利用可能な最良の科学の要請に応えることも含まれる。加えて、すでに実証・実装されている技術の組合せ・水平展開によっても、現在及び将来の国民の本質的なニーズを満たすイノベーションが生み出されうるということも重要な視点である。経済社会の構造的な問題の解決のためには、これら本質的なニーズを踏まえた破壊的イノベーションも必要である。
④ 物質的な豊かさより心の豊かさを重視する国民の割合が多くなっている。また、経済活動においても、物質的な量より質の向上、環境価値を含む無形資産を活用した高付加価値化等の視点が重要である。無形資産のうち、環境人材の育成も不可欠である。
⑤ ウェルビーイングの向上には、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の重要性が指摘されており、その基盤としてのコミュニティ97の充実も必要である。国家、市場、コミュニティのバランスを図り、多くの国民の参加を得て、弱者を含めた包摂的な社会を実現することが重要である。
⑥ 「ウェルビーイング/高い生活の質」の観点からは、東京一極集中、大規模集中型の社会経済システムから、デジタル化の流れも踏まえ、自立分散型・水平分散型の国土構造、社会経済システムへの移行の視点が重要である。自立の観点からは、食料、エネルギー等の地産地消の促進、経済安全保障の確保が重要である。
「新たな成長」の基盤は、上記の視点を踏まえ、まずはストックとしての自然資本の維持・回復・充実を図ることである。自然資本が、臨界的な水準を下回る(人類の経済社会活動が地球全体又は公害のように地域的な環境収容力を超えてしまう状態)ことになれば、そもそも人類の存続、生活の基盤を失うおそれがある。環境負荷の総量を抑えて自然資本のこれ以上の毀損を防止し、気候変動、生物多様性の損失及び汚染の危機を回避するとともに、自然資本を充実させ良好な環境を創出し、持続可能な形で利用することによって「ウェルビーイング/高い生活の質」に結び付けていく98。
また、その自然資本を維持・回復・充実させるためには、それに寄与するストックとしての資本(人的資本、人工資本等)、システムについて、長期的な視点に立ち、あるべき状態・ありたい状態に向けて拡充・整備していくことが必要不可欠となる。その資本99は有形(設備、インフラ等)、無形(人的資本、ブランド価値等)の双方から構成される。
また、システム100は、市場の失敗の是正を図りつつ、市場、非市場(コミュニティ等)のものを共に最大限活用していく。それら資本、システムの充実が、直接的に、又は自然資本の充実を通じて「ウェルビーイング/高い生活の質」に貢献する101。
そのためには、国民があるべき、ありたい状態の「自然資本、自然資本を維持・回復・充実させる資本・システム」102を想定し、かつ、様々なコーディネーションを行っていくことも必要である。すなわち、国民の主観が含まれる「ウェルビーイング/高い生活の質」と「自然資本とそれを維持・回復・充実させる資本・システム」は、お互いに影響を与えながら共に高みを目指していく共進化の関係にある。
また、この共進化の過程において、ストックとしての「自然資本、自然資本を維持・回復・充実させる資本・システム」の、あるべき、ありたい水準に向けた拡充のためには、国内において官民協力の下、長期的視点に立った現在及び将来の国民の本質的なニーズを踏まえた巨大な投資が必要である103。使用に伴い減耗するストックの維持・拡充には投資が欠かせない。また、無形資産である環境価値を付加価値に転じることで、経済全体の高付加価値化の契機としていく。それらがフローの経済活動にも好影響を与え、資本蓄積を通じたイノベーションを創出し、市場的価値(所得、GDP)の向上を通じた「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現にも結び付いていくことが期待できる。
さらに、この共進化の過程には、トランジションの視点が欠かせない。既に直面している危機を踏まえ、2050 年カーボンニュートラルを始め目標としてのあるべき姿、ありたい姿を、すべての国民が明確に共有することができるよう、政府がリーダーシップを発揮することが必要である。加えて、その実現の道筋も決して容易ではなく、利用可能な最良の科学的知見を踏まえた中長期的な時間軸を持った国民全体の参加と多様な創意工夫、努力が必要であること、それらが結果的にイノベーションを生み、「ウェルビーイング/高い生活の質」につながっていくことを認識することが重要である。また、3(3)で述べるように、政府、市場、国民の共進化が求められる。
持続可能な社会の実現に向けて、第一章で述べた現在進行形で高まっている環境危機に対処するため、必要な措置を講じていく。そのため、環境行政の基盤となる科学的知見について国際的に連携しつつ充実させるともに、水俣病を始めとする過去の教訓も踏まえ、利用可能な最良の科学的知見に基づき、「勝負の2030 年」にも対応するため、取組の十全性(スピードとスケール)104の確保を図る。
人類の活動が地球の環境収容力を超えつつある危機的な状況において、現在及び将来の国民の「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現するためには、環境基本法第1条にある「人類の福祉」への貢献の視点は欠かせない。世界全体で 2050 年ネット・ゼロの実現を目指す等の地球の環境収容力を守るといういわば世界で共有すべき視点に基づき、我が国が行動していくことが重要である。水、食料等の自然資本を海外に大きく依存する現状に鑑み、利用可能な最良の科学的知見に基づく国際的な協調について、我が国が率先して進めることが重要である。
また、第五次環境基本計画の制定後、COP26 におけるパリ協定の実施ルールの採択、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択等、経済社会活動の方向性に軌道修正を促す国際的な枠組みの形成が加速している。第一章で見たとおり、ESG 金融の影響等を受け、既に近年の企業行動は、特に国際的に見ると大きく変化している。環境政策と諸権利との関係やいわゆる人権・環境デュー・ディリジェンスに関するルール形成も進められており、これらに適切に対処しなかった場合、国内企業の信頼性や競争力にも影響を及ぼし、世界のバリューチェーンから外されるリスクがあることも指摘されている。また、欧州は、バッテリーなど域内に輸入される製品について域内の環境に関する基準等に適合させる政策を強化してきており、バリューチェーン全体で環境負荷を下げ、リサイクル等の循環性を強化することが求められることから、国内の基準についてもイコールフッティングの観点を考慮する必要がある。
特に、グローバル企業は国境を越え各市場で競争しており、バリューチェーンで環境負荷を減らしていくことや強靱性を高めることが、結果として企業競争力を高めることにつながり、さらに、国内を越えて国際的な環境負荷削減や強靱化、持続可能な社会の実現へ貢献することとなる105。また、既に多くの先進国が脱炭素社会に向けた取組や適応の取組を進め、途上国の中にも脱炭素社会に向けた取組や適応の取組を進めている国がある中で、我が国の優れた環境技術等の強みを活かすことによって、世界のバリューチェーンにおける地位を高めるチャンスも存在する106。
このような流れも織り込んだ持続可能な社会を示すことが求められていることから、これまでの累次の環境基本計画において提示されてきたような環境政策の原則や理念を土台にした上で、国際・国内情勢の変化を的確に捉え、将来世代の利益を意思決定に適切に反映させることも視野に、国内対策の充実や国際連携の強化を進める必要がある。
第1章で述べたとおり、「物質的豊かさの追求に重きを置くこれまでの考え方、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式は問い直されるべきである。」との第一次環境基本計画の問題提起は、環境・経済・社会の統合的向上の共通した土台と言える。そのため、環境・経済・社会の各側面で我が国が現在直面する課題の中には、様々に異なる政策分野における動向に起因して付随的に発生するという、ある種の複合性を有したものも少なからず存在する。現下のそうした複合的な課題を解決するに当たっては、環境・経済・社会の統合的向上の高度化に向け、持続可能な社会の実現のため、「新たな成長」の視点を踏まえ、特定の施策が複数の異なる課題をも統合的に解決するような、相互に連関し合う横断的かつ重点的な枠組を戦略的に設定することが必要である。なお、これらの取組に当たっては、指標等により進捗を検証し、必要に応じて柔軟に施策を見直していく必要がある。
また、G7広島サミットの首脳コミュニケでは、G7各国が、持続可能で包摂的な経済成長及び発展を確保し、経済の強靱性を高めつつ、経済・社会システムをネット・ゼロで、循環型で、気候変動に強靱で、汚染のない、ネイチャーポジティブな経済へ転換すること、及び 2030 年までに生物多様性の損失を止めて反転させることを統合的に実現することにコミットするとされている。
さらに、世界中で多くの人々が、水、食料、ヘルスケア、住居、エネルギー、教育へのアクセスなど、人間にとって不可欠な社会的ニーズに関する最低限の基準(ソーシャル・バウンダリー)以下の状況で生活しているとされており、プラネタリー・バウンダリーと組み合わせた「ドーナツ内での生活」を人間の「安全な活動空間」として定義した研究がある。この研究は、環境と分配、格差等の問題を一体的に考えていくことが必要であることを示している。
上記を踏まえつつ、個別の環境政策、また、制度的な補完性を鑑み環境分野以外の分野の政策と環境政策との統合(背景としての学術レベルでの連携・統合も含む。)、それによる相乗効果・シナジーの発揮を目指し、環境負荷の総量の削減、「新たな成長」の視点を踏まえた環境・経済・社会の統合的向上の具体化を進めることが重要である。
その際、持続可能な社会の実現に向けて、トレードオフを回避しシナジーを発揮していく上で、計画策定等の政策決定のなるべく早い段階からの環境配慮が重要となる。
また、環境政策による経済・社会的課題の同時解決を目指し、SDGs の達成に貢献していく。SDGs の目標間の関連性については、環境を基盤とし、その上に持続可能な経済社会活動が存在している。トレードオフを回避することと、シナジーをもたらす統合的な解決が求められており、Win-Win の発想で「どちらも」を追求することが重要であり、SDGs の達成には、目指すべき社会の姿から振り返って現在すべきことを考えるという思考法である「バックキャスティング」の考え方が重要とされている。SDGs の考え方を踏まえ、持続可能な事業の実施を行うなど環境・経済・社会の統合的向上の具体化を進めるとともに、地域に着目し、地域の視点を取り入れ、地域における各種計画・事業の改善に資するようなものにすることが必要である。
「参加」は、第一次環境基本計画において、環境政策の4つの長期目標のうちの一つとして位置付けられ、引き継がれている。また、2030 アジェンダも、あらゆるステークホルダーが参画する「全員参加型」のパートナーシップの促進を宣言している。
環境施策を実施する上でパートナーシップはすべてに共通して求められる要素である。
社会を構成するあらゆる主体が、当事者意識を持ちつつ、業種や組織を超えてそれぞれの立場に応じた対等な役割分担の下でパートナーシップを充実・強化する必要がある。そして、各主体が適切にリーダーシップを発揮して、自主的、積極的に環境負荷の低減や良好な環境の創出を目指す必要がある。
環境施策をこれまで以上に実行力をもって実施していくためには、政府(国、地方公共団体等)、市場(企業等)、国民(市民社会、地域コミュニティを含む。)が、持続可能な社会を実現する方向で相互作用、すなわち共進化していく必要がある。例えば、環境意識が高い国民は、政府の環境施策の推進(市場の失敗の是正を含む。)を促すとともに、消費者、生活者としての国民が環境に配慮した財・サービスを選択し、それが企業のグリーンイノベーションを促進する方向に作用する。また、政府の環境価値の内部化や環境教育、環境人材育成に係る施策、企業の環境価値に係る経済的競争能力投資(環境人材への人的資本投資や環境価値を有する財・サービスのマーケティング等)は、国民の環境意識を高めることに寄与する。
そのため、国民の環境意識の向上に働きかける施策や行動、国民相互のコミュニケーションの充実、政策決定過程への国民参画とそのための政策コミュニケーション、その成果の可視化が必要である。一方的な普及啓発ではなく、あらゆる主体が環境に配慮した社会づくりへの参加を通じて共に学びあうという視点が重要である。また、その学びあい等により、国民一人一人、市民社会、地域コミュニティの対応力や課題解決能力を高めていく(エンパワーされる)ことも可能となる。世代間衡平性を確保する観点から、若い世代の参加を促進するなど将来世代の「ウェルビーイング/高い生活の質」のための施策を積極的に推進する。また、国内外においてジェンダーに対応した気候変動政策の推進が求められていることなどから、気候変動政策を始め環境政策における女性の参画をより一層後押しする。
その際、環境情報の充実、公開が基盤となる。各主体が所有している情報に対し、投資、消費活動を始めとしたニーズに応じたアクセスが可能であること、その情報に基づき現状や課題に関する認識を共有しつつ、「ありたい未来」であるビジョン、またそれに向けた取組の進展を評価し、共有することが必要となる。その上で、自主的、積極的な活動に加えて、協働型の事業の創出や、取り残されそうになっている人々を包摂する活動を通じて、全員参加型で環境負荷の低減や良好な環境の創出を推進していく必要がある。
国全体で持続可能な社会を構築するためには、各々の地域が持続可能である必要があることから、各地域において、地域住民の「ウェルビーイング/高い生活の質」に向けて「地域循環共生圏」の実装を進め、「新たな成長」を実現していく。「地域循環共生圏」は、上記(1)~(3)で述べた基本的考え方や、第2部第2章「3.地域資源を活用した持続可能な地域づくり」の取組を中心に、その他の重点戦略に掲げる各施策も総動員し、経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からのイノベーションを創出しつつ、その実現を図るものである。
「地域循環共生圏」における「循環」とは、食料、製品、循環資源、再生可能資源、人工的なストック、自然資本のほか、炭素・窒素等の元素レベルも含めたありとあらゆる物質が、生産・流通・消費・廃棄等の経済社会活動の全段階及び自然界を通じてめぐり続けることであり、この「循環」を適正に確保するためには、地域の自然資本、自然資本を維持・回復・充実させる資本・システムへの投資を積極的に行うことなどによって、物質やエネルギー等の資源の投入を可能な限り少なくするなどの効率化を進めるとともに、地域と共生する再生可能エネルギーの導入、多種多様で重層的な資源循環を進め、環境への負荷をできる限り低減しつつ「地域経済」の循環を促すとともに、関係人口の創出等を通じて「人」の循環も促すことで、地域を活性化させることを目指す。
「地域循環共生圏」における「共生」とは、人は環境の一部であり、また、人は生きものの一員であり、人・生きもの・環境が不可分に相互作用している状態であり、その認識の下、二次的自然や生きものも含めた自然と人との共生、地域資源の供給者と需要者という観点からの人と人との共生の確保、そして人や多様な自然からなる地域についても、都市や農山漁村も含めた地域同士が交流を深め相互に支えあって共生していくことを目指す。
地域循環共生圏は、地域の主体性を基本として、地域資源を持続的に活用して環境・経済・社会を統合的に向上していく事業を生み出し続けることで、地域課題を解決し続ける「自立した地域」をつくるとともに、それぞれの地域の個性を活かして地域同士が支え合うネットワークを形成する「自立・分散型社会」の実現を目指すものである。その際、私たちの暮らしが、森里川海のつながりからもたらされる自然資源を含めて地上資源を基調として成り立つようにしていくために、これらの資源を持続可能な形で活用し、自然資本を維持・回復・充実していくことが前提となる。
地域循環共生圏を創造していく過程において、地域資源を持続的に活用するとともに、地域の経済循環を好循環な構造とする事業スキームを構築することが、地域への波及効果を高め、地域を自立させるために重要となる。
地域循環共生圏の創造に向けて、環境・経済・社会を統合的に向上していくためには、地域の主体性と地域内外のパートナーシップを基に、事業創出を目的とした地域プラットフォームを構築することが重要である。地域プラットフォームの運営は、地域プラットフォームを運営する者、事業主体となり得る者及びその支援者が効果的に役割分担をしながら進める必要があり、創出される事業の種類は、民間ビジネス、公共事業、ボランティア活動等多様であることから、事業の種類に応じて多様な主体がそれぞれの役割を担う。
地域循環共生圏の実現に当たっては、持続可能な社会に移行していく中で取り残される人々や地域を生み出さないようにしながら進めていくこと、地域循環共生圏に向けて取り組む人々のネットワーク形成や、各地の取組を支えるための中間支援体制を構築すること、農山漁村・地方都市・大都市といった地域間で互いに支え合うネットワークを形成することで各地域の持続性を高めていくこと、地方公共団体、地域経済を支える中小企業を始めとした企業、金融機関、NGO・NPO などの間のパートナーシップを強化すること、デジタル技術を活用した地域の魅力向上や環境・経済・社会課題の解決を実現していくことを通じて、これまで以上に環境・経済・社会に大きなインパクトをもたらす事例の創出と、地域循環共生圏づくりに取り組む地域数の増加を進めていく必要がある。
また、地域循環共生圏の取組は、地域の主体性を基本として、環境、経済、社会の課題について、パートナーシップによって統合的に相乗効果(シナジー)を発揮しながら解決するローカルSDGs とも言えるものであり、ポストコロナ時代におけるDX の進展とも相まって、国際会議等を通じて、世界のSDGs に取り組む地域とも取組を共有しつつ、世界の持続可能な地域づくりに貢献していく。
地域循環共生圏は、自立した地域が生まれ、それらがネットワークを構築することで形成されていくことから、ボトムアップで構築されることが重要であり、最終的には我が国全体が一つの地域循環共生圏として持続可能な社会を実現することが目標となる。各地域が自立し、持続していくことで、各地の風土、文化を時代に合わせた形で継承していくことができ、再生可能エネルギー、食料、金属・プラスチックなどのリサイクル資源、適切な管理を行った魅力ある自然資源といった国土に広く分散する地上資源を最大限に活用し、各地域の資源により特徴づけられた多様性のある魅力的な国づくりに貢献する。また、自立した地域を生み出し、コミュニティの力を回復させることで、国家、市場、コミュニティの均衡を図りながら、国家や市場の役割を補完し、農山漁村、地方都市や大都市も含め、地域住民の「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現や、「新たな成長」への貢献が可能となる。
環境政策を行う上では、科学的知見の充実を図りつつ、利用可能な最良の科学に基づくことが前提となる。
地球温暖化による環境への影響、化学物質による健康や生態系への影響など、環境問題の多くは科学的な不確実性を伴っている。このような場合には、その時点で利用可能な科学的知見に基づいて、問題となる事象が環境や健康に与える影響の大きさと、その事象が発現する可能性に基づいて環境リスクを評価した上で、あらかじめ設定されたリスク許容量を踏まえて対策実施の必要性や緊急性を判断し、優先順位を設定して対策を講じるという考え方が重要である。
人間の活動と人の健康や環境に係る被害の因果関係が科学的に証明される場合には、環境の保全は、環境保全上の支障が未然に防がれることを旨として行われなければならない。人為的活動に伴う温室効果ガスの排出と気候変動の関係について、IPCC 第六次評価報告書統合報告書によって「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と報告され、気候変動問題はこの「未然防止原則」に基づく対策が必要な段階に移行している。
問題の発生の要因やそれに伴う被害の影響の評価、又は、施策の立案・実施においては、その時点での最良の科学的知見に基づいて必要な措置を講じたものであったとしても、常に一定の不確実性が伴うことについては否定できない。しかし、不確実性を有することを理由として対策をとらない場合に、ひとたび問題が発生すれば、それに伴う被害や対策コストが非常に大きくなる場合や、長期間にわたる極めて深刻な、あるいは不可逆的な影響をもたらす場合も存在する。
このため、このような環境影響が懸念される問題については、科学的に不確実であることをもって対策を遅らせる理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、予防的な対策を講じるという「予防的な取組方法」の考え方に基づいて対策を講じていくべきである。この考え方は、地球温暖化対策、生物多様性の保全、化学物質の対策、大気汚染防止対策など、様々な環境政策における基本的な考え方として既に取り入れられており、例えば、「生物多様性基本法」(平成 20 年法律第 58号)は、予防的な取組方法等を旨とする規定を置いている。また、我が国が締結する国際条約においても、予防的な取組方法を掲げるケースが多くなっており、その観点からも、国内での施策を予防的な取組方法に基づいて実施すべき必要性が高まっている。
今後、引き続きこの考え方に基づく施策を推進・展開していく必要がある。
第1章で述べた水俣病に関する教訓や、気候変動の分野において、IPCC の累次の報告など科学的知見の蓄積を土台に予防的な取組方法に基づく取組を通じて世界的な対策が進展してきたことを踏まえれば、前述の未然防止原則だけでなく、予防的な取組方法も引き続き重要である。
東日本大震災以降、リスク評価と予防的な取組方法の考え方は、防災の観点だけでなく、環境政策においてもその重要性が再認識されている。今後、できる限り科学的知見に基づく客観的なリスク評価を行いながら、「環境リスク」や「予防的な取組方法」の考え方に則って、政策を推進していくことが重要である。
また、政策判断を行った後においても、例えば、生物多様性保全の領域において、順応的取組方法を旨としているように、新たに集積した科学的知見に基づいて必要な施策の追加・変更等の見直しを継続して行っていくべきである。
さらに、一定の不確実性がある中で政策的な意思決定を行うためには、関係者や国民との合意形成につなげるリスクコミュニケーションが不可欠である。その際には、可能な限り各主体間のコミュニケーションを図るよう努めるべきであり、そのために、政策決定者は十分に説明責任を果たすべきである。さらに、利用可能な最良の技術(BAT)も踏まえたトランジションの視点など中長期の時間軸を持った議論も必要である。
環境保全のための措置に関する費用の配分の基準としては、「汚染者負担の原則」に則って、環境汚染防止のコストを、価格を通じて市場に反映することで、希少な環境資源の合理的な利用を促進することが重要である。また、我が国の汚染者負担原則は、汚染の修復や被害者救済の費用も含めた正義と公平の原則として議論されてきたという点に留意する必要がある。今後も、汚染者の負担に係る国際競争上の公平の確保にも留意しつつ、事故や操業により生じる環境汚染防止のためのコストを製品、サービス価格に反映させることで、安全性や環境面にも配慮した企業経営、消費行動を促していくことが重要である。
環境収容力の範囲内で経済社会活動を行うためには、「環境効率性」を高める、すなわち、一単位当たりの物の生産や、サービスの提供から生じる環境負荷を大幅に減らすことにより、「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に向けて、我々が生み出す豊かさ、経済の付加価値が拡大しても環境負荷の総量はむしろ減少していくこと(絶対的なデカップリング)が必要である。また、このデカップリングを土台として、環境価値をコストではなく経済の高付加価値化の源泉としていくことが重要である。
また、上記のほか、製品の生産者が、物理的、財政的に製品のライフサイクルにおける使用後の段階まで一定の責任を果たすという「拡大生産者責任」の考え方や、製品などの設計や製法に工夫を加え、汚染物質や廃棄物をそもそも出来る限り排出しないようにしていくという「源流対策の原則」などに則り、政策を推進していくことが重要である。
これまでに述べた環境政策の展開の方向を踏まえ、また、第2部に掲げる環境政策の個々の課題を解決していくためには、政策の優先順位をつけながら、費用対効果や社会全体で負担する費用の低減に留意する必要がある。そのためには、これまでにも実施されてきた直接規制や、補助金支給、税制優遇措置、普及啓発などの政策手法に加えて、新たな政策手法の開発や既存の政策手法の改良、適用範囲の拡大などを行っていくことが必要である。環境基本法第二章第五節は、このことを示している。ある政策目的の確実な実現を促す環境政策手法として以下に挙げるものがある。
法令によって社会全体として達成すべき一定の目標と遵守事項を示し、統制的手段を用いて達成しようとする手法。環境汚染の防止や自然環境保全のための土地利用・行為規制などに効果がある。
目標を提示してその達成を義務づけ、又は一定の手順や手続を踏むことを義務づけることなどによって規制の目的を達成しようとする手法。規制を受ける者の創意工夫を活かしながら、定量的な目標や具体的遵守事項を明確にすることが困難な新たな環境汚染を効果的に予防し、又は先行的に措置を行う場合などに効果がある。
市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与を介して各主体の経済合理性に沿った行動を誘導することによって政策目的を達成しようとする手法。補助金、税制優遇による財政的支援、課税等による経済的負担を課す方法、排出量取引、固定価格買取制度等がある。直接規制や枠組規制を執行することが困難な多数の主体に対して、市場価格の変化等を通じて環境負荷の低減に有効に働きかける効果がある。
事業者などが自らの行動に一定の努力目標を設けて対策を実施するという取組によって政策目的を達成しようとする手法。事業者などがその努力目標を社会に対して広く表明し、政府においてその進捗点検が行われるなどによって、事実上社会公約化されたものとなる場合等には、更に大きな効果を発揮する。技術革新への誘因となり、関係者の環境意識の高揚や環境教育・環境学習にもつながるという利点がある。
事業者の専門的知識や創意工夫を活かしながら複雑な環境問題に迅速かつ柔軟に対処するような場合などに効果が期待される。
環境保全活動に積極的な事業者や環境負荷の少ない製品などを、投資や購入等に際して選択できるように、事業活動や製品・サービスに関して、環境負荷などに関する情報の開示と提供を進める手法。環境報告書などの公表や環境性能表示などがその例であり、製品・サービスの提供者も含めた各主体の環境配慮を促進していく上で効果が期待される。
各主体の意思決定過程に、環境配慮のための判断を行う手続と環境配慮に際しての判断基準を組み込んでいく手法。環境影響評価の制度や化学物質の環境中への排出・移動量の把握、報告を定めるPRTR 制度などはその例であり、各主体の行動への環境配慮を織り込んでいく上で効果が期待される。
国、地方公共団体等が事業を進めることによって政策目的を実現していく手法。他の主体に対し何らかの作用を及ぼす手法に対し、この手法は自ら事業を行うことで目的を達成する。
環境基本法は、このほかにも、環境教育・学習等による理解増進など多くを掲げている。また、主に情報的手法や自主的取組手法の一つとして、ナッジ107等の行動科学の知見を活用した新たな政策手法の開発や実装が進められている。これらは、かつてのように特定の大規模な環境負荷源による環境汚染問題の解決の場合のように、一つの政策手法だけで効果を上げうるものもあった。しかし、各種政策を統合してシナジーを発揮させ、環境・経済・社会の統合的向上に向けた取組を進め、循環共生型社会を実現するという今日の環境政策の課題の解決のためには、かつてと同様に対応することは困難である。新たな政策実現手法を開発することとともに、これらの多様な政策手法の中から政策目的の性質や特性を勘案しつつ、適切なものを選択し、ポリシーミックスの観点から政策を適切に組み合わせて政策パッケージを形成し、相乗的な効果を発揮させていくことが不可欠である。
本計画に沿って、個々の施策を検討し実施する際には、これらの政策実現手法の適切な組み合わせを考える必要がある。
第1部第1章に記載された危機感を踏まえ、持続可能な社会、すなわち本計画における循環共生型社会の実現に向けて、第1部第2章、第3章で記載された基本的な考え方に基づき、2050 年及びそれ以降も見据えつつ、2030 年の重要な節目を念頭に、今後5年程度に実施する施策を対象とし、第五次環境基本計画の点検結果も踏まえ、個別分野の環境政策を統合的に実施する観点から、第2章に掲載されている横断的な戦略を「重点戦略」、第3章に掲載されている個別分野の戦略を「重点的施策」とし、それらを合せて、「重点分野」として各施策を推進する。
目指すべき持続可能な社会の姿、循環共生型社会を実現するため、環境・経済・社会の統合的向上の高度化に向け、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等といった個別分野の環境政策を統合的に実施し、相乗効果(シナジー)を発揮させ、経済社会の構造的な課題の解決にも結びつけていく。そのため、個別分野における行政計画が策定されていることも踏まえながら、特定の施策が複数の異なる課題をも統合的に解決するような、横断的な戦略を設定することが必要である。
それぞれの戦略の実施に当たっては、循環共生型の社会、地域循環共生圏の実現を目指し、「新たな成長」の視点を踏まえ、国民一人一人の理解を得て、あらゆる主体の参画の下、実施することを目指す。
戦略については、以下の6つの視点に基づき設定する。
(1)経済活動について、持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムを構築し、環境価値への適切な評価や、自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させる資本への長期的な視野に基づく投資を促すなど「新たな成長」を導いていく。【「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築】(2)経済社会活動の基盤である国土を持続可能なものにしていく。自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させる資本を拡充することによって国土のストックとしての価値を向上させていく。【自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上】(3)コミュニティの基盤である地域について、地域資源を活用した持続可能な地域づくりを通じて地域の経済・社会的課題の解決に結びつけ、環境・経済・社会の統合的向上を実践・実装していく。【環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり】(4) 人々の暮らしについて、「ウェルビーイング/高い生活の質」が実感できるよう、汚染の危機等に対処し、ライフスタイルのイノベーションを創出しつつ、安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしを実現していく。【「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現】(5)経済、国土、地域、暮らし、国際関係を支える環境関連の科学技術の研究・開発・実証・普及について、現在及び将来の国民の本質的なニーズを踏まえつつ、広範なイノベーションを進めていく。【「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装】(6)安全保障・ビジネス等の分野において環境が主流化している状況において、地球の環境収容力の範囲内で持続可能な社会が実現できるよう、環境を軸として国際協調を進め、国益と人類の福祉に貢献していく。【環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献】
上記で示した6つの重点戦略は、内容として重複する部分も生じる。これらは構成上厳密に切り分けるよりも、むしろ、各重点戦略が内容的に重なり合う部分があることにより、1つの施策を実施することでより多くの重点戦略を実施することが可能となり、相乗効果が生まれ、持続可能な社会の構築を加速化することとなる。
なお、各重点戦略に掲げられた施策の中には、他の重点戦略にも関連するものもあるが、便宜上、最も関連が深いと考えられる重点戦略に位置付けている。このため、各施策の実施に当たっては、他の重点戦略との関連も十分考慮に入れる幅広い視点を持って展開していくことが求められる。
以上の観点を踏まえ、第2章において各戦略について詳述する。
また、第3章においては、個別分野の重点的施策を詳述することとする。
戦後の高度経済成長期に発生した激甚公害への対策に端を発する環境政策の確立は、我が国の環境改善に一定の成果をもたらし、現在の生活環境は劇的と言っていいほど改善された。私たちは、今の生活環境を「与えられた当然のもの」として考えがちであるが、これまでの「環境をよくする努力の結晶」であったことを決して忘れてはならない。
公害対策から始まった環境政策は、その後、気候変動問題、廃棄物問題、生物多様性の損失といった問題などへと広がりを見せ、それらへの対策として各分野における政府の計画が策定され、対策が進められている一方、まだ取組が十分でない点もある。引き続き、各分野の対策を着実に推進するとともに、対応が不十分な点については、その対策を強化する必要がある。
持続可能な社会への変革は、あらゆる主体が参加し、適切に役割を分担しつつ、対等な立場で相互に協力し、地域の将来像と共通利益を確認・言語化し、地域のありたい姿の実現に向けて、それぞれの力を結集させていくこと、第一部で述べたとおり、「全員参加型」のパートナーシップの下、政府(国、地方公共団体等)、市場(企業等)、国民(市民社会、地域コミュニティを含む。)が、持続可能な社会を実現する方向で相互作用、すなわち共進化を目指すことが重要である。こうしたパートナーシップ(協働取組)において、対話に基づく信頼関係の構築や共通理解といった協働プロセスを通じて複眼的な視点を得ることは、関係者自身に変容をもたらし、地域やコミュニティの課題解決能力を強化させることにつながることから、協働取組は課題解決の手段であり、地域やコミュニティの成長の源といえる。このため、協働取組の一連のプロセスをガバナンスの視点(協働ガバナンス)でとらえ、取組に関連する人的・物的資源や情報などを各主体に提供し、それぞれの主体が置かれた状況を整理しながら、対話の場を創造し、各主体の関心や意欲を呼び起こしながら、解決策の発見や目指すべき目標への進行を促すといった、中間支援機能を軸とする協働の仕組みを構築することが重要である。
環境政策の展開に当たっては、社会を構成するあらゆる主体が環境に対する自らの責任を自覚し、また、環境対策に取り組むことで暮らしや地域運営・企業経営などにとって大きなメリットがあること、環境対策を怠ったり先送りしたりすれば大きなリスクとなることを認識する必要がある。その上で、環境保全に関して担うべき役割と環境保全に参加する意義を理解し、当事者意識を持ちつつ、業種や組織を超えてそれぞれの立場に応じた対等な役割分担の下で、パートナーシップを充実・強化する必要がある。そして、各主体が適切にリーダーシップを発揮して、自主的、積極的に環境負荷の低減や良好な環境の創出を目指す必要がある。
そのため、以下において、パートナーシップの充実・強化に向け、国が果たすべき役割、地方公共団体、事業者、民間団体、国民に期待される役割を明らかにする。
国は、各主体の参加により社会全体としての取組が統合的に進められることにより環境が保全されるよう、政府内で分野横断的な連携を図りつつ、各主体の参加を促す枠組みを構築し、地方公共団体、事業者、民間団体、国民と対話を通じた協働取組による持続可能な社会づくりを推進する役割を担う。このため、関係省庁間で様々な分野で横断的に連携することが重要であり、環境行政を進める上で重要なパートナーである地方公共団体をはじめ、あらゆる主体に環境保全の取組の目標や方向性、役割分担などを提示するとともに、経済社会システム全般の転換や国土の利用における環境配慮の織り込みなどを通じ、地域等の特性にあった各主体の行動の基盤づくりを行う。
また、各主体の自主的、積極的行動、環境政策への参画を促進するため、環境教育やESD の推進、環境人材の育成、民間活動の支援、情報の提供などを行うとともに、各主体間の対話を促進し、取組相互のネットワーク化とパートナーシップの構築を推進する。特に、世代間の衡平性も踏まえ、持続可能な社会づくりに向けた変革の担い手として重要な存在である若者の意見が積極的に取り入れられるよう方策を講じる。
さらに、自らの活動についても、環境配慮を幅広く積極的に織り込んでいく。
地方公共団体は、地域の重点戦略を進める際の要となりうる存在であり、持続可能な社会の構築の基礎である地域の環境保全に関して主要な推進者としての役割を担うとともに、地域の取組の調整者としての役割を担うことが期待される。また、地域コミュニティの充実、強化にも重要な役割を持つ。このため、地方公共団体は、関係部局間の分野横断的な連携を図りつつ、地域の特性に応じて、地域における取組の目標や方向性などを地域の企業や、団体、住民をまきこんで議論し、検討する場づくり、目標や方向性などの提示、各種制度の設定や社会資本整備などの基盤づくり、各主体の行動の促進など、住民、事業者、民間団体、他の地方公共団体や国の関係機関と対話を通じた協働取組により、地域における環境保全施策を統合的に展開することが期待される。
また、自らの活動についても、環境配慮を幅広く積極的に織り込んでいくとともに、地域循環共生圏創造の中心的な担い手として、「自立した地域」を支える地域プラットフォームの構築に取り組むことが期待される。
経済活動の大きな部分を占めるとともに、消費者に最も近い存在である事業者の取組は、環境負荷の低減において極めて重要である。事業活動のあらゆる場面において、公害防止の取組はもとより、資源・エネルギーの効率的利用や廃棄物の削減、原材料調達から生産・流通そして消費までのバリューチェーン全体で環境負荷を削減する取組など、自主的・積極的に進める必要がある。その際、特に気候変動においては 1.5℃目標に整合する形で取り組むことが重要である。また、こうした従来の環境保全の取組に加え、昨今では事業活動を通じてネイチャーポジティブを実現しようとする動きも広がりつつあり、環境人材育成などの経済的競争能力投資を含め、人々の意識変革・行動変容に与える影響が期待される。
さらに、環境を始めとする様々な課題をリスクではなく機会として捉えることにより、いわゆる経路依存性に過度に陥ることなく、利用可能な最良の科学を踏まえるなど現在及び将来の国民の本質的なニーズに基づく新たな技術(既存技術の組み合わせ等を含む。)や、環境に配慮した製品・サービスの開発などを通じ、新たなビジネスチャンスを創出することが期待される。これらのビジネスや、自然資本を持続的に活用するビジネスは、環境保全及び自然資本の維持・回復・充実に貢献し、持続可能な社会の形成に重要な役割を担うことから、積極的な展開が期待される。
一方、金融機関や投資家はサステナブルファイナンス等を通じて、持続可能な社会の構築に寄与する資金の流れを生み出すことが期待される108。事業者については金融側の動きに応じて、TCFD や TNFD 等を通じてリスクと機会を含めた情報開示を求められている大企業だけでなく、地域における重要なプレイヤーである中小企業においても、自社のサステナビリティ戦略と事業戦略を統合的に進めていくことが重要である。
NPO・NGO、教育機関、研究機関、科学者コミュニティ、協同組合、労働組合など、国民や事業者により組織され、環境保全に関する活動を行う非営利的な民間団体は、自律的、組織的に幅広い活動を活発に行うことにより環境保全のための取組に関する基盤を形成するなど、大きな役割を果たしている。民間団体は、あらゆる主体が環境保全に関する行動に主体的に参加する社会を構築していく上で、取組の結節点として重要な役割を果たすと考えられ、特に草の根の活動や民間国際協力などきめ細かな活動が期待される。
また、民間団体の役割としては、自ら具体的な環境保全活動を行うことのほか、行政、事業者、個人など各主体の取組を評価しこれらの主体をつないで取組を一層加速させること、専門的な情報を国民に分かりやすく伝達することなどにより各主体の情報の橋渡しを行うこと、自らの専門的能力を生かした提言を行うことなどが期待される。
特に、教育機関、研究機関、科学者コミュニティには、最新の科学的知見を踏まえた、科学的知見の更なる充実・データの共有・知見の情報提供、革新的技術開発の推進などが期待される。
今日、国民の日常生活に起因する環境負荷が増大する中にあって、国民の生活様式を持続可能なものに転換していくことが必要である。
このため、国民は、自らを含む人々の生活・行動を、第一部で紹介した「ドーナツ内での生活」の範囲内(ソーシャル・バウンダリーを上回りつつ、プラネタリー・バウンダリーの範囲内)に収めることの重要性を認識し、人間と環境との関わりについての理解を深めるとともに、自己の行動への環境配慮の織り込みに努め、日常生活に起因する環境への負荷の低減に努めることが必要である。特に消費者としての立場においては、量的・価格的価値を重視する価値観から、質的・高付加価値を重視する価値観へと転換していくことが期待される。需要側である消費者の意識・行動のグリーン化は、供給側である企業行動のグリーン化を促すことから、共進化の起点となる重要な変化となる。
また、身近な環境をよりよいものにしていくための行動を自主的積極的に進めることが期待される。
さらに、持続可能な社会を構築するためには、政策決定過程に国民の意見を反映させることが重要であり、そのために国や地方公共団体が設ける機会に積極的に参加することが期待される。
第一部で述べたとおり、あらゆる主体が環境に配慮した社会づくりへの参加を通じて共に学びあうことにより、市民社会、地域コミュニティの対応力や課題解決能力を高めていくことも重要である。この「学びあい」の過程においては、世代間衡平性を確保する観点から若い世代の参加を促進することや、ジェンダー平等の観点から女性の参加を後押しすること等、包摂性の確保が重要となる。
多様な主体のパートナーシップは、SDGs の基本的な考え方である「5つのP109」の一つにも掲げられているように、環境基本計画の着実な実施を図る面から、今後、より重要となってくる概念である。重点戦略及びその展開を支える施策を実施する上で、それらの施策に関連する主体間でのパートナーシップは、全てに共通して求められる要素であり、持続可能な社会の構築に向けた原動力となる。各主体の積極的な参加を促すためには、環境情報が重要であるため、各主体はニーズに応じた環境情報を提供し、その情報に基づき現状や課題に関する認識を共有し、環境を軸として、環境、経済、社会の統合的向上を図った地域の将来像と共通利益を確認・言語化し、地域のありたい姿や地域住民の「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に向けて、施策の実施段階においてパートナーシップを充実・強化していくことが必要不可欠である。
そのためには、中間支援機能が重要となる。
また、対話に基づく信頼関係の構築や共通理解といった協働プロセスを通じて複眼的な視点を得ることは、関係者自身に変容をもたらし、地域やコミュニティの課題解決能力を強化させることにつながることから、協働取組は課題解決の手段であり、地域やコミュニティの成長の源といえる。
このため、協働取組の一連のプロセスをガバナンス(協働ガバナンス)の視点でとらえ、取組に関連する人的・物的資源や情報などを各主体に提供し、それぞれの主体が置かれた状況を整理しながら、対話の場を創造し、各主体の関心や意欲を呼び起こしながら、解決策の発見や目指すべき目標への進行を促すといった、中間支援機能を軸とする協働の仕組みを構築することが重要である。
このことから、各重点戦略に位置付けられる各施策の適正かつ効果的な実施に当たっては、パートナーシップの重要性を念頭に置きながら、検討を進めることが望ましい。パートナーシップの充実・強化がとりわけ求められる取組として、例えば下記のようなものが考えられる。
・ 人口減少・少子高齢化が進む地域社会において、地域の自然資本を最大限活用した地域づくり(地域循環共生圏)の推進・ 行政、学校、企業、住民、自治会、NPO・NGO、科学者コミュニティ、協同組合等のあらゆる主体とのパートナーシップを通じた、ESD の理念に基づく環境教育の更なる推進、施策の実践の場としての地域コミュニティの再構築・ 持続可能な社会づくりに資するための企業による自主的取組や、環境配慮型の製品やサービスの選択等を通じ様々な環境問題の解決をより良い豊かな暮らしづくりに結びつけることを後押しする運動を推進することによる、国民への積極的かつ自主的な行動喚起の促進・ 環境人材の育成や環境価値に関するマーケティング等の経済的競争能力投資の推進と消費行動における価格重視から環境価値等の質を重視する方向への転換・ オープンイノベーションなど、産官学等の各主体のパートナーシップによる、将来にわたって恵み豊かな環境を保全するための技術開発・普及の促進・ 国、地方公共団体、事業者、民間団体、国民等の様々な主体が相互の信頼を一層深め、協働して環境リスクを低減し持続可能な社会を実現するための対話・共考によるリスクコミュニケーションの推進・ 国と各国政府・国際機関間、国際的な自治体・事業者・民間団体間など、様々なレベルでの国際的な連携協力の推進これらの取組により、多角的な視点を養うことができ、環境・経済・社会の統合的向上の具体化を図るための人材の育成につなげることが可能となる。すなわち、パートナーシップの充実・強化は人づくりに資するものであり、また持続可能な社会に向けた原動力となる。また、パートナーシップの充実・強化に向けた具体策として、従来の環境・経済・社会の統合的向上に資する優良事例を発掘し、表彰する制度に加え、パートナーシップにより進めようとする取組やその実施主体を支援する中間支援機能の担い手育成があげられる。これにより、各主体によるパートナーシップによる取組を促し、さらには各主体間の連携が地域で持続していく体制づくりにつなげていくことが重要である。
循環共生型社会の構築に向けて、自然の循環と調和した究極的な経済社会の物質フロー(元素レベルを含む。)に近づけながら我が国の経済を発展させていくため、「量的拡大」「集約化」「均一化」することで効率的な経済活動を可能とする成功モデルを生み出す前提で設計された旧来の経済システム110から脱却する必要がある。それは、産業革命以来の化石燃料を始めとした地下資源を大量に利用する文明からの転換という世界共通の課題である。新たな経済システムの実現に向け、利用可能な最良の科学に基づき、取組の十全性(スピードとスケール)が求められており、そのための取組は国際競争の側面を持つ。
資源生産性や炭素生産性を始めとした環境効率の大幅な向上を図ることにより、環境負荷の総量を削減し、環境収容力を守り、自然資本を維持・回復・充実させ、かつ、有効に活用していく。これにより、環境負荷の低減と経済成長の絶対的なデカップリングを加速させる経済社会システムのイノベーションを実現する。
具体的には、「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現を目指し、長期的視点に基づき、自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させる有形・無形の資本への投資を大幅に拡大し、イノベーションの源泉ともなるそれらの資本ストックを増加させる。特に国内における投資拡大により「合成の誤謬」を解消するとともに、自然資本を含む資本ストックの持続的な活用と合わせて、経済成長を牽引していく。併せて、GX 実現に向けて脱炭素成長型経済構造移行戦略に基づく施策を進めていく111。
また、環境価値を始めとする「ウェルビーイング/高い生活の質」につながる価値について、市場における適切な評価を行うとともに、バリューチェーン全体を通じて向上を図り、財・サービスの高付加価値化(マークアップ率、財・サービスの単価の向上等)に結びつける。消費行動については、国民の環境意識を高めつつ、価格重視から環境価値等の質を重視する方向への転換を促していく。現在及び将来の国民の本質的なニーズを的確に捉えつつ、現に有する又は現状に比べて改善した環境価値・性能112を付加価値に転化する等の観点から、デジタル関連を含む無形資産投資、特に経済的競争能力投資の大幅な拡大と、環境情報の整備等を図っていく。
また、使い捨てを基本とする大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会様式につながる一方通行型の線形経済から、製品等をリペア・メンテナンスなどにより長く利用するとともに再利用・リサイクルを行い、市場のライフサイクル全体で資源を効率的・循環的に有効利用することで資源・製品の価値の最大化を図り、資源投入量・消費量の最小化、廃棄物の発生抑制等を目指す循環経済への移行を進め、これを持続的なものとし、社会経済活動の中で主流化させる。こうして環境価値を軸に、消費行動と企業行動(生産行動)を共進化させていく113。
加えて、海外において脱炭素等の環境関連市場の拡大が見込まれる中、高い環境価値と国際競争力を持つグリーンな製品・サービスの供給を促進するとともに、循環性強化やエネルギーの効率的利用等を通じ、バリューチェーン全体での環境負荷を大幅に削減することで更なる競争優位性を生み出し、我が国経済の牽引力とする。
また、地上資源の循環を基調とする経済システムの構築によって、海外からの化石燃料や鉱物資源等の輸入を削減し、国際収支を改善するとともに、食料安全保障に加え、資源の安定供給確保を含めたエネルギー安全保障及び経済安全保障の確保に貢献していく。
こうした取組を通じて、内外の需要を獲得しつつ、経済全体を「量から質」「高付加価値」「線形から循環型」なものへと転換し、持続可能な生産と消費を実現すると同時に、労働生産性や賃金の向上にも貢献していく。そのためには、外部不経済の内部化など市場の失敗の是正を含めた経済システムのグリーン化を進め、市場メカニズムを有効に活用しつつ、環境保全に資する国民の創意と工夫、行動変容を促していくことが不可欠である。ESG 投資など、機関投資家が企業の環境面への配慮を重要な投資判断の一つとして捉える動きが主流化している潮流を踏まえ、気候変動対策、循環経済、ネイチャーポジティブ等の実現に資する市場への投融資など、持続可能な社会の構築へと資金の流れをシフトする環境金融の拡大を図るとともに、「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行や税制全体のグリーン化等を推進していく。また、先進的なものも含めたグリーンな製品・サービスに対する需要創出としての公共調達、DX の活用等による環境関連情報の集約・開示、バリューチェーンでの環境負荷低減の評価を積極的に進めていく。
また、大規模な産業構造変化に対応し、労働力を始めとした持続可能な社会への公正な移行を実現する。さらに、環境分野におけるスタートアップの支援など新たな「質の高い雇用」(ディーセント・ワーク)の創出とともに、人的資本投資等を進めていく。
資源生産性、炭素生産性を始めとした環境効率性を大幅に改善して環境負荷の総量を削減し、経済成長の絶対的なデカップリングを加速化していく。
そのためには、天然資源や炭素114の投入量の低減に資する、自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させるための有形資産・無形資産への投資を拡大することで、関連する資本ストックを充実化させていくことが重要である。この際、最先端の技術開発に加え、すでに実証・実装されている技術の組合せ・水平展開によってもイノベーションが生み出されうるということも重要な視点であり、現在及び将来の国民の本質的なニーズに応える技術・資産への投資を促していくことが重要である。(主に、資源生産性、炭素生産性の分母の対策)。
また、環境負荷の低減と経済成長の絶対的なデカップリングの実現に向けては、付加価値の伸びと天然資源や炭素の投入量をデカップリングさせる必要がある。そのためには、一般的に有形資産に比べて環境負荷の小さい無形資産の活用が不可欠となる。
それは、2000 年代に日本の製造業の付加価値生産性の上昇が物的生産性の上昇を下回ってきた状況115を改善し、非価格競争力を向上させることにも資する(主に、資源生産性、炭素生産性の分子の対策)。
その際、消費行動と企業行動(生産行動)を同時にグリーン化し、共進化させていくことが必要である。例えば、消費者の意識・行動を量的・価格的価値を重視するものから質的・高付加価値を重視するものへと転換すること、企業行動(生産行動)等を支える人材育成・組織体制の整備に資する人的資本投資・組織資本投資、環境価値を付加価値に転嫁するために必要な経済的競争能力投資等を拡大すること、そして、消費者の意識・行動における質的・高付加価値重視や人材育成・組織体制整備の基盤となる情報基盤を整備すること等が重要となる。
我が国において、2050 年ネット・ゼロの実現のために、「地上資源」116の代表格である再生可能エネルギーの最大限導入に向けた取組を加速化する。
現在年間 30 兆円を超える化石燃料の輸入額の削減、バリューチェーン全体を脱炭素化する流れの中での我が国における企業立地競争力の向上、海外へのエネルギー依存度の低減を通じたエネルギー安全保障の確保、本章の2、3で述べる自立分散型の国土構造の実現、地域経済循環の拡大を始めとした地域活性化などのため、再生可能エネルギーの導入の拡大は、環境・経済・社会の統合的向上における最重要課題の一つである。
領海及び排他的経済水域(EEZ)を合わせた管轄海域を含む面積が世界第6位など、我が国が有する再生可能エネルギーのポテンシャルを生かしつつ、2050 年ネット・ゼロに必要な再生可能エネルギーの量の確保、また、我が国の立地競争力を強化すべく他の先進国と比べて遜色のない水準への向上等のため、再生可能エネルギーの最大限の導入を進めていくことが必要である。その際、生物多様性の保全等に配慮し、自然資本の維持・回復・充実や環境負荷の総量削減に貢献していく。
そのため、洋上風力発電のEEZ への積極的な展開を図り、また、脱炭素先行地域や重点対策などの取組が着実に実施されるよう支援するとともに、都道府県、地域金融機関、地域エネルギー会社等と連携し、得られた成果の横展開を図る。その際、再生可能エネルギー熱供給設備の導入促進や、地域の需要に応じた熱分野の脱炭素化、地域共生型地熱発電・小規模な浮体式洋上風力・潮流発電等の地域性が高い再生可能エネルギー発電導入促進、適正な営農型太陽光発電促進・農林業系バイオマス等の循環利用、地域の再生可能エネルギー等を活用した水素サプライチェーン構築、廃棄物発電の導入促進等を実施する。系統に負荷を与えないための蓄電池の導入、水素としての貯蔵、需要側設備の最適制御等を進めることにより、再生可能エネルギーの導入可能量の更なる拡大を図るとともに、屋根面に加え、壁面等の新たな設置手法の開発による地域共生型で、電力系統に依存しない自立分散型の再生可能エネルギーの導入を進める。
株式会社脱炭素化支援機構による再生可能エネルギー関連事業への資金供給及び民間投資を促進するほか、企業によるバリューチェーン全体の脱炭素化に係る施策やデコ活等とも連携し、スタートアップ企業を含め多様な主体による取組を後押しする。
上記の取組を通じ、世界全体の再生可能エネルギーの容量を 2030 年までに3倍に拡大するというCOP28 で決定された目標の達成に向けて、先進国の一員として貢献していく。
生物多様性に関する世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえて、2050 年における「自然と共生する社会」と、2050 年ネット・ゼロを相反させずに、同時に達成しなければならない。そのためには、再生可能エネルギーの導入は自然と共生するものであることが大前提である。自然の恵みの持続的な享受と気候変動緩和策のトレードオフを回避・最小化し、ネイチャーポジティブとカーボンニュートラルの両立を図るため、再生可能エネルギー発電設備の不適正な導入による環境への悪影響を防ぎ、地域の自然の恵みを損なうことなく地域の合意形成を図りつつ、地域共生型の再生可能エネルギーの積極的な導入を目指す必要がある。そういった地域と共生し、地域に裨益する再生可能エネルギーの導入を拡大するため、広域ゾーニングの推進も含めた地球温暖化対策推進法に基づく地域脱炭素化促進事業制度の活用促進を図るとともに、地域の参画を促しながら、地域の持続可能な発展に資する再生可能エネルギー事業を更に促進する仕組みづくりを進める。
風力発電事業に関しては、自然環境の保全に支障を来す形での導入を防ぎつつ、環境への適正な配慮と地域との共生を図りながら最大限の導入を図っていくことが重要であり、そのための適切な環境影響評価制度の在り方について検討を進める。
とりわけ洋上風力発電事業に関しては、再生可能エネルギーの主力電源化の切り札として推進していくことが期待されている。洋上風力発電事業を促進するための海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30 年法律第 89 号)(以下「再エネ海域利用法」という。)に基づき実施される洋上風力発電事業について、国が実施する海洋環境調査の結果を踏まえた事業実施区域が選定されることによって、より適正な環境配慮の確保が可能となる制度実現に向けた取組を進めていく【※現在、関係省庁と検討中の内容であり、4 月の閣議決定時点の情報で確定させる】。また、陸上風力発電事業についても、適正な環境配慮を確保しつつ、地域共生型の事業を推進する観点から、地域の環境特性を踏まえた効率的・効果的な環境アセスメントが可能となるよう、環境影響の程度に応じて必要なアセスメント手続を振り分けること等を可能とする新たな制度を検討する。
加えて、国による環境調査等を通じた適地の提示、動植物の生息環境の保全・再生に資する再エネ施工・管理技術の開発、OECM や里地里山管理との連携等を通じた自然共生型の再生可能エネルギーの案件形成を行うとともに、再生可能エネルギーの導入に伴う大気汚染物質の削減等にも配慮していく。
また、太陽光発電設備については、今後の廃棄のピークを見据え、設備の廃棄・リサイクル等に係る制度的検討の加速化やリサイクル技術の高度化等、適正な廃棄、リユース、リサイクル実施に向けた計画的な対応を講ずる。(2024 年 1 月の検討会とりまとめを踏まえて可能な範囲で詳述。)
建築物の屋根などに太陽光パネルを設置する場合、土地の改変等を伴わないことから、周辺地域や周辺環境への影響を及ぼす可能性は小さいと考えられる。このため、建築物を活用して、このような場所における再生可能エネルギーの導入を積極的に推進する。
政府実行計画、地方公共団体実行計画、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成 12 年法律第 100 号)(以下「グリーン購入法」という。)等の枠組みを活用し、各府省庁が連携して、政府・地方自治体の公共施設等への再生可能エネルギーの率先導入を推進するとともに、次世代型太陽電池の需要創出等に取り組み、公共部門が牽引して社会全体の排出削減を推進する。
屋根面に加え、壁面等の新たな設置手法の開発による地域共生型で、電力系統に依存しない自立分散型の再生可能エネルギーの導入を進める。
初期費用ゼロ型の太陽光発電設備導入の支援、壁・窓と一体となった太陽光発電設備への支援、住宅・建築物のZEH 化・ZEB 化への支援等、制度的な対応も含めて住宅・建築物の屋根・壁面等における太陽光発電設備導入を強力に推進する。
省エネルギーは、エネルギー使用量の削減を通して、炭素投入量の削減、脱炭素社会の実現に資する取組である。
そのため、家庭・業務・産業・運輸の各分野において、省エネ法等を活用し、規制・支援一体型で大胆な省エネルギーの取組を進めていく。
工場等における省エネルギー設備の導入を複数年度にわたり支援するとともに、中堅・中小企業向けの省エネルギー診断を推進する。
新築住宅・建築物の ZEH・ZEB 化の実証・支援、断熱窓への改修や高効率の給湯器の導入支援も含めた既存住宅の省エネルギー化支援、既存建築物の脱炭素改修支援、住宅・建築物の販売・賃貸時の省エネルギー性能表示の強化、街区単位のエネルギーの面的利用等による徹底した省エネルギー化を推進する。また、省エネルギー基準の ZEH・ZEB 基準の水準への段階的な引き上げも踏まえ、より高い省エネルギー性能を有する住宅・建築物の普及方策の検討を進める。
地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体実行計画を着実に実施するため、脱炭素先行地域や重点対策の取組等を通じ、省エネルギーを含む地域の面的な脱炭素の取組を加速する。
上記の取組を通じ、エネルギー効率の改善率を2030 年までに世界平均で年率2倍にするというCOP28 で合意された目標の達成に向けて、先進国の一員として貢献していく。
このように、省エネルギーへの投資を進めることによって、経済社会の成長・発展につなげ、環境・経済・社会の統合的向上を実現する117。
2050年ネット・ゼロに向けて、発電や水素の製造等で排出される CO2 を分離・回収・利用・貯留(CCUS/カーボンリサイクル)し、最大限活用する必要がある。CCUS/カーボンリサイクルの早期社会実装に向け、政府において策定したロードマップに基づき、関係省庁間で連携しながら技術の確立に向け進めていく。
また、ネット・ゼロと水・大気環境保全との統合的アプローチの観点から、今後、燃料や水素キャリア等の用途として大規模利用が見込まれるアンモニアに係る、窒素酸化物等の排出抑制に関する取組や、水源の硝酸性窒素等、地域の環境保全に向けた家畜ふん尿のエネルギー利用等の取組を促進する。
我が国の資源循環に率先して取り組む企業が投資家等から適切に評価され、企業価値の向上と産業競争力の強化につながることが重要である。各事業者においては循環経済に関する積極的な情報開示や投資家等との建設的な対話を行っていくこと、投資家等においてはそれを適切に評価し、適切に資金を供給することが期待されるところ、こうした開示・対話に関する取組を後押しすることで投資の拡大につなげる。
企業のあらゆる事業活動は自然資本・生物多様性に影響を与えるとともに依存しており、自然資本の劣化・生物多様性の損失は、社会経済の持続可能性に対する明確なリスクとなっている。国際目標である2030 年までのネイチャーポジティブの実現はもとより、経済活動を持続可能とするために、社会・経済の在り方を変え、ネイチャーポジティブの実現に資する経済(「ネイチャーポジティブ経済」)に移行していくことが必要となる。
ネイチャーポジティブ経済への移行は、大きな社会・経済転換を伴うものであり、巨額の投資が必要となるとともに、大きなビジネス機会を生むことが見込まれている。
このことから、政府と民間の双方の資金を動員し、ネガティブを削減しポジティブを増やす投資を回すことで、社会全体としてのネイチャーポジティブを実現することが重要となるため、地域への投資喚起等の観点からの地域の自然資本の経済価値評価や、自然共生サイトの認定やその活動を支援する者に発行する証明書の運用を通じた企業による地域の生物多様性の増進に向けた取組の促進、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において自然環境の多様な機能を活用するグリーンインフラの取組、民間投資の促進等を通じて質・量両面での緑地の確保等を図るまちづくりGX の推進等を進める。
国民の環境意識の向上のためには、政府による「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」(平成 15 年法律第 130号)(以下「環境教育等促進法」という。)及び同法により国が定める基本方針に基づく、あらゆる主体に対するあらゆる場における環境教育の強化が必要である。具体的には、学校における環境教育や ESDに関する体系的、継続的な学びの充実を図るとともに、気候変動等の環境問題の切迫した状況に対応するため、中間支援組織等を活用し、脱炭素に取り組む企業、民間団体等と連携して、あらゆる主体・世代の国民の行動変容につながるようなより実効性の高い環境教育やESD を学校、職場、社会教育施設等で推進していく。また、環境教育やESD の推進に当たっては、自然に対する畏敬の念を持ちながら、伝統的な智恵や自然観に基づき自然資本を維持・回復・充実させ、経済・社会課題の解決にもつなげていく視点も重要である。
企業や地域の大学等とも連携した、環境人材育成等につながる人的資本投資の充実化が必要である。具体的には、令和5年に脱炭素アドバイザー資格制度の認定事業を創設し、脱炭素化推進に向けて適切な知識を備えた人材が企業の内外でその機能を発揮できるように取組を推進してきており、今後もこの取組を継続していく。
さらに、洋上風力の環境影響評価関連の人材育成を始め、環境人材の育成を大学等と連携しつつ積極的に進めていく。他方、依然として金融と気候変動政策等で環境分野の知見の両方を有する人材群が十分存在しているとはいえないことから、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブの施策を金融の観点から促進するため、官民で知見や経験を共有して協働するための体制整備をしていく。
加えて、「(5)「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装」において後述するとおり、環境分野のスタートアップ支援等の人的資本投資も拡充していく必要がある。
更に、現在及び将来の国民や地域の本質的なニーズを把握しつつ、環境価値・性能を付加価値に転化させ、その販路を開拓する等を支援する中間支援機能の強化を図るための組織資本投資を積極的に進めていく。
「ウェルビーイング/高い生活の質」を向上させ、「新たな成長」を実現するためには、大規模な産業構造変化に対応する労働者の公正な移行を促進する様々な投資が必要である。具体的には、前述の自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させる資本に対する投資の拡大や、環境分野を始めとするスタートアップ支援のための人的資本投資の拡大等による「質の高い雇用」(ディーセント・ワーク)の創出を進める。また、労働者の公正な移行のためには、教育や訓練の充実、労働者のリ・スキリング等の経済的競争能力投資を中心とした無形資産投資の積極的な拡充も求められる。
リ・スキリングによる能力向上の支援等の「三位一体の労働市場改革」(「経済と財政運営と改革の基本方針 2023」(令和5年6月 16日閣議決定))等の動向も注視しつつ、環境・経済・社会の統合的向上の視点から制度的補完性118にも鑑み、新たな雇用を創出しつつ、いわゆる氷河期世代を含め労働力の公正な移行のための人的資本投資等を促進するなど持続可能な社会への公正な移行を効果的に進めていく。特にGX の推進においては、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(令和5年7月 28 日閣議決定)に基づき、成長分野等への労働移動の円滑化支援、在職者のキャリアアップのための転職支援等を通じて、新たなスキルの獲得とグリーン分野を含む成長分野への円滑な労働移動を同時に進めることで、公正な移行を後押ししていく。
(1)で述べた投資の拡大を図るためには、市場において製品・サービスの環境価値や企業の環境関連の取組や事業が適切に評価されることが重要である。そのため、サステナビリティ関連の情報開示の促進や情報基盤の整備を進めていく。
消費行動と企業行動(生産行動)の共進化の視点から、国民(消費者、市民社会、地域コミュニティ等の視点を含む。)の判断や行動の土台等となる様々な主体が持つ環境情報の効果的・効率的な集約・開示、科学的知見の充実など現在及び将来の国民の本質的なニーズに係る情報の整備等について、デジタル関連投資の拡大などを含め推進し、国民のエンパワーメント(自らの意思決定により自発的に行動できる)に結びつけていく例えば、この後の「バリューチェーン全体での環境負荷の低減と競争優位性の実現」で述べるとおり、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等の同時達成に向けた企業の取組状況等について、わかりやすく適切な情報開示を図っていく。
また、環境アセスメント図書の継続公開の制度化について、法的な課題も踏まえ検討していく。
近年では、気候関連の財務情報の開示に関するタスクフォース(Taskforce onClimate-related Financial Disclosures: TCFD)、自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)、さらには ISSB によるサステナビリティ開示基準の公表等により、企業は金融機関や投資家から、気候関連リスク及び自然関連のリスクと機会、その備えについて情報開示を求められている。また、金融機関・投資家自身も、自らの気候等に関するリスクと機会を把握し、投融資先との対話に生かしていくことが重要である。一方で、気候変動対応に関しては、企業や金融機関・投資家が自らリスクと機会の分析やその適応策を検討するためには、信頼性の高い気候変動影響予測データの利用可能性の向上や、企業の事業活動に応じた気候変動のリスクと機会の評価手法の確立が課題となっている。
また、自然関連については、企業の事業活動と生物多様性や自然資本との接点における依存や負荷の関係を個々に把握・評価していく必要があり、このための評価手法を企業ニーズに合わせて確立することが求められている。そのため、既存の将来予測関連データのアクセス性の向上や、ニーズに見合ったデータの提供、リスク及び機会の具体的な評価手法の提示など、国際動向に対応しつつ、企業価値の向上につながる取組手法の具体化や開示支援等の施策を実施していく。また、事業活動によって消費する淡水資源よりも水の供給力を大きくするウォーターポジティブ等の国際動向も踏まえ、水資源に関するリスクへの対応など、環境保全や良好な環境の創出に取り組む民間企業の情報開示が企業価値や持続可能性の向上につながるよう、必要な施策を検討する。
(2)で述べた環境価値の高い製品・サービスが、国民の消費行動において選択されるためには、これらの製品・サービスの市場を拡大し、製品・サービス単位での環境負荷の見える化を進めるとともに、消費者の意識・行動変容を促す必要がある。企業行動における環境の主流化と合わせ、消費行動を共進化させていくための方策について述べる。
脱炭素・低炭素製品(グリーン製品)が選択されるような市場を創り出すための基盤として、製品単位の排出量(カーボンフットプリント;CFP)を見える化する仕組みが不可欠である。このため、「カーボンフットプリント ガイドライン」(2023年3月経済産業省、環境省策定)や、モデル事業等を通じ、製品・サービスのCFP の算定、削減、表示に係る企業の主体的な取組を支援する。
併せて、鉄鋼業や化学産業等、CO2 の排出量が大きく、かつその脱炭素化に時間とコストを要するものについては、2050 年ネット・ゼロを見据えた移行期の排出削減努力と、その結果として提供されるグリーン製品の市場づくりが重要である。各社が実施した排出削減のための取組について、CO2 削減効果など環境負荷の低減効果を見える化し、付加価値に転換することが不可欠であるが、その際、マスバランス方式119を活用したグリーン製品の提供も有効な取組と考えられる。ただし、この概念は、CFPと比べ社会的認知度が低く市場での統一的なルールが存在しない等の課題もあることから、今後、普及に向けた検討を行っていく。なお、現在はビジネスにおいて生物多様性、水資源、人権等、CO2 以外の要素も含めたサプライチェーン全体での議論・検討が進んでおり、様々な観点から見える化を進めることが重要である。
企業行動のグリーン化については、単なる環境ビジネスから、ビジネスにおける環境の主流化、環境経営の促進、脱炭素ビジネスや循環経済関連ビジネス、ネイチャーポジティブ経済などへ、環境関連産業の普及拡大を図る。後述のバリューチェーン全体での環境経営の促進、グリーン購入・環境配慮契約、グリーンファイナンスの拡大、税制全体のグリーン化等の各種施策の展開を通じ、環境の主流化を促進していく。特に、気候変動については、民間企業が事業活動を行うために欠かせない経営資源(従業員、原材料、資源、商品、施設、資金、資産、技術、信頼等)に既に様々な影響を与えている。今後は更に、気候変動による気象災害の激甚化や頻発化、異常な高温、海面上昇等の影響の拡大が予測される中、企業が適切に適応策を講じることは、持続可能性やステークホルダーからの信頼の確保など、ビジネスの基盤を将来にわたってレジリエントなものとすることにつながり、企業の持続可能性を考える上で必要不可欠な取組となっている。気候変動は市民生活や産業に様々な影響を及ぼす一方で、市民や企業の適応に役立つ製品やサービスを提供する新たな市場(適応ビジネス)が拡大していくことも期待されている。
環境配慮型の公共調達を増加させていくことは、既存の製品・サービスの普及を通して、市場・需要の創出につながる。自然資本投資の拡大に呼応し、最先端の脱炭素製品・技術に対する初期需要を我が国全体で喚起・創造することも重要である。
少数企業しか応札できない、製造コストが高いことなどにより活用が広がっていない又は今後の普及が見込まれる優良な環境製品・技術・サービス120について、現在及び将来の国民の本質的なニーズを踏まえ、政府実行計画及びグリーン購入法に基づき、国が率先してこれらの製品・サービスを調達する方針を示すことで、政府として初期需要創出に貢献し、企業が「経路依存性」や「イノベーションのジレンマ」に陥らずに、これらの製品・サービスを開発・社会実装・普及する取組を後押しする。
グリーン購入法・環境配慮契約法、政府実行計画、地方公共団体実行計画等の枠組みを活用し、各府省庁が連携して次世代型太陽電池の需要創出等に取り組み、公共部門が牽引して社会全体の排出削減を推進する。
また、これら最先端の脱炭素製品・技術の開発者となる環境分野におけるスタートアップの育成を図っていく(環境スタートアップに対する具体的な支援策については、「5.「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装」にて後述する。)。
消費者の意識・行動のシフトについては、企業・生産者が消費者の潜在的、本質的なニーズをつかみつつ、財、サービスを持つ環境価値・性能を付加価値に転化できるよう、その情報を的確に消費者に伝えていくことが必要である。また、政府としては、最新の科学的な知見に関する情報等を国民に伝えていくとともに、企業による環境価値・性能に係る市場調査やマーケティングなどの経済的競争能力投資を促進していくことが必要である。ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等に積極的に取り組む企業が市場において評価され、更なる取組を進めていく好循環を創出するため、これらに資する企業の取組や商品提供と消費者の行動変容との関係性に関するマーケットにおける検証や促進策の検討を進める。これらのことなどを通じて、いわば消費行動と企業行動(生産行動)を共進化させていく。
新しい国民運動「デコ活」を旗印とし、消費者の行動変容を促していく。具体的な取組については「(4)「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現」において後述する。
世界的な環境危機を克服するためには、バリューチェーン全体で環境負荷を低減していくことが重要であり、例えばネット・ゼロの実現のためには個々の企業の取組のみならず、バリューチェーン全体での温室効果ガスの排出削減を進めていくことが重要である。こうした取組は環境負荷の低減のみならず、我が国企業の国際競争力を強化することにもつながる。このような考え方の下、バリューチェーン全体での環境負荷の低減させるための政府の施策を述べる。
バリューチェーンも含めたGHG 排出量算定の環境整備、算定支援、CFP の普及などを進めるとともに、企業のGHG 排出の基盤となる算定・報告・公表制度についても、バリューチェーン全体の削減や、CCUS/カーボンリサイクル、吸収(除去)等の新たな削減取組の促進につながるよう、制度の見直し等の検討を進める。一方、生物多様性や循環経済など、気候変動以外の情報開示の取組が拡がりつつあることを踏まえ、企業に過度な負担を与えることなく、わかりやすく適切な開示のあり方についても検討していく。バリューチェーン全体の排出量削減に向けては、国際的なルール形成の動きが進んでいるところ、我が国の事業者による様々な削減の取組が適切に評価されるよう、こうしたルールづくりに積極的に関与していく。企業経営におけるネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等を同時達成し、バリューチェーン全体での環境負荷を減らす一方で強靱性を高め、企業価値の向上につながる統合的な取組を促進するために、優良事例を収集整理した手引きの作成やこれと一体的な普及啓発、適切な情報開示に向けた支援を行う。
また、事業活動における生物多様性・自然資本への影響・負荷の低減や新しい価値創造に向けたバリューチェーンのグリーン化の取組として、自然資本関連データの活用や事例の共有などによる企業の目標設定支援、TNFD 等に基づく自然関連財務情報開示の促進に向けた支援、業界内外の協働の促進等を行うことで企業の価値向上を図るとともに、ネイチャーポジティブな経営を行う企業への投資を呼び込むことを目指す。
ビジネスと人権に関する取組の一環として、従来の人権デュー・ディリジェンスに加え、環境問題に対するリスクマネジメントである環境デュー・ディリジェンスの取組が重要である。責任あるバリューチェーンの実現に向けて企業に対する環境デュー・ディリジェンスの取組の周知徹底や普及啓発を促進する。
循環経済への移行は、資源消費を最小化し、廃棄物の発生抑制や環境負荷の低減等につながることに加え、国際的な資源確保の強化の動きや欧州における規制強化の動きも含めた現下の国際情勢等も踏まえれば、資源確保や資源制約への対応や、国際的な産業競争力の強化に加え、経済安全保障の強化にも資する。これを踏まえ、バリューチェーン全体における資源効率性及び循環性の向上等に効果的な循環経済アプローチを推進し、バリューチェーン全体での徹底的な資源循環を促進する。
環境と調和のとれた持続可能な食料システムの構築に向け、2021 年5月に、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるため「みどりの食料システム戦略」を策定した。同戦略では、2050 年までに目指す姿として、温室効果ガス削減や化学農薬・化学肥料の使用低減、有機農業の取組面積の拡大など14 のKPI を設定している。また、中間目標として、KPI2030 年目標を2022 年6月に設定したところである。
2022 年7月に施行された「みどりの食料システム法」に基づく計画認定制度により、温室効果ガス削減や化学農薬・化学肥料の使用低減等の環境負荷低減に取り組む生産者、環境負荷低減に役立つ技術の普及拡大等を図る事業者の取組を後押しするとともに、農林水産省の全ての補助事業等に対して、最低限行うべき環境負荷低減の取組の実践を要件化する「クロスコンプライアンス」を導入する。また、生産者の環境負荷低減の努力に関する消費者の理解を得て選択につなげるため、環境負荷低減の取組の「見える化」を推進する。さらに、民間資金を呼び込むため、温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして国が認証するJ-クレジット制度の農林水産分野での活用を促進する。
また、農林水産省生物多様性戦略に基づき、2030 年に向け、農山漁村が育む自然の恵みを活かし、環境と経済がともに循環・向上する社会を目指すこととしている。
環境金融の拡大、税制全体のグリーン化等を通じ、外部不経済の内部化など市場の失敗の是正を含めた経済システムのグリーン化を進めていく。
世界におけるESG 金融を含むサステナブルファイナンスの拡大に伴い、我が国においても国内市場の発展につながる各種施策を講じてきたところ、我が国の運用資産に占めるサステナブル投資額の割合は上がっている。今後は量的な側面はもとより、グリーンウォッシュの懸念に対応する観点から、不断に質的な改善に努めていく必要がある。これを踏まえ、企業による情報開示の取組の拡充と質の担保を引き続き進めるとともに、グリーンボンドガイドライン等における、グリーン性の判断基準の更なる明確化に向けたグリーンな資金使途の例示の拡充を行うなど、グリーンファイナンスの国内市場発展のために必要な環境を整備する。
また、我が国では従来から、個々の企業における法令遵守と自主的取組を基に環境対策が進められてきた。しかし、ESG 金融を含むサステナブルファイナンス等、機関投資家が企業や事業単位の環境面への配慮を重要な投資判断の一つとして捉える動きが主流化しつつある中、気候変動のみならず、生物多様性・自然資本、資源循環分野、環境汚染対策(化学物質管理等)等の多岐にわたる環境分野において先進的な取組を行う企業や事業が適正に評価されるような環境の整備に取り組む。
ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等が達成される経済・社会への転換を進めるためには、公的負担を抑制し、効果的に民間資金を活用していくことが必要である。グリーンファイナンス市場の適切な拡大を通じて、民間資金がこれらの事業に導入されることを推進するために、企業や地方自治体等がグリーンファイナンス手法により資金調達を行う際の支援等を実施する。また、こうした経済・社会への転換のためには、既存の技術の社会実装だけでなく、新たなイノベーションが必要となることから、環境スタートアップが適正に評価され、投資が集まり、イノベーションの創出が加速するよう、投資によるインパクトを評価する仕組みづくりの検討・支援を行っていく。
エネルギー課税や車体課税等の地球温暖化対策の税制に加え、資源循環やネイチャーポジティブの観点からも、環境関連税制等による環境効果等について、諸外国の状況を含め総合的・体系的に調査・分析を行い、引き続き税制全体のグリーン化等を推進していく。地球温暖化対策のための税の活用のほか、カーボンプライシングについては、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(令和5年法律第 32 号)及び同法に基づく「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(令和5年7月閣議決定)に基づき、成長志向型カーボンプライシング構想を着実に実現・実行し、温室効果ガスの排出削減を加速していく。加えて、これらの施策に関する環境保全効果を始め環境・経済・社会の統合的向上に関する分析を行い、制度の検討に生かしていく。
我が国の国土は、面積の約7割を森林が占め、四方を海に囲まれ、湿潤な気候で季節風が卓越し、一般に四季の別がはっきりしている。また、南北に細長い日本列島の上に固有種比率も高く、世界にも誇る豊かで多様な生物相を有し、生物多様性を基礎とする美しい自然環境が育まれており、その豊かな生態系サービスの恩恵を受けて、暮らしや経済活動が支えられている。
このような日本は、古来より豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)と呼ばれ、すべてのものが豊かに成長する国土で日本人は四季とともに生きる文化を育んできた。その一方で、地震や火山の噴火、土砂災害など常に自然災害と隣り合わせの生活を余儀なくされてきた。このように、豊かだが荒々しい自然を前に、日本人は自然と対立するのではなく、自然に順応した形でさまざまな知識、技術、特徴ある芸術、豊かな感性や美意識をつちかい、多様な文化を形成してきた。その中で、自然と共生する伝統的な自然観がつくられてきたと考えられる。例えば、俳句は、いわば四季折々の生物多様性が育む美しさ、儚さ等を 17 文字に託したものとも言える。
しかしながら、人為的な活動に起因して、気候変動の影響の深刻化、生物多様性の損失の危機、食料・水といった資源の確保といった諸課題が顕在化するほか、国内においては人口減少、少子高齢化を迎え、特に自然環境等の管理の担い手が不足し、十分に資源を活用しないことが資源の劣化を招く等の問題が継続している。自然環境と国土の上で営まれる諸活動の関係が問われる中、多様で恵み豊かな自然環境を将来世代に引き継ぐことは今を生きる世代の責務である。このため、多様で恵み豊かな自然環境からなる国土の美しさや多様性に磨きをかけ、自然資本を維持・回復・充実させるとともに、自然資本の持続的な活用を図る国土管理に向けた諸施策を統合的に推進し、人と自然の良好な関係が再構築され、自然の恵みを継続的に享受できる「グリーン国土」の創造を図ることで、もって、現在及び将来の国民の「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現することが重要である。
近年のコロナ禍による社会生活の変化等も踏まえつつ、大都市への一極集中を是正し、自立・分散型社会を目指す観点から重層的多極集中型の国土構造の実現を図る。特に、地域が主体性を発揮して、地域の強みである自然資本を生かし、個性豊かな多様な地域で構成される我が国全体の活力向上につなげることが必要である。
地域の魅力創出を進め、地域への関心・愛着・責任を高めつつ、地方への移住を推進するとともに、二地域居住等、ワーケーション、観光など、多様な形で関係人口の創出に資する施策を推進することが不可欠である。
また、持続可能で魅力的なまちづくりに向けて、都市のコンパクト化や持続可能な地域公共交通ネットワークの形成、鉄道を始めとする公共交通の利用促進、安全・安心な歩行空間や自転車等通行空間の整備等は、自動車交通量の減少等121を通じて CO₂排出量の削減(脱炭素電源、燃料の効率的な利用を含む。)に寄与するとともに、中心市街地の活性化や徒歩・自転車利用の増加による健康の維持・増進、都市の維持管理コストの削減等につながることが期待される。また、災害リスクの高い地域から低い地域への立地を促すことなどにより、より安全な地域への居住を誘導するとともに、災害リスクの高い地域の自然再生等も求められる。住生活の基盤となる良好な住宅の蓄積を図るとともに、ZEV の普及のためのインフラなど、自然資本を維持・回復・充実させる人工の資本やシステムの整備を積極的に進めていく。また、都市における自然資本の充実を含め、身近な自然環境等について良好な環境を創出するとともに、熱中症対策としてのヒートアイランド現象の緩和を図る。これらの施策を進め、健康を含む様々な「ウェルビーイング/高い生活の質」や安全・安心な地域の魅力度の向上にもつなげる。
生態系サービスの持続可能な利用や、我が国の産業・生活を支え付加価値の高い財・サービスを生み出すような循環共生型社会を実現するため、上記に掲げたものを含め、脱炭素、レジリエンス向上、自然資本の活用等の国土の価値を上げる諸施策122について統合的に実施し、経済・社会的課題の同時解決が図られるよう、「自然を活用した解決策(NbS)」123の推進やランドスケープアプローチ124の視点が重要である。
我が国は豊かな自然からの恵みを享受し、四季とともに生きる文化を育んできた一方で、地震や火山の噴火、土砂災害など常に自然災害と隣り合わせの生活を余儀なくされてきた。令和6年能登半島地震は、自然の恐ろしさ、荒々しさを改めて我々の目に刻むとともに、大きな災害を前に、人の命と環境を守ることの難しさを改めて思い知らしめた。自然を畏れ敬いつつ、恵みであると同時に大きな脅威ともなる自然と共生する社会を築くこと、自立分散型で災害への強靱さを備えた国土を築くことは、人類の生存基盤に他ならず、またその先の「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現する上での基盤ともなる。
我が国及び世界全体の自然資本を持続可能なものにする観点から、国土の土地利用のあり方や自然資本を維持・回復・充実させる方法を考えていくことが必要である。
近年我が国では、里地里山、農地等が十分に活用されていない一方で、海外からの資源や食料の輸入に依存しており、安全保障上の問題になるとともに、国内や海外の生物多様性を始めとする自然資本の損失の一因にもなっている。これは、本来生かすべき身近な自然資本を劣化させながら、その変化を感じ取りづらい遠く離れた地の自然資本をも劣化させていることに他ならない。
このような問題意識の下、良好な環境、生物多様性を始めとする地域の自然資本を維持・回復・充実させるための国土利用の在り方について述べる。
国立公園等の保護地域の拡充及びOECM の設定を促進し、森・里・川・海のつながり等を意識しつつ国土の 30%以上を効果的に保全することを通じて、自然資本の強靱性を高め、国土ストックの価値向上を図る。特に、ネイチャーポジティブの実現、30by30の達成には、全国各地で民間主体の取組の促進が不可欠であるため、自然共生サイトの認定を始め民間等の自主的な取組を促進するための措置を講じる。
ネイチャーポジティブの実現には、現在良好な自然環境を有する場所のみならず、劣化した生態系の再生を促進することも重要であり、自然再生事業の推進に加え、全国各地における民間等の取組の促進等を通じて、劣化した生態系の30%以上を効果的な回復下に置くという国際目標の達成を目指す。また、今後の更なる人口減少、過疎化の進展も踏まえ、人による管理・活用が困難となった地域において、必要な自然再生等を検討していく。
そのためには、生物多様性の現状やその保全上効果的な地域を可視化することが重要であり、保全活動の効果も含め国土全体で「見える化」し、生態系の質的な変化を含めて評価・把握する手法の構築を図り、提供する。
人口減少による開発圧力の低下を好機と捉え、国土利用の質を高める観点から、国土全体にわたって自然環境の質を向上させていくためには、広域的な生態系ネットワークの基軸である森・里・まち・川・海のつながりを確保することが重要である。
このため、流域全体の生態系管理の視点に立ち、様々なスケールで森・里・まち・川・海を連続した空間として保全及び再生していく取組を関係府省や地方公共団体等の連携により進めるとともに、これらの恵みを享受する国民全体が、自然からの恩恵を意識し自然を支える契機とすべく、「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」など、自然の恵みの持続可能な利用を国民のライフスタイルや経済活動に組み込む普及啓発活動を推進する。
広域的な生態系ネットワークの形成に当たっては、自然環境保全地域、国立公園等の保護地域に加え、OECM の設定を進めることにより、保全区域を適切に配置する。
特に、渡り鳥等の生息環境の生態学的連結性も考慮しつつ、開発や管理放棄等により消失や汚染の危機にある湖沼、湿原等の湿地の保全及び再生を図り、里地里山など身近な自然環境も含めた生態系ネットワークの形成を推進する。また、生物多様性の損失が著しい淡水魚の保全の観点等から、水田、水路、ため池等の二次的自然豊かな環境の保全・再生に努める。
また、都市においては、気候変動対策や生物多様性の確保、幸福度(ウェルビーイング)の向上等の課題解決に向けて、緑地の持つ機能への期待が高まっている。
こうした背景を踏まえ、緑地の保全等に関する目標や官民の取組の方向性を示す国の基本方針の策定、緑の広域計画や緑の基本計画等を通じた枢要な緑地の保全推進し、広域の見地含めネットワーク性を有する緑地の確保を総合的・計画的に取り組む。また、グリーンインフラや生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR) としての機能増進、低未利用地の緑化等の取組を地方公共団体への支援を含め推進し、広域の見地から計画的に生態系ネットワークの形成を図る。
藻場・干潟に関しては、生物の産卵場所、生息・生育の場、水質浄化、二酸化炭素の吸収・固定等、多面的な機能を有するとともに、近年は海の30by30 に資するOECM やブルーカーボンへの期待も高い。そのため、港湾工事等で発生する浚渫土砂等を有効活用した覆砂、深堀跡の埋め戻し、ブルーインフラ(藻場・干潟等及び生物共生型港湾構造物)の保全・再生・創出を推進する。また、藻場・干潟の保全・再生・創出を推進するとともに、藻場・干潟も含めた沿岸域の地域資源の利活用(エコツーリズムなど)に取り組み、保全と利活用の好循環(ヒト・モノ・資金など)を生み出すことで、沿岸地域が抱える様々な課題(生物多様性や生物生産性の減少・過疎・少子高齢・人と自然の関わりの減少など)の解決につなげるべく里海づくりを実施していく。
河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、さらには流域全体に視点を広げ、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観の保全・創出、河川を基軸とした生態系ネットワークの構築を推進する。また、過去の開発等により失われた多様な生物の生息・生育・繁殖環境について、地域の多様な主体と連携して再生等を推進する。
港湾においては、自然と触れ合いつつ文化・歴史を踏まえた港湾・海洋の役割を伝える教育を地域と連携して進めるとともに、関係者と連携しつつ、広域的かつ総合的な沿岸域の自然環境の保全を進める。また、海浜、藻場・干潟等の造成や覆砂の実施、生物共生型港湾構造物、緑地の整備等により、良好な環境の再生・創出を推進する。
水環境悪化の著しい河川等においては浚渫等による浄化策や合流式下水道の雨天時越流水の対策を講じるとともに、湖沼や閉鎖性海域の水質改善に向け、排水規制や水生植物を活用した水質浄化、藻場・干潟の保全・再生など総合的な水質改善対策を推進する。加えて、海底に堆積する汚泥の浚渫除去や港湾及びその周辺海域におけるゴミや油の回収等による海洋環境の保全に取り組む。
生態系等に深刻な被害を及ぼすニホンジカ等の鳥獣管理の強化、生物多様性保全上重要な地域を中心とした防除事業や地域の関係主体の連携促進等の総合的な外来種対策、希少種保全を通じた野生生物の生息・生育状況の改善等を推進し、生物多様性の回復を図る。
昆明・モントリオール生物多様性枠組のターゲット7として、環境中に流出する過剰な栄養塩類、農薬及び有害性の高い化学物質、プラスチック汚染等、あらゆる汚染源からの汚染のリスクと悪影響を、累積的効果を考慮しつつ、2030 年までに生物多様性と生態系の機能及びサービスに有害でない水準まで削減することが目標として掲げられている。この目標の達成に向け、化学物質等による生態系へのリスクの最小化及び汚染の防止に向けて取り組み、自然資本の保全を図る。
国土の保全、水源の涵養、生物多様性の保全、地球温暖化防止等の森林の有する多面的な機能が将来にわたり発揮されるよう、森林の現況、自然条件及び地域ニーズを踏まえながら、森林の整備・保全に係る取組を推進する。また、気候変動に伴う豪雨の増加等に対応するため、森林整備・治山対策により国土強靱化を加速する。
さらに、花粉症対策として、スギ花粉等の発生の少ない多様で健全な森林への転換を図るため、スギ人工林等の伐採・利用、花粉の少ない苗木への植替え等を進める。
戦後に植林した森林が本格的な利用期を迎えている中、森林資源の適正な管理・利用、新しい林業に向けた取組の展開、木材産業の国際競争力と地場競争力の強化、都市等における「第2の森林」づくり、新たな山村価値の創造等に取り組むことで、国産材の安定的かつ持続可能な供給体制の構築を図るとともに、林業・木材産業の持続性を高めながら成長発展させることで、社会経済生活の向上とカーボンニュートラル・GX にも寄与するグリーン成長を実現していく。
豊かな水辺、星空、音の風景等、地域特有の自然資本・社会資本たる自然や文化の保全により、地域住民のウェルビーイングの向上と地域活性化を実現する取組、水質管理のみならず生物多様性の保全や地域づくり等にも資する総合的な水環境管理を目指すための取組や、水道水源となる森や川から海に至るまで、OECM も活用した良好な環境の創出に取り組む地域を連結した流域一体的な保全のモデルの構築、藻場・干潟の保全・再生・創出の促進と地域資源としての利活用との好循環を目指す里海づくりなどを実施する。
近年の気象災害等の頻発に対するレジリエンス強化や、近年のコロナ禍による社会生活の変化等により、自立・分散型社会の実現に対する社会的要請が高まっている。
そのためには、地域が主体性を発揮して、自らの強みである自然資本を生かし、魅力ある地域づくりを進めることが重要である。環境の観点からは、地域における再生可能エネルギー等の自立・分散型エネルギーの導入や、社会資本の老朽化への対応として、防災対策と生物多様性の保全が調和した持続可能な社会を形成する取組を進めていくことが重要である。加えて、内閣府が行った調査においても、東京圏在住で地方移住に関心がある人の多くがその理由について「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため」と回答しており、地域の自然資本を維持・回復・充実させ、利活用することで、地方移住や二地域居住等の促進が期待される。
このような考え方の下、再生可能エネルギーや自然・生物多様性等の地域の自然資本を生かした自立・分散型の国土構造への移行について述べる。
地域の自然資本である再生可能エネルギーについては、太陽光発電、風力発電、バイオマス資源を始めとして、同じく地域性の高い地熱発電、更には小規模な浮体式洋上風力及び潮流発電、再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、雪氷熱、温泉熱、海水熱、河川熱、下水熱等)や未利用廃熱等について、地域の自然や社会と調和した形での最大限の活用を図ることで、エネルギーの地産地消モデル構築による自立・分散型の社会形成、レジリエンス強化に加え、地域外への移出を含めた再生可能エネルギー関連事業による雇用創出や地域活性化、地域経済循環の拡大を達成する。当該地域外の事業者による大規模な事業であっても、当該地域に裨益するような形で進めていくことが望ましい。なお、地域における再生可能エネルギーの導入に関する具体的な支援策については、「3 環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり」及び「第3章重点戦略を支える環境政策の展開」において後述する。
地域の重要な自然資本である里地里山・里海、森林、自然公園等の保全と活用を進める。特に、優れた自然環境を有する国立公園においては、その自然を保護しながら利用を促進する、国立公園満喫プロジェクトを推進する。民間活力等も活用しながら、国立公園における滞在型・高付加価値観光を推進して国内外からの誘客を促進することにより、地域活性化を図るとともに、安全で快適な公園利用を支える自然公園等施設の整備・更新を着実に実施することで、自然環境の保全へ再投資される「保護と利用の好循環」を実現する。地域固有の生態系や、生物種、個体群の重要性にも着目したツーリズム等を推進する。また、里地里山・里海において、自然共生サイトの認定を始めとする民間等の取組促進を通じて、生物多様性を保全するとともに、自然資源を活用した地域活性化を図るなど、地域における環境・経済・社会課題の同時解決を目指す。その際、地域脱炭素や地域循環共生圏に関する取組等と連携することで、より効果的な成果が得られるよう統合的に取り組む視点が重要である。
自然の有する多機能性という特質を生かすことで、気候変動や生物多様性、水源涵養、社会経済の発展、人口減少や過疎化など複数の社会課題の解決を目指す「自然を活用した解決策(NbS)」の取組を進めていく。特に、地震や豪雨などの自然災害が頻発し、近年は気候変動による災害の激甚化といった環境変化に加え、社会インフラの老朽化などの社会問題にも直面している我が国において、災害を回避する土地利用の見直しを進めるとともに、地域づくりに関する古来の知恵も参考に自然を活用する取組や森林の機能の維持・向上を図る治山対策等のグリーンインフラや生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)を進めていく。また、みどりの食料システム戦略の実現に向けて、持続可能な食料システムの構築を図るとともに、グリーンインフラ推進戦略 2023 に基づき、「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」や経済団体と連携した国民運動の展開、関連技術開発、先導事例の横展開、実用的な評価手法の構築等を通じて、あらゆる分野・場面におけるグリーンインフラのビルトインを目指す。
「(2)自立・分散型の国土構造の推進」において、社会的要請に応えるための自立・分散型社会への移行の必要性について言及したが、国民の「ウェルビーイング/高い生活の質」の観点からは、自立・分散した地域一つ一つが、住みやすく、暮らしやすい地域であることも重要である。このような考え方の下、「ウェルビーイング/高い生活の質」が実感できる都市・地域の実現のための施策について言及する。
市街地の拡散を防止しつつ、生活サービス機能や居住の誘導と公共交通ネットワークの形成を連携して取り組む「コンパクト・プラス・ネットワーク」の取組を推進していく。都市のコンパクト化により熱源や熱需要が適切に集約される場合には、太陽熱、地中熱、雪氷熱、下水熱等の未利用の再生可能エネルギー熱の利用可能性が高まることから、熱供給設備の導入支援等によりその熱利用の拡大を図る。
また、徒歩や自転車で安全で快適に移動でき、魅力ある空間・環境を整備するとともに、次世代路面電車システム(LRT)/バス高速輸送システム(BRT)などを軸とした公共交通ネットワークの形成を進めるほか、鉄道を始めとする既存の公共交通の利用を促進することで、自動車交通量の減少等を通じて、温室効果ガスや大気汚染物質の排出削減に寄与する。これらの施策による環境負荷の削減効果を「見える化」していくこと等を通じ、都市のコンパクト化を推進していく。地球温暖化対策の推進に関する法律に基づき、都市計画や農業振興地域整備計画などについて、「都市計画等の関連施策の目的の達成とも調和を図りつつ、地方公共団体実行計画と連携して温室効果ガスの排出の量の削減等が行われるように配意するものとする。」とされていることを踏まえ、都市再生特別措置法に基づき各市町村が作成する立地適正化計画と、地球温暖化対策推進法に基づき作成する地方公共団体実行計画の連携を促進し、居住誘導区域内の計画の実行に対し省庁横断で支援することで、環境課題と人口減少等の経済・社会的課題の同時解決を目指し、持続可能なまちづくりを進めていく。
地域公共交通は、地域の社会経済活動に不可欠な基盤であり、地域循環共生圏の構築に欠かすことが出来ない地域資源でもある。
また、コンパクトな都市構造の構築への寄与125や公共交通分担率の向上等を通じて、環境負荷の総量削減への貢献や先述した様々な外部経済を有するものである一方で、人口減少等による需要減や運転手等の人手不足により厳しい状況に置かれている。
このため、法制度や予算等のあらゆる政策ツールを活用し、交通 DX・GX の推進や、教育・医療・福祉・介護・エネルギー等を含む地域の関係者の連携・協働(共創)を通じ、利便性・生産性・持続可能性の高い地域公共交通への「リ・デザイン」を加速化させ、「ウェルビーイング/高い生活の質」に貢献していく。
電動車の導入拡大に向け、車両の購入を支援するとともに、充電・水素充てんインフラ設置促進等の道路交通をグリーン化する取組を進める。また、道路整備・管理等のライフサイクル全体の低炭素化を図り、道路施設の脱炭素化を推進する。加えて、建設機械等の電動化を促進する。
鉄道については、省エネ・省CO2 車両の導入、水素燃料電池鉄道車両の開発、列車の減速時に発生する回生電力の有効活用など、基幹的な公共交通機関である鉄道の脱炭素化を進めるとともに、豊富な鉄道アセットを活用した太陽光発電等の再生可能エネルギーの導入を促進する。
物流については、物流総合効率化法に基づくモーダルシフト等を図る取組の支援や、ダブル連結トラックの利用環境の整備等により物流の効率化を推進する。また、物流施設において再生可能エネルギー電気の利用・貯蓄に必要な設備及びその電気を利用する車両等を導入し流通業務の脱炭素化を図ることにより、物流 GX を促進する。
海運については、ゼロエミッション船等の開発・導入、生産基盤の構築等に取り組むとともに、国際海事機関において、ゼロエミッション船の導入を促す国際的な枠組み作りを主導する。
港湾については、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進していく。
さらに、航路標識用機器に係る再エネ導入や省エネ化を合わせて進める。
航空分野については、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、管制の高度化等による運航の改善、航空機環境新技術の導入、空港の再エネ拠点化等を推進していく。
これらの取組みを推進し、2050 年ネット・ゼロ実現を目指す。
特に、人口減少や高齢化が著しい中山間地域等においては、一体的な日常生活圏を構成している「集落生活圏」を維持していくことが重要であり、持続可能な地域づくりを目指す取組として「小さな拠点」の形成を促進する。エネルギー供給に関しては、熱エネルギーを含む地域資源を活用した再生可能エネルギーの導入を進め、地域内でのエネルギー・経済循環と、温室効果ガスの削減の同時解決を図る。加えて、物流網の維持や買い物支援等の生活利便の改善を図り、物流を革新するため、ドローンの活用による物流DX を推進し、生産性向上や脱炭素化を図る。
近年、美しい自然環境や街並み、田園風景など良好な景観に関する国民の意識・関心が高まっており、自然資本たる景観を維持・回復・充実させる取組として、建築物の規制や無電柱化等の取組が各地で進む等、良好な景観が持つ価値が評価されつつある。また、良好な景観の保全・創出は、地域への愛着やアイデンティティの確保とともに、経済的価値を向上させ、国民の「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現する。加えて、陸上風力発電に代表されるような再エネ施設の導入にあたって景観資源への影響も課題として生じており、景観と調和した技術や社会システムの在り方も重要である。このことから、我が国が有する貴重な自然資本及び社会資本として、都市、地方を問わず、良好な自然環境の保全を始め地域の個性となる景観の保全・創出を推進する。
暑熱環境の状況や今後の見通し、自然を活用した解決策(NbS)の発想を踏まえ、グリーンインフラの推進等により、地表面被覆の改善、都市における暑熱の緩和を含め、自然環境の多面的な機能を活用した複合的な地域課題解決を図る取組と、人工排熱の低減、都市形態の改善、ライフスタイルの改善、人の健康への影響等を軽減する適応策などのヒートアイランド対策を推進する。
学校等を含む公共施設・公共インフラへの太陽光発電設備(ペロブスカイト太陽電池含む)の最大限導入(各府省庁が整備計画策定、施設種別の目標設定によりPDCA 管理)や、災害時の防災拠点となる公共施設・公共インフラを中心に、省エネ化・長寿命化・防災機能向上を実施することにより、脱炭素と国土強靱化を統合的に推進する。
「ウェルビーイング/高い生活の質」の実感のためには、生活環境であるストックとしての住宅・建築物を持続可能で高付加価値なものに置き換えていく必要がある。新築住宅・建築物の ZEH・ZEB 化、断熱窓への改修も含めた既築住宅・建築物の脱炭素改修、住宅・建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示の強化、街区単位のエネルギーの面的利用等による徹底した省エネルギー化を推進する。また、省エネルギー基準の ZEH・ZEB 基準の水準への段階的な引き上げも踏まえ、より高い省エネ性能への誘導を図るとともに、長期にわたり良好な状態で使用される住宅の普及を促進するために、一定以上の耐久性や維持管理のしやすさ等の要件を備えた長期優良住宅の普及促進を図る。さらに、建築物の建築時、運用時、及び廃棄時に発生するCO2(ライフサイクル CO2:LCCO2)の削減に向けた取組を推進する。加えて、2023 年5月のG7広島サミットにおける成果等を踏まえ、住宅・建築物において長期間の炭素貯蔵に寄与し持続可能な低炭素材料である木材の利用を促進する。
人口減少に伴う無居住地の増加、コンパクト・プラス・ネットワークの取組の推進、産業構造変化に伴う土地利用の変化、30by30 目標の達成、地域共生型の再生可能エネルギーの導入促進、地域における適応策の推進、食料安全保障の観点を踏まえた農業・農村のあり方等、土地利用に係る環境・経済・社会の統合的向上に関する様々な課題(なお、これらは地域循環共生圏を構成する要素でもある。)について対応することが必要である。そのため、地方ごとの特性を踏まえ、環境・経済・社会の統合的向上の視点からの統合的な土地利用のあり方を検討する。
特に再生可能エネルギーについては、2050 年ネット・ゼロの実現に向けて、各地域において、生物多様性への配慮など地域と共生する形で地域全体の土地利用のあり方を検討する中で、導入拡大を進めていく。
また、人口減少下において土地の管理の担い手が不足していく中では、ランドスケープアプローチの視点が重要となる。その際、生物多様性保全上重要な地域等の「見える化」も踏まえながら、地域の保全戦略の策定を促進する。また、計画や活動を実行するための各地域の人材育成、地域の伴走支援等を推進する。
これまで、我が国及び世界全体の自然資本を持続可能なものにするための国土の土地利用、自立分散型社会へ移行するための施策、「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる地域を実現するための施策について述べてきた。これらの実施のためには、地方自治体を始めとする各地域の主体が、自らの自然資本の情報に適切にアクセスできることが重要である。このような考え方の下、地域における自然資本の情報を正確に把握できるような情報基盤の整備の方策について述べる。
地域脱炭素支援等に向け、REPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)、EADAS(環境アセスメントデータベース)等の情報基盤整備の充実を図り、効果的に連携させることで、再生可能エネルギー推進と生物多様性保全両方を考慮した持続可能な土地利用を推進する。
奥山から中山間地域、都市部までをカバーする生物多様性の現状や保全上重要な地域、保全活動の効果等を可視化したマップの構築等を進める。我が国の生物多様性及び生態系サービスの現状を総合的に評価するために「生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO)」の取りまとめを行うとともに、生物多様性国家戦略に基づく取組の効果を分析する。自然環境保全基礎調査、モニタリングサイト 1000 等の調査による科学的基盤情報を活用し、種や生態系の分布の変化状況等のマップ化、生物多様性保全上重要な地域等の「見える化」を行うとともに、各種データを重ね合わせて解析することにより国や地方公共団体の生物多様性保全施策の立案に活用できる形で提供する。また、これらの成果をWeb-GIS 等で分かりやすく公開する。
持続可能な地域は、自立・分散型社会の土台であり、国家、市場と並ぶ重要な要素である。持続可能な地域づくりを通じて、地域住民の「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現を図る。
地域は、地域ごとに多様な資源、ポテンシャルを有しており、環境・経済・社会の統合的向上モデルの実践の場となり得る。このため、長期的視点に立ち、地域ごとの特色や固有性、地域住民の本質的なニーズを踏まえつつ、あるべき姿やありたい姿を描き、それに近づけるための取組として地域循環共生圏の構築を推進することが重要である。この際、自然資本を始めとした地域資源を持続可能な形で最大限活用することで、フローの地域経済循環の拡大など地域の経済社会活動の向上に結びつける。
とりわけ地域固有の自然資本である再生可能エネルギーについては、化石燃料からの移行による気候変動への対応のみならず、地域外、引いては海外へのエネルギー関連による資金流出126を防ぐための重要な地域資源である。また、循環資源や再生可能資源等を活用して、天然資源の投入量、廃棄物の最終処分量を減少させるとともに、地域経済循環の拡大を図ることも重要である。このような取組は地下資源の採掘・利用に伴う環境負荷の総量を削減し、地域の豊かな自然環境の保全・再生、ネイチャーポジティブの実現に貢献するものであり、環境政策の分野間の統合、シナジーを生み出すものであると言える。加えて、これらの事業によって得られた事業利益の一部を、社会福祉、伝統文化の保存、農業インフラの維持などの地域課題の解決に向けて活用することは、地域の経済を好循環構造に転換127させることにもつながり、環境課題と経済・社会課題の同時解決に資するものでもある。
上記のような地域経済の好循環、地域の環境課題と経済社会課題の同時解決を果たすためには、その担い手となり得る人材の育成やコミュニティ作りが不可欠となる。
環境保全に知見を有する機関等も活用しながら、専門人材の派遣やプラットフォームの構築等を進めることが有効であるが、この際、地域住民の参加を促進する観点から、地域固有の伝統や歴史、地域に根付いたスポーツ等の文化を生かすという視点も重要である。現在、熊本県水俣市や福島県浜通り地方において、地域住民や地域コミュニティを中心として、環境を軸とした復興、まち作りが進められているが、これらの事例は、地域の取組を進める上での人材・コミュニティ等の無形資産の重要性を示す最たる例である。
加えて、地域経済の担い手である地域金融機関におけるESG 金融の推進や地域の中堅・中小企業の行動に環境配慮を織り込み、環境保全のための行動を一層促進することも重要である。地域金融機関が自治体等と連携し、地域資源等の活用に資するような知見を事業者に提供するとともに、地域課題の解決を経済的価値につなげ得る事業等に対し融資・支援を行うこと、地域企業がそれに呼応し、経営のグリーン化を実践していくことは、地域循環共生圏の実現に不可欠な要素である。
他方、上述のような持続可能な地域へと移行する過程においては、例えば化石燃料の大量消費を伴うエネルギー産業や製造業等において、業態変化や地域からの撤退を伴う移行が発生し、地域経済が大きなダメージを受ける可能性もある。このため、地域ごとの実情を考慮して、取り残される人々やコミュニティを可能な限り生み出さないように進めていく「公正な移行」の観点から、地域経済の活性化等について長期的・計画的・包括的に実施することが重要である。
ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等の施策を統合的に実施してシナジーを発揮するとともに、他の経済社会的な課題解決を主目的とする施策とも連携を図ることにより、持続可能な地域づくりにつなげることが重要である。
地域脱炭素については、地球温暖化対策計画に基づき、2050 年ネット・ゼロの実現に向けて、2025 年までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を選定し、各府省の支援策も活用しながら、2030 年までに民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴う二酸化炭素排出実質ゼロ又はマイナスを実現するとともに、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する地域脱炭素の実現の姿を示す。併せて、エネルギーマネジメントシステムの導入による需給調整など、デジタル技術も活用しながら、産業、暮らし、インフラ、交通など様々な分野で脱炭素化に取り組むことが重要であることに鑑み、デジタル田園都市国家戦略等に基づき、デジタル技術の活用による DX と GX の施策間連携の取組を強化する。「デコ活」や市民参加型の政策形成支援等により、脱炭素先行地域を含む地域全体の住民・企業の取組の連携を促進する。熱消費に伴う二酸化炭素排出実質ゼロを実現するモデルの構築についても検討する。
政府による財政的な支援も活用し、地方公共団体は、公営企業を含む全ての事務及び事業について、地域脱炭素の基盤となる重点対策(地域共生・裨益型の再生可能エネルギー導入、公共施設等のZEB 化、公用車における電動車の導入等)を率先して実施するとともに、企業・住民が主体となった取組を大幅に加速させる。さらに、今後益々激甚化が予想される災害やこれによる停電時に公共施設へのエネルギー供給等が可能な再エネ設備等の整備を推進する。
地域脱炭素の全国展開に当たっては、都道府県、地域金融機関、地域エネルギー会社等と連携し、得られた成果の横展開を図る。とりわけ、都道府県については、政府による財政支援や地方財政措置も活用しながら、公営企業を含む都道府県による再エネ導入、地域の中核企業の脱炭素化支援、交通分野の脱炭素化などを加速することが期待され、地域脱炭素化促進事業制度も活用しながら、広域で再生可能エネルギー促進に向けたゾーニングを推進し、地域企業の脱炭素化支援を含めて地域主導で地域に貢献する地域共生型再エネ推進の主体となることが期待される。国はこの実現のために必要な支援を行う。
こういった脱炭素による持続可能な地域づくりを支えるため取組として、地方自治体の住宅・建築物への太陽光パネル設置義務付けや次世代太陽光発電の開発状況等も踏まえ、住宅・建築物の屋根・壁面等における太陽光パネル導入を強力に推進する。公共事業及び公共調達による率先導入により、最先端の脱炭素製品・技術の初期需要を創出し、脱炭素と経済成長の好循環に貢献する。地方公共団体が再エネ導入を主体的かつ積極的に進めていけるよう、再エネの地産地消や環境に配慮した再エネ事業の評価を含め、地域がメリットを感じることのできる仕組みづくりを進める。地域の木質バイオマス資源を熱利用・熱電併給のエネルギー源として循環利用する「地域内エコシステム」の構築により、地産地消による地域経済の活性化、森林の整備及び保全に貢献する。地熱開発に係る地域の合意形成の円滑化に資するため、温泉モニタリングによる科学的データの収集・調査や地域への伴走支援等を行い、地域の自然や社会と共生した地熱利活用を推進することを通じた地域活性化を図る。
人口減少・少子高齢化の進む状況下においても資源生産性の高い循環型社会を構築していくためには、循環資源を各地域・各資源に応じた最適な規模で循環させることや、地域の再生可能資源を継続的に地域で活用すること、地域のストックを適切に維持管理し、できるだけ長く賢く使っていくことにより資源投入量や廃棄物発生量を抑えた持続可能で活気のあるまちづくりを進めていくことが重要である。食料システムにおける食品ロス削減や食品リサイクル等による資源を最大限活用するための取組、使用済製品等のリユース、有機廃棄物(生ごみ・し尿・浄化槽汚泥・下水汚泥)や未利用資源等のバイオマス資源の肥料やエネルギーとしての循環利用、木材の利用拡大やプラスチックや金属資源等の資源循環、使用済紙おむつの再生利用等の取組及び環境と調和のとれた持続可能な農林水産業を地域産業として確立させることで、地域コミュニティの再生、雇用の創出、地場産業の振興や高齢化への対応、生態系保全等地域課題の解決や地方創生の実現につなげる。
ネイチャーポジティブについては、自然共生サイトの認定を始めとする民間等の自主的な取組を促進するための措置を講じることで、地域の自然資本の保全と、地域の活性化の同時達成を図る。また、森林・林業・木材産業によるグリーン成長の実現に向けた森林の適正な管理と森林資源の持続的な利用を推進するとともに、海洋における 30by30 や、ブルーカーボンへの期待も高い藻場・干潟の保全・再生・創出の促進と地域資源としての利活用との好循環を目指す里海づくりなどを実施し、良好な環境を創出することで、地域住民のウェルビーイングの向上、地域活性化も含めた地域課題の同時解決を実現する。国立公園満喫プロジェクトの取組を全 34 国立公園に展開することで、国立公園の利用の推進と、その豊かな自然資本の保護との好循環の実現を図る。
地域経済の好循環、地域の環境課題と経済社会課題の同時解決を果たすためには、その担い手となり得る人材・コミュニティ等の無形資産への投資を拡大し、充実させていくことが重要である。地域ごとのニーズに沿って、現時点で存在する無形資産を最大限活用することを前提とし、支援策を述べる。
地域循環共生圏の創造に当たって、地域間の支えあいの関係を構築し、分散型のネットワークを構築することで、地域コミュニティの維持・再生に取り組む必要がある。この際、地域に根付いた文化やスポーツは、地域の人々を巻き込む力があることから、それらと一体となって現場を動かすという視点も重要である。このような良好な地域間ネットワークの事例を調査し、発信していくとともに、ネットワーキングを行う場を設定することで、ネットワーク構築を促進することで、地域循環共生圏の創造を支える体制を強化していく。
中間支援機能を持つ者が、地域の本質的なニーズを把握し、事業化の段階まで含めた伴走支援を行うことにより、環境問題と地域の課題の同時解決の実現可能性が高まるとともに、更なる取組の展開が期待される。既存の中間支援組織が実践的に地域支援を行いながら、伴走支援のノウハウを他の組織に展開すること等により、中間支援機能を担える人材、組織の育成を行っていく。
また、とりわけ地域脱炭素については、令和5年度から開始した脱炭素まちづくりアドバイザー制度等の運用状況や、地方自治体を始めとする地域の脱炭素支援のニーズを踏まえつつ、地方環境事務所、都道府県、地球温暖化防止活動推進センター等既存の組織に期待される役割・機能も検討した上で、複数の地方自治体等に対して脱炭素型の地域づくりに向けた計画策定から実行支援までを一気通貫で行える中間支援体制の構築に向けた検討を行う。
地域主導型で地域に貢献する脱炭素を推進するための中核人材を育成するため、脱炭素中核人材に求められる能力、取組の発展段階に応じた人材育成プログラムを提供するとともに、中核人材同士や地域脱炭素に連携する企業とのネットワーキングを行うことで、地域脱炭素の連携体制の構築を進める。
「1.「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築」でもESG 金融や企業行動のグリーン化の重要性について言及したが、それを地域レベルでも充実・加速していくことが地域循環共生圏の構築において必要不可欠である。
地域における環境・社会へのインパクト創出や、地域の持続可能性の向上等に向けた地域金融機関による ESG 金融に関する取組は、「新たな成長」の実現にも貢献する地域循環共生圏の創出にもつながっていく。こうした考え方に基づき、地域金融機関が自治体等と連携し、地域資源の活用にかかる知見や地域課題の解決を経済的価値につなげ得る事業等に対する融資・支援の提供を行うことにより、経済の活性化と地域課題の解決を同期させていくこと、すなわち「ESG 地域金融」の実践が重要である。
令和元年度から環境省が実施してきた「地域におけるESG 金融促進事業」等を通じて、地域金融機関等におけるESG 地域金融に係る認識や取組は、脱炭素化や SDGs 対応を中心に、一定程度進展してきた。もっとも、生物多様性の確保や循環型社会の形成等、対応すべき環境課題が拡大する中、地域課題との同時解決に向けた方策はより複雑化しており、また、ESG 金融を含むサステナブルファイナンスの国内外における拡大・浸透に伴い、地域の中小企業も含むバリューチェーン全体を巻き込んだ地域金融機関による環境課題対応が、一段と本格化していくことが想定される。
こうした状況を踏まえ、従来と同様に地域金融機関におけるESG 地域金融の実践を支援するとともに、より高度・広範な環境課題への対応に向けた金融機関の取組を支援するほか、地域金融機関がESG 地域金融の実践を進める上で重要となるステークホルダー(地域企業、地方自治体等)との連携を後押しするための施策を推進していく。加えて、株式会社脱炭素支援機構とも連携し、地域金融機関による地域エネルギー会社や脱炭素ファンド、脱炭素型融資制度の取組を支援する。
地方公共団体と連携した地域エネルギー会社は、再エネなどの地域資源を活用し、地域経済活性化、地域課題解決に貢献する地域循環共生圏の主要な担い手なるとともに、地域の中堅・中小企業の脱炭素化を支援し、地域産業の競争力強化にも貢献することが期待される。地域エネルギー会社による、地域の合意形成を図り、環境に適切に配慮した地域貢献型の再エネ・省エネ・蓄エネの導入を支援する。ネット・ゼロ社会の実現には、我が国の産業競争力の強みであるバリューチェーンを構成し、バリューチェーン上で排出量の2割を占める中堅・中小企業の脱炭素化を進めるべく、普段から中小企業との接点を持っている地域金融機関、商工会議所等の経済団体や地方公共団体が連携して地域ぐるみで支援する体制を構築するとともに、「知る」「測る」「減らす」128のステップを通じた脱炭素化を促進する。また、省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)等も活用し、中堅・中小企業が排出算定・公表をより容易にできる環境を整備し、削減目標・計画の策定や脱炭素設備投資を支援する。
地域のあり方を持続可能なものへと移行させていく過程で、地域ごとの実情を考慮して、取り残される人々やコミュニティを可能な限り生み出さないように進めていく「公正な移行」の観点から、以下のように取り組む。
地域循環共生圏の実現において、経済社会構造が大きく変化する地域を対象とし、協働的なアプローチを含めた地域循環共生圏の考え方に基づき、経済社会構造の変化に伴う負の影響を最小限とし、環境を軸とした新規産業等を創出していくための地域プラットフォームを構築するとともに、ビジョンや事業構想の共有、新たな事業創出などの地域の主体的な取組を支援する。
現在、深刻な環境危機に直面している我々であるが、地域単位で見ると、公害や災害により、自然と人との関係がいったん分断されてしまった例がある。本重点戦略の終わりに、一度失われた環境を再生することの難しさ、復興を遂げるべく地域の創意工夫のもと懸命に取り組む姿、その際の人材・コミュニティ等の無形資産の重要性を示す例として、2つの事例を紹介する。
昭和 31 年に公式確認された水俣病の発生地域では、環境汚染に加えて、被害者の救済問題や偏見、差別など様々な問題が発生した。このような状況下で、地域の絆の再生を目指し、平成 2 年から平成 10 年の間に熊本県と水俣市の共同で「環境創造みなまた推進事業」が進められ、水俣再生へ向けた市民の意識づくりが行われた。
水俣市は平成4 年に全国に先駆けて「環境モデル都市づくり」を宣言して以降、ごみの高度分別やリサイクルの活動を始めとするさまざまな取組を地域ぐるみで推進してきた。平成 13 年には国からエコタウンの認証を、平成 20 年には環境モデル都市の認定を、令和2年には SDGs 未来都市の認定を受け、また「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法の救済措置の方針」(平成 22 年4月 16日閣議決定)において「環境に対する高い市民意識や蓄積された環境産業技術、美しい自然や豊富な地域資源などを積極的に生かして、エコツーリズムを始め、環境負荷を少なくしつつ、経済発展する新しい形の地域づくりを積極的に進めます」との方針が示されたことも踏まえて平成24 年より国、熊本県、水俣市等が連携して「環境首都水俣」創造事業を立ち上げ、現在も環境を軸にした持続可能なまちづくりに積極的に取り組んでいる。また、環境を通じた国際協力も積極的に行っており、平成12年以降 JICA を通じてアジア各国からの研修生を受け入れて水俣病の経験と教訓に基づく研修を行っているほか、平成25 年には熊本市及び水俣市で水銀に関する水俣条約の外交会議及びその準備会合が開催され、水銀等の人為的な排出から人の健康及び環境を保護することを目的とする水銀に関する水俣条約を採択した。
水俣病発生地域における「もやい直し」は、地域の環境再生と復興、そしてその先にある「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現、また、それらの過程における「参加」の重要性や、更には地域の土台としてのコミュニティが果たす役割の大きさなどについて、今日の我々に重要な示唆をしており、引き続き水俣病発生地域における地域循環共生圏の実現を支援するとともに、他地域への参考としていく。
東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故からの復興を進める福島県において、地元のニーズに応え、環境の視点から、地域の強みを創造・再発見する未来志向の取組を力強く進めていく。福島イノベーションコースト構想の「エネルギー・環境・リサイクル」分野における、先進的なリサイクル技術の産官学連携、技術開発等に関する取組を推進し、産業創出を支援するとともに、復興に携わる人・まちの視点から、再生可能エネルギーの導入、技術開発の一層の加速化等に資する調査を実施し、地域の「脱炭素×復興まちづくり」を支援する。加えて、福島県とも連携しながら、「ふくしまグリーン復興構想」に基づき、自然環境の保全と調和を図りながら適正な利用を推進し、国内外の交流人口の拡大を目指す。
人々の生命を守るためには、その基盤である自然資本が、少なくとも「環境保全上の支障が防止される水準」を維持していなくてはならない。しかし、化学物質やマイクロプラスチック等による水・大気・土壌等の環境汚染や、花粉などの環境中の多様な因子による健康影響、気候変動やヒートアイランド現象による暑熱環境の悪化が引き起こす熱中症の発生、気候変動により激甚化する風水害による化学物質の流出事故、外来種の分布拡大やニホンジカ・イノシシ等の増加による生態系の劣化や生活環境の悪化等、依然として様々なリスクに直面している。引き続き、環境行政の不変の原点である「人の命と環境を守る基盤的な取組」として、環境負荷の総量削減により、環境収容力の臨界的な水準から十分に余裕を持って維持することに加え、環境リスクの適切な評価・管理、最新の科学的知見に基づき、極めて深刻な環境影響等が懸念される問題については科学的知見の充実に努めながら予防的に対策を講じることにより、健康の保護と生活環境の保全の取組を推進する必要がある。
「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現するには、これらの環境保全上の支障の防止を着実に実施することにとどまらず、さらにその先の「良好な環境の創出の水準」を追求していくことが重要である。健康・福祉や教育、コミュニティや文化、人と動物の共生する社会などの非市場的な価値も含めた「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に向けて、ストックとしての自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させる資本・システムを充実させることが重要である。具体的には、地域づくりや自然環境保全の取組との相乗効果により、豊かな水辺や星空、音の風景等、地域特有の自然や文化を活用し、健康で豊かな暮らしの基盤となる良好な環境の創出を促進する必要があり、その際に「自然を活用した解決策(NbS)」の考え方が有効である。
また、上述のような環境の整備に併せて、我々の消費行動を含むライフスタイルやワークスタイルにおいて、価格重視ではなく環境価値の適切な評価を通じ、相対的に環境価値が高い(環境負荷が低い)製品やサービスの積極的な選択や、より環境に配慮した製品やサービスの創出を促進し、新たな需要を生む好循環を形成することが重要である。例えば、食に対する安全を求める声や環境保全に対する意識の高まり等を背景に、生産者と消費者が結びつくことによって、生産者と消費者の顔と顔の見える関係となる産直は、1970 年代から本格的に進展した。また、製品や移動のサービス化、シェアリングエコノミー、サブスクリプションのサービス提供や、例えば、古民家を廃棄せずアップサイクルして資源や文化を保全しながら移築・再生する取組等、リユース、リペア、リファービッシュ、リマニュファクチュアリング等による製品の経済価値の維持を通じ、限られた資源を有効活用することで、天然資源の利用及び加工による環境負荷の削減を実現し、大量生産・大量消費・大量廃棄型の生産や消費に代わる、持続可能で健康的な食生活やサステナブルファッションなど持続可能な消費に基づくライフスタイル、「ウェルビーイング/高い生活の質」の在り方を示すことが重要である。
我が国の文化は、自然との調和を基調とし、自然とのつきあいの中で日本人の自然への感受性が培われ、伝統的な芸術文化や高度なものづくり文化が生まれてきた。
しかしながら、海外への資源依存や急速な都市化の進展、人口減少・高齢化等によって、人と自然、人と人とのつながりが希薄化し、従来のコミュニティが失われつつある。地域ならではの自然とそこに息づく文化・産業を生かした持続的な地域づくり等を推進する中で、各地域の自然が有する価値を再認識し、人と自然のつながりの再構築、人間性及び感受性の回復、健康増進、子どもの健全な発育等を推進することも重要である。
本計画の冒頭で述べた、「人類は環境危機に直面している。人類の活動は、地球の環境収容力を超えつつあり、自らの存続の基盤である限りある環境、自然資本の安定性を脅かしつつある」という問題意識を肝に銘じ、改めて、環境行政の不変の原点である「人の命と環境を守る基盤的な取組」を着実に実施していくことが不可欠である。
気候変動による健康影響は、熱中症などの暑熱環境による健康被害、集中豪雨などの自然災害による人的被害、水系・食品媒介感染症の流行パターンの変化、節足動物媒介感染症の流行地域の変化、災害等によるメンタルヘルスの問題など多岐にわたる。
また、IPBES が公表した「生物多様性とパンデミックに関するワークショップ報告書」は、新興感染症の 30%以上が、森林減少、野生生物の生息地への人間の居住等が発生要因となっていることなどを指摘した。さらに、有害性のある化学物質やマイクロプラスチックによる環境汚染に伴う健康及び生態系への影響も懸念されている。このように「地球の健康」と「人の健康」は相互に関係しており、両者を一体的に捉える「プラネタリー・ヘルス」の視点から地球環境問題に取り組んでいくことが求められている。
生存基盤たる水・大気・土壌環境については、環境基準を達成し、また、継続的な改善を図るため、「大気汚染防止法」(昭和 43 年法律第 97号)、「水質汚濁防止法」(昭和 45 年法律第 138 号)、「土壌汚染対策法」(平成 14 年法律第 53号)等関連法令に基づく対策を引き続き着実に実施するとともに、最新の科学的知見を水・大気・土壌環境保全の政策に適切に反映させていくことで、国民の安全・安心を向上させる。具体的な取組については、「第3 章 重点戦略を支える環境政策の展開」で後述する。
特に都市部において、気候変動に加え、ヒートアイランド現象により気温がさらに上昇し、熱中症リスクの増大や睡眠の質の低下など国民生活への影響が懸念されている。人工排熱の低減、地表面被覆の改善や熱中症対策を始めとする適応策を推進する。
プラスチックを含む海洋ごみについては、「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」(平成 21 年法律第 82号)(以下「海岸漂着物処理推進法」という。)等に基づき、多様な主体の連携による海岸漂着物等の実態把握・回収・処理や、プラスチック資源循環促進法その他の関係法令等による発生抑制対策、マイクロプラスチックによる生物・生態系への影響に関する科学的知見の集積、国際的な枠組みや多国間・二国間協力を通じた国際連携等を推進することにより、海岸景観や海洋環境を保全する。
生態系や農林業等に深刻な被害を及ぼすニホンジカ及びイノシシについて、令和10 年度までの個体数の平成 23 年度水準からの半減を目指して、関係省庁が連携して、ニホンジカの集中的な捕獲対策、高度な捕獲技術者の育成等を実施する。また、クマ類による人身被害を防止するため、人とクマ類のすみ分けの強化、市街地等への出没時の体制構築、調査・モニタリングを踏まえた科学的知見に基づく地域個体群の保全と人に被害を及ぼすおそれのある個体の管理強化等の必要な対策を実施する。
さらに、人の健康や社会経済活動、生物多様性保全に影響を及ぼす野生鳥獣に関する感染症について、生物多様性保全上のリスク評価を行うとともに、ワンヘルス・アプローチの観点も踏まえ、早期に感染症の発生を確認し、迅速に対応するための連携体制の整備を行う。
特定外来生物の新規指定や輸入・飼養等の規制、普及啓発、防除事業の実施等、総合的な外来種対策を推進するため、IPBES の「侵略的外来種とその管理に関するテーマ別評価」報告書の政策決定者向け要約(SPM)も踏まえ、「外来種被害防止行動計画」の改定等を通じて、ビジネスセクターを含む多様な主体の参画を促進し、最も費用対効果が高いとされる侵略的外来種の侵入予防及び早期対応に必要な体制整備と国際協力を強化していく。特に、人体に重大な影響が生じ、安全・安心な国民の生活に支障を及ぼすおそれがあることから、改正外来生物法に基づく「要緊急対処特定外来生物」に指定されたヒアリ類については、国内への定着を阻止する水際対策を徹底する。
化学物質対策については、「プラネタリー・ヘルス」の概念とも整合的な化学物質管理の新たな枠組み「Global Framework on Chemicals-For a Planet Free of Harm fromChemicals andWaste」の考え方が重要である。この考え方の下、「第3章 重点戦略を支える環境政策の展開」で後述する具体的な取組を着実に進める。
反応性窒素及びリンは水、土壌、大気といった様々な媒体にまたがって存在していることから、包括的な視点からマテリアルフローを一体的に管理する体制の構築と対策が求められる。窒素は、食料生産等に不可欠な栄養分であるが、大気汚染、水域の富栄養化、地下水汚染など、多くの環境媒体に影響を及ぼしている。また、我が国は主な化学肥料の原料のほぼ全量を輸入しており、肥料の安定供給、経済・食料安全保障も課題である。
国連環境総会における持続可能な窒素管理の決議では、過剰なレベルの栄養素、特に窒素及びリンは、水、土壌、大気の質、生物多様性、生態系の機能等に影響を及ぼすとした上で、窒素廃棄物を世界で2030 年までに顕著に減少させるとの目標が示され、加盟国に対し、国家行動計画に関する情報の共有が推奨されている。また、窒素管理に係る国際的な政策調整を促進するための枠組の検討が行われている。
このため、水・大気環境の保全・管理と、脱炭素、資源循環、自然共生との統合的アプローチにより、持続可能な窒素及びリンの管理によって社会や地域に貢献する取組を推進する。具体的には、適正な施肥、堆肥や下水汚泥等の国内資源の利用拡大、家畜排泄物のエネルギー利用等により、環境基準の超過が継続する地下水の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素や、水道水源にもなる湖沼等の富栄養化への対処を進める。また、今後拡大が見込まれる燃料、水素キャリア等の用途でのアンモニア等の開発・利用に当たり、窒素酸化物(NOx)の排出量を増加させない技術等を活用し、NOxや一酸化二窒素(N2O)の排出を回避する。さらに、省エネ効果もある下水処理場の能動的運転管理等により、「きれいで豊かな海」に向けた適切な栄養塩管理などを進める。
また、我が国におけるインベントリの精緻化や科学的知見の集約を進めるとともに、持続可能な窒素管理の行動計画を策定する。さらに、我が国の経験を窒素の消費量の増加が著しいアジア地域の途上国等にも展開することなどにより、国際的な窒素管理にも貢献していく。
「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現するには、上述の環境保全上の支障の防止を着実に実施することに止まらず、さらにその先の「良好な環境の創出の水準」を追求していくことが重要である。「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に向けて、ストックとしての自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させる資本・システムを充実させるための施策を述べる。
「良好な環境」を目指して環境自体の価値を向上させ、良好な環境と人との関わり合いによって、人々のウェルビーイングの向上や個人と地域がともに活力に満ちた状態の実現を目指すという考え方が重要である。
この良好な環境の創出に向けて、豊かな水辺、星空、音の風景等、地域特有の自然や文化の保全により、地域住民のウェルビーイングの向上と地域活性化を実現する取組、また、水質管理のみならず生物多様性の保全や地域づくり等にも資する総合的な水環境管理を目指すための取組や、水道水源となる森や川から海に至るまで、OECM も活用した良好な環境の創出に取り組む地域を連結した流域一体的な保全のモデルの構築、藻場・干潟の保全・再生・創出の促進と地域資源としての利活用との好循環を目指す里海づくりなどを実施する。
野生生物の保全に係る地域活動を促進するとともに、こうした活動について自然共生サイトの取組とも連携し、ビジネスセクターを始めとする様々な主体の参画を促進する。
また、希少種をシンボルとした生息・生育環境の保全や、かつては身近に存在していた里地里山の希少種の保全など、自然と共生する地域づくりの取組を推進し、地域社会の再構築や心豊かな暮らしの実現に寄与する。
ペットの飼養は、人と生きものの重要な共生のあり方のひとつであり、国民に心豊かな生活をもたらすことに加え、ペット以外にも食用や科学上の利用に供する動物など、様々な動物が「ウェルビーイング/高い生活の質」を支えている。一方で、動物に対する国民の考え方は様々であることから、ペット等の適切な管理が求められている。こうした背景を踏まえ、人と動物の共生する社会の実現を目指し、動物の適正な取扱いを促進する施策を総合的に推進する。
温泉地は、古くから地域の健康増進や経済・社会の中核を担っており、現代の多様化するライフスタイルにおいても様々な価値を提供できるポテンシャルを有している。このため、従来からの温泉入浴としての利用方法に加えて、周辺の自然、歴史・文化、食などの地域資源を積極的に楽しみ、地域の人や他の訪問者と触れ合い、心身ともにリフレッシュできる新しい温泉地の過ごし方である「新・湯治」を推進することで、健康で心豊かな暮らしの実現に資するとともに、温泉地の活性化を図る。
「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に向けては、我々の消費行動を含むライフスタイルやワークスタイルにおいて、「大量生産・大量消費・大量廃棄こそが豊かさである」という価値観からシフトし、価格重視から、環境価値等の質を重視する方向への転換を促していくことが重要である。
「CFP」は、温室効果ガス排出量の「見える化」により、消費者が、脱炭素・低炭素の実現に貢献する製品やサービスを選択する上で必要な情報を提供する有効な手法であり、製品種ごとのCFP 表示に向けた業界共通ルールづくりを後押しするとともに、一定の統一的な基準に基づく認証の枠組みを整備する。また、ナッジ手法も活用した効果的なCFP 表示のあり方を実証するとともに、新しい国民運動「デコ活」による消費者の行動変容を通じて、CFP の普及と、脱炭素の実現に貢献する製品・サービスの選択を推進する。
また、CO2 削減効果など環境負荷の低減効果を見える化し、付加価値に転換することが不可欠であるが、その際、マスバランス方式を活用したグリーン製品の提供も有効な取組と考えられる。ただし、この概念は、CFP と比べ社会的認知度が低く市場での統一的なルールが存在しない等の課題もあることから、今後、普及に向けた検討を行っていく。
「くらしの 10 年ロードマップ」(令和5年度策定)を踏まえ、脱炭素にとどまらない、資源循環やネイチャーポジティブ等も含めた暮らしの全領域(衣食住・職・移動・買物)における「新しい豊かな暮らし」を支える製品・サービス等を効果的・効率的に社会実装するためのプロジェクトの支援・展開を通じて、行動変容・ライフスタイルの変革を促進し、国民のより良い豊かな暮らしの実現を後押しする。
我が国における食品ロスは523 万トン(2021 年度農林水産省・環境省推計)であり、これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた国連世界食糧計画(WFP)の食料支援量(2022 年で年間約 480 万トン)の 1.1 倍に相当する。また、調達に始まり生産、加工・流通、消費に至る食料システム、及び廃棄においては多くの温室効果ガスを排出している。このように資源の有効活用及び環境負荷の低減の観点から、食品ロスの削減は我が国における喫緊の課題である。
このような問題意識のもと、食品廃棄ゼロエリア創出や飲食店での食べ残しを持ち帰る mottECO(モッテコ)などの食品ロス削減の具体的な取組喚起をはじめ、実態調査や効果的な削減方法等に関する調査研究、先進的な取組等の情報収集・提供、フードバンク活動の支援等について、関係省庁が一体となって取り組む。
国内に流通する衣類に関し、国内外を合わせて原材料調達から廃棄までに排出されるCO2は約9500 万トンであると推計されており、このうち我が国における排出量は約 970 万トンである。これは我が国全体の CO2 排出量の約 0.8%に相当する。CO2 排出量だけでなく、我が国に供給される衣類の生産時に国内外で消費される水の総量は84 億㎥、排出される端材等の総量は4.5 万トンと推計されており、衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスを、「大量生産・大量消費・大量廃棄」型から、将来にわたり持続可能なものに移行させることは、環境負荷の総量削減のために必要不可欠な取組である。
上記のような問題意識の下、衣類の排出量の把握及び回収システムの構築検討や、衣類の高度な選別・リサイクルに関する技術開発等の事例収集、サステナブル製品等の効果的なラベリングの具体的枠組み作り等を行うとともに、消費者に対して行動変容を促すための情報発信等の取組を行う。
デジタル化が進む中で、リアルな自然体験がもたらす便益(健康増進、健全なこどもの発育、孤独・孤立に対する社会的予防、価値観・ライフスタイルの変革等)に着目した自然とのふれあいを推進する。子どもの自然体験活動の推進、国立公園等における自然体験コンテンツの整備や情報発信等による豊かな自然に触れる機会の向上、安全で快適な利用のベースとなる自然公園等施設の整備・更新、上質化、ロングトレイルの活用促進等を進める。
環境への配慮は一般に、行動の結果が目に見える形ですぐに現れないがゆえに実施を先延ばしにされがちであり、また、そもそも環境問題については、自分とは関係ない、自分は大丈夫といった考えを持たれることもしばしばである。こうした認知バイアスや無関心については、従来、広報・普及啓発や環境教育により改善が試みられてきたが、それらの質や効果に関する課題が指摘されることも多い。
こうした状況に鑑みて、ナッジを始めとする行動科学の知見の活用等、根拠に基づいた効果の確からしい科学的アプローチにより、様々な環境問題に関するバイアスや思考の癖を改善し、環境問題を自分事化させ、自発的な意識変革や行動変容を促進する。
身のまわりにある製品やサービスを、平時はもちろん、非常時にも役立つようにデザインするという「フェーズフリー」の考え方は、環境配慮の取組を日常生活に取り入れる上で重要な示唆を与えるものである。災害時のバッテリーにも活用できる電動バスの導入促進、平時の省CO2 化と非常時のエネルギー自立化が可能となる再生可能エネルギー設備を備えた施設の整備、平時には生物多様性の保全や市民の「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現にも資する防災公園の整備等、「フェーズフリー」の考え方を取り入れたライフスタイルの提案で社会の移行を進め、日々の暮らしの質を向上させつつ、環境配慮と災害リスク軽減、気候変動適応など様々な社会課題の同時解決につなげていく。
第一部でも述べたとおり、イベント・アトリビューションの手法により異常高温や大雨等の異常気象が地球温暖化による影響を大きく受けていることが科学的・定量的に評価されるようになりつつある一方、国民世論としては、昨今の異常気象の認識は浸透しているものの、それが地球温暖化によるものであるという原因に対する認知や、そのために国民一人一人のライフスタイルや産業構造の転換等が必要であるという対策についての認知が不足しており、国民の脱炭素への意識や行動に必ずしも直結していない状況がある。新たな国民運動「デコ活」の推進と合わせ、その前提となる科学的知見について、政府を始め各主体による情報発信を進めていく。
また地球温暖化に加え、生物多様性の保全や循環経済等の実現についても利用可能な最良の科学的知見等について、専門家を含めたプラットフォームを構築するなど効果的に共有し、国民の行動変容を促していく。
脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(平成 22 年法律第 36 号)等に基づき、快適な生活空間の形成等にも貢献する、都市部や地方での公共建築物や非住宅・中高層建築物等における木造化・木質化、その効果の「見える化」や評価方法等の普及、製材やCLT、木質耐火部材等の技術開発・普及、家具類、おもちゃ、日用品等における木材の利用拡大、セルロースナノファイバーや改質リグニン等の木質系新素材の開発・実証等を進めるとともに、木材利用促進に向けた機運を醸成するため、国民運動である「木づかい運動」や「木育」等の活動を推進する。
将来を支える科学技術・イノベーションに関しては、米中間を始めとする先端技術をめぐるし烈な国家間競争が一層激化している。主要国における科学技術・イノベーションへの投資は更なる拡大へと向かっている。加えて、国家間競争は、知と価値の創造の源泉である人的資本の獲得そして育成へと射程が拡大している。
我が国は、研究開発や特許等の革新的資産投資は多いが、マーケティングやブランド形成等の国民の本質的なニーズを把握した上での経済的競争能力投資が少なく、イノベーション実現割合は低い。一方で、欧州諸国は経済的競争能力投資が多く、イノベーションの実現割合も高くなっている。
科学技術・イノベーションは、気候変動を始めとする社会課題の解決を成長の源泉へと転換し、持続的な経済成長を実現する原動力である。同時に、感染症や自然災害等の脅威に対し、国民の安全・安心を確保する観点からも、国家の生命線となっている。
「ウェルビーイング/高い生活の質」や経済成長等を実現するためには、(4)で述べた我が国の伝統的な自然観など、我が国の独自性を生かしつつ、国際的なニーズである環境収容力や、国内・地域における需要側の暮らしのニーズ129を把握した上で、現在及び将来の国民の本質的なニーズ主導での技術的ブレイクスルーや、システム・ライフスタイル・制度の変革、人材・資金の結集等による制度的イノベーションによる経済社会システム・技術・ライフスタイル等の広範なイノベーション130、創意工夫による新たな価値の創造を実現する必要がある。
並行して、環境問題の解決と成長の源泉につながる科学技術やグリーンイノベーションが、政府や企業等の決定に対して影響力を持つ市場や消費者や需要家となる国民に理解・評価・活用されるよう、国民意識の向上を図り、行動変容につなげていく取組が必要となる。これらの取組においては、市場とともに、政府や企業等をグリーンイノベーションの道に進ませる上での重要な役割を発揮するキープレーヤーとしていく必要がある。その上で、自立的な国民や市民社会の力を引き出し行動変容につなげていくために、データ駆動型のAI・IoT 等の情報的手法の活用を進めるとともに、環境問題の解決を重んじる社会的価値観を醸成する。
科学的知見に基づく環境政策の推進にとって、科学的知見の創出・集積や基盤情報の整備は不可欠である。グローバルな環境の状況を把握し、国際社会に発信・貢献していくための環境研究や、科学技術の発展及び環境問題の解決に資する基礎研究を推進する。政策決定の基盤としてモニタリング技術やトレーサビリティ技術、予測技術等の研究開発も重要である。さらに、これらの取組を支える人的資本の育成等も基盤的な取組として欠かせない131。
基盤的な取組に加え、最先端の環境技術等の開発・実証と社会実装の推進も重要である。グリーンな経済システムの構築等により持続可能な生産・消費を実現するための技術、気候変動対策技術、循環経済やネイチャーポジティブ等を加速する技術、良好な環境を創出する技術、人々の健康で心豊かな暮らしを支える安全・安心技術、生物・生態系システムの持つ優れた形状や機能等を模倣する技術(バイオミミクリー)を活用した低環境負荷技術(「環境・生命技術」)等の研究開発と社会実装を推進し、経済社会システムの中に組み込む形で環境技術の進展を図りながら国内外に展開していく。
また、我が国が競争優位を持つ知的財産を生かしつつ、イノベーションの担い手として、環境分野におけるスタートアップの育成を図っていく。その際、イノベーションは自ずとグリーンな方向に向かうわけではないことから、環境目的以外の技術群であっても、環境収容力を守る形での技術とするとともに、環境問題の解決に貢献する技術としていく必要があることを念頭に入れ、施策を展開していくことが重要である。
国民が、低環境負荷技術やグリーンイノベーションを理解・評価・活用するためには、「(1)「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築」で述べたとおり、最先端の脱炭素製品・技術に対する初期需要を我が国全体で喚起・創造すること、「(4)「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現」で述べたとおり、我々の消費行動を含むライフスタイルやワークスタイルにおいて、「大量生産・大量消費・大量廃棄こそが豊かさである」という価値観からのシフト、価格重視から環境価値等の質を重視する方向への転換を促していくことが重要である。
政府実行計画及びグリーン購入法に基づき、国が最先端の脱炭素製品・技術を率先して活用することで、社会実装を後押しするとともに、新しい国民運動「デコ活」により消費者の意識変革や行動変容を促していく。
上記の取組に加え、スタートアップ等を含む民間企業等によって開発された先進的な環境技術について、第三者が評価・実証を行うこと等により、当該環境技術の適切な情報提供を行い、普及を支援することも重要である。既に事業化段階にある先進的な環境技術について、エンドユーザーが安心して使用できるよう、国際的な状況を踏まえつつ、その環境保全効果等を第三者機関が客観的に実証する信用付与の取組を進める。
ナッジ等の行動に関する科学的知見と、AI、IoT 等の先端技術の組合せ(BI-Tech)により、国民の前向きで主体的な意識変革や行動変容を促し、脱炭素や資源循環、ネイチャーポジティブに資するライフスタイルへの転換を図る。このとき、生成AI等の活用による、一人一人に合った情報発信の実現に向けた技術開発・実証・実装を進める。
「人口減少社会に直面する日本の活力の源はどこにあるのか」、「地域のくらしと日本の産業の持続可能性を維持するためにどのような技術が必要となるのか」、「日本や世界全体の環境収容力の範囲内の経済社会システムとしていくためには、どこがボトルネックとなるのか」といった、現在及び将来の国民の本質的なニーズに基づいた、技術的ブレイクスルーが必要不可欠である。また、その検討に当たっては、最先端の技術開発に加え、すでに実証・実装されている技術の組合せ・水平展開によってもイノベーションが生み出されうるということも重要な視点である。
2050 年温室効果ガスネット・ゼロの達成のためには、将来の資源・環境制約等からバックキャストし、未来のあるべき社会やライフスタイルを実現するための技術を開発・実証し、将来に向け着実に社会に定着させることが必要であり、特に、将来にわたるエネルギー制約を見据え、一層の電化や省エネと、豊かな社会・ライフスタイルを同時にかつ早期に実現することが重要。このような観点から、産業、民生(家庭、業務)及び運輸(車両、船舶、航空機)の各部門において、窒化ガリウム等の新材料を用いた次世代パワーエレクトロニクス技術の開発等一層の省エネルギー技術等の研究開発及び普及を図ることで、社会のあらゆる場面における電力ロスの低減とこれによる大幅な CO2 削減に寄与し、もって現在及び将来の国民の「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現を目指す。また、量子技術やAI(機械学習)を活用した触媒探索を加速させ、多元素ナノ合金等の革新的触媒技術による資源循環システムを構築することで、CO2 排出量の大幅削減を実現するに止まらず、地域資源の利活用による地方創生や自立・分散型社会の実現にも資する。
電動車の導入や充電・水素充てんインフラの整備を支援するなどの電動車の普及促進に向けた取組を更に進めていくほか、モビリティ全般について次世代技術の開発や性能向上を促しながら普及を促進していくことで、バリューチェーン全体の脱炭素化に寄与するとともに、自立・分散型の国土構造の実現や、地域の活性化、高齢化等の地域課題の克服等、地域・社会の様々なニーズの充足にも貢献する。
平時の「ウェルビーイング/高い生活の質」と災害リスク軽減の同時実現を果たす「フェーズフリー」の技術は、重点戦略(2)に掲げる自立分散型社会の実現にも資するものであり、平時・災害時における国民の本質的なニーズや、今後人口減少・過疎化が進み、災害により既存インフラの維持が難しくなった過疎地域における将来世代の本質的なニーズに応えうるものである。このような考え方の下、生活用水を循環濾過し再利用する水循環システム132や、次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池、設置場所を拡充する建材一体型太陽光発電等の技術に関し、開発・実装や普及拡大を促進していく。
環境政策の推進にとって科学的知見は必要不可欠であり、その基盤となる研究開発への投資や、それを支える人的資本投資は重要である。
科学的知見に基づく政策決定に資するよう、環境測定分析における精度管理調査を通じ、環境測定分析機関(自治体、民間機関)の測定分析精度の維持・向上を図るとともに、観測や測定等に基づく環境の状況等に関する情報や環境分野における研究・技術等に関する基盤的な情報を収集・整理・提供する。また、データベース構築等の知的研究基盤の整備を推進し、ウェブサイトやイベント等の様々な媒体を通じて広くわかりやすく提供する。こうした取組は、国民の環境問題や環境保全に対する理解を深め、国、地方公共団体、企業、国民等の環境保全の取組への参画等を促進するためにも重要である。データベースの構築に当たっては、利用者が求める環境情報を容易に入手できるよう、情報提供の環境を整備する。研究・技術開発の成果に係る情報発信の強化及び社会実装の推進の観点においても、収集・整理・提供した環境情報が活用され、環境に関する研究・技術開発が促進されるよう、各種環境データのオープンデータ化や国際的な主体を含む様々な主体とのデータ連携・共有に取り組む。
加えて、行政における生物多様性保全施策や、TNFD 等の民間における取組やその評価における基盤的情報となるレッドリスト評価のための調査やそれに基づく適切なレッドリストの定期的な見直しを行う。また、その生息・生育に係る調査結果を含めた自然環境に係る各種調査結果について集約・提供を行う。
既に確立された技術や新たに開発された技術を社会実装し、普及・展開を加速するためには、標準化の推進や規制の合理化、環境価値を市場にビルトインするような国際ルールの形成等を含めた統合的なアプローチが必要である。
技術進歩等の変化に対応した法制度及び許認可制度の整備に向けた調査・実証、エネルギーシステムの設置・保安等に関する環境及び規制・制度の整備並びに環境影響評価手法の確立・運用の最適化を進める。
また、国際競争力強化に係る技術基準・認証システム等の国際標準化の推進、エネルギー・環境等のマネジメント国際規格等の適用拡大・推進、エネルギープラットフォーム実現のための地方公共団体等を含めた広域展開の枠組みの創設・拡充等を進める。
気候変動への対応、生物多様性の保全、感染症対策、化学物質管理、災害対策等、我が国が抱える様々な危機に対し、最先端の科学技術・イノベーションによって、対応していくことが我が国の生命線となる。技術の開発・実証と社会実装に当たっては、個別の環境分野だけではなく、個別の環境政策等の統合・シナジーを考える必要がある。それに加えて、成長する環境分野の市場において技術を展開していくには、技術を起点としてどのように市場に普及させていくかを考えるだけではなく、市場を起点として、市場のニーズを掴みながら、既存の製品・サービスや新しい技術の組合せを念頭に置きつつ、技術開発・実証、社会実装を図る視点も求められる。
また、地球温暖化対策の推進に関する法律に規定する排出削減等指針を踏まえて、温室効果ガス排出量の削減等に資する設備・技術が選択されるとともに、できる限り温室効果ガス排出量を少なくする用法で使用されなければならないこととされている。
これを踏まえ、技術の選択を「あるべき姿」といった適切な方向にシフトさせていく視点が、温暖化対策だけではなく他の環境分野においても必要である。
生物多様性と、気候変動や他の社会課題には、シナジー・トレードオフといった相互関係があり、統合的な観点で分析・評価し、対策の最適化を図ることが必要である。生物多様性と社会経済的要因の統合評価・シナリオ・モデルの研究開発を進め、政策の効果的な実施に反映させる。生物多様性と人の健康との直接的な関係を明らかにし、その好影響等の普及啓発を通じて、生物多様性の重要性に関する認識が社会に広く浸透することの重要性に鑑み、環境研究総合推進費等を活用した関連研究を促進する。
気候変動は社会経済や生物多様性など多岐にわたる分野への影響が懸念されており、適応策の検討に当たっては、様々な分野へのコベネフィットを評価していくことが重要である。そのためにも、気候変動及び気候変動影響の観測、監視、予測及び評価のデータや科学的知見等の気候リスク情報、気候変動適応に関する技術や優良事例等の情報は、国、地方公共団体、事業者、国民等の各主体が気候変動適応に取り組む上での基礎となるものであり、さらなる充実とアクセス性を向上させることが重要である。
技術の開発・実証と社会実装に当たっては、個別の環境分野への貢献のみならず、他の環境分野との調和も踏まえて推進する必要がある。脱炭素型技術である二酸化炭素回収・貯留(CCS)については、2030 年までに民間事業者による事業の実施が見込まれることを踏まえ、海底下CCS が海洋環境の保全と調和する形で適切かつ迅速に実施されるよう環境保全に係る制度の整備を進める。
また、特に気候変動の影響を強く受ける農業分野について、みどりの食料システム戦略に基づき、高温に強い品種や温暖化に適応した栽培管理技術の開発、高温環境に適した品種や品目への転換、適応技術の普及等の推進等の対策を進める。
化学物質の管理については、特にグリーンな経済システムの構築や科学技術・イノベーションの開発において、有用な新規化学物質の創出や、持続可能性の高い化学物質の活用拡大などが見込まれることから、化学物質の製造・輸入数量や使用状況の変化などに応じた評価等を適切に実施して、リスクを管理する必要がある。また、そうした評価結果やその過程で得られたモニタリングデータ等の知見を国民がアクセス・利用しやすい形で共有・発信し、対話やリスクコミュニケーションを推進することは、国民の化学物質に関する理解を促し、環境面が考慮された新規技術等の円滑な社会実装につながる。
循環型社会の推進及び廃棄物の適正処理に関するもので、実用化が見込まれ、かつ、汎用性及び経済効率性に優れた技術について、技術開発及び実証の補助を行う。
また、動静脈連携の強化、電子マニフェストを含む各種デジタル技術を活用した情報基盤整備などにより、廃棄物の適正管理・ライフサイクル全体での資源循環を促進する。
近年、微生物と植物の共生関係を利用した減農薬農業など生物の共生関係を利用した低環境負荷技術や、化合物を使わない防汚材料など生物の持つ優れた機能や形状を模倣する技術を活用した低環境負荷技術(生物模倣技術:バイオミミクリー)、化石資源によらない微生物・植物による有用物質生産が可能な低環境負荷技術の開発が近年急速に進んでいる。これらの技術は、生命に備わっている機能の活用や模倣により、自然の摂理により近い形で低環境負荷を実現するものである。このような考え方の下、こうした生物や自然の摂理を活用した低環境負荷技術(「環境・生命技術」)の研究開発と社会実装を進めるための施策を述べる。
例えば、ハスの葉や蝶の羽の表面構造を模倣した撥水膜技術(PFAS 代替)を生かした衣服などが既に民間企業で実用化されている。「環境・生命技術」の産業化も見据え、生態系サービスの恩恵の一種であるバイオミミクリー(生物模倣)をイノベーションの源泉として活用し、社会課題解決に向けた開発・実証を行う。
森林資源等を原料とする高機能材料であるセルロースナノファイバーや改質リグニンは、自動車部材等の軽量化により燃費・効率の改善による地球温暖化対策への貢献やプラスチック等の化成品のバイオマス度を高めることにより化石資源使用量削減につながる循環型社会の実現への貢献が期待できる。
このようなバイオマス由来の化成品を様々な用途で活用していくため、開発・実証を推進し、様々な用途での活用につなげていく。
「新たな成長」を支える持続可能な社会の実現に向け、目指すべきゴールと現在の延長上の未来(BAU:Business As Usual)との間には、大きなギャップが存在している。
このギャップを埋めるためには、様々な課題分野でイノベーションを起こし、社会に実装していくことが必要である。世界的にはスタートアップ企業がイノベーションを起こして様々な課題を解決しているが、近年では、我が国においても環境問題の解決にインパクトを与え得るスタートアップ企業が出現してきているところである。このような背景を踏まえ、イノベーションの担い手としての環境分野におけるスタートアップに対し政府として以下のように支援する。
スタートアップ育成5カ年計画(令和4年 11 月新しい資本主義実現会議決定)において、令和9年度(2027 年度)にスタートアップ全体への投資額を 10 兆円規模とすることが目標として掲げられているが、同計画においては「スタートアップの創業を検討する際、環境問題などの社会的課題の解決を目的にすることが多い」とされていることを踏まえ、優れた環境技術シーズを持つ、また、現在及び将来の国民の本質的なニーズに応える環境スタートアップ等の研究開発・社会実装支援等を抜本的に強化する必要がある。このため、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成 20 年法律第 63 号)による SBIR(Small Business InnovationResearch)制度等に基づき、事業構想段階や実用化段階、事業化段階における資金的・技術的な支援や、事業化段階における信用付与等による事業機会の創出を行うことにより、集中的・継続的で切れ目のない支援を実現し、環境スタートアップ等によるイノベーションの実現と社会実装に向けた取組を強化していく。
さらに、利用可能な最良の科学的知見を提供すること等により、地域レベルでの環境スタートアップ支援についても進めていく。
エネルギー危機、食料危機も相まって、世界は未曾有の複合的な危機に直面している。国境のない地球規模の環境問題においては、国際社会が誓約した 2030 年までの目標達成に向け、先進国・途上国の区分を超えて、分断ではなく、共に取り組む「協働」の重要性がかつてなく高まっている。我が国にとっての便益を最大限追求すると同時に、こうした世界全体の機運と軌を一にしつつ、環境を軸とした国際協調を発展させ、世界の安定と人類の福祉に貢献するため、戦略的な対応が必要である。
気候変動、生物多様性の損失、汚染という3つの世界的危機への対応に当たって、脱炭素、ネイチャーポジティブ、循環経済等を統合的に実現する経済社会システムの構築が世界的に求められている。我が国としては、ポストSDGs の議論をにらみつつ、シナジーを最大化しながら、これらを実現するための具体的な好事例を示すなどして国際議論を主導すべきである。我が国のこれまでの公害問題への対策や、伝統的な自然共生やものを大切にする価値観は、持続可能な経済社会システムの構築に当たって有用である。地域循環共生圏の創造を始めとした環境課題と社会・経済的課題との同時解決を目指し、誰ひとり取り残さない、ウェルビーイング/生活の質の向上とパッケージとなった取組を実施するとともに、G7、G20 等を通じてこれを国際的に発信・展開していくことが重要である。
こうした環境を軸とした国際協調の推進に当たっては、各国や非政府主体とのパートナーシップの強化が不可欠である。我が国の国際的な議論におけるプレゼンスの向上、高い国際的な地位の維持の観点で、国際的なルールづくりに積極的に関与することは極めて効果的である。また、G7、G20、ASEAN、太平洋島嶼国、中央アジア、南アジア、アフリカ諸国等に対し、気候変動を始めとする環境問題の分野別及び統合的な対策を実施し、我が国と他国・地域との間で協力関係の構築や、他国・地域の環境問題の解決へ貢献することは、これらの国々、地域とのパートナーシップ強化にもつながる。さらに、地球規模の環境問題における非政府組織の役割の重要性に着目し、政府間だけではない、自治体や企業等も含めた多層的な国際協力を追求する視点も欠かせない。特に、GHG 排出の約4分の3を占める133都市での取組は重要であり、知見・経験を国際的に共有するため、都市間の連携も促進していくべきである。併せて、国際的に環境に関する公平や正義、公正な移行、人権に関する議論が盛んになっており、こうした議論にも適切に対応していくことが求められる。
経済安全保障の観点からも、厳しい国際情勢を踏まえ、熾烈化する国際競争に対し、環境を軸として十全に対処する必要がある。天然資源の争奪を巡っては、世界全体の持続可能性の向上に向けた取組の強化が喫緊の課題である。また、環境問題は国際的な科学協力に立脚しており、サイエンス・ディプロマシー(外交のための科学)の観点が不可欠であり、経済安全保障やサイエンス・ディプロマシーを実現するための基盤となる、科学技術・イノベーション施策の推進が求められる。
さらに、日本企業が技術や運用ノウハウ等で優位性を有する環境性能に優れた製品や廃棄物等の環境関連インフラも多く、我が国の成長につながる市場を国際的に拡大していくことが期待される。
2030 年に向けて、各国のNDC 達成及びネット・ゼロに向けた更なる野心の引き上げを目指し、気候変動・生物多様性・資源循環のシナジーを高める必要がある。また、グローバル・サウスの成長、世界の多様化が進む現状を踏まえ、国家及び自治体、さらには企業レベルで多層的に、また、アジアを始めとする各地域内や地域間の連携を強化し、先進事例の横展開や波及を通じ、優れた脱炭素技術を始めとする環境インフラの海外展開等による民間投資の拡大を通じ、環境・気候変動対策と持続可能な社会の構築の好循環を加速させる。
環境を軸とした国際協調を発展させ、世界の安定と人類の福祉に貢献するため、環境分野における国際的な議論における我が国のプレゼンス向上を目指す。2023 年にG7議長を務めた経験も踏まえ、気候変動、生物多様性の損失、汚染という3つの世界的危機への対応に当たって、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等を統合的に実現し、シナジーを最大化しながら、国際議論を先導し、ルール作りに貢献していく。
2023 年 11 月~12 月に開催されたCOP28 において実施された、パリ協定の目標達成に向けた世界全体の進捗を評価する第1回グローバル・ストックテイクの中で、現状各国が掲げる削減目標を積み上げても1.5℃目標は実現できないことが明らかになった。我が国は 2030 年度目標に向けて着実に排出削減を進めており、この実績を世界に示しつつ、パリ協定の運用を通じて、1.5℃目標の達成に向けた世界全体の気候変動対策の野心を向上する議論に積極的に貢献していく。
具体的には、1.5℃目標達成のため、2025 年までに提出する次期 NDC が全ての温室効果ガス、セクター、カテゴリーをカバーし、利用可能な最良の科学に基づき、1.5℃目標に整合した、野心的な排出削減目標となるよう、我が国から全ての締約国に働きかけを行うとともに、ネット・ゼロ目標の策定、正確な温室効果ガス排出情報の整備、都市レベルの連携等、必要な途上国支援を実施する。また、各国と連携して、パリ協定第6条(市場メカニズム)、持続可能なライフスタイルへの移行等を推進する。
2022 年12 月の生物多様性条約第15 回締約国会議(CBD-COP15)で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)は、2030 年までの生物多様性に関する世界目標である。今後 2030 年までに開催される CBD-COP 等における GBF のゴール及びターゲットの達成に向けた進捗状況の把握のための指標策定に向けた議論に貢献するとともに、2030 年以降のポストGBF、さらにはポスト2030 アジェンダを見据え、自然環境と持続可能な開発目標に関する幅広い国際議論への戦略的貢献を進める。技術的な観点では、APBON を通じた生物多様性観測の国際連携、また、IPBES 等による生物多様性の状態評価・将来予測・シナリオ分析に関する国際議論への貢献を一体的に推進する。
新興国等における化学物質管理の強化や、国際的な化学物質管理制度の協調に向けて、我が国の知見等の共有を含めた対応を引き続き推進していく。
また、我が国の優れた水銀対策技術の海外展開を図り、水俣病経験国として世界の水銀対策及び水俣条約の推進に貢献する。さらに、GFC の運用細則策定に際し、地域代表として検討を主導するほか、化学物質と廃棄物の適正管理及び汚染の防止に関する科学・政策パネル設置交渉において、我が国の知見・経験を活用し、合意形成に貢献する。加えて、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約においても、我が国が有する科学的知見に基づき条約の着実な実施を推進する。
我が国は、2019 年のG20 大阪サミットでの「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の共有に続き、2023 年5月のG7広島サミットでは、2040 年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心を示し、国際的議論をリードした。プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた政府間交渉委員会(INC)等の国際交渉においても、我が国として積極的に議論に貢献する。併せて、プラスチックを含む海洋ごみのモニタリング手法の調和を推進することにより、国際的なルールの基盤となる科学的知見の充実に貢献する。また、多国間及び二国間の枠組みの下での情報共有や国際協力、特にアジア地域におけるプラスチックを含む海洋ごみの実態把握や資源循環の促進・普及啓発等を通じた発生抑制に貢献する。
ESG金融を含むサステナブルファイナンスが急速に拡大する中、気候変動に加え、循環経済や生物多様性等に関する企業の情報開示が重要性を増しており、今後はこれらの分野に係る国際ルールの形成がさらに進行すると考えられる。このため、ISO/TC323(サーキュラーエコノミー)や TC331(生物多様性)といった新しい国際規格について日本からの提案を推進するための調査等を実施する。
こうした新たな国際ルール作りを我が国が主導できるよう、CEREP やTNFD 等に係る国内企業の対応支援を行うとともに、これらの枠組みの基盤となる国際的なデータの標準化の提案等を行うことのできる拠点の形成等を行う。
ASEAN、太平洋島嶼国、南アジア、アフリカ諸国等の途上国に対し、気候変動・環境対策の各分野での我が国からの貢献を行うことにより、地球環境問題の解決に寄与するとともに、これらの国々とのパートナーシップ強化を図る。
JCMを通じて、優れた脱炭素技術等、製品、システム、サービス、インフラの普及や緩和活動の実施を加速し、途上国の持続可能な開発に貢献する。また、民間資金を動員しつつ、海外での事業展開やインフラ整備等を通じて当該技術・ノウハウに磨きをかけ、国内外の市場で更なる環境性能や付加価値のある製品やインフラ展開を促進することが重要である。また、需要側対策として、消費者の行動やライフスタイルの変容も促進する。
現在も運用を続けているGOSAT, GOSAT-2や2024年度に打上げ予定のGOSAT-GWなど、GOSATシリーズによる全球規模での継続的な観測、国・都市レベルでの排出量推計の実施、推計手法の国際標準化、二国間支援等を通じて、途上国を含む各国の排出量の国連への報告及び削減取組の透明性向上に貢献する。また2030 年代以降も途上国を含む地球全体の気候変動に関する科学の発展や国・都市レベルでの排出量推計の高精度化等に継続的に貢献するため、国際的な動向を踏まえた温室効果ガス観測衛星の後継機の検討を進める。
気候変動に対して脆弱な国からの、適応、ロス&ダメージへの支援のニーズは高い。自然災害の多い日本においては災害対応のノウハウや知見、技術があり、優れた気象・気候変動予測技術・サービスなどを持っている。各国、各地域のニーズに応じたきめ細やかな支援を、ジェンダー平等や地域住民の参画等を促進し、考慮しつつ進める。また、持続可能な支援の在り方として、適応ビジネスの海外展開を促進する。海外展開に向けては、気候変動による社会経済や生物多様性への影響の軽減だけでなく、自然を活用した解決策(NbS)や生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)、緩和策等とのコベネフィットを目指す。
アジア地域を始めとする途上国において依然として深刻な課題である水・大気環境汚染への対策を促進するため、アジア水環境改善パートナーシップ(WEPA)、大気汚染物質全般に対象を拡大した東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET) 等の多国間の枠組み、日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)の下での大気汚染政策対話と黄砂共同研究、国連環境計画(UNEP)、クリーン・エア・アジア(CAA)、国際応用システム分析研究所 (IIASA)等と連携した大気汚染対策と気候変動対策のコベネフィット・アプローチの推進、二国間の協力等を通じて、我が国の知見・経験の共有、技術移転、能力開発等の国際協力を推進する。
我が国における「みどりの食料システム戦略」に基づく取組は、気象条件や農業生産構造の類似するアジアモンスーン地域の持続的な食料システムのモデルとなり得るものであり、2023 年10 月の日ASEAN 農林大臣会合において採択された「日ASEANみどり協力プラン」に基づき、ASEAN 各国のニーズに応じながら、我が国の技術や経験を活かした協力プロジェクトを推進する。
2023 年のG7の成果を踏まえて、世界におけるネット・ゼロ社会の実現に貢献するため、途上国における違法伐採対策を含む持続可能な森林経営と木材利用の促進を支援する。FAO やITTO 等による国際的なイニシアティブ「持続可能な世界のための持続可能な木材利用(SW4SW)」等や関心国とも連携した取組を展開・発信していく。
脱炭素化の実現のために必要不可欠なベースメタル(銅等)やレアメタル(リチウム、コバルト等)の需要が高まっており、世界的に鉱物資源等の需給逼迫や価格高騰、さらには供給途絶リスクが顕在化している。国際的なバリューチェーンにおける徹底した資源循環を促進することで、気候変動、生物多様性損失、汚染等の環境負荷を大幅に低減するとともに、我が国の経済安全保障にも貢献する。
国際資源パネル(IRP)のレポートにおいて、世界の天然資源の採取と加工が、地球全体の温室効果ガス排出量の要因の約半分、生物多様性の損失と負の水ストレスの要因の 90%、粒子状物質の健康影響の約3分の1を占めると指摘されている。このため、国際的な環境負荷削減と経済安全保障の両面から、企業の国際的なバリューチェーンにおける循環性を強化し、天然資源利用の削減を進める。国内外の重要鉱物等を含む金属資源循環を、適正で高度なリサイクル等を通じて強化する。
我が国の、人が手を入れることで自然の価値を維持・向上させていく自然との関わり方や、「もったいない」を始めとする資源循環の価値観は、世界に誇るべき資質であり、我が国のみならず気候・風土・文化を共有するアジア諸国の特色である。この強みをさらに磨き上げて国際的に評価されるよう取り組み、アジア諸国を始めとする国際的な取組をリードしていくべきである。大阪・関西万博とも連携しながら、地域循環共生圏を始めとする我が国の優れた取組を海外に発信・展開する。
我が国の技術や知見を最大限活用し、気候変動、生物多様性の損失、汚染という3つの地球的危機を克服し、SDGs の目標を統合的に達成するため、相互に関連するこれら問題の相乗効果(シナジー)を拡大し、トレードオフを最小化する取組を我が国が主導して進めることで、ネット・ゼロで、循環型で、ネイチャーポジティブな経済の実現を目指す。そのため、2024 年3月に国連環境総会において我が国が提案し、採択された決議を基にして、各国や国際機関と連携し、自然を活用した解決策(NbS)などシナジーの好事例を集め、それを基に政策立案のためのガイダンスを策定する。IPCC、IPBES や IRP 等と連携して、シナジーの科学的分析を進め、その活動を支援する。シナジーを実現する取組に資金が流れるようにするため、政府開発援助や国際開発金融機関においてシナジーの観点を主流化することに加え、企業のバリューチェーンでの情報開示を進める。
ASEAN・OECD 各国等海外で発生した重要鉱物資源を含む金属資源について、日本の環境技術の先進性を活かした適正なリサイクルを増加させ、サプライチェーンで再利用する国際金属資源循環体制を構築する。また、我が国が主導する国際的なプラットフォームを活用し、アジア及びアフリカの途上国における循環経済移行や処分場からのメタンの排出削減を含む廃棄物管理の取組を促進し、我が国の優位性のある廃棄物管理等の需要拡大を図り、循環産業の国際展開・循環インフラ輸出につなげる。
フロン類のライフサイクルマネジメントの取組の推進を目的として日本が設立した「フルオロカーボン・イニシアティブ(IFL)」により、国際的なリーダーシップを発揮しながら、日本の経験をいかしつつ、エネルギー効率の高いノンフロン機器の普及、フロン類の使用時漏えい防止や廃棄時の回収・破壊・再生に係る途上国への技術協力等を通じて、世界全体の脱フロン化及び市中のフロン類の排出削減に貢献する。
公害対策、自然保護から始まった環境政策は、その後、気候変動問題、廃棄物問題、生物多様性問題など、地球規模の環境問題へと広がりを見せ、それらへの対策として国際的な協調・連携を図りつつ、各分野における政府の計画が策定され、対策が推進されてきた。その一方でまだ取組が十分でない点もあることから、引き続き、循環型共生社会、地域循環型共生圏の実現を目指し、「新たな成長」の視点を踏まえ、環境負荷の総量を削減し、ウェルビーイングの実現を図るため、横断的な施策である6つの重点戦略のほか個別分野の重点的施策を着実に推進するとともに、対応が不十分な点については、その対策を強化する必要がある。
2023 年3月に公表されたIPCC 第六次評価報告書統合報告書においては、「人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がない」「継続的な温室効果ガスの排出は更なる地球温暖化をもたらし、短期のうちに1.5℃に達する」との厳しい見通しが示された。これは、この 10 年間に全ての部門において急速かつ大幅で、即時の温室効果ガス排出削減が必要であることを示すものであり、人類に対する科学の強いメッセージである。
また、同報告書においては、地球規模のモデル解析において、世界の気温上昇を1.5℃に抑えるために残されたカーボンバジェットは 500 GtCO2-eq(50%の確率での最良推定値)であること、世界全体の温室効果ガス排出量を 2030 年までに 2019 年の水準から約 43%(34%~60%)削減し、2035 年までに約 60%(49%~77%)削減する必要があることが示された134。
COP28におけるグローバル・ストックテイクに関する決定においても、こうした科学的知見を踏まえつつ、1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性を強調した。また、同決定においては、2025 年までの排出量のピークアウト、全ガス・全セクターを対象とした野心的な排出削減に加え、各国ごとに異なる道筋を考慮した分野別貢献として、世界全体での再生可能エネルギー発電容量3倍・エネルギー効率改善率2倍、エネルギー・システムにおける化石燃料からの移行135等が明記された。
1.5℃目標に向けては、我が国はもとより、世界各国がどれだけ削減の野心を高め、実現できるかが鍵となる。そのため、我が国は、利用可能な最良の科学的知見に基づき、取組の十全性(スピードとスケール)の確保を図るとともに、我が国が有する技術・ノウハウを活用し、官民で連携しながら、世界全体の気候変動対策に取り組んでいく。
我が国は、1.5℃目標と整合的な形で、「2050年カーボンニュートラル136」「2030 年度46%削減、さらに 50%の高みに向けて挑戦を続ける」という目標を掲げており、2021年度時点で 2013 年度比 20.3%削減と着実に実績を積み重ねてきている。目標達成に向けて、2035 年までの電力部門の完全又は大宗の脱炭素化というG7の合意も踏まえつつ、地球温暖化対策計画(2021 年10 月閣議決定)、更には脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX 推進戦略)(2023 年7月閣議決定)等に基づき、徹底した省エネの推進、再エネの最大限導入など脱炭素電源への転換を進めるとともに、脱炭素成長型経済構造移行債(GX 経済移行債)を活用した 20 兆円規模の先行投資支援など成長志向型カーボンプライシング構想の速やかな実現・実行等、引き続きあらゆる施策を総動員しながら加速化していく。
その上で、2025 年までの国連提出が奨励される次期 NDC(Nationally DeterminedContribution)については、同年までの提出を目指し、3年ごとの地球温暖化対策計画の見直しの検討や IPCC の科学的知見等を踏まえつつ、検討を加速していく。その際、地球温暖化対策計画の見直しの中では、第1部など本計画で示された方向性や、地域や都市に関する取組、パリ協定6条の活用、森林を始めとする生態系を活用した吸収源対策などグローバル・ストックテイクに関する決定に記載された事項等も踏まえつつ、検討を行う。
IPCC 第六次評価報告書によると、世界の平均気温は工業化以前に比べて 2020 年頃までに約 1℃上昇しており、極端な高温、大雨、干ばつなど、またそれらに伴う生態系や人間システムへの影響が既に生じている。
我が国においても、世界平均を上回る速度で進みつつある年平均気温の上昇、大雨の頻度の増加等により、農産物の品質の低下、災害の増加、熱中症のリスク増加など、気候変動の影響が全国各地で現れており、気候変動問題は、人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」である。
一方、2050 年ネット・ゼロ実現に向け、気候変動対策が世界全体として着実に実施され、世界の気温上昇が 1.5℃程度に抑えられたとしても、熱波のような極端現象や大雨等の変化は避けられないことから、現在生じている、又は将来予測される被害を回避・軽減するため、気候変動への適応や気候変動の悪影響に伴う損失及び損害(ロス&ダメージ)への対応についても、緩和策と同様に喫緊の課題として取り組むことが必要となる。
このため、多様な関係者の連携・協働のもと、気候変動適応法及び適応計画を礎として気候変動適応策を着実に推進していく。また、適応策に優先的に取り組むべき分野や最適な適応策は地域によって異なるため、地域の実情を踏まえて、地域気候変動適応計画137を策定し同計画に基づく適応策の推進に取り組んでいく。地域の実情を踏まえた計画策定や適応策の推進に当たっては、自治体や地域気候変動適応センターの果たす役割が重要であり、その能力強化に向けた取組を推進する。
気候変動への適応はビジネスの分野においても重要となる。適応に戦略的に取り組むことはバリューチェーンとしての持続可能性を高めるだけでなく、新たな事業(適応ビジネス)の機会創出など企業の競争力を高めることにもつながるため、企業の適応力強化に向けた取組を促進していく。
適応策の検討・実施にあたっては、最新の科学的知見に基づく気候変動の影響評価や予測を踏まえる必要があるため、気候変動予測データの創出等の科学的知見の充実に加え、それらの提供やアクセス性の向上、知見活用のための能力強化に取り組んでいく。さらに、適応の推進にあたっては、国民を始めとする多様な関係者が自分ごととしてとらえるとともに、その行動変容を促す必要があることから、科学的知見の理解が促進されるよう、普及啓発や広報に取り組んでいく。
併せて、防災、農林水産業、生物多様性保全を始め社会経済的側面を含む多岐にわたる分野の施策への組み込み、緩和策とのコベネフィットの評価など、統合的な課題解決とシナジー強化に引き続き取り組んでいく。
このような地域や企業、科学的知見に関する取組などを海外に展開していくことにより、とりわけ発展途上国において関心が高い気候変動への適応やロス&ダメージ対策についての国際支援に取り組むとともに、日本の優れた技術やサービスの海外展開により適応ビジネスの拡大にも取り組んでいく。
循環型社会の形成については、循環型社会形成推進基本法(平成 12 年法律第 110 号)に基づき、本計画とも整合する形で、令和6年夏までに、第五次循環型社会形成推進基本計画を策定し、第五次循環型社会形成推進基本計画に位置付けられた施策に基づき、循環経済への移行を加速化することで、循環型社会の形成、そして持続可能な地域と社会づくりを目指していく。
バリューチェーン全体における資源の効率性及び循環性の向上等に効果的な循環経済アプローチを推進し、循環経済とネット・ゼロ、循環経済とネイチャーポジティブ、又はこれら3つ全てに関する統合的な施策を実施することで、循環経済への移行を進め、ネット・ゼロやネイチャーポジティブや地方創生・地域活性化の実現、国際的な産業競争力強化、経済安全保障に貢献しながら、循環型社会を形成し、持続可能な社会を実現する。
製造業・小売業などの動脈産業における取組と廃棄物処理・リサイクル業など静脈産業における取組が有機的に連携する動静脈連携による資源循環を加速し、中長期的にレジリエントな資源循環市場の創出を支援する。また、成長戦略フォローアップ工程表や循環経済工程表等も踏まえ、2030 年までに循環経済関連ビジネスの市場規模を80兆円以上にするという目標に向け、グリーントランスフォーメーション(GX)への投資を活用することなどにより、循環経済への移行を推進する。
動静脈連携により資源循環を促進するに当たっては、製品の安全性の確保、有害物質のリスク管理、不法投棄・不適正処理の防止等の観点にも留意し、各主体による適正な取組を推進するとともに、環境への負荷や廃棄物の発生量、脱炭素への貢献といった観点から、ライフサイクル全体で徹底的な資源循環を考慮すべき素材や製品について更なる取組を進める。また、循環資源の分別・収集・利用等に関して、消費者や住民との対話等を通した、これらを活かした前向きで主体的な意識変革や環境価値の可視化等により、行動変容や具体的取組につなげる。
ネット・ゼロやネイチャーポジティブにも資する持続可能な地域、資源生産性の高い循環型社会を形成していくため、各地域の自然資本にも配慮しながら、循環資源を各地域・各資源に応じた最適な規模で循環させる取組を推進する。地域の再生可能資源を継続的に地域で活用すること、地域のストックを適切に維持管理してできるだけ長く賢く使っていくことにより、資源投入量や廃棄物発生量を抑え、持続可能で活気のあるまちづくりにつなげていく。
また、製造業や廃棄物処理・リサイクル業と自治体や市民といった地域の各主体が主体的かつ連携して参画し、地域の循環資源や再生可能資源の特性を生かして高い付加価値を創出する資源循環の取組を創り出すことで新たなイノベーションを生み出すとともに、その資源循環の取組の自立・拡大を促進することで地域外からの人材流入や雇用の創出等により地域経済を活性化させ、交流人口の増加や地域への投資を通して魅力ある地域づくりといった副次的な効果も生み出し、それが他の地域の新たな資源循環の取組を誘発する好循環を生み出すといった動きを地域から他の地域や全国に広げて国全体の成長につなげていく。
プラスチック等の海洋ごみの実態を踏まえて、陸域を含めた効果的・効率的な発生抑制対策・回収・処理が行われ、国際連携も強化されることで、海洋ごみ・プラスチック汚染問題が解決した社会を目指す。
使用済製品等の解体・破砕・選別等のリサイクルの高度化、バイオマス化・再生材利用促進、急速に普及が進む新製品・新素材についての3R確立、環境負荷の見える化など、地域及び社会全体への循環経済関連の新たなビジネスモデル普及等に向けて必要な技術開発、トレーサビリティ確保や効率性向上の観点からのデジタル技術やロボティクス等の最新技術の徹底活用を行うことにより資源循環・廃棄物管理基盤の強靱化と資源循環分野の脱炭素化を両立させる。
平時から災害時における生活ごみやし尿に加え、災害廃棄物の処理を適正かつ迅速に実施するため、国、地方公共団体、研究・専門機関、民間事業者等の人的支援や広域処理の連携を促進する等、地方公共団体レベル、地域ブロックレベル、全国レベルで重層的に廃棄物処理システムの強靱化を進め、災害廃棄物を適正かつ迅速に処理できる社会を目指す。
廃棄物を適正に処理するためのシステム、体制、技術が適切に整備された社会を目指すとともに、3R+Renewable を徹底し、これを徹底した後になお残る廃棄物の適正処理を確保する。また、廃棄物の不適正処理への対応強化・不法投棄の撲滅・有害廃棄物対策を着実に進めるとともに、PCB 廃棄物の期限内の確実かつ適正な処理を推進する。
放射性物質により汚染された廃棄物の適正処理及び除去土壌等の最終処分に向けた減容・再生利用などを地方公共団体等の関係者と連携しつつ、政府一体となって着実に進め、東日本大震災の被災地の環境再生を目指す。
G7、G20、OECD、ASEAN 等の国際的な場や二国間協力・多国間協力の場において我が国が3Rを含む循環経済・資源効率性の施策や資源循環に関する国際合意、再資源化可能な廃棄物等の適正な輸出入、プラスチック汚染対策に関する議論及び国際的な資源循環に関する議論をリードする。また、国際機関や民間企業等と連携し、バリューチェーンや組織レベルでの循環性等の国際的なルール形成をリードする。
日ASEAN のパートナーシップやG7で合意された重要鉱物等の国内国際的な回収・リサイクルの強化等に基づき、国際的な資源循環体制を構築する。
二国間や多国間協力の枠組み等を踏まえ、資源循環に関する我が国の優れた制度・システム・技術などをパッケージとしてASEAN をはじめとする途上国等へ海外展開することで、適正な廃棄物管理及び資源循環の強化を図り、環境汚染等の低減に貢献し、世界の資源制約を緩和する。
生物多様性の確保・自然共生の取組については、2022 年の生物多様性条約第 15回締約国会議で採択された新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえ、生物多様性基本法に基づき策定された生物多様性国家戦略2023-2030 に掲げられた五つの基本戦略にのっとり、各種施策を進めていくことで、2030 年までに、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる『ネイチャーポジティブ:自然再興』を実現し、2050 年ビジョンである自然共生社会の実現につなげていく。その際、第2章の重点戦略及び第3部の環境保全施策の体系を踏まえて施策を推進する。
我々の暮らしを支える基盤としての健全な生態系を確保するために、2030 年までに陸と海の 30%以上を保全する 30by30 目標の達成を指標としつつ、国立・国定公園等の保護地域の拡充や「保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域」(OECM)の効果的な設定、劣化した生態系の再生等を推進し、自然資本を軸とした国土のストックとしての価値の向上の視点を踏まえ、国土全体にわたって普通種を含めた生物種の生息・生育・繁殖地の確保と連結性の向上を図っていく。
野生生物の保全・管理に当たっては、二次的自然に生息する種も含めた希少な野生生物の生息域内保全とそれを補完する効果的な生息域外保全・野生復帰等の実施、広域的な捕獲を含めた鳥獣の適切な個体群管理とその担い手確保、外来種対策における緊急に対処が必要な生物や広く飼育され安易な遺棄が懸念される生物などの個別種に焦点を当てた取組等、喫緊の課題を的確に対応しつつ進める。
自然の恵みを生かして多様な社会課題の解決につなげ、人間の幸福と生物多様性の両方に貢献する自然を活用した解決策(NbS)の考え方を重視し、特に、自然生態系の気候変動緩和機能(吸収源)や適応機能(防災・減災)等を効果的に発揮させるために、森林や湿地、沿岸生態系等の保全、再生を推進していくことに加え、バイオマス資源の活用による里山の適切な管理を通して、気候変動対策と生物多様性保全のシナジーの強化を図っていく。また、自然環境の保全上の支障をきたす形での再生可能エネルギーの導入を防ぐなど、気候変動対策と生物多様性保全のトレードオフの回避・最小化しつつ、地域の自然の恵みを損なうことなく地域の合意形成に十分配慮した地域共生型の再生可能エネルギーの積極的な導入など気候変動対策の推進を図っていく。
地方における高齢化や過疎化といった課題に対しては、国立公園満喫プロジェクトや公園利用施設の維持管理・更新、エコツーリズムの展開等により、地方の豊かな自然の恵みと、その自然環境に根ざした伝統文化を保全活用していくことを通して、観光振興や産業・雇用の創出、都市との交流拡大等を図り、自然環境の保護と利用の好循環を形成し、持続的に豊かで活力ある地域づくりを推進する。
鳥獣による被害を低減し人との軋轢を緩和するため、里地里山の資源利用やゾーニング等を通じた人と鳥獣のすみ分けの取組を進めるとともに、被害防止対策や捕獲による個体群管理、市街地等に出没させない環境管理、捕獲した鳥獣の有効利用による地域振興等、共存に向けた取組を進める。
ネイチャーポジティブを実現する持続可能な経済活動の実現に向けては、自然資本が外部経済をもたらし、またその損失が外部不経済を発生させている現状を踏まえ、様々な手段でその内部化を図る必要がある。
その一環として、政府と事業者等が連携し、生物多様性・自然資本と関連する事業活動におけるリスクや機会の評価、目標設定、情報開示等を推進する。
また、ESG 金融等を通じて、生物多様性・自然資本に関わるリスク・機会を組み込んだ経済への移行を実現し、ビジネスがネイチャーポジティブ実現のドライバーとなるための施策について実施する。
ネイチャーポジティブの実現に向けては、個人・団体レベルでの生物多様性に配慮した日々の生活や取組に加え、消費や使用を通じてサプライチェーンの一部を形成する生活者・事業者や投資家等への働きかけも極めて重要である。このため、新たな技術等も活用しつつ、かつての生活・消費活動と生物多様性の密接な関わりを取り戻し、かつ、より深化させるための施策を実施する。施策の実施に当たっては、生物多様性への関わり方や理解が性別や世代等によって異なることがあることも踏まえて、ジェンダーの観点や若者への発信等も含めて対応する。
こうした施策については、自然とのふれあいの促進や、人と動物の共生する社会の実現等の施策を通じて一人一人が「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できることにより更に推進されていく。
生物多様性の保全と持続可能な利用に係る取組を効果的に進めるため、自然環境の現状と時系列・空間的変化を的確に把握し、我が国の生物多様性の評価につながる基礎的な調査・モニタリング(自然環境保全基礎調査、モニタリングサイト 1000 等)の充実と利活用しやすい情報整備を行うとともに、新技術を用いた調査手法(環境DNA 等)の実装、調査体制の発展・育成に向けた担い手の確保や活動支援を進める。また、生物多様性に係る取組全体を底上げするため、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずるとともに、各ステークホルダーの連携による横断的な取組を推進する。
さらに、地球規模での生物多様性とその持続的な利用に向けて、公平かつ実効性のある国際的なルールの形成への積極的関与を行っていくほか、地球規模での生物多様性の保全への貢献のため、我が国の知見や経験を生かした国際協力や自然を活用した解決策(NbS)を通じた生物多様性以外の環境分野の課題への対処に資する取組、IPBESへの貢献、アジア・太平洋地域における砂漠化対処のための調査等の取組を進める。
大気、公共用水域、地下水、土壌等の汚染・汚濁を防止することにより、国民の健康と生活環境を守るための施策は、環境行政の出発点であり、今後も揺るぎなく着実に推進していく。
生存基盤たる水・大気・土壌環境については、環境基準を達成し、また、継続的な改善を図るため、「大気汚染防止法」、「水質汚濁防止法」、「土壌汚染対策法」等関連法令に基づく対策を引き続き適切に実施していく。
特に、行政上の目標である環境基準について、最新の科学的知見の収集に努めるとともに、環境基準の達成率の高い項目についてはその維持及び更なる改善に努め、達成率の低い項目についてはその向上を目指した諸施策を講じ、公害の発生を未然防止に努めるとともにボトルネックとなるメカニズムの解明にも努める。
また、環境基準が設定されていない物質等についても、科学的知見に基づき、必要に応じて、目標値の設定や自主的取組の促進など、国民の安全・安心の確保のための諸施策を講じる。
2050年ネット・ゼロの達成に向け、再生可能エネルギーの利用拡大や電動車の普及拡大などの施策について、環境保全対策と気候変動対策の両方の観点から最適になるように留意しつつ、進めていく。光化学オキシダントの低減は両方の対策にとって効果的(コベネフィット)な施策であり、優先的に取り組む。また、気候変動による水環境への影響が懸念されることから、気候変動への適応と水質保全及び生態系保全の両立を図る。
生物の産卵場所、生息・生育の場、水質浄化、二酸化炭素の吸収・固定等の多面的な機能の発揮やOECM を通じた海の 30by30 への貢献の観点から、藻場・干潟の保全・再生・創出を進めるとともに、藻場・干潟も含めた沿岸域の地域資源の利活用を進め、保全と利活用の好循環を生み出す里海づくりを実施していく。水生生物の保全に係る水質環境基準の設定、海洋ごみ・プラスチック汚染対策の推進など、生物多様性の保全や気候変動、循環型社会の構築とコベネフィットな施策を推進する。さらに、ネイチャーポジティブの実現に向け、良好な環境の創出等を通じて自然を活用した解決策(NbS)を推進するなど、水、土壌環境においても生物多様性の保全の強化に資する施策や、自然環境や生物多様性を活用した施策の強化を講じる。土壌が有する炭素貯留、水源の涵養といった環境上の多様な公益的機能に関して、市街地等も対象にしつつ、より良い地域づくり等に活用しやすい形での情報の収集、整理等を図る。
水・大気環境政策により持続可能な社会を構築し次世代に引き継ぐためには、良好な環境を目指すとともに、人がその良好な環境とふれあい、良好な環境を持続可能なかたちで利用することによって、人々の満足度(ウェルビーイング)の向上や地域活性化など、地域に具体的なメリットを創出することが重要である。
このため、地域において、「良好な環境」を保全・再生・創出し、その価値を評価・発信し、その持続可能な利用を促進するための施策を講じる。
具体的には、良好な環境の創出に向けて、豊かな水辺、星空、音の風景等、地域特有の自然や文化の保全により、地域住民のウェルビーイングの向上と地域活性化を実現する取組、生物多様性の保全や地域づくり等にも資する総合的な水環境管理を目指すための取組、水道水源となる森や川から海に至るまで、OECM も活用した良好な環境の創出に取り組む地域を支援・連結した流域一体的な保全のモデルの構築、藻場・干潟の保全・再生・創出の促進と地域資源としての利活用との好循環を目指す里海づくりなどを実施する。
国連等の場で国際的な課題として対応が求められている窒素やプラスチック汚染を始めとして、各種栄養塩、化学物質等が水、土壌、大気といった様々な媒体にまたがって存在していることから、媒体横断的な視点から管理するとともに、脱炭素、資源循環、自然共生との統合的アプローチを推進する。
水・大気環境行政の課題に対応するため、施策の検討や検証の基盤となるデータの収集や分析、研究者とのコミュニケーションを更に行うなど、科学的知見を充実させる。
また、経験豊富な職員の高齢化や退職等により、技術者が持つ監視、分析、指導等の技術・ノウハウの継承等が喫緊の課題になっていること等を踏まえ、デジタル技術を活用した効率的な環境管理を推進するとともに、若手研究者等の人材育成、技術開発・継承の促進を行う。
途上国において、水・大気環境の汚染は依然として深刻な課題であり、また、我が国の水・大気環境は世界の水・大気環境と密接につながっていることを踏まえ、二国間・多国間の協力を通じ、アジア地域を始めとした途上国の水・大気環境の改善のための制度設計等の支援、技術支援、能力開発等の国際協力・連携を進めるとともに、多国間環境条約等の枠組みの形成・実施への貢献を通じて、国際社会と連携した水・大気環境の保全に努める。
化学物質は、材料、成形品、製品など、私たちの日常生活に不可欠なものとして世界的に重要な役割を果たしており、国連環境計画(UNEP)によると、世界の化学産業の規模は 2017 年から 2030 年までの間に倍増すると予測されている。化学物質は有用である反面、有害な面も持ち、各種国際枠組みによる従前の取組にもかかわらず、化学物質は大量に排出され続けている。我々の生活を便利で豊かにしてきた化学物質の負の側面を認識して、持続可能な社会の実現に向けて、より安全な化学物質の開発やリスクの削減に取り組むことが重要である。
汚染、気候変動、生物多様性の損失という3つの危機は相互に密接に関連しており、統合的な方法で対処する必要がある。こうした観点から、「プラネタリー・ヘルス」という概念が提唱されており、人間の健康と人類の文明は、豊かな自然システムとその賢明な管理によって成り立っているという理解に基づき、人間の健康は、地球の自然システムと一体的に捉える必要があると指摘されている。また、通常の事業活動や日常生活一般の人間活動に起因する環境への負荷の増大、気候変動による残留性有機汚染物質の挙動の変化の可能性、化学物質の混合物の環境と人体への影響の評価の必要性等も指摘されている。こうした問題に対処するには、事業者が規制的手法や情報的手法に従って対策を講じるのみならず、国民一人一人が地球環境の悪化を自らの健康と紐づけて考え、自主的、積極的に環境負荷の低減に資する行動を取ることが必要であり、そうした行動が報われ、積極的に取り組む主体にインセンティブが付与されるよう、化学物質管理施策のあり方を見直していく必要がある。
2023年9月、第5回国際化学物質管理会議(ICCM5)において採択された GFC は、こうした視点も入った内容になっている。同枠組みと同時に採択されたボン宣言では、説明責任や透明性、情報へのアクセス等を確保し、GFC に関わるすべての主体が包括的に参加することを目指しており、規制的手法にとどまらず、自主的で効果的な資源動員を通じた行動変容の促進が求められている。
GFC は、多様な分野(環境、経済、社会、保健、農業、労働等)における多様な主体(政府、政府間組織、市民社会、産業界、学術界等)の参画の下に国際的に合意されたものであり、各国は国内実施計画の策定を通じて実現を図っていくことが求められている。第五次環境基本計画までは、平成 18 年に合意された国際的な化学物質管理に関する戦略的アプローチ(SAICM)に沿って、国際的な視点に立った化学物質管理に取り組んできた。今後は、我が国の化学物質管理政策を、GFC で合意された5つの戦略的目的の達成に寄与するものとして、以下①~⑤のとおり整理して推進していく。
GFCの戦略目標Aでは、ライフサイクル全体を通じた化学物質管理のための法的枠組み、制度的メカニズム及び能力構築に取り組むことが掲げられており、我が国において、化学物質の安全で持続可能な管理を支援し、達成するため、関連法令の着実な施行に加え、事業者における適切な管理を支援する取組を進める。化学物質や廃棄物の国際取引に関しては、国際的な化学物質管理の協調に向けた取組とともに国際的な義務を果たしていく。また、農薬のうち有害性の高いものについては、リスク管理の徹底を図り、対応を進めていく。
可能となりアクセスできる状態の確保GFCの戦略目標Bでは、情報に基づいた意思決定と行動を可能にするため、化学物質に関する包括的で十分なデータ・情報が作成され、利用可能な形でアクセスできることが掲げられている。これを受けて、我が国においても、上流から下流まで及び再生段階を含めたライフサイクル全体を通じた素材・製品中の化学物質に関する情報の共有のさらなる促進や、化学物質の製造や化学物質の移動・排出データ、及び化学物質の人体中濃度、ばく露源、生物相や環境のモニタリングデータの収集・利用しやすい形での公開に努める。
また、多様な主体による適切な化学物質管理が可能となるよう、有害性評価・リスク評価や廃棄物管理の指針、最良の慣行、標準化ツールの整備・活用促進にも取り組む。併せて、化学物質に関する安全性や持続可能性、安全な代替品、化学物質や廃棄物のリスク削減の社会的なメリットに関する教育、研修、意識啓発プログラムの策定・実施を促進する。さらに、化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)の利用を引き続き促進する。
また、多様な主体(政府、政府間組織、市民社会、産業界、学術界等)間でのリスクコミュニケーションを促進する。
GFCの戦略目標Cでは、懸念課題の特定、優先化、対応を順次進めていくことが掲げられ、附属書にそのための手順が定められた。次回の国際化学物質管理会議開催までの間は、SAICM で取り上げられてきた新規政策課題及びその他懸念課題に引き続き取り組むこととされており、これら国際的に取り上げられている事項について引き続き対応していく。
GFCの戦略目標Dでは、製品のバリューチェーンにおいて、より安全な代替品と革新的で持続可能な解決策を整備することにより、人の健康と環境への利益を最大化し、リスクを予防するか最小化することが掲げられている。このため、民間部門において、民間企業におけるサステナブル・ケミストリーと資源効率性の進展に向けた取組や投資を推進し、財務管理やビジネスモデルへの適正管理の実施戦略等の統合及び国際的報告基準等の適用への取組が国際的に進められると期待されるところ、我が国としてもその促進策を検討するとともに、安全な代替や持続可能なアプローチを使用する生産を奨励する政策手法を検討していく。
併せて、研究やイノベーションにおいて持続可能な解決策やより安全な代替物質を優先するための方策の検討、化学農薬や化学肥料の使用低減など環境と調和のとれた食料システムの確立、事業者が化学物質管理指針に留意して適切な管理等を行うよう、関係法令の適切な執行や周知に努める。
GFCの戦略目標Eでは、化学物質管理に関連するすべての意思決定プロセスへの統合等を通じて実施を強化するため、国の策定する各種計画等において化学物質と廃棄物の適正な管理を主流化すること、パートナーシップやネットワークを強化し、適正管理に必要な資金の特定・動員、資金ギャップの特定、キャパシティビルディングの促進、適正管理に関する費用を内部化することが掲げられている。
我が国においても、本計画への位置づけを含めて化学物質と廃棄物の健全な管理の主流化に取り組むとともに、気候変動対策、生物多様性保全といった他の主要な環境政策や保健政策、労働政策との間のシナジーを生かした取組を検討していく。
公害により健康が一旦損なわれると、それを取り戻すことが不可能又はその回復を図ることが極めて困難なものであり、健康被害を未然に防止し、又は不幸にして健康被害が発生した場合に速やかにその救済を図ることは、環境行政の出発点であり、最も重要な役割である。このため、公害による健康被害については、(1)及び(2)に掲げた施策を含め、予防のため の措置を適切に講じ、被害者の発生を未然に防止するとともに、被害者に対しては迅速かつ公正な保護及び健康の確保を推進する。
熱中症対策については、全ての関係者が熱中症予防行動を理解、実践し、日頃から熱中症に対する備えを万全とするよう、熱中症対策の一層の強化を図ることとする。
「公害健康被害の補償等に関する法律」(昭和 48 年法律第 111号。以下「公害健康被害補償法」という。)に基づき、汚染者負担の原則を踏まえつつ、認定患者に対する補償給付や公害保健福祉事業を安定的に行い、その迅速かつ公正な救済を図る。
環境再生保全機構に造成された公害健康被害予防基金の運用益等により、大気汚染の影響による健康被害を予防するために調査研究等の必要な事業を行い、地域住民等の健康の確保を図る。
1987年の公害健康被害補償法改正(第一種地域指定解除)に伴い、地域人口集団の健康状態と大気汚染との関係を定期的・継続的に観察し、必要に応じて所要の措置を講ずることを目的として、環境保健サーベイランス調査を実施する。
水俣病対策については、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」(平成 21 年法律第 81号。以下「水俣病被害者救済特措法」という。)等を踏まえ、すべての被害者の方々や地域の方々が安心して暮らしていけるよう、関係地方公共団体等と協力して、補償や医療・福祉対策、地域の再生・融和等を進めていく。
「石綿による健康被害の救済に関する法律」(平成 18 年法律第4号。以下「石綿健康被害救済法」という。)に基づき、石綿による健康被害に係る被害者等の迅速な救済を図る。また、2023 年6月に取りまとめられた中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会の報告書を踏まえ、石綿健康被害救済制度の運用に必要な調査や更なる制度周知等の措置を講じていく。
熱中症対策は、気候変動対策の適応策の中でも、全ての世代の国民の生命や生活に直結する深刻な問題であり、関係する分野も多岐にわたる。熱中症対策の推進や強化に当たっては、日頃から国、地方公共団体、事業者等の関係者で連携し、熱中症予防行動等に関する効果的な普及啓発や積極的な情報提供を行い、熱中症警戒情報を活用し、「自助」や周囲の人々や地域の関係者等の「共助」により、あらゆる主体が熱中症予防行動をとるように促す必要がある。また、高齢者やこども等の熱中症弱者のための対策を進めるとともに、産業界との連携や調査研究等、基盤の整備を行う。
さらに、気温が特に著しく高くなることにより重大な健康被害が生じるおそれがある場合には、自助・共助のみならず、気候変動適応法(平成 30 年法律第 50 号)に基づき発表される熱中症特別警戒情報や、同法に基づき指定される指定暑熱避難施設の活用を含め、行政による「公助」の積極的な実施等、国、地方公共団体、事業者等全ての主体において機動的かつ速やかに対策を行う。
具体的には、熱中症対策実行計画(令和5年5月閣議決定)に基づき、以下の8つを柱とする取組を進める。
・命と健康を守るための普及啓発及び情報提供・高齢者、こども等の熱中症弱者のための熱中症対策・管理者がいる場等における熱中症対策・地方公共団体及び地域の関係主体における熱中症対策・産業界との連携・熱中症対策の調査研究の推進・極端な高温の発生への備え・熱中症特別警戒情報の発表・周知と迅速な対策の実施
持続可能な社会の実現に向けて計画などを策定する段階から環境配慮の組み込みを図るとともに、国、地方公共団体及び関係団体等が連携・協力した環境影響評価制度によって、事業における適正な環境配慮を確保することにより、健全で恵み豊かな環境の保全を図り、国民一人一人の「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に貢献する。
環境影響評価法については、前回改正138の完全施行から 10 年が経過したことを踏まえ、附則の規定139に基づき、改正法の施行の状況について検討し、より適正な環境配慮を確保するための制度の在り方について総合的な検討を行う。例えば、環境情報基盤の整備を図る等の観点から、環境アセスメント図書の継続公開の制度化について、法的な課題も踏まえ検討していく。また、再生可能エネルギーの中でも今後の導入拡大が期待される風力発電事業に関しては、事業の特性を踏まえた適切な環境影響評価制度の在り方について迅速に検討を進める。
風力発電事業の制度の在り方に関する検討については、具体的に、・風力発電事業のうち、とりわけ洋上風力発電事業に関しては、再生可能エネルギーの主力電源化の切り札として推進していくことが期待されている。一方で、再エネ海域利用法に基づく促進区域指定と環境影響評価法に基づく環境影響評価手続は、それぞれが独立した制度となっているため、両制度が並行して適用されること等による課題が指摘されている。そのため、両法律が適切に接続される制度実現に向けた取組を進めていく。
・陸上風力発電事業についても、適正な環境配慮を確保しつつ、地域共生型の事業を推進する観点から、地域の環境特性を踏まえた効率的・効果的な環境アセスメントが可能となるよう、環境影響の程度に応じて必要なアセスメント手続を振り分けること等を可能とする新たな制度を検討する。
法に基づく環境影響評価制度を適切に施行するため、主に以下の取組を進める。
・環境影響評価に必要となる基礎的な環境情報や過去の実施事例等の情報に係る基盤の整備・環境影響評価に係る最新の技術的手法の研究開発・普及・環境影響評価に係る外部専門人材の育成・環境影響評価手続における審査体制等の強化・報告書手続等を活用した環境影響評価のフォローアップの実施
競争的研究費である環境研究総合推進費を核とする環境政策に貢献する研究開発の実施、環境研究の中核機関としての国立研究開発法人国立環境研究所の研究開発成果の最大化に向けた機能強化、地域の環境研究拠点の役割強化、環境分野の研究・技術開発や政策立案に貢献する基盤的な情報の整備、地方公共団体の環境研究機関との連携強化、環境調査研修所での研修の充実等を通じた人材育成などにより基盤整備に取り組む。
また、研究開発の担い手となる民間企業や大学、地方公共団体等の研究開発主体への研究開発支援を充実させつつ、イノベーションのジレンマの克服に向けたシームレスな環境スタートアップ等の支援を含む環境産業や人文科学、社会科学、自然科学の垣根を超えた科学的知見に基づく政策決定の基盤となるサイエンスの強化に向けた学術研究の振興を図る。これらの産学官による研究開発等の実施状況については、体系的な把握、整理に努め、情報を社会に共有する。
「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装に向けて、科学技術・イノベーション基本計画(令和3年3月閣議決定)等の最新の動向を踏まえつつ、本環境基本計画に基づいて環境研究・環境技術開発の推進戦略を新たに策定する。環境省を始めとして、関係府省、地方公共団体、大学等研究機関、民間企業等の各主体においては、当該推進戦略の内容を考慮して環境分野の研究・技術開発を推進する。加えて、環境研究の中核機関としての国立研究開発法人国立環境研究所の中長期目標について、当該推進戦略に基づいて改定を行う。さらに、環境研究総合推進費においては、当該推進戦略において設定する、環境分野において今後5年間で重点的に取り組むべき研究・技術開発の課題(重点課題)の解決に資する環境行政のニーズを提示することを通じて、環境研究・技術開発を着実に実施するとともに、独立行政法人環境再生保全機構による配分・重点化を通じて環境政策への貢献・反映をし、社会課題の解決につなげる。
さらに、統合イノベーション戦略推進会議等の政府全体の動向を踏まえて環境分野の研究・技術開発、実証、実装を戦路的に実施していく。
科学的知見に基づく政策の決定と推進を図るための科学的知見の集積や基盤情報の整備を進める。例えば、国立研究開発法人国立環境研究所においては、地球環境モニタリングを始め、地球規模の環境問題に関わる各種研究によって収集されたデータを効率的に管理し、広く提供・発信するための知的研究基盤として地球環境データベースの開発・運用をする。また、気候変動適応に関して、引き続き、地域気候変動適応センターやその他の国内外の研究機関との連携・共同研究等を通じて、科学的知見の継続取得に努めるとともに、気候変動適応の促進を図るためのデータベースの開発・整備を進め、気候変動適応策の社会実装に貢献する。独立行政法人環境再生保全機構においては、環境研究総合推進費による科学的知見の集積及び研究・技術開発を着実に進めるとともに、ウェブサイトやイベント等の整備・充実化により、環境政策への貢献等の社会実装に向けた成果の効果的な普及を行う。
環境教育等促進法及び同法により国が定める基本方針に基づき、環境教育、ESD(以下「環境教育等」とする。)及び協働取組については、すべての大人や子どもに対して、あらゆる場において、個人の変容と社会や組織の変革を連動させ促すことを目的に推進するほか、とりわけ、以下の点を重点的に取り組む。
学校における環境教育等は、幼児や障害のある児童生徒を含む児童生徒の発達の段階に応じて体系的、継続的に学ぶことができ、経済格差によらない機会の均等をもたらすという観点から重要である。学校においては、幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領、高等学校学習指導要領及び第4期教育振興基本計画に明記された「持続可能な社会の創り手」に必要な資質・能力を育成するため、「カリキュラム・マネジメント」の実現や「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の視点からの授業改善を図る。また、ホールスクールアプローチの観点から、ユネスコスクールをESD の推進拠点として位置づけ、多様なステークホルダーとの連携による実践やユネスコスクール間のネットワークを活用した交流等を促進するとともに、児童生徒等の学習・生活の場としての学校施設が環境教育の教材としても活用されるよう、環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備を推進する。
また、教職員の負担を軽減しながら教育の質や効果を高めていく方策として、社会教育施設や地域団体、企業等と連携した学習等を促進するため、ESD 活動支援センター等の中間支援機能を有する組織等の一層の充実を図る。
地域や家庭等において、乳幼児から高齢期にわたり、意欲に応じて切れ目なく環境について学ぶことができるよう、効果的な環境教育等を広げていくことが必要である。関係府省が連携して、自然体験活動その他の体験活動への参加の機会の拡充を図るとともに、環境教育等促進法に基づく「体験の機会の場」の認定制度、環境教育等支援団体指定制度等を積極的に活用して、ESD 活動支援センター、地方公共団体、民間団体、企業等と連携を図り、地域等における環境教育等をより一層充実させる。また、企業経営の中により適切に環境の視点を取り入れ、新たな企業価値を創出していくため、環境経営や環境保全に取り組み、経済・社会のグリーン化を牽引する人材、すなわち、環境人材を企業内外で育成するための取組を促進する。
また、深刻化している気候変動に対し、国民が一体となって脱炭素社会の実現につながる行動変容と組織や社会の変革に取り組めるよう、積極的な情報発信、普及啓発とともに、環境教育等を推進する。
さらに、生物多様性の損失を止め社会変革を実現するためには、生物多様性の重要性等に対する人々の知識と関心を高め、行動の変化につなげることが不可欠であることから、学校等における生物多様性を含めた環境教育の推進と、それを支える人材の育成を推進する。
持続可能な地域づくりに向けた住民、民間団体、事業者、行政等による対話を通じた協働取組を促進するため、地球環境パートナーシッププラザや地方環境パートナーシップオフィスを拠点として活用し、先進事例の紹介や各主体間の連携促進のための意見交換会の開催のほか、民間団体等の政策形成機能の強化や、自立した地域づくりへの伴走支援等に取り組む。また、より多くの中間支援機能が地域において発揮されるよう、中間支援機能に関する知見や経験を、地域の様々な組織、団体に共有するとともに、中間支援機能を担う人材や組織の発掘、育成を行うことにより、地域等の特性にあった協働取組を通じた地域づくり、さらには地域循環共生圏の創造を促進させる。さらに、持続可能な社会づくりに向けた変革の担い手として重要な存在である若者について、活動の充実及び対話や協働取組への参加の機会を支援するとともに、世代間の公正も踏まえ、政策形成において若者の意見が積極的に取り入れられるよう方策を講じていく。
持続可能な社会を実現するためには、環境・経済・社会の統合的向上を図り、地域における産業との調和、地域住民の生活の安定や福祉の維持向上、地域における環境の保全に関する文化や歴史の継承にも配慮して幅広い視点を持って取り組むことが必要である。
また、公正な移行の観点から、新たに生まれる産業への労働移動を適切に進めていくことが重要となる。人への投資の支援として、成長分野等への労働移動の円滑化支援、在職者のキャリアアップのための転職支援等を通じて、新たなスキルの獲得とグリーン分野を含む成長分野への円滑な労働移動を同時に進めることで、公正な移行を後押ししていく。
第1部第2章「3(3)「参加」の促進 :政府、市場、国民の共進化と人材育成、情報基盤整備」においても述べたとおり、政府(国、地方公共団体等)、市場(企業等)、国民(市民社会、地域コミュニティを含む。)の共進化には、環境情報の充実、公開が基盤となる。このため、第2部第2章の各重点戦略においても述べられているとおり、企業の経営や活動に関する環境情報(例:気候変動や自然関連の財務情報、サプライチェーン全体でのGHG 排出量)や、地域計画・国土利用に関する環境情報(例:再エネポテンシャル・生態系情報)等について、見える化し、各主体が利用可能な形に整備する。また、これらの環境情報に加え、環境関連の統計情報については、「統計改革推進会議最終取りまとめ」(2017 年5月統計改革推進会議決定)及び「公的統計の整備に関する基本的な計画」(2023 年3月 28日閣議決定)等に基づき、客観的な証拠に基づく政策の立案(EBPM)に資するよう、環境行政の政策立案に必要な統計データ等の着実な整備を進めるとともに、統計ユーザー等にとってアクセスしやすく、利便性の高いものとなるよう、ユーザー視点に立った統計データの改善・充実を進める。
国、地方公共団体、事業者等が保有する官民データの相互の利活用を促進するため、「オープンデータ基本指針」(2017 年5月高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定 2021 年6月 15 日改正)等に基づき、環境情報に関するオープンデータの取組を強化する。また、各主体のパートナーシップを充実・強化し、市民の環境政策への参画や持続可能なライフスタイルへの転換等を促進するため、情報の信頼性や正確性を確保しつつ、SNS やAI 等のデジタル技術を活用しながら、いつでも、どこでも、分かりやすい形で環境情報を入手できるよう、利用者のニーズに応じて適時に利用できる情報の提供を進める。加えて、新しい国民運動「デコ活」による脱炭素型の製品・サービスに関する情報提供等を通じ、消費者の行動変容を促す。
政策立案の根拠としては、ランダム化比較試験等の頑健な効果検証の手法により得られた、因果関係の確からしい科学的知見等の客観的な証拠を参照することが望ましい。上記の環境情報の整備や提供に当たっては、証拠としての質(エビデンスレベル)に留意することとする。一方で、常に質の高い証拠が得られるとは限らないため、そのような場合においては、根拠が得られた諸条件や内的及び外的妥当性等に留意しつつ、その時点で得られる最良の客観的な証拠(BestAvailable Evidence)を踏まえるとともに、「予防的な取組方法」の考え方に基づいて政策を立案することが重要である。
2023 年6月に改正された「福島復興再生特別措置法」(平成 24 年法律第 25号)基づく特定帰還居住区域に関しては、2020 年代をかけてその全域の避難指示を解除し、住民の居住を目指す。各自治体の認定特定帰還居住区域復興再生計画に沿って、帰還困難区域における特定帰還居住区域での除染・解体とインフラ整備等との一体的施工を進める。
中間貯蔵施設(福島県内の除染によって生じた土壌等を最終処分までの間安全に管理・保管する施設)の整備と施設への継続的な除去土壌等の輸送、除去土壌の貯蔵、放射性物質汚染廃棄物の処理について、着実に進捗している。今後も地方公共団体等の関係者と連携しつつ、政府一体となって事業の迅速かつ適正な実施に向けて必要な措置を講ずる。
福島県内の除去土壌等の最終処分については、地元の苦渋の判断により中間貯蔵施設が受け入れられたという経緯も踏まえ、「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」(平成 15 年法律第 44号)上「中間貯蔵開始後 30 年以内に福島県外での最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」旨が定められており、国として責任を持って取り組んでいく。最終処分量を低減するため、国民の理解の下、政府一体となって除去土壌等の減容・再生利用等を進めることが重要であり、「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」及び「工程表」に沿って、減容技術の開発・実証等を行うとともに、これらの取組の安全性等について、分かりやすい情報発信を行うなど、全国に向けた理解醸成活動を推進する。再生利用先の創出等については、関係省庁等の連携強化を図り、政府一体となって、地元の理解を得ながら具体化を推進する。さらに、福島県外での最終処分に関する調査検討・調整などを進める。
福島の復興に、脱炭素、資源循環、自然共生などの環境施策でも貢献し、地元ニーズに応えながら、地域の価値を創造・再発見する未来志向の取組を関係主体と連携しながら力強く進めていく。具体的には、福島県における自立・分散型エネルギーシステム等の導入に向けた取組、脱炭素と復興まちづくりの同時実現を目指す取組等を進める。
令和5年8月に開始された東京電力福島第一原子力発電所の多核種除去設備等処理水(ALPS 処理水)の海洋放出について、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(令和3年4月 13 日閣議決定)に基づき、環境中の状況を把握し風評影響を抑制するため、客観性・透明性・信頼性を徹底した海域モニタリングを着実に実施する。
原子力災害に起因した放射線に関する健康管理・健康上の不安のケアについては、被ばく線量の把握・評価、放射線の健康影響調査研究、福島県の県民健康調査とその対象者の支援及び放射線リスクコミュニケーション相談員支援センターによる支援等の取組を継続して実施するとともに、放射線の健康影響に関する誤解から生じる差別を無くすための情報発信を積極的に行う。特に、特定復興再生拠点区域の避難指示解除により帰還者等が増加する中、帰還者等が地域で主体的に行う取組との連携を進め、対話を通じて得られる参加者の意見を今後の放射線健康不安対策に活かす取組を進める。
近年、我が国では毎年のように大規模災害が発生し、廃棄物処理施設の被災による生活ごみやし尿の処理や大量に発生する災害廃棄物の処理が大きな課題の一つとなっている。例えば、第四次循環型社会形成推進基本計画策定後に発生した特定非常災害140に指定される災害に限っても、平成 30 年7月豪雨、令和元年台風第 19 号、令和2年7月豪雨、令和6年能登半島地震といった災害が発生してきた。
今後も大規模な災害の発生が予想されており、国土強靱化の観点から災害廃棄物処理システムの強靱化に向けた平時からの備えを行う必要がある。
平時から災害時における生活ごみやし尿に加え、災害廃棄物の処理を適正かつ迅速に実施するため、国、地方公共団体、研究・専門機関、民間事業者等の人的支援や広域処理の連携を促進する等、地方公共団体レベル、地域ブロックレベル、全国レベルで重層的に廃棄物処理システムの強靱化を進め、災害廃棄物を適正かつ迅速に処理できる社会を目指す。
災害時の石綿飛散を防止するため、平常時における石綿使用建築物の把握や住民等への注意喚起、災害時における応急措置や環境モニタリングなどが行われるよう周知徹底を図る。
また、災害廃棄物の害虫・悪臭対策や避難所における仮設トイレ等の臭気対策について情報提供を行うとともに、必要に応じて専門家の派遣を実施し、悪臭原因の把握、制御方法についての助言・指導等を行う。
さらに、人とペットの災害対策に係るガイドラインに基づき、地方公共団体等と連携し、避難所におけるペットの受入れや被災ペットの緊急的な一時預かり体制の整備等について支援を行う。
夏季には被災住民やボランティア等の熱中症の危険性が高まるため、熱中症に関する注意喚起を図る。
環境の保全に関する施策は、各主体間で連携を取り、総合的かつ計画的に推進する必要があり、そのためには、環境保全施策の全体像を明らかにする必要がある。そのため、環境問題の各分野、各種施策の基盤及び国際的取組に関する各施策について、重点戦略に掲げた施策のほか、以下のように体系的に整理する。
なお、本体系は、重点戦略及び重点戦略を支える環境政策に記載したものと重複するものがある。
気候変動問題の解決には、最新の科学的知見に基づいて対策を実施することが必要不可欠である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の各種報告書が提供する科学的知見は、世界全体の気候変動対策に大きく貢献しており、この活動を拠出金等により支援するとともに、国内の科学者の研究を支援することにより、我が国の科学的知見を同報告書に反映させていく。
また、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)や「いぶき2号」(GOSAT-2)による全球の温室効果ガス濃度の継続的な観測を行うとともに、2024 年度打ち上げ予定の3号機に当たる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)による継続的な観測体制の維持と、後継機の検討を進める。加えて、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)等を活用した気候変動に伴う地球環境変化の観測を行う。
さらに、航空機・船舶・地上観測等による観測・監視、予測、影響評価、調査研究の推進等により気候変動に係る科学的知見を充実させる。加えて、パリ協定に基づき各国が作成・公表するGHG 排出インベントリ報告と、独立性の高いGOSAT 観測データに基づく排出量推計値とを比較し、各国排出量報告の透明性の確保を目指すとともに、排出量推計技術の国際標準化を目指していく。
1.5℃目標の達成に向けた我が国の取組として、地球温暖化対策計画に基づき、2050年カーボンニュートラルに加え、2030 年度に温室効果ガスを 2013 年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていく。経済と環境の好循環を生み出し、2030 年度の野心的な目標に向けて力強く成長していくため、徹底した省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの最大限の導入、公共部門や地域の脱炭素化など、あらゆる分野で、でき得る限りの取組を進める。
産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する、「グリーントランスフォーメーション」(GX)の実現に向けて、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX 推進法)及び同法に基づくGX 推進戦略を踏まえ、GX 経済移行債を活用した先行投資支援策と、成長志向型カーボンプライシングによるGX 投資先行インセンティブを組み合わせつつ、重点分野でのGX 投資を分野別投資戦略を通じ促進するなど、我が国のGX を加速していく。
経済の発展や質の高い国民生活の実現、地域の活性化、自然との共生を図りながら温室効果ガスの排出削減等を推進すべく、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの最大限の導入、公共部門や地域の脱炭素化、技術開発の一層の加速化や社会実装、ライフスタイル・ワークスタイルの変革等を実行する。
「地域脱炭素ロードマップ」、「地球温暖化対策計画」及びGX 推進戦略に基づき、脱炭素先行地域づくり、脱炭素の基盤となる重点対策の全国実施を推進するとともに、地域の実施体制構築のための積極支援を行う。具体的な施策については、第3部第2章「4. 地域づくり・人づくりの推進 ②地域脱炭素の加速化」を参照。
新しい国民運動「デコ活」について、令和5年度策定の「くらしの10 年ロードマップ」に基づき、官民連携で国民の「新しい豊かな暮らし」に向けた脱炭素型製品・サービス等の大規模な需要創出と、行動変容・ライフスタイル転換を持続的かつ強力に促していく。
脱炭素社会を実現するため、再生可能エネルギーの主力化を着実に進めることが必要である。再生可能エネルギーの最大限の導入に向け、環境に適正に配慮し、地域の合意形成を図りつつ、地域共生型再エネを推進していく。また、公共施設での率先導入により需要を創出することや、民間企業による自家消費型太陽光の導入、エネルギーの面的利用の拡大、壁・窓と一体となった太陽光発電設備の導入等、様々な取組を通してCO2排出削減対策を進めていく。
一度建設されると長期にわたりCO2の排出に影響を与える住宅・建築物分野の脱炭素化を着実に推進するため、ZEH・ZEB を普及する。また、国内に多数存在する省エネ性能の低い住宅・建築物の脱炭素改修を加速するとともに、省エネルギー性能の高い設備・機器の導入促進や、家庭・ビル・工場のエネルギーマネジメントシステム(HEMS/BEMS/FEMS)の活用や省エネルギー診断等による徹底的なエネルギー管理の実施を図る。
省エネトップランナー制度により、家電・自動車・建材等の省エネルギー性能の更なる向上を図る。
電力部門において、脱炭素電源を最大限活用することに加え、火力発電については、電力の安定供給を大前提に、できる限り発電比率を引き下げていくべく、2030年に向けて非効率石炭火力のフェードアウトを着実に進める。さらに、2050年に向けて水素・アンモニアやCCUS/カーボンリサイクル等の活用により、脱炭素型の火力発電に置き換える取組を推進していく。
民間投資も活用した企業のバリューチェーンの脱炭素経営の実践、地域・くらしを支える物流・交通、資源循環などサプライチェーン全体の脱炭素移行を促進する。
「経団連カーボンニュートラル行動計画」の着実な実施と評価・検証による産業界における自主的取組を推進していく。
工場や事業場に対しても削減計画の策定や省エネルギー性能の高い設備等の導入への支援を行うことで企業の脱炭素化の支援を進めていく。
ネット・ゼロ社会の実現には自社のみならず、バリューチェーン全体の削減取組が重要であり、この取組を進めることは企業の競争力強化につながる。このため、バリューチェーンにおける温室効果ガス排出量算定の環境整備、算定および削減に向けた支援等を進める。
CO2 排出削減技術の高効率化や低コスト化等のための技術的な課題を解決し、優れたCO2排出削減技術を生み出し、実社会に普及させていくことで、将来的な地球温暖化対策の強化につなげることが重要である。このため、開発リスク等の問題から民間の自主的な取組だけでは十分に進まないCO2排出削減効果の高い技術の開発・実証を進める。
廃プラスチック、未利用の農業系バイオマス、廃プラスチック等の地域資源の活用・循環と大幅なCO2削減を実現する、革新的で省資源な触媒技術等に係る技術開発・実証を実施する。
次世代エネルギーの社会実装に向け、地域資源を活用して製造した水素を地域で使う地産地消型のサプライチェーンを構築する実証を実施する。
CCUS/カーボンリサイクルの早期社会実装に向け、CO2 の分離・回収から輸送、貯留までの一貫した技術の確立や、廃棄物処理施設から出る排ガスのCO2を利用して化学原料を生成する実証事業等に取り組む。
電動車の導入や充電・水素充てんインフラの整備を設置促進するなどの道路交通をグリーン化する取組を進める。また、いわゆる誘発・転換交通が発生する可能性があることを認識しつつ、渋滞を原因とする当該区間におけるCO2の排出削減を図る渋滞対策としての幹線道路ネットワークの強化等の道路交通を適正化する取組141のほか、道路整備・管理等のライフサイクル全体の低炭素化を図り、道路施設の脱炭素化を推進する。さらに、ゼロエミッション船等の開発・導入、生産基盤構築等を支援するなどのそれら船舶の普及促進に向けた取組、水素燃料電池鉄道車両の開発・導入など、モビリティ全般について次世代技術の開発や性能向上を促しながら普及を促進していく。
また、相対的に低炭素な輸送モード142の利活用を促進するため、鉄道を始めとする公共交通の利用促進や、貨物輸送のモーダルシフトの促進に取り組む。
非エネルギー起源 CO2、メタン、一酸化二窒素、代替フロン等の排出削減については、廃棄物処理やノンフロン製品の普及などの個別施策を推進する。フロン類については、モントリオール議定書キガリ改正も踏まえ、上流から下流までのライフサイクルに渡る包括的な対策により、排出抑制を推進する。
森林等の吸収源対策として、エリートツリー等の再造林や森林・林業の担い手の育成、生産基盤の整備、建築物等への木材利用の拡大等、総合的な取組を通じて、森林資源の循環利用の確立を図るとともに、農地等の適切な管理、都市緑化等を推進する。
また、これらの対策を着実に実施するため、バイオマス等の活用による農山漁村の活性化と一体的に推進する。
さらに、 藻場・干潟等の海洋生態系が蓄積する炭素(ブルーカーボン)を活用した取組は、CO2 の吸収・固定、海洋環境や漁業資源の保全、観光、地域経済の発展など、多面的価値を有するものであり、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ経済の3つの統合的推進を象徴するものであるため、ブルーカーボン生態系(マングローブ林、湿地・干潟、海草藻場・海藻藻場)の維持・拡大に向けた取組や吸収源対策の検討を精力的に進める。炭素貯留のメカニズムが異なるブルーカーボン生態系の CO2 排出・吸収量の算定については、我が国沿岸域における藻場の分布面積等のより高精度な算定手法の確立を進めるとともに、IPCC ガイドラインを踏まえつつ、実現可能なものから速やかに温室効果ガスインベントリに反映していく。
COP28で実施されたグローバル・ストックテイクの結果を踏まえ、世界の進む道筋が 1.5℃目標と整合的となるよう、我が国として最大限貢献していく。
具体的には、相手国との協働に基づき、我が国の強みである技術力を活かして、戦略策定・制度構築・人材育成等脱炭素が評価される市場の創出に向けて更なる環境整備を進めるとともに、パリ協定に沿って実施する二国間クレジット制度(JCM)等を農業等も含む幅広いセクターに活用して環境性能の高い技術・製品等のビジネス主導の国際展開を促進し、世界の排出削減と持続可能な発展に最大限貢献していく。 また、グローバルメタンプレッジなど我が国も参加する気候変動対策推進のための様々な国際的イニシアティブと連携しつつ、JCM、都市間連携事業などを活用して、途上国の脱炭素化に向けた取組に協力していく。
土地利用変化による温室効果ガスの排出量は、世界の総排出量の2割を占め、その排出を削減することが地球温暖化対策を進める上で重要な課題となっていることから、特に途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)や植林を積極的に推進し、森林分野における排出の削減及び吸収の確保に貢献する。適応分野においても各国の適応活動の促進のため、アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)において科学的情報・知見の基盤整備や支援ツールの整備、能力強化・人材育成等を実施し、その活動を広報していく。
我が国の産業競争力の強みであるバリューチェーンを構成し、排出量の2割を占める中堅・中小企業の脱炭素化を推進するため、各地域の自治体、金融機関、経済団体等が連携して地域ぐるみで支援する体制を構築するとともに、「知る」「測る」「減らす」の3ステップに沿った取組を促進する。
地球温暖化対策推進法に定める温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度について、バリューチェーン全体の削減や、CCUS/カーボンリサイクル、吸収等の新たな取組の促進にもつながるよう、制度の見直し等の検討を進める。また、省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)の拡充等により、中堅・中小企業の排出量算定・公表がより容易にできる環境を整備する。
脱炭素の実現に貢献する製品やサービスを消費者が選択する際に必要な情報を提供するため、企業及び業界による製品・サービスのCFP(カーボンフットプリント:製品・サービスのライフサイクルを考慮した温室効果ガス排出量)の算定・表示に向けた取組をモデル事業等により支援するとともに、消費者の選択に寄与する効果的な表示の在り方を検討し、統一的な基準に基づく表示を推進する。また、CO2 削減効果など環境負荷の低減効果を見える化し、付加価値に転換する観点から、マスバランス方式を活用したグリーン製品の提供も有効な取組と考えられ、今後、普及に向けた検討を行っていく。
地球温暖化対策推進法に基づき、温室効果ガスの排出削減等のために事業者が講ずべき措置を取りまとめた温室効果ガス排出削減等指針について、技術の進歩やその他の事業活動を取り巻く状況の変化に応じた対策メニューの拡充を検討する とともに、その利便性の向上を図ることで、活用を促進する。
政府は、2021 年10 月に閣議決定した「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(政府実行計画)」に基づき、2013 年度を基準として、政府全体の温室効果ガス排出量を2030 年度までに 50%削減することを目標とし、太陽光発電の導入、新築建築物の ZEB 化、電動車の導入、LED 照明の導入、再生可能エネルギー電力(目標(60%)を超える電力についても、排出係数が可能な限り低い電力)の調達等の取組を率先実行していく。
地球温暖化対策推進法に基づき、全ての地方公共団体は、自らの事務・事業に伴い発生する温室効果ガスの排出削減等に関する地方公共団体実行計画(事務事業編)の策定が義務付けられている。また、その区域の自然的社会的条件に応じた温室効果ガスの排出量削減等を推進するための総合的な計画として、都道府県、指定都市、中核市及び施行時特例市(以下この項において「都道府県等」という。)は、地方公共団体実行計画(区域施策編)の策定が義務付けられているとともに、都道府県等以外の市町においても同計画の策定に努めることとされている。具体的な取組の方向性については、第3部第2章「4. 地域づくり・人づくりの推進 ②地域脱炭素の加速化」を参照。
極端な大雨や猛暑など、国内外で顕在化しつつある気候変動の影響に対処するため、温室効果ガスの排出の抑制等を行う「緩和」だけでなく、既に現れている気候変動の影響や中長期的に避けられない影響に対処し、被害を回避・軽減する「適応」の取組を進める必要性が高まっている。気候変動の影響は、農業・林業・水産業、水環境、水資源、自然生態系、自然災害、健康などの様々な面で生じる可能性があり、全体で整合のとれた取組を推進することが重要となっている。
このため、気候変動適応法(平成 30 年法律第 50 号)及び気候変動適応計画(以下「適応計画」という。)に基づき、科学的知見の充実及び気候変動影響の評価、政府の関係府省庁が実施する施策への気候変動適応の組込み、国際協力等を推進する。とりわけ、熱中症対策については、熱中症対策実行計画に基づき、関係府省庁と連携して熱中症対策関連施策を推進するとともに、地方公共団体や民間団体等を通じた国民への熱中症対策の普及等に取り組む。気候変動の影響を最も受けやすい産業のひとつである農林水産業では、みどりの食料システム戦略等を踏まえ改定された農林水産省気候変動適応計画に基づき、幅広い対策を進めていく。
また、気候変動影響や適応に関する様々な知見を収集・整理・分析し、地方公共団体、事業者、国民等の各主体に気候変動影響や適応策に関する情報提供等を行うことにより、地方公共団体の適応計画の充実や、各主体の適応の取組を支援していく。さらに、気候変動の影響に特に脆弱な途上国に対して、我が国の知見や技術を活用し、気候変動影響評価及び適応策の推進に係る支援や人材育成、科学的な情報基盤の整備等を行うことにより、途上国の適応の取組の推進に貢献していく。
上記の施策を関係者が連携しながら効果的に推進できるよう、適応の充実・強化を図っていくための仕組み作りを進めていく。
フロン類については、「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」(平成 13 年法律第 64 号)に基づく上流から下流までのライフサイクルに渡る包括的な対策に加え、脱フロン化に向けた政策支援により、排出抑制を推進する。
また、特定物質等の規制、観測・監視の情報の公表については、「特定物質等の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(昭和 63 年法律第 53号)に基づき、オゾン層破壊物質や代替フロンの生産規制及び貿易規制を行うとともに、オゾン層等の観測成果及び監視状況を毎年公表する。さらに、途上国における取組の支援については、アジア等の途上国に対して、フロン類を使用した製品・機器からの転換やフロン類の回収・破壊などについての技術協力や政策等の知見・経験の提供により取組を支援する。
国内のあらゆる主体の参画と連携を促進し、生物多様性の保全とその持続可能な利用の確保に取り組むため、多様な主体で構成される「2030 生物多様性枠組実現日本会議」(J-GBF)を通じた各主体間のパートナーシップによる取組や、「地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律」(平成 22 年法律第 72号)に基づく地域連携保全活動に対する各種支援を行う【P】 。
生物多様性基本法(平成22 年法律第58 号)に基づく生物多様性地域戦略について、地域の実情に即した適切な目標や指標や地域の各主体が連携した具体的な施策等を盛り込みつつ、多くの地方公共団体で策定されるよう、技術的助言等の方策を講じる。
生物多様性に係る事業活動に関する基礎的な情報や自然資本の考え方などをとりまとめた事業者向けの「生物多様性民間参画ガイドライン」の普及を図るとともに、表彰制度を活用するなど、事業者を支援し、事業者の生物多様性分野への参画を促す。また、生態系サービスへの支払い(PES:Paymentfor EcosystemServices)、事業活動による生物多様性への負荷を可能な限り減らしてもなお残る負荷に関するオフセットなどの経済的手法も含め、生物多様性を主流化するための方策について検討を進める。さらに、自然とのふれあい活動等の推進を通じた広報・普及啓発や生物多様性に配慮した製品であることを認証した商品などの普及等により、個人のライフスタイルの転換に向けた取組を進める。
こどもの自然体験活動の推進、「みどりの月間」等における自然とのふれあい関連行事の全国的な実施や各種表彰の実施、情報の提供、自然公園指導員及びパークボランティアの人材の活用、由緒ある沿革と都市の貴重な自然環境を有する国民公園等の庭園としての質や施設の利便性を高めるための整備運営、都市公園・海辺等の身近な場所における環境教育・自然体験活動等に取り組む。また、貴重な自然資源である温泉の保護管理、適正利用及び温泉地の活性化を図る。
生物の生息・生育空間のまとまりとして核となる地域(コアエリア)及び、その緩衝地域(バッファーゾーン)を適切に配置・保全するとともに、これらを生態的な回廊(コリドー)で有機的につなぐことにより、生態系ネットワーク(エコロジカルネットワーク)の形成に努める。生態系ネットワークの形成に当たっては、流域圏など地形的なまとまりや、国境を越えて移動する、、渡り鳥などの生物の生息環境の地球規模での生態学的連結性も考慮し、保護地域や OECM も活用しながら、さまざまなスケールで森・里・川・海を連続した空間として積極的に保全・再生を図りつつ、鳥獣被害対策にも留意した取組を関係機関が横断的に連携して総合的に進める。
各重要地域について、保全対象に応じて十分な規模、範囲、連結性を考慮した適切な配置、規制内容、管理水準、相互の連携等を考慮しながら、関係機関が連携・協力して、その保全に向けた総合的な取組を進める。
自然環境保全地域等(原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、沖合海底自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域)については、引き続き行為規制や現状把握等を行うとともに、新たな地域指定を含む生物多様性の保全上必要な対策を検討・実施する。
自然公園(国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園)については、国立・国定公園の新規指定・拡張をはじめとする公園計画等の見直しを進めつつ、公園計画に基づく行為規制や利用のための施設整備等を行う。また、国立公園満喫プロジェクトの全国展開及び滞在体験の魅力向上など、国立公園の保護と利用の好循環により、優れた自然を守り、地域活性化を図るための取組を推進する。
鳥獣保護区内の鳥獣の生息環境を保全、管理及び整備し、これらを通じて地域の生物多様性の保全に貢献する。また、鳥獣保護区内の特に必要な地域を特別保護地区に指定し、鳥獣の生息環境の確保(鳥獣の健全な生息環境の確保に必要な地域の生物多様性の維持回復や向上を含む。)を図る。
国内希少野生動植物種の保存のため必要があると認めるときは、その個体の生息地又は生育地及びこれらと一体的にその保護を図る必要がある区域を指定し、生息環境の把握及び維持管理、施設整備、普及啓発を行い、必要に応じ、立入り制限地区を設け、種の特性に応じた保護の方針を定めてその保存を図る。
行為規制等の各種制度とともに現況把握等の実施により、計画的な指定を進めるとともに、適正な保全に努める。
原生的な天然林や希少な野生生物が生育・生息する「保護林」や、これらを中心としたネットワークを形成し、野生生物の移動経路となる「緑の回廊」において、モニタリング調査等を行いながら、適切な保護・管理を推進する。
「全国森林計画」(2023 年 10 月 13 日閣議決定)に基づき、保安林の配備を計画的に推進するとともに、その適切な管理・保全に取り組む。
多様な主体による良好な緑地管理がなされるよう、管理協定制度等の適正な緑地管理を推進するための制度の活用を図る。
湿地の保全と賢明な利用及びそのための普及啓発を図るとともに、国際的に重要な湿地の基準を満たし、ラムサール条約湿地への登録によって保全等が円滑に推進されると考えられる湿地について、地域のニーズ及び民間等の取組も踏まえて登録を推進するほか、ラムサール条約湿地を自然体験の機会の場として活用した環境教育の推進を図る。
世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約に基づき登録された5地域(白神山地・屋久島・知床・小笠原諸島・奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島)において、科学的知見に基づく順応的な保全管理を推進することにより、全人類共通の資産である世界自然遺産の顕著で普遍的な価値を将来に渡って保護するとともに、持続可能な利活用を推進し、地域活性化に貢献する。
国立公園等の管理を通じて、登録された各生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)の適切な保全管理を推進するとともに、地元協議会への参画を通じて、持続可能な地域づくりを支援する。また、新規登録を目指す地方公共団体に対する情報提供、助言等を行う。
国立公園と重複するジオパークにおいて、地形・地質の多様性等の保全活用を図るとともに、ジオツアーや環境教育のプログラムづくり等について、地方公共団体等のジオパークを推進する機関と連携して進める。
河川、湿原、干潟、藻場、里山、里地、森林等、生物多様性の保全上重要な役割を果たす自然環境について、「自然再生推進法」(平成 14 年法律第 148号)の枠組みを活用し、多様な主体が参加し、科学的知見に基づき、長期的な視点で進められる自然再生事業を推進する。また、防災・減災などの自然環境のもつ機能に着目し、地域づくりにも資する自然環境の保全・再生や、地域住民等が行う「小さな自然再生」をはじめとする全国各地における自然環境の保全・再生の推進を図る。
里地里山等に広がる二次的自然環境の保全と持続的利用を将来にわたって進めていくため、人の生活・生産活動と地域の生物多様性を一体的かつ総合的にとらえ、民間保全活動とも連携しつつ、持続的な管理を行う取組を推進する。「生物多様性保全上重要な里地里山」(重要里地里山)等においては、里地里山の資源を活用した環境的課題と社会経済的課題解決に向けた取組など、里地里山の保全・活用に資する先進的・効果的な活動の支援等を行う。
都市における生物多様性を確保し、また、自然とのふれあいを確保する観点から、都市公園の整備等を計画的に推進する。
都市と生物多様性に関する国際自治体会議等に関する動向及び決議「準国家政府、都市及びその他地方公共団体の行動計画」の内容等を踏まえつつ、都市のインフラ整備等に生物多様性への配慮を組み込むことなど、地方公共団体における生物多様性に配慮した都市づくりの取組を促進するため、「緑の基本計画における生物多様性の確保に関する技術的配慮事項」の普及を図るほか、「都市の生物多様性指標」に基づき、都市における生物多様性保全の取組の進捗状況を地方公共団体が把握・評価し、将来の施策立案等に活用されるよう普及を図る。
30by30 目標について、生物多様性国家戦略2023-2030 の附属書として位置づけられている 30by30 ロードマップに基づき、本目標の達成に向けた取組を推進する。
我が国では、2023 年1月現在、陸地の約 20.5%、海洋の約 13.3%が生物多様性の観点からの保護地域に指定されているが、今後、30by30 目標を達成するため、国立公園等の拡張により現状からの上乗せを目指していく。国立・国定公園については、2022 年の「国立・国定公園総点検事業」のフォローアップにおいて選定した全国 14 か所の国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地について、基礎情報の収集整理を継続するとともに、自然環境や社会条件等の詳細調査及び関係機関との具体的な調整を実施し、2030 年までに順次国立・国定公園区域に指定・編入することを目指す。また、2030 年までに国立・国定公園の再検討や点検作業を強化し、必要に応じて周辺エリアの国立・国定公園への編入や地種区分の格上げを進めていく。加えて、特に景観・利用の観点からも重要で生物多様性の保全にも寄与する沿岸域において、国立公園の海域公園地区の面積を 2030 年までに倍増させることを目指す。さらに、広範な関係者と連携しつつ、国立公園満喫プロジェクト等により対象となる自然の保護と利用の好循環を形成するとともに、自然再生、希少種保全、外来種対策、鳥獣保護管理を始めとした保護管理施策や管理体制の充実を図る。
30by30 目標は、主に OECM の設定により達成を目指すこととしている。このため、まずは、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域(企業緑地、里地里山、都市の緑地、藻場・干潟等)について、「自然共生サイト」としての認定を進める。認定された区域は、既存の保護地域との重複を除いてOECM国際データベースに登録することで、30by30 目標の達成に貢献する。また、国の制度等に基づき管理されている森林、河川、港湾、都市の緑地、海域等についても、関係省庁が連携し、OECM に該当する可能性のある地域を検討する。
30by30 目標の達成や生態系ネットワークの形成等を支える取組として、(7) ③で収集された自然環境データを基盤として、生物多様性の現状や保全上効果的な地域のマップ化等、生物多様性の重要性や保全活動の効果を国土全体で「見える化」し、生態系の質的な変化も含めて評価・把握する手法の構築を図り、提供する。
進かつての氾濫原や湿地等の再生による流域全体での遊水機能等の強化による、自然生態系を基盤とした気候変動への適応や防災・減災を進めるため、令和4年度に公表した生態系保全・再生ポテンシャルマップの作成・活用方法の手引きと全国規模のベースマップ等を基に、自治体等に対する各種計画策定や取組への技術的な支援を進める。また、自然の有する機能を持続的に利用し多様な社会課題の解決につなげる自然を活用した解決策(NbS)について、我が国における考え方を整理するとともに、生態系が有する機能の可視化及び効果的な生態系の保全管理に必要な技術的情報やデータの提供等を通じ、地域における活用策を推進する。
我が国は、これまでに生物多様性の観点から重要度の高い海域(以下「重要海域」という。)を抽出しており、今後、海洋保護区の拡充とネットワーク化を推進する。
30by30目標について、海域では約 17%の追加的な保全が必要であり、関係省庁が連携し、持続可能な産業活動が結果として生物多様性の保全に貢献している海域を OECM とすることを検討する。また、漁業等の従来の活動に加えて今後想定される海底資源の開発、自然エネルギーの活用などの人間活動と海洋における生物多様性の保全との両立を図る。
絶滅のおそれのある野生生物の情報を的確に把握し、定期的なレッドリストの見直しを行う。「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(平成4年法律第 75 号)に基づく希少野生動植物種を指定し捕獲や譲渡などを規制するほか、生息地等保護区の指定や、個体の繁殖の促進や生息地等の整備・保全などが必要と認められる種について保護増殖事業を実施する。事業の実施に当たっては生息域内保全を基本としつつ、動植物園等と連携しながら生息域外保全や野生復帰の取組を進める。また、絶滅のおそれの高い種や個体群について、生殖細胞や種子等の保存を進め、絶滅危惧種の絶滅リスクの低減と遺伝資源の確保に努める。更に、定量的な目標設定の下、生息・生育状況の改善を図り、事業を完了する事例を創出することなどにより、効果的な保全を推進する。
野生鳥獣に高病原性鳥インフルエンザ等の感染症が発生した場合や、油汚染事故による被害が発生した場合に備えて、サーベイランス、情報収集、人材育成等を行う。
近年、我が国においては、ニホンジカやイノシシなどの野生鳥獣が全国的に分布を拡大し、希少な高山植物の食害など生態系被害、生活環境被害、農林水産業被害が深刻化している。ニホンジカ・イノシシについては、平成 25 年度に策定した令和 5 年度までに個体数を半減する目標(平成 23 年度比)の期限を令和 10 年度まで延長し、引き続き捕獲対策を強化する。また、これらの捕獲の担い手の確保・育成、捕獲技術の開発、生息環境管理、被害防除、広域的な管理等の取組を進める。さらに、ジビエ利用量を令和元年度の水準から令和7年度までに倍増させる目標も踏まえ、ジビエ利用拡大を考慮した狩猟者の育成等の取組を進めジビエ利用拡大を図る。クマ類については、人の生活圏への出没による人身被害の発生が増加していることから、地域個体群の存続を維持しつつ、人身被害の発生を防ぐための対策を推進する。
外来種対策については、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(平成 16 年法律第 78号)に基づき、特定外来生物の新規指定、輸入・飼養等の規制、生物多様性保全上重要な地域における防除事業や「要緊急対処特定外来生物」であるヒアリ類を始めとする侵入初期の侵略的外来種の防除事業の実施、国際協力の推進、ビジネスセクターを含む多様な主体の参加、適正な飼養等の確保のための普及啓発等、総合的な外来種対策を推進する。また、これらの取組の更なる推進を図るため、「外来種被害防止行動計画」、「生態系被害防止外来種リスト」の改定等を行う。
遺伝子組換え生物については、環境中で使用する場合の生物多様性への影響について事前に的確な評価を行うとともに、生物多様性への影響の監視を進める。
「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48 年法律第105 号)、「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(平成 20 年法律第 83号)及び「愛玩動物看護師法」(令和元年法第50 号)に基づき、動物の虐待防止や適正な飼養などの動物愛護に係る施策及び動物による人への危害や迷惑の防止などの動物の適正な管理に係る施策を総合的に進める。
農林水産業は、人間の生存に必要な食料や生活資材などを供給する必要不可欠な活動である一方、我が国では、昔から農林水産業の営みが、身近な自然環境を形成し、多様な生物種の生育・生息に重要な役割を果たしてきた。今後、安全な食料や木材等の安定供給への期待に応えつつ、環境保全に配慮した持続的な農林水産業の振興とそれを支える農山漁村の活性化が必要である。そのため、環境と調和のとれた持続可能な食料システムの構築に向け、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるため、2021 年5月に策定された「みどりの食料システム戦略」と2022 年7月に施行された「みどりの食料システム法」に基づき温室効果ガス削減や化学農薬・化学肥料の使用低減等の環境負荷低減の取組を促進する。また、持続可能な森林経営等を積極的に進めるとともに、生態系に配慮した再生可能エネルギー等の利用を促進する。さらに、農業生産現場において、環境保全に配慮した農業生産工程管理(GAP:Good AgriculturalPractice)の普及・推進を図るとともに、農業者が有機農業に積極的に取り組むことができるよう環境整備を図る。
自然資源の保全活用により持続的な地域振興に取り組む地域への支援、エコツーリズムの基本的な考え方や各地の取組状況のホームページ等による発信、ガイド等人材の育成、情報の収集・整理、戦略的な広報活動、他施策との連携等を推進する。
2017年8月に我が国について発効した名古屋議定書の国内措置である「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」の適正な運用により、海外遺伝資源の適法取得及び適切な利用、その利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を推進する。
2022 年 12 月に採択された新たな世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の達成に積極的に貢献する。そのため、生物多様性日本基金第二期や、GBF 基金への拠出等を通じて、生物多様性国家戦略の策定・改定等、GBF の達成に必要となる各種取組に関する途上国の能力養成等を支援する。
生物多様性に関する科学と政策のつながりを強化し、効果的・効率的に生物多様性の保全を図るため、科学的評価、知見生成、能力養成、政策立案支援を行うIPBESの運営に積極的に参画する。また、生物多様性に関する全球規模の情報基盤である海洋生物多様性情報システム(OBIS)や地球規模生物多様性情報機構(GBIF)へのデータ提供に貢献する。
二次的自然環境における生物多様性の保全と持続可能な利用・管理を国際的に促進するため、SATOYAMA イニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)の取組への支援等により、SATOYAMA イニシアティブを推進する。
アジアにおける保護地域の管理水準の向上に向けて、保護地域の関係者がワークショップの開催等を通じて情報共有を図る枠組みである「アジア保護地域パートナーシップ」を推進する。
世界における持続可能な森林経営に向けた取組を推進するため、国連森林フォーラム(UNFF)、モントリオールプロセス等の国際対話への積極的な参画、国際熱帯木材機関(ITTO)、国連食糧農業機関(FAO)等の国際機関を通じた協力、国際協力機構(JICA)、緑の気候基金(GCF)等を通じた技術・資金協力等により、多国間、地域間、二国間の多様な枠組みを活用した取組の推進に努める。また、脱炭素社会の実現に資する持続可能な木材利用の促進についても、FAO や ITTO 等の国際機関を通じた取組を展開していく。
砂漠化対処条約(UNCCD)に関する国際的動向を踏まえつつ、同条約への科学技術面からの貢献を念頭に砂漠化対処のための技術の活用に関する調査等をとりわけモンゴルにおいて進めるとともに、二国間協力等の国際協力の推進に努める。
南極地域の環境保護を図るため、南極地域での観測、観光等に対する確認制度等を運用し、普及啓発を行うなど、環境保護に関する南極条約議定書及びその国内担保法である「南極地域の環境の保護に関する法律」(平成9年法律第61 号)の適正な施行を推進する。
国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)の枠組みの中で策定した「地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)東アジア地域解析実施計画書」に基づき、サンゴ礁生態系のモニタリングデータの地球規模の解析を各国と協力して進める。
推進渡り性水鳥とその重要な生息地を保全するための国際的な枠組みである東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)について、国内の 34 か所のネットワーク参加地における普及啓発、調査研究、研修、情報交換等の取組に加えて、フライウェイに位置する各国の関係省庁、国際機関、NGO 等の様々な主体と連携・協力を促進する。
ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生生物種の保護、ラムサール条約に基づく国際的に重要な湿地の保全及び適正な利用、二国間渡り鳥等保護条約や協定を通じた渡り鳥等の保全、カルタヘナ議定書に基づく遺伝子組換え生物等の使用等の規制を通じた生物多様性への影響の防止、名古屋議定書に基づく遺伝資源への適正な取得と利益配分等の国際的取組を推進する。
収集・整備した情報を用いて、生物多様性の状況や関連施策の取組状況等を国民に分かりやすく伝える。
生物多様性保全上の様々な課題に取り組むためには、科学的知見の集積とそれに基づく政策立案が不可欠である。このため、自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)や植生図の作成、モニタリングサイト 1000 等の各種モニタリングの継続的な実施、各主体間の連携によるデータの収集・提供等の体制整備を進める。また、市民参加型モニタリングの充実と基礎的データとしての活用、海外を含めた大学や地方・民間の調査研究機関、博物館等相互のネットワークの強化等を通じた情報の共有と公開等を通じて、自然環境データの充実を図る。
東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する放射線による自然生態系への影響を把握するため、野生動植物の試料採取及び放射能濃度の測定等による調査を実施する。また、調査研究報告会の開催等を通じて、情報を集約し、関係機関及び各分野の専門家等との情報共有を図る。
生物多様性及び生態系サービス等の状態や変化及びその要因等について最新の科学的知見等を踏まえて評価を行い、「生物多様性及び生態系サービスの総合評価」として取りまとめ、政策決定を支える客観的情報とするとともに、国民に分かりやすく伝えていく。また、生物多様性国家戦略2023-2030 の達成状況の評価を効果的・効率的に進めるために本評価との連携を行う。
資源投入量・消費量を抑えつつ、製品等をリペア・メンテナンスなどにより長く利用し、循環資源をリサイクルする3Rの取組を進め、再生可能な資源の利用を促進し、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて資源・製品の価値を回復、維持又は付加することによる価値の最大化を目指す循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行は、循環型社会のドライビングフォースともいえるものであり、資源消費を最小化し、廃棄物の発生抑制や環境負荷の低減等につながるものである。
この循環経済への移行は、環境面に加え、国際的な資源確保の強化の動きや人権・環境デュー・ディリジェンスのルール形成の動き、欧州における規制強化の動きも含めた現下の国際情勢等も踏まえれば、資源確保や資源制約への対応や、国際的な産業競争力の強化に加え、経済安全保障の強化にも資する。これを踏まえ、バリューチェーン全体における資源効率性及び循環性の向上等に効果的な循環経済アプローチを推進することによって循環型社会の形成を促進する。循環経済への移行に当たっては、各主体にとっては短期的に経済合理的ではない取組の実施が必要となる場合もあるため、各主体の取組が円滑に進み、社会的に評価されるようになる方向で政策を進める。
循環経済への移行を推進することは、温室効果ガスの排出削減を通じたカーボンニュートラルの実現や廃棄物の削減・汚染の防止、自然資本への負荷軽減等を通じたネイチャーポジティブの実現といった環境的側面のほか、経済・社会的側面を含めた持続可能な社会の実現に貢献するものである。よって、それぞれの取組間の関係性を踏まえ、最大限トレードオフを回避しつつ、相乗効果が出るような統合的な政策を進める。
循環経済への移行を推進することにより、例えば、地域課題の解決や地場産業の振興にも貢献し得るものであり、持続可能な地域づくりや地方創生の実現にも繋げるとともに、こうした持続可能な地域を基礎として成り立つ循環共生型社会、すなわち脱炭素社会・循環型社会・自然共生社会が同時実現した持続可能な社会の実現に繋げる。
循環経済への移行には、資源確保段階、生産段階、流通段階、使用段階、廃棄段階のライフサイクルの各段階を最適化し、ライフサイクル全体での徹底的な資源循環を実施する必要があり、製造業・小売業などの動脈産業における取組と廃棄物処理・リサイクル業など静脈産業における取組が有機的に連携する動静脈連携が重要である。
これを踏まえて国内外の資源循環を加速し、我が国の状況に応じて中長期的にレジリエントな資源循環市場の創出を支援するための施策を進める。例えば、現下の国際情勢を踏まえ、世界的な鉱物資源等の需給逼迫等に対応し、経済安全保障に貢献する、重要鉱物のサプライチェーンの強靱化に資する国内におけるレアメタル等の金属資源循環の強化のための施策を進める。また、国内外で再生材の利用を促す取組が進みつつあるところ、動静脈連携により必要な再生材を確保し、再生材の利用が円滑に進むようにするための施策を進める。
製造業・小売業などの動脈側においては、事業者による環境配慮設計の推進、持続可能な調達、リデュース、リユース、バイオマス化・再生材利用、自主回収等の取組を強化するための施策を進める。また、リユースの深掘りとして、製品の適切な長期利用を促進する観点から、シェアリング、サブスクリプション等のサービス化、リペア・メンテナンス、二次流通仲介等の製品の適切な長期利用を促進する「リコマース(Re-commerce)」のビジネスを育成するための施策を進める。
また、廃棄物処理・リサイクル業などの静脈側においては、企業や地域における先進的な事例を踏まえ、動脈産業との連携の取組を全国に広げていくための施策や、静脈産業の資源循環に係る情報を活用し、脱炭素化を促進するための施策など、循環型社会を実現するために必要な静脈産業の脱炭素型資源循環システムを構築するための施策を進める。動静脈連携により資源循環を促進するに当たっては、製品の安全性の確保、有害物質のリスク管理、不法投棄・不適正処理の防止等の観点にも留意し、各主体による適正な取組を推進する。
そして、循環資源の分別・収集・利用等に関して、消費者や住民との対話等を通じた、またこれらを活かした前向きで主体的な意識変革や環境価値の可視化等を通じた行動変容、具体的取組に繋げるための施策を進める。
環境への負荷や廃棄物の発生量、脱炭素への貢献といった観点から、ライフサイクル全体で徹底的な資源循環を考慮すべきプラスチック・廃油、食品廃棄物等を含むバイオマス、金属、土石・建設材料などの素材や建築物、自動車、小型家電・家電、太陽光発電設備やリチウムイオン電池や衣類などの製品について、循環経済工程表(令和4年9月)で示した今後の方向性を基に、例えばプラスチック資源の回収量倍増、金属のリサイクル原料の処理量倍増といった目標に向けた、更なる取組を進めるための具体的な施策を進める。
経済的側面からは、循環産業をはじめとする循環経済関連ビジネスを成長のエンジンとし、産業競争力を高めながら、循環経済への移行に向けた取組を持続的なものとし、かつ主流化していくことが不可欠の要素となる。成長戦略フォローアップ工程表(令和3年6月 18 日閣議決定)や循環経済工程表等も踏まえ、2030 年までに循環経済関連ビジネスの市場規模を 80 兆円以上にするという目標に向け、グリーントランスフォーメーション(GX)への投資を活用した施策も含め、循環経済への移行の推進に関する施策を進める。
動静脈連携を促進するための資源循環情報の把握や、電子マニフェストなど各種デジタル技術を活用した情報基盤整備に関する施策を進める。
また、拡大生産者責任の適用、事業者による自主的な行動の促進、経済的インセンティブの活用、情報的措置、公共調達、ビジネスとのパートナーシップ等のポリシーミックスの適用について進める。
人口減少・少子高齢化の進む状況下においても資源生産性の高い循環型社会を構築していくためには、循環資源を各地域・各資源に応じた最適な規模で循環させることや、地域の再生可能資源を継続的に地域で活用すること、地域のストックを適切に維持管理し、できるだけ長く賢く使っていくことにより資源投入量や廃棄物発生量を抑えた持続可能で活気のあるまちづくりを進めていくことが重要である。循環共生型社会の実現に向け、地域においても脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の統合を図るための施策を進める。
具体的には、食料システムにおける食品ロス削減や食品リサイクル等による資源を最大限活用するための取組、使用済製品等のリユース、有機廃棄物(生ごみ・し尿・浄化槽汚泥・下水汚泥)や未利用資源等のバイオマス資源の肥料やエネルギーとしての循環利用、木材の利用拡大やプラスチックや金属資源等の資源循環、使用済紙おむつの再生利用等の取組及び環境と調和のとれた持続可能な農林水産業を地域産業として確立させることで、地域コミュニティの再生、雇用の創出、地場産業の振興や高齢化への対応、生態系保全等地域課題の解決や地方創生の実現につなげるための施策を進める。
①を支える取組として、金融機関も含めた循環分野の経済活動による地域の経済社会の活性化と地域の課題解決に向けた施策を進める。
また、資源循環に関する施策の先行地域の取組について、広く情報収集するとともに、収集した情報を整理・共有し、取組を全国的に横展開していくための施策を進める。さらに、各地域における徹底的な資源循環や脱炭素、地域コミュニティづくり等の多様な目的を促進するため、分散型の資源回収拠点ステーションやそれに対応した施設の整備等の地域社会において資源循環基盤となる取組の構築に向けた施策や、生活系ごみ処理の有料化の検討・実施や廃棄物処理の広域化・集約的な処理、地域の特性に応じた効果的なエネルギー回収技術を導入する取組等を地域で実践するための施策を進める。
マイクロプラスチックを含む海洋・河川等環境中に流出したごみに関して、実態把握や発生抑制対策、回収・処理等を進めるための施策を進める。
生活環境保全上の支障等がある廃棄物の不法投棄等について支障の除去等を進めるとともに、未然防止や拡大防止の施策を進める。
ライフサイクル全体での徹底した資源循環を図るために、使用済製品等の解体・破砕・選別等のリサイクルの高度化、バイオマス化・再生材利用促進、急速に普及が進む新製品・新素材についての3R確立、環境負荷の見える化など、地域及び社会全体への循環経済関連の新たなビジネスモデル普及等に向けて必要な技術開発、トレーサビリティ確保や効率性向上の観点からのデジタル技術やロボティクス等の最新技術の徹底活用を行うことにより資源循環・廃棄物管理基盤の強靱化と資源循環分野の脱炭素化を両立する施策を進める。
具体的には、動静脈連携を促進するための資源循環情報の把握や、各種デジタル技術を活用した情報基盤整備に関する施策を進める。
また、地域において資源循環を担う幅広い分野の総合的な人材の育成・確保、様々な場での教育や主体間の連携を促進するための施策を進める。
個々人の意識を高め、さらに、様々な問題意識を有するあらゆる立場の者が実際の行動に結びつくような情報発信や仕組みづくりを進めるための施策を進め、とりわけ、新たな技術やサービスを活用し新たなライフスタイルで生きる若者世代について、そのライフスタイルや意識の変化を踏まえつつ、より効果的な施策を進める。
さらに、ESG 投資が拡大する中で、我が国の資源循環に率先して取り組む企業が投資家等から適切に評価され、企業価値の向上と産業競争力の強化につながることが重要であることから、循環経済に関する積極的な情報開示や投資家等との建設的な対話に関する取組を後押しする施策を進める。
加えて、マイクロプラスチックを含む海洋等環境中に流出したごみに関して、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた政府間交渉委員会(INC)等の国際的な動向を踏まえ、国際連携を推進するとともに、モニタリング手法の調和や影響評価等の科学的知見の集積を進めるための施策を進める。
平時から災害時における生活ごみやし尿に加え、災害廃棄物の処理を適正かつ迅速に実施するため、国、地方公共団体、研究・専門機関、民間事業者等の人的支援や広域処理の連携を促進する等、地方公共団体レベル、地域ブロックレベル、全国レベルで重層的に廃棄物処理システムの強靱化を進めるための施策を進める。
その際、風水害等については温暖化対策における適応策との統合、災害時のアスベスト・化学物質等への対応との統合、住民等との災害時の廃棄物対策に関する情報共有について考慮して検討を進める。また、災害廃棄物の適正処理のため、関係省庁と連携する。
さらに、継続的に災害廃棄物の仮置場として適用可能な土地をリストアップするとともに、災害発生時に確実に運用できるよう準備を進めるなど、実効性のある災害廃棄物処理計画の策定及び改定を促進するための施策を進める。
有害廃棄物対策や化学物質管理も含め、廃棄物の適正処理は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上の観点から厳然として不可欠であり、今後も循環経済への移行に向けた取組を進めるに当たって大前提となるものである。資源循環及び廃棄物処理の原則としては、まずは3R+Renewable(バイオマス化・再生材利用等)を徹底し、これを徹底した後になお残る廃棄物の適正な処理を確保するという優先順位で取り組む。また、これらの資源循環の促進に当たっては、製品の安全性の確保、有害物質のリスク管理、不法投棄・不適正処理の防止等の観点にも留意し、各主体による適正な取組を推進する。
さらに、廃棄物の不適正処理への対応強化、不法投棄の撲滅に向けた施策、アスベスト、POPs 廃棄物、水銀廃棄物、埋設農薬等の有害廃棄物対策を着実に進めるための施策を進め、ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物については、期限内の確実かつ適正な処理を推進するための施策を進める。
東日本大震災の被災地の環境再生のため、放射性物質により汚染された廃棄物の適正処理及び除去土壌等の最終処分に向けた減容・再生利用などの取組を、国民の理解の下、地方公共団体等の関係者と連携しつつ、政府一体となって着実に進めるための施策を進める。
また、福島の復興に、脱炭素、資源循環、自然共生などの環境施策でも貢献し、産業創成や地域創生など地元ニーズに応えながら未来志向の取組を推進する。
G7、G20 やOECD 等の国際的な政策形成の場において、資源循環政策等に関する議論・交渉や合意形成等をリードし、国際的な循環経済促進を進めるとともに、こうした国際的な潮流や政策を適切に取り入れ、国内の循環政策を向上させる好循環を実現するための施策を進める。
ASEAN・OECD 各国等海外で発生した重要鉱物資源を含む金属資源(電子スクラップ等)について、日本の環境技術の先進性を活かした適正なリサイクルを増加させ、サプライチェーンで再利用する国際金属資源循環体制を構築するための施策を進める。
不法輸出入対策について、関係省庁、関係国・関係国際機関との連携を一層進め、取締りの実効性を確保するための施策を進める。再生材やその原料に関する円滑な輸出入の促進に関する国際的な議論を進めていく。またリサイクルハブとしての日本への輸入をさらに円滑にすべく、特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(平成4年法律第108 号)の認定制度の更なる促進と電子化手続の検討を進めていく。アジア各国との関係性を更に強化し、違法輸出への水際対処能力の向上を図ることが必要である。
ASEAN等の途上国で、プラスチック汚染を含む環境汚染や健康被害を防止するため、関係省庁や関係国とも連携しながら、日本の優れた廃棄物処理やリサイクル等に関する制度構築・技術導入・人材育成等をパッケージで展開し、環境上適正な廃棄物管理及びインフラ整備を推進するための施策を進める。
また、下水道、浄化槽等について、集合処理と個別処理のそれぞれの長所を生かしたバランスの取れた包括的な汚水処理サービスの国際展開を図るための施策を進める。
さらに、我が国が主導する国際的なプラットフォームを活用し、アジア及びアフリカの途上国における循環経済移行や処分場からのメタンの排出削減を含む廃棄物管理の取組を促進し、我が国の優位性のある廃棄物管理等の需要拡大を図り、循環産業の国際展開・循環インフラ輸出につなげるための施策を進める。
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質によって汚染された廃棄物及び除染等の措置に伴い発生した土壌等については、放射性物質汚染対処特措法及び同法に基づく基本方針等に基づき、引き続き、適正かつ安全に処理を進めていく。
福島県内の除染に伴い発生した土壌や廃棄物等を福島県外で最終処分するまでの間、安全かつ集中的に管理・保管するための中間貯蔵施設の整備や、中間貯蔵施設への除去土壌等の搬入を推進する。
福島県外において除染等の措置に伴い発生した土壌等については、適正かつ安全な処分の実施とそれまでの適切な保管の継続が確保されるよう市町村等に対する技術的、財政的支援を行い、着実に処理を進めていく。
除去土壌等の最終処分に向けた減容に関する技術開発や、再生利用の技術的な検討などの取組や 2025 年度以降の最終処分の事業実施に係る調査検討・調整などの取組を、国民の理解の下、地方公共団体等の関係者と連携しつつ、政府一体となって進める。
福島県においては、特定廃棄物の減容化や埋立処分事業に引き続き取り組む。
福島県外の指定廃棄物については、引き続き、技術的、財政的支援も行い適正な保管を確保するとともに、各県の実情に応じて指定廃棄物の指定解除の仕組みも活用して処理を進めていく。
特定復興再生拠点区域外については、まずは2020 年代をかけて、帰還意向のある住民の方々が全員帰還できるよう、2023 年6月に改正された「福島復興再生特別措置法」(平成 24 年法律第 25号)に基づく各自治体の特定帰還居住区域復興再生計画に沿って、除染やインフラ整備などの避難指示解除に向けた取組を進めていく。
「放射性物質による環境の汚染の防止のための関係法律の整備に関する法律」(平成25 年法律第60 号)において放射性物質に係る適用除外規定の削除が行われなかった廃棄物処理法、土壌汚染対策法その他の法律の取扱いについて、放射性物質汚染対処特措法の施行状況の点検結果も踏まえて検討する。
健全な水循環の維持・回復のためには、関係者が連携し、水循環に関する様々な分野の情報や課題に対する共通認識をもって流域や地域ごとの特性を踏まえた将来像を相互に共有し、施策に取り組むことが必要である。
平成 26 年に施行された「水循環基本法」(平成 26 年法律第 16号)に基づき、良好な水循環の維持・回復に取り組むため、官民連携「ウォータープロジェクト」を通じ、良好な水循環・水環境の保全活動の普及啓発を実施する。
また、「水循環基本計画」(令和4年6月一部変更)に基づき、健全な水循環の維持・回復のため、流域マネジメントの更なる展開と質の向上、気候変動や大規模自然災害等によるリスクへの対応、健全な水循環に関する普及啓発、広報及び教育と国際貢献に取り組むとともに、地下水の適正な保全及び利用などの取組を推進していく。
水質汚濁に係る環境基準については、新しい環境基準である底層溶存酸素量の活用を推進しつつ、将来及び各地域のニーズに応じた生活環境の保全に関する環境基準の在り方について検討を進める。また、水系感染症を引き起こす原虫やウイルス等の病原体について知見の集積に努め、大腸菌数の衛生指標としての有効性や大腸菌数以外の指標についても検討を行う。薬剤耐性菌に関する水環境中などにおける存在状況及び健康影響等に関する基礎情報が不足していることから、これらの情報の収集を進める。環境中の化学物質等に係る最新の知見や化学物質管理に係る検討を踏まえ、水生生物の保全に関わる環境基準や人の健康の保護に関する環境基準等の追加や見直しについても検討を行う。
水質汚濁防止法等に基づき、国及び都道府県等は、公共用水域及び地下水の水質について、放射性物質を含め、引き続き常時監視を行う。
水質環境基準等の達成、維持を図るため、工場・事業場排水、生活排水、市街地・農地等の非特定汚染源からの排水などの発生形態に応じ、水質汚濁防止法等に基づく排水規制、水質総量削減、「農薬取締法」(昭和23 年法律第82 号)に基づく農薬の使用規制、下水道、農業集落排水施設及び浄化槽などの生活排水処理施設の整備等の汚濁負荷対策を推進する。また、各業種の排水実態等を適切に把握しつつ、特に経過措置として一部の業種に対して期限付きで設定されている暫定排水基準については、随時必要な見直しを行う。また、必要に応じて適正な支援策を講じる。
水道水質基準に適合する安全な水道水を国民に供給するため、最新の科学的知見に基づき、水道水質基準等の設定・見直しを、引き続き着実に実施する。
また、水道水の水質及び衛生管理にあたっては、水環境管理とともに、水道の水源から蛇口の水まで一体的なリスク管理を進める。具体的には、国内外で懸念が高まっている PFOS、PFOA 等については、「PFAS に関する今後の対応の方向性」(令和5年7月、「PFAS に対する総合戦略検討専門家会議」)を踏まえ、環境モニタリングの強化や科学的知見の充実など、安全・安心のための取組を進める。また、水系感染症の要因となり得る病原微生物に係る課題への検討を行う。
さらに、自然災害や事故に起因する水道水源等の汚染に係るリスク管理にあたっては、事例・科学的知見の収集を行い、国及び地方公共団体の環境部局や水道部局等の関係者間の迅速な情報共有体制の構築、リスク管理の在り方等、有事を想定した水道水質の安全対策の強化について検討する。
湖沼については、「湖沼水質保全特別措置法」(昭和59 年法律第61 号)に基づく湖沼水質保全計画が策定されている11 の指定湖沼について、同計画に基づき、各種規制措置のほか、下水道及び浄化槽の整備、その他の事業を総合的・計画的に推進する。
琵琶湖については、「琵琶湖の保全及び再生に関する法律」(平成 27 年法律第 75号)に基づく「琵琶湖の保全及び再生に関する基本方針」等を踏まえ、水質の保全及び改善や外来動植物対策などの各種施策を、関係機関と連携して推進する。
また、気候変動の影響や生態系の変化を踏まえ、従来の湖沼水質保全の考え方における流入負荷を減らして湖内の水質を改善するという考え方に加え、物質循環を円滑にすることで水産資源を保全し、水質の保全との両立を図るという考え方の下、底層溶存酸素量の低下、植物プランクトンの異常増殖、水草大量繁茂などの課題についての知見の充実や対策の検討を行い、地域における取組の支援を進めていく。これらを着実に実施し、湖沼の健全性や物質循環について評価指標等の検討も進めていく。
閉鎖性海域については、これまでの取組により、水質は改善傾向にあるものの、COD の高止まり、底層溶存酸素量の低下、気候変動による水温上昇や海洋酸性化等の問題が発生しているほか、一部の海域では、栄養塩類の不足等による生物多様性や生物生産性の低下が課題となっている。
そのため、瀬戸内海においては、「瀬戸内海環境保全特別措置法」(昭和 48 年法律第110 号)による取組を推進し、改正瀬戸内法施行(令和4年4月)後5年を目途に実施されるフォローアップに向け、生物多様性・生物生産性の確保に対する栄養塩類管理の効果等について情報収集・調査・研究を進め、より適切な改善対策へとつなげていく。また、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海に適用されている水質総量削減制度については、よりきめ細かな海域の状況に応じた水環境管理の在り方について、制度の見直し等も含め検討を進めていく。
さらに、浄化機能、生物多様性の確保及び炭素固定機能の観点から、自然海岸、ブルーインフラ(藻場・干潟等及び生物共生型港湾構造物)等の、適切な保全・再生・創出を促進するための事業や、それらを通じたブルーカーボンに係る取組等を推進する。また、港湾工事等で発生する浚渫土砂等を有効活用した覆砂等による底質環境の改善、貧酸素水塊が発生する原因の一つである深掘跡について埋め戻し等の対策、失われた生態系の機能を補完する環境配慮型構造物等の導入など健全な生態系の保全・再生・創出に向けた取組を推進する。その際、里海づくりの考え方を取り入れつつ、流域全体を視野に入れて、官民で連携した総合的施策を推進する。
また、有明海及び八代海等については、「有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律」(平成14 年法律第120 号)に基づく再生に係る評価及び再生のための施策を推進する。
地下水の水質については、有機塩素化合物等の有害物質による汚染が引き続き確認されていることから、水質汚濁防止法に基づく有害物質の地下浸透規制や、有害物質を貯蔵する施設の構造等に関する基準の順守及び定期点検等により、地下水汚染の未然防止の取組を進める。また、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素による地下水汚染対策について、地域における取組支援の事例等を地方公共団体に提供する等、負荷低減対策の促進方策に関する検討を進める。
また、地盤沈下等の地下水位の低下による障害を防ぐため、地下水採取の抑制のための施策を推進するとともに、地球温暖化対策として再生可能エネルギーである地中熱の利用を普及促進し、持続可能な地下水の保全と利用を推進するための方策に関する検討を進める。
さらに、令和3年6月の水循環基本法及び令和4年6月の水循環基本計画の一部改正により、「地下水の適正な保全及び利用」等が追加された趣旨を踏まえ、流域全体を通じて、地下水・地盤環境の保全上健全な水循環の確保に向けた取組を推進する。
日本が段階的に水環境を改善してきた法制度や人材育成、技術等の知見を生かし、アジア地域 13 カ国の水環境管理に携わる行政官のネットワークであるアジア水環境パートナーシップ(WEPA)により、アジア各国との連携強化・情報共有の促進、各国の要請に基づく水環境改善プログラム(アクションプログラム)支援等を実施し、水環境ガバナンスの強化を目指す。更にそれらの情報を世界フォーラム等の場で発信し、世界の水環境改善に貢献すべく国際協力を進めていく。
また、アジア水環境改善モデル事業による民間企業の海外展開の支援等により、アジアにおける途上国の水環境改善と日本の優れた技術の海外展開促進を図る。
土壌汚染に関する適切なリスク管理を推進し、人の健康への影響を防止するため、土壌汚染対策法に基づき、土壌汚染の適切な調査や対策を推進する。また同法について、2017 年5月に成立した「土壌汚染対策法の一部を改正する法律」(平成29 年法律第33 号)の施行状況を点検し、必要に応じて新たな措置を検討する。
ダイオキシン類による土壌汚染については、「ダイオキシン類対策特別措置法」(平成 11 年法律第 105 号)、農用地の土壌汚染については、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」(昭和 45 年法律第 139号)に基づき、必要な対策を推進する。
海洋ごみやプラスチック汚染に関する国際的な合意や野心の下、プラスチック資源循環法その他の関係法令等によるプラスチック製品の設計から廃棄物の処理に至るまでのライフサイクル全般にわたる包括的な資源循環体制の強化等とともに、海岸漂着物処理推進法等に基づき、海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進する。具体的には、マイクロプラスチックを含む海洋・河川等環境中に流出したごみに関する量・分布等の実態把握や、マイクロプラスチックを含む海洋プラスチックごみによる生物・生態系への影響に関する科学的知見の集積、地方公共団体等が行う海洋ごみの回収・処理(大規模な自然災害等により大量に発生する海岸漂着物等の処理を含む。)や発生抑制対策への財政支援、地方公共団体・企業・漁業者・住民等の地域内の多様な主体の連携及び瀬戸内海での広域連携、広報活動等を通じた普及啓発等を実施する。また、海洋環境整備船を活用した漂流ごみ回収の取組を実施する。さらに、外国由来の海洋ごみへの対応も含めた国際連携として、海洋表層マイクロプラスチック等のモニタリング手法の調和、データ共有システムの整備や、アジア地域等においてプラスチックを含む海洋ごみの実態把握や発生抑制に関する協力を進める。
ロンドン条約 1996 年議定書、船舶バラスト水規制管理条約、海洋汚染防止条約(マルポール条約)及び油濁事故対策協力(OPRC)条約等を国内担保する「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(昭和45 年法律第136 号)に基づき、廃棄物等の海洋投入処分等に係る許可制度の適切な運用、バラスト水処理装置等の審査、未査定液体物質の査定及び排出油等の防除体制の整備等を適切に実施する。
また、船舶事故等で発生する流出油による海洋汚染の拡散防止等を図るため、関係機関と連携し、大型浚渫兼油回収船を活用するなど、流出油の回収を実施する。
さらに、我が国周辺海域における海洋環境データ及び科学的知見の集積、北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)等への参画等を通じた国際的な連携・協力体制の構築等を推進する。二酸化炭素回収・貯留(CCS)については、2030 年までに民間事業者による CCS 事業の実施が見込まれることを踏まえ、海底下 CCS が海洋環境の保全と調和する形で適切かつ迅速に実施されるよう環境保全に係る制度の整備を進める。
我が国周辺海域の底質・生体濃度・生物群集等を調査する海洋環境モニタリング調査や、東日本大震災への対応としての放射性物質等の環境モニタリング調査、海水温上昇や海洋酸性化等の海洋環境や海洋生態系に対する影響の把握等を行う。
大気汚染防止法等に基づく固定発生源対策及び移動発生源対策を適切に実施するとともに、光化学オキシダント及びPM2.5 の生成の原因となり得る窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)に関する排出実態の把握に努め、科学的知見を集積し、排出抑制技術の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、対策を進める。
特に光化学オキシダントについては、「光化学オキシダント対策ワーキングプラン」に基づき、人の健康への影響に係る環境基準の再評価、気候変動に着目した科学的検討、光化学オキシダント濃度低減に向けた新たな対策の検討等を行い、科学的知見を基にした各種施策を着実に推進し、光化学オキシダントに係る環境基準達成率向上を図る。
なお、光化学オキシダントとPM2.5 の削減対策は、人の健康の保護に加え、オゾンやブラックカーボン(BC)といった短寿命気候汚染物質(SLCPs)の削減による気候変動対策にも効果的な場合があることから、最適な対策の検討及び総合的な取組を進める。
大気汚染防止法に基づく排出規制の状況及び科学的知見や排出抑制技術の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、追加的な排出抑制策の可能性を検討する。
電動車等のよりクリーンな自動車への代替を促進するほか、国内の自動車の走行実態や国際基準への調和等を考慮した自動車排出ガスの許容限度(自動車単体排出ガス規制)の見直しに向けた検討、中央環境審議会による「今後の自動車排出ガス総合対策の在り方について(答申)」(令和4年4月 28日)を踏まえた検討を進めるなど、大気環境の更なる改善に向けた取組を継続していく。
VOC の排出実態の把握を進めること等により、実効性ある VOC 排出抑制対策の検討を行うとともに、大気汚染防止法による規制と自主的取組のベストミックスによる排出抑制対策を引き続き進める。
大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、大気汚染防止法に基づき、国及び都道府県等では常時監視を行っている。引き続き、リアルタイムに収集したデータ(速報値)を「大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)」により、国民に分かりやすく情報提供を行う。その他、酸性雨や黄砂、越境大気汚染の長期的な影響を把握することを目的としたモニタリングや、放射性物質モニタリングを引き続き実施する。
石綿含有建材が使用されている建築物等の解体等工事については、大気汚染防止法の適切な運用による飛散防止対策の徹底はもとより、解体等工事の発注者、受注者等の関係者に対し、それぞれの役割に応じた適切な取組の普及啓発を進める。また、建築物等の解体等工事における事前調査を行う建築物石綿含有建材調査者等を十分に確保するとともにその育成を進める。さらに、災害に備え地方公共団体による建築物等における石綿使用状況の把握、データベースとしての整理、関係部署との共有体制の構築といった取組が進められるよう、地方公共団体への支援を行う。
石綿による大気汚染の状況を把握するため、大気中の石綿の濃度測定を実施するとともに、大気汚染防止法の施行状況を勘案しつつ必要な対策を検討する。
水銀に関する水俣条約を踏まえて改正された大気汚染防止法に基づく水銀大気排出規制の着実な実施に努める。また、水銀大気排出インベントリの作成や、自主的取組の実施が求められる要排出抑制施設のフォローアップなど、地方公共団体や関係団体等と連携して水銀大気排出規制の取組状況に関する情報を収集・整理し、必要に応じて新たな措置を検討するなど、水銀大気排出抑制対策を推進する。
大気汚染防止法に基づく有害大気汚染物質対策を引き続き適切に実施し、排出削減を図るとともに、新たな情報の収集に努め、必要に応じて更なる対策について検討する。さらに、POPs などの新たな化学物質も含め、健康影響、大気中濃度、発生源、抑制技術等に係る知見を引き続き収集し、科学的知見やモニタリング結果等に基づき、状況に応じて優先順位付けも行いながら、環境目標値の設定・再評価や健康被害の未然防止に効果的な対策のあり方について検討する。
また、事業者における排出抑制に向けた自主的取組の推進や地方公共団体における効率的なモニタリングを実施する。
自動車の電動化に伴うタイヤ騒音増加への影響等を含む国内の自動車の走行実態や国際基準への調和等を考慮した自動車単体騒音に係る許容限度(自動車単体騒音規制)の見直しについて検討を進める。また、車両の低騒音化、道路構造対策、交通流対策等の対策や、住宅の防音工事等のばく露側対策に加え、状況把握や測定の精度向上、測定結果の情報提供等により、騒音・振動問題の未然防止を図る。
最新の知見の収集・分析等を行い、騒音・振動の評価方法等についての検討を行う。また、従来の規制的手法による対策に加え、最新の技術動向等を踏まえ、情報的手法及び自主的取組手法を活用した発生源側の取組を促進する。
従来の環境基準や規制を必ずしも適用できない新しい騒音問題について対策を検討するために必要な科学的知見を集積する。風力発電施設や家庭用機器等から発生する騒音・低周波音については、その発生・伝搬状況や周辺住民の健康影響との因果関係、わずらわしさを感じさせやすいと言われている純音性成分や風力発電施設の大型化した場合の影響や累積的な影響等、未解明な部分について引き続き調査研究を進め、必要な情報を積極的に発信する。また、それらの施設から発生する騒音・低周波音が生活環境に及ぼす影響を適切に調査、予測及び評価するための手法を検討する。
悪臭対策について、知見の収集を行い、技術動向等を踏まえた測定方法の見直しを検討するとともに、地方公共団体等への技術的支援及び普及啓発を進める。
屋外照明等の不適切かつ配慮に欠けた使用による悪影響(光害)への対策について、技術開発の状況や国内外の動向を把握するとともに、必要に応じ光害対策ガイドラインを見直し、普及啓発を図る。また、星空観察の推進を図り、より一層大気環境保全に関心を深められるよう取組を推進する。
アジア地域における大気汚染の改善に向け、様々な二国間・多国間協力を通じて大気汚染対策を推進する。
アジア地域における大気環境の課題に対し、日本の技術導入の提案、実施、評価及び普及拡大等を通じ、大気汚染の改善と温室効果ガス排出削減のコベネフィット・アプローチの促進を図る。
日中韓三カ国間の大気汚染に関する政策対話、モンゴルを含む3+Xによる黄砂に関する共同研究等を推進し、三カ国の政策や技術の向上を図る。
国連環境計画(UNEP)、クリーン・エア・アジア(CAA)、国際応用システム分析研究所 (IIASA)等と連携した大気汚染対策と気候変動対策のコベネフィット・アプローチの推進や、大気汚染物質全般に対象を拡大した東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)、アジア EST地域フォーラム、JCM 等の国際的な枠組み等を活用し、我が国の知見・経験の共有、技術移転、能力開発等の国際協力を推進する。
水・大気環境の保全・管理と、脱炭素、資源循環、自然共生との統合的アプローチにより、持続可能な窒素及びリンの管理によって社会や地域に貢献する取組を推進する。具体的には、適正な施肥、堆肥や下水汚泥等の国内資源の利用拡大、家畜排泄物のエネルギー利用等により、環境基準の超過が継続する地下水の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素や、水道水源にもなる湖沼等の富栄養化への対処を進める。また、今後拡大が見込まれる燃料、水素キャリア等の用途でのアンモニア等の開発・利用に当たり、窒素酸化物(NOx)の排出量を増加させない技術の活用等、NOx や一酸化二窒素(N2O)の排出を回避する。さらに、省エネ効果もある下水処理場の能動的運転管理等により、「きれいで豊かな海」に向けた適切な栄養塩管理などを進める。
また、我が国におけるインベントリの精緻化や科学的知見の集約を進めるとともに、持続可能な窒素管理の行動計画を策定する。さらに、我が国の知見を窒素の消費量の増加が著しいアジア地域の途上国等にも展開することなどにより、国際的な窒素管理にも貢献していく。
良好な環境の創出に向けて、豊かな水辺、星空、音の風景等、地域特有の自然資本・社会資本たる自然や文化の保全により、地域住民のウェルビーイングの向上と地域活性化を実現する取組、水質管理のみならず生物多様性の保全や地域づくり等にも資する総合的な水環境管理を目指すための取組や、水道水源となる森や川から海に至るまで、OECM も活用した良好な環境の創出に取り組む地域を支援・連結した流域一体的な保全のモデルの構築、藻場・干潟の保全・再生・創出の促進と地域資源としての利活用との好循環を目指す里海づくりなどを実施する。
また、土壌が有する炭素貯留、水源の涵養といった環境上の多様な公益的機能に関して、市街地等も対象にしつつ、より良い地域づくり等に活用しやすい形での情報の収集、整理等を図る。
環境管理分野における測定・点検等に係る規制について、令和3年12 月にデジタル臨時行政調査会により策定されたデジタル原則に則り、リアルタイムモニタリングなど、環境管理分野における人の介在を見直す。また、環境管理法令に係る行政手続をオンライン化し、国民・事業者の利便性向上を図る。
環境測定分析機関(自治体、民間機関)の測定分析精度の維持・向上を図るとともに、分析用ヘリウムガスの供給不足や最新の技術動向等を踏まえて公定法を含む分析方法等の見直しを検討する。
自然災害等に起因する、水質汚濁や大気汚染等に係る事故の発生時には、水質汚濁防止法や大気汚染防止法等に基づき、自治体と連携した迅速な状況把握及び事故時の措置の徹底を行う。水道水質の安全対策の強化や災害時における石綿飛散防止対策の強化の観点から、必要な対策を講じる。
化学物質のライフサイクル全体を通じた環境リスクの最小化を目指すため、第2部第3章4(2)に示したGFC の柱立てに沿って、国際的な観点に立った環境分野の化学物質管理を推進する。GFC については、今後、関係省庁及び市民、労働者、事業者、行政、学識経験者等の様々な主体との意見交換を経て、我が国の国内実施計画の策定を進めるとともに、アジア太平洋地域フォーカルポイントとして、アジア地域の取組の推進にも貢献する。
化学物質審査規制法に基づく一般化学物質等のスクリーニング評価及び優先評価化学物質のリスク評価を引き続き円滑に実施するとともに、関係省の合同審議会において、進捗状況の確認及び進行管理を適切に行う。また、化学物質の評価について、欧米で研究が進む新たな評価手法(NAMs)について、我が国においても研究開発を推進し、各法令・制度における適切な活用方策を検討する。
さらに、同法については、平成29 年の法改正時の附則で施行後5年を経過した場合の見直しが規定されていることから、法施行の状況を踏まえつつ、関係省庁が緊密に連携して必要な対応を行う。
化学物質排出把握管理促進法に基づくPRTR 制度及び SDS 制度については、最新の科学的知見や国内外の動向を踏まえた見直し及び適切な運用を通じて、事業者による化学物質の自主的管理の改善を促進し、環境の保全上の支障の未然防止を図る。
水銀に関する水俣条約への対応については、条約の規定事項が水銀及び水銀化合物の採掘から廃棄までライフサイクル全体にわたる広範な内容であることを踏まえ、国内において水銀汚染防止法等に基づく包括的な水銀対策を着実に推進する。
農薬については、国民の生活環境の保全に寄与する観点から、従来の生活環境動植物への急性影響に関するリスク評価に加え、新たに長期ばく露による影響を対象としたリスク評価を導入し、農薬登録制度における生態影響評価の充実を図る。また、既登録農薬の再評価及び生態リスクが高いと考えられる農薬の河川水モニタリングを着実に進める。
非意図的に生成されるダイオキシン類については、ダイオキシン類対策特別措置法に基づく対策を引き続き適切に推進する。
事故等に関し、有害物質の排出・流出等により環境汚染等が生じないよう、有害物質に関する情報共有や、排出・流出時の監視・拡散防止等を的確に行うための各種施策を推進する。
国民、事業者、行政等の関係者が化学物質のリスクと便益に係る正確な情報を共有しつつ意思疎通を図る。具体的には、「化学物質と環境に関する政策対話」等を通じたパートナーシップ、あらゆる主体への人材育成及び環境教育、化学物質と環境リスクに関する理解力の向上に向けた各主体の取組及び主体間連携等を推進する。
また、バリューチェーン及びサプライチェーンを通じた情報の共有促進のため、chemSHERPA、GADSL、製品含有化学物質管理に関する各業界のガイダンス文書、J-Mossなどの規格の整備及び活用を推進するほか、欧州のデジタルプロダクトパスポート(DPP)のように製品のサステナビリティ情報をライフサイクルを通じて確認できる枠組み・取組の中において、有害化学物質情報が併せて取り扱われるような仕組みの導入に向けた検討を進める。
加えて、PRTR 制度により得られる排出・移動量等のデータを、正確性や信頼性を確保しながら引き続き公表すること等により、リスク評価等への活用を進める。
加えて、それらの情報や環境モニタリングで得られたデータを活用すること等により、災害時の被害の防止に係る平時からの備えを図る。
さらには、国連GHS 文書の改訂に係る情報の把握に努めつつ、GHS 未分類の、または情報の更新が必要な化学物質について、引き続き環境有害性等の情報の収集を行ったうえで、民間が独自に保有する化学物質の危険有害性情報を活用し、関係府省と連携を取りつつGHS分類を実施する。また、消費者向けの情報提供に関する業界団体による自主的なGHSラベル表示のガイドライン作成等の取組も進められているところ、化学物質アドバイザー制度の活用促進を通じた中小企業支援等に取り組む。
上記を含めたリスクコミュニケーションを促進し、意見交換を通じて意思疎通を図り、より合理的にリスクを管理し削減する。
化学物質対策に関する行政の取組は科学的な知見に立脚して行うことが求められているため、この知見の集積のための取組として、特にリスク評価の効率化・高度化や未解明の問題の調査研究等の一層の推進を図り、環境リスクの詳細な把握とその低減につなげる。
一方で、極めて深刻な環境影響等が懸念される問題については、科学的に不確実であることをもって対策を遅らせる理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、予防的な対策を講じる。
関係省庁・機関が連携を図りつつ、化学物質の製造から廃棄までのライフサイクル全体を考慮したリスク評価を可能とする手法を調査検討し、実用化を目指す。
また、化学物質審査規制法に基づく既存化学物質のリスク評価を行い、リスクを生ずるおそれがあると認められるものを第2種特定化学物質に指定し、所要の処置を講じる。。
加えて、化学物質に関する環境中の実態を考慮しつつ、ものの燃焼や化学物質の環境中での分解等に伴い非意図的に生成される物質、環境への排出経路や人へのばく露経路が明らかでない物質等について、人の健康や環境への影響が懸念される物質群の絞り込みを行い、文献情報、モニタリング結果等を用いた初期的なリスク評価を実施し、その結果を発信する。
リスク評価の結果に基づき、ライフサイクルの各段階でのリスク管理方法について整合性を確保し、必要に応じてそれらの見直しを検討する。特に、リサイクル及び廃棄段階において、循環型社会形成推進基本計画を踏まえ、資源循環と化学物質管理の両立、拡大生産者責任の徹底、製品製造段階からの環境配慮設計及び廃棄物データシート(WDS)の普及等による適切な情報伝達の更なる推進を図る。
加えて、WDS の普及等の廃棄物処理法での対応と連携し、廃棄物の処理委託時に提供される情報を活用すること等により、処理過程における事故の未然防止及び廃棄物の適正な処理を推進する。
各種モニタリング等の効率的な利用を図る。具体的には、環境中の化学物質等の環境要因が子どもの健康に与える影響を解明することにより、適切なリスク管理体制を構築し、安全・安心な子育て環境の実現につなげることを目指し、約 10万組の親子を対象とした大規模かつ長期の出生コホート調査を着実に実施する。
さらには、地方公共団体の環境研究所も含めた研究機関等における化学物質対策に関する環境研究を推進するとともに、各種モニタリング等の環境に関係する調査の着実かつ効率的な実施並びに蓄積された調査データの体系的な整理及び管理を推進する。
化学物質関連施策を講じる上で必要となる各種環境調査・モニタリング等について、各施策の課題、分析法等の調査技術の向上を図りつつ、適宜、調査手法への反映や集積した調査結果の体系的整理等を図りながら、引き続き着実に実施する。
POPs条約等の有効性評価に資するモニタリング結果等必要な情報を確実に収集する。
また、一般的な国民全体の化学物質へのばく露の代表性を担保できる経年的な血液等の生体試料中の濃度調査を進める。
人の健康の保護の観点から、その目標値や基準、管理の在り方等に関し国際的にも様々な科学的な議論が行われ、社会的に関心が高まっているPFAS については、引き続きエコチル調査において健康影響に関する知見を集めるとともに、一般的な国民のばく露状況の経年変化等を把握するための血中濃度調査や環境モニタリングを実施する。
得られた成果は必要に応じて関係省庁及び地方自治体等に周知・共有し、化学物質管理施策につなげられるよう連携を行う。
化学物質の内分泌かく乱作用については、EXTEND2022 の下で、用いるべき試験法を完成させ、確立された新しい試験法を用いた試験・評価に乗り出すことも含め試験・評価の加速化を図る。検討対象物質として農薬、医薬品をはじめとするPPCPs 等を積極的に取り上げるとともに、リスク管理に係る制度下の評価体系における活用を念頭に置いた内分泌かく乱作用に関する評価の方策の提案を目指す。
欧米で研究が進む新たな評価手法(NAMs)について、我が国においても研究開発を推進し、各法令・制度における適切な活用方策を検討する。また、QSAR、トキシコゲノミクス等の新たな評価手法の開発・活用については、海外で検討が進んでいる AOP(Adverse Outcome Pathway)も含め、OECD における取組に積極的に参加し、またその成果を活用しつつ、我が国においても、これら評価手法の開発・活用に向けた検討を引き続き精力的に推進する。
複数化学物質の影響評価(いわゆる「複合影響評価」)について、物質の構造の類似性や作用機序の同一性に着目しつつ、知見の収集及び試行的評価の実施を進め、環境行政として化学物質の複合影響評価を行う上でのガイダンスを作成する。複合影響評価の推進に向けて、これらの知見を既存のリスク評価体系に提供する。
ナノマテリアルについては、OECD 等の取組に積極的に参加しつつ、その環境リスクに関する知見の集積を図る。OECD が取り上げたアドバンストマテリアル等の新たな懸念物質群についても、知見の充実に努める。
環境中に存在する医薬品等(PPCPs)については、環境中の生物に及ぼす影響に着目して生態毒性及び存在状況に関する知見を充実し、環境リスク評価を進める。
薬剤耐性(AMR)に関して、ワンヘルスの観点からG7札幌 気候・エネルギー環境大臣会合(2023 年)の共同コミュニケにおいて知見の空白を埋める努力を続けることが明記されたことなどを踏まえ、環境中における抗微生物剤の残留状況に関する基礎情報の収集、人の健康及び環境中の生物に及ぼす影響に着目した調査を推進する。
プラスチック添加剤などの化学物質による汚染については、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた政府間交渉委員会(INC)等の議論の動向を注視し、適宜適切に対応する。
化学物質の製造から使用、循環利用、廃棄に至るライフサイクル全体を通じた環境リスクの最小化に向け不断の検討を進める。その観点から、製造から廃棄までのプロセスを通した化学物質の管理を目指して、環境配慮設計の促進、より環境に配慮した化学物質への代替促進、グリーン・サステナブルケミストリーの取組支援、リスク評価支援(循環利用時を含む曝露評価基盤の整備等)、化管法に基づく自主管理支援、市中に存在する在庫の適切な管理等を進め、関係する各主体の取組との連携の更なる向上を図る。
我が国では従来から、個々の企業における法令遵守と自主的取組を基に化学物質管理が行われてきた。近年、ESG 投資等、機関投資家が企業の環境面への配慮を重要な投資判断の一つとして捉える動きが主流化しつつあり、化学物質管理においても先進的な取組を行う企業が適正に評価されるよう、評価指標の設定等、企業がよりよい方向性を目指すインセンティブとなるような枠組みの構築を進める。
国民、事業者、行政等の関係者が化学物質のリスクと便益に係る正確な情報を共有しつつ意思疎通を図る。具体的には、「化学物質と環境に関する政策対話」等を通じたパートナーシップ、あらゆる主体への人材育成及び環境教育、化学物質と環境リスクに関する理解力の向上に向けた各主体の取組及び主体間連携等を推進する。
新興国等における化学物質管理の強化や、国際的な化学物質管理の協調に向けて、我が国の化学物質管理に関する経験等の共有を含めた対応を引き続き推進していく。
特に、アジア地域においては、化学物質による環境汚染や健康被害の防止を図るため、各種のモニタリングネットワークや日中韓化学物質管理政策対話、環境と保健に関するアジア太平洋地域フォーラム等を活用した化学物質対策能力向上支援等の様々な枠組みにより、我が国の経験と技術を踏まえた積極的な情報発信、国際共同作業、技術支援等を行い、化学物質の適正管理の推進、そのための制度・手法の調和及び協力体制の構築を進める。
有効性評価等、水銀に関する水俣条約の実施を水銀対策先進国として積極的にリードし、我が国が持つ技術や知見を活用しつつ国際機関とも連携し、途上国をはじめとする各国の条約実施に貢献する。
さらには、子どもの健康への化学物質の影響の解明に係る国際協力を推進する。
PCB廃棄物については、環境省として、一日も早く処理を完了させるため、引き続き保管事業者等に対する普及啓発活動等を推進するとともに、環境省、JESCO、都道府県市、経済産業省をはじめとする関係省庁、事業者団体等の関係機関の更なる連携を図る。
また、2003 年6月6日の閣議了解及び 2003 年 12 月 16 日の閣議決定を踏まえ、旧軍毒ガス弾等による被害の未然防止を図るための環境調査等を、関係省庁が連携して、地方公共団体の協力の下、着実に実施する。また、環境省に設置した毒ガス情報センターにおいて、継続的に情報収集し、集約した情報や一般的な留意事項の周知を図る。
グリーンな経済システムを構築していくためには、企業戦略における環境配慮の主流化を後押ししていくことが必要である。具体的には、環境経営の促進、サービサイジング、シェアリングエコノミー等新たなビジネス形態の把握・促進、グリーン購入・環境配慮契約の推進、グリーン製品・サービスの輸出の促進等を行う。
環境・経済・社会が共に発展し、持続可能な経済成長を遂げるためには、長期的な投資環境を整備し、ESG 金融を含むサステナブルファイナンスを促進していくことが重要である。このため、投資家を始めとする関係者に対しESG 情報等の理解を促すとともに、企業価値の向上に向けて環境情報の開示に取り組む企業の拡大及び企業が開示する情報の質の向上を図る。さらに、環境課題の解決に資する事業に民間投資を呼び込むため、民間資金が十分に供給されていない環境プロジェクトへの支援や、グリーンボンドやグリーンローン等による資金調達の支援等により、金融を通じて環境への配慮や環境プロジェクトの推進に適切なインセンティブを与え、金融のグリーン化を進める。
脱炭素や循環経済、自然再興に資する環境関連税制等のグリーン化を推進することは、企業や国民一人一人を含む多様な主体の行動に環境配慮を織り込み、環境保全のための行動を一層促進することにつながることをもって、グリーンな経済システムの基盤を構築する重要な施策である。こうした環境関連税制等による環境効果等について、諸外国の状況を含め、総合的・体系的に調査・分析を行い、引き続き税制全体のグリーン化を推進していく。
地球温暖化対策のための石油石炭税の税率の特例については、その税収を活用して、エネルギー起源CO2排出抑制の諸施策を着実に実施していく。
脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の構築や、安全確保に資する研究開発などを実施する。加えて、国際的なニーズである環境収容力や国内や地域での需要側の暮らしのニーズを把握した上で、将来及び現在の国民の本質的なニーズを踏まえたイノベーションの創出を目指し、環境・経済・社会の統合的向上の具体化、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブの各分野及び複数領域に関連する統合的な研究・技術開発や、安全・安心等に資する研究・技術開発、自然科学のみならず人文社会科学も含めた総合知の活用に資する研究・技術開発を実施する。
その際、特に以下のような研究・技術開発に重点的に取り組み、その成果を社会に適用していく。
ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブを目指す中長期の社会像がどうあるべきかを不断に追究するため、環境と経済・社会の観点を踏まえた、統合的政策研究を推進する。
また、そのような社会の実現のために、国内外において新たな取組が求められている環境問題の諸課題について、「脱炭素」や「資源循環」、「自然共生」、「安全・安心」及びそれらを横断する観点から環境と経済の相互関係に関する研究、環境の価値の経済的な評価手法、規制や規制緩和、経済的手法の導入などによる政策の経済学的な評価手法等を推進し、客観的な証拠に基づく政策の企画・立案・推進を行うための基盤を提供する。なお、この政策研究の成果を政策の企画立案等に反映するプロセスにおいては、各段階における関係研究者の参画を得て、政策形成にも携わる研究者人材の養成を進める。
また、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブといった複数の課題に同時に取り組むWin-Win型の技術開発や、複数の課題の同時解決の実現を妨げるような課題間のトレードオフを解決するための技術開発等、複数の領域にまたがる課題及び全領域に共通する課題も、コスト縮減や、研究開発成果の爆発的な社会への普及の観点から、重点を置いて推進する。また、AI、IoT等のデジタル技術、量子等の先端的な科学技術、先端材料技術やモニタリング技術、DX関連技術、経済安全保障に資する技術、分野横断的に必要とされる要素技術等については、技術自体を発展させるとともに、個別の研究開発への活用を積極的に促進する。
研究開発を確実かつ効果的に実施するため、以下の方策に沿った取組を実施する。
技術パッケージや経済社会システムの全体最適化を図っていくため、複数の研究技術開発領域にまたがるような研究開発を進めていくだけでなく、一領域の個別の研究開発についても、常に国内外の他の研究開発の動向を把握し、その研究開発がどのように社会に反映されるかを意識する必要がある。
このため、研究開発の各主体については、産学官、府省間、国と地方等の更なる連携や、同種のみならず異種の学問領域や業界・業種の間の連携等を推進し、また、アジア太平洋等との連携・国際的な枠組みづくりにも取り組む。その際、国や地方公共団体は、関係研究機関を含め、自ら研究開発を行うだけでなく、研究機関の連携支援や、環境技術開発に取り組む民間企業や大学等の研究機関にインセンティブを与えるような研究開発支援を充実させる。
研究開発の成果である優れた環境技術を社会実証・実装し、普及させていくために、新たな規制や規制緩和、経済的手法、自主的取組手法、特区の活用、シームレスな環境スタートアップ等の支援によるイノベーションの促進等、あらゆる政策手法を組み合わせ、環境負荷による社会的コスト(外部不経済)の内部化や、予防的見地から資源制約・環境制約等の将来的なリスクへの対応を促すことにより、現在及び将来の国民の本質的なニーズに基づいた研究開発を進めるとともに、環境技術に対する需要をも喚起する。また、技術評価の導入や信用の付与など、技術のシーズをひろい上げ、個別の技術の普及を支援するような取組を実施していく。
研究開発の成果が分かりやすくオープンに提供されることは、政策決定に関わる関係者にとって、環境問題の解決に資する政策形成の基礎となる。そのためには、「なぜその研究が必要だったのか」、「その成果がどうだったのか」、「どのように環境問題の解決に資するのか」に遡って分かりやすい情報発信を実施していく。また、研究成果について、ウェブサイト、シンポジウム、広報誌、見学会等を積極的に活用しつつ、広く国民に発信したり関係者と対話したりすることを通じて成果の理解促進を更に強化し、市民の環境政策への参画や持続可能なライフスタイルの実現に向けた意識変革・行動変容を実現する。
研究開発における評価においては、PDCA サイクルを確立し、政策、施策等の達成目標、計画、実施体制などを明確に設定した上で、その推進を図るとともに、研究開発の進捗状況や研究成果がどれだけ政策・施策に反映されたかについて、事前、中間、事後そして追跡評価等の適切な組合せを通じて適時、適切にフォローアップを行い、実績を踏まえた計画・政策等の見直しや資源配分、さらには新たな政策等の企画立案を行っていく。
AI やIoT、そしてビッグデータによる新しい情報技術の進展が進む中で、データが集積され、利活用されるデジタル分野のプラットフォームビジネスが様々な産業領域で創出され、産業構造に影響を及ぼしている。デジタル・プラットフォームについては、取引環境の整備が国際的に進められているところであり、我が国においても早急にデータ流通や個人情報保護、情報セキュリティ、透明性や公正性等の基本的な考え方やルールの整備を図る必要がある。サイバー空間とフィジカル空間の高度な連携を通じて、安心・安全なデータ利活用を担保した上で、社会課題解決と成長の原動力としてのデジタル・プラットフォームビジネスを育成し、イノベーションの牽引や市場の活性化に繋げることが重要である。
データを基盤とするプラットフォームビジネスについては、データの質と量がその価値や競争優位性に直結し得ることから、環境ビジネスにおいても製造・輸送等のサプライチェーンの各段階で生まれる価値あるデータを最大限に活用するため、企業や業種の垣根を越えて国内の関係者がデータを連携し、流通させる仕組みを構築する。そして、利用者のニーズに対応し、事業者の市場アクセスや消費者の便益向上に貢献する。
我が国が強みを有する環境技術の活用・普及等のため、国際的な枠組みへの貢献や多国間・二国間協力等を通じて、環境課題に関する国際連携を推進する。
我が国の国際競争力強化に当たっては、知的財産に係る技術情報のオープン・クローズ戦略に留意する。とりわけ、我が国が強みを有する環境技術が活用され、普及していくためには、単に技術情報をオープンにするのみならず、技術を外部に打ち出して革新を起こすアウトバウンド型のオープンイノベーションを実現する手法としての標準化が重要である。環境技術に関連する国際標準化や国際的なルール形成の推進のためには、諸外国との協調が不可欠であり、科学的知見やデータの共有や政策対話等を通じて相手国・組織に応じた戦略的な連携や協力を行うとともに、途上国を始めとする各国の環境関連の条約の実施に貢献する。
監視・観測等については、個別法などに基づき、着実な実施を図る。また、広域的・全球的な監視・観測等については、情報のオープン・クローズに留意しつつ国際的な連携を図りながら実施する。このため、監視・観測等に係る科学技術の高度化に努めるとともに、実施体制の整備を行う。また、民間における調査・測定などの適正実施、信頼性向上のため、情報提供の充実や、技術士(環境部門等)などの資格制度の活用などを進める。
新しい技術の開発や利用に伴う環境への影響のおそれが予見される場合には、環境に及ぼす影響について、技術開発の段階から十分検討し、未然防止の観点から必要な配慮がなされるよう、適切な施策を実施する。また、科学的知見の充実に伴って、環境に対する新たなリスクが明らかになった場合には、科学的根拠が不十分または不確実な場合においても、その時点で利用可能な最良の科学的知見に基づいて、未然防止原則や予防的取組の観点から必要な配慮がなされるよう、適切な施策を実施する。
「インフラシステム海外展開戦略2025」(令和5年6月追補版)に基づき、質の高い環境インフラの海外展開を進め、途上国の環境改善及び気候変動対策を促進するとともに、我が国の経済成長にも貢献する。
また、環境インフラ海外展開プラットフォーム(JPRSI)を活用し、環境インフラのトータルソリューションを官民連携で海外に提供するとともに、脱炭素社会実現のための都市間連携に係る取組や二国間クレジット制度(JCM)を通じて、環境インフラの海外展開を一層強力に促進する。
さらに、海外での案件においても適切な環境配慮がなされるよう、日本の環境影響評価に関する知見を活かした諸外国への協力支援や、JICA 環境社会配慮ガイドライン等を踏まえた取組を支援することによって、環境問題が改善に向かうよう努める。
相手国・組織に応じた戦略的な連携や協力を行う。具体的には、各国と政策対話等を通じた連携・協力を深化させるとともに、G7、ASEAN、太平洋島嶼国、中央アジア、南アジア、アフリカ諸国等の気候変動・環境対策の各分野及びその統合的な実施において我が国からの貢献を行い、これらの国々、地域とのパートナーシップ強化にもつなげる。
さらに、日 ASEAN 友好協力 50 周年を契機として発足した「日 ASEAN 気候環境戦略プログラム(SPACE) 」をはじめ、日中韓、ASEAN、東アジア首脳会議(EAS)等の地域間枠組に基づく環境大臣会合に積極的に貢献するとともに、国連環境計画(UNEP)、経済協力開発機構(OECD)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、生物多様性条約(CBD)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、アジア開発銀行(ADB)、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)、国際連合経済社会局(UNDESA)、アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)等の国際機関等との連携を進める。
多国間 資金については、特に、緑の気候基金(GCF)及び世界銀行、地球環境ファシリティ(GEF: Global Environment Facility)に対する貢献を行うほか、JCMプロジェクト形成のためのADBや国連工業開発機関(UNIDO)に対する拠出金を活用して、優れた脱炭素・低炭素技術の普及支援を行う。また、民間資金の動員を拡大するため、環境インフラやプロジェクトの投資促進に向けた取組を支援する。
我が国の自治体が国際的に行う自治体間連携の取組を支援し、自治体間の相互学習を通じた能力開発を促す。また、日本の自治体が有する経験・ノウハウを活用し、都市レベルでの脱炭素社会の構築に向けた制度構築支援や、二国間クレジット制度(JCM)による排出削減プロジェクトにつながる取組を支援する。
持続可能な社会を形成していくためには、国や企業だけではなくNGO・NPO を含む市民社会とのパートナーシップの構築が重要である。このため、市民社会が有する情報・知見を共有し発信するような取組を引き続き実施する。
JCM を含め、パリ協定第6条に沿った市場メカニズムによる「質の高い炭素市場」を構築するため、「パリ協定6条実施パートナーシップ」を通じ、パリ協定第6条を実施するための各国の理解や体制の構築を促進するとともに、各国の体制整備等を支援する目的でCOP28 において公表したパッケージを通じ、世界の温室効果ガス排出の更なる削減に貢献する。
G20 大阪サミットでの「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の共有、G7広島サミットでの 2040 年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心の合意を主導した我が国として、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた政府間交渉委員会(INC)等の国際交渉において主導的な役割を果たしていく。
この他、有効性評価等、水銀に関する水俣条約の実施を水銀対策先進国として積極的にリードし、我が国が持つ技術や知見を活用しつつ国際機関とも連携して途上国をはじめとする各国の条約実施に貢献するとともに、化学物質、廃棄物、汚染分野に係る科学・政策パネルの設立交渉において、合意形成への貢献を行う。
自立・分散型社会の実現のためには、地域が主体性を発揮して、自らの強みである自然資本を生かし、魅力ある地域づくりを進めること、すなわち地域循環共生圏の創造が重要である。その際、地域づくりを地域で担う人材の育成も必要不可欠であり、地域づくりと人づくりは両輪で取り組んでいく必要がある。
このため、自立した地域として、他の地域とネットワークを構築して支えあう地域プラットフォームづくりに向けて、地域プラットフォームの運営主体の育成や、そのための中間支援体制の構築を行うとともに、様々な地域のネットワーク構築を促進するための取組も行う。
また、地域循環共生圏が創造されることで、地域の環境・経済・社会にもたらすインパクトを測定・発信するとともに、各地における優れた取組を表彰・発信することで、より多くの地域が地域循環共生圏創造に取り組むよう働きかけていく。その際、特に地域の経済循環構造を把握することが重要となるため、そのためのツールの運営・更新を行う。
さらに、持続可能な社会へ移行する過程で、経済社会構造は大きく変化することが予想されることから、そのような地域を対象に、地域循環共生圏の考え方に基づき、経済社会構造の変化に伴う負の影響を最小限とし、環境を軸とした新規産業等を創出していくための地域プラットフォームの構築、ビジョンや事業構想の共有、新たな事業創出など、地域の主体的な取組を支援する。
地域脱炭素は、地球温暖化対策計画(令和3年 10 月 22 日閣議決定)において、地方の成長戦略として、地域の強みをいかした地域の課題解決や魅力と質の向上に貢献する機会であるとされている。暮らしの中で、一人一人が主体となって今ある技術で脱炭素に取り組める余地は大きなものがあり、また、寿命の長い地域の公共インフラや構造物、エネルギー供給インフラは脱炭素型へと移行するのに時間がかかることから、今から進める必要がある。こうしたことも踏まえ、国全体の脱炭素への移行を足元から先導すべく、地域金融機関や地域の企業等との連携の下、地域特性に応じて、各地方公共団体の創意工夫をいかした産業・社会の構造転換や脱炭素製品の面的な需要創出を進めることにより、地域の脱炭素化を実現することが重要である。
このため、第2部に述べたとおり、地域脱炭素に向けた「先行地域づくり」として、地球温暖化対策計画に基づき、2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて、2025 年までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を選定し、各府省の支援策も活用しながら、2030 年までに民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴う二酸化炭素排出実質ゼロ又はマイナスを実現等するとともに、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する地域脱炭素の実現の姿を示す。併せて、エネルギーマネジメントシステムの導入による需給調整など、デジタル技術も活用しながら、産業、暮らし、インフラ、交通など様々な分野で脱炭素化に取り組むことが重要であることに鑑み、デジタル田園都市国家戦略等に基づき、デジタル技術の活用による DX と GX の施策間連携の取組を強化する。さらに、「デコ活」や市民参加型の政策形成支援143により、脱炭素先行地域を含む地域全体の住民・企業の取組の連携を促進する。
また、第2部に述べたとおり、地域脱炭素の加速化に向けた「重点対策」として、政府による財政・技術・情報支援を通じて、地方公共団体は、地域脱炭素の基盤となる重点対策(地域共生・ひ益型の再生可能エネルギー導入、公共施設等のZEB 化、公用車における電動車の導入、資源循環の高度化を通じた循環経済への移行、コンパクトシティ・プラス・ネットワーク、食料農林水産業の生産力向上と持続性の両立等)の推進を図るとともに、企業・住民が主体となった取組を更に加速する。
こうした脱炭素先行地域等の先行する取組の全国展開に当たっては、都道府県、地域金融機関、地域エネルギー会社、脱炭素化支援機構等と連携し、得られた成果の横展開を図る。とりわけ、都道府県については、関係部局が連携し、政府による財政支援や地方財政措置も活用しながら、公営企業を含む都道府県による再エネ導入、地域の中核企業の脱炭素化支援、都市計画・交通分野の脱炭素化などを加速することが期待される。例えば、地域脱炭素化促進事業制度も活用しながら、広域で再生可能エネルギー促進に向けたゾーニングを推進し、地域企業の脱炭素化支援を含めて地域主導で地域に貢献する地域共生型再エネ推進の主体となることが期待されており、国はこのために必要な支援を行なう。
さらに、今後益々激甚化が予想される災害やこれによる停電時に公共施設へのエネルギー供給等が可能な再エネ設備等の整備を推進するとともに、地方公共団体実行計画支援システム(LAPPS)を改修しつつ、その活用を一層促進することにより、地方公共団体の事務・事業の脱炭素化の取組が効果的に進むよう支援する。
加えて、自治大学校等とも連携しながら、地域主導型で地域に貢献する脱炭素を推進するための中核人材を育成するため、脱炭素中核人材に求められる能力、取組の発展段階に応じた人材育成プログラムを提供するとともに、中核人材同士や地域脱炭素に取り組む企業とのネットワーキングを行うことで、地域脱炭素の連携体制の構築を進めるほか、脱炭素型の地域づくりに関し、助言を行なう脱炭素まちづくりアドバイザー等の専門家の派遣を行なうなど地域脱炭素のための人材育成を強化する。とりわけ、令和5年度から開始した脱炭素まちづくりアドバイザー制度等の運用状況や、地方自治体をはじめとする地域の脱炭素支援のニーズを踏まえつつ、地方環境事務所、都道府県、地球温暖化防止活動推進センター等既存の組織に期待される役割・機能も検討した上で、複数の地方自治体等に対して脱炭素型の地域づくりに向けた計画策定から実行までの支援を一気通貫で行える中間支援体制の構築に向けた検討を行なう。
地域に貢献する脱炭素事業の構築に向けては、事業可能性調査を含む地域脱炭素の計画づくり支援や、衛星情報等最新のデジタル技術も活用したREPOS と EADASの拡充・連携強化、市町村カルテ・地域経済循環分析等の情報ツールの整備・拡充を行なう等、事業の構築を情報・技術面から支援する。
こうした脱炭素による持続可能な地域づくりを支えるための制度的対応として、地球温暖化対策推進法に基づく地方公共団体実行計画制度の下で地方公共団体が段階的に取組を強化するとともに、地域脱炭素化促進事業制度も活用しながら、必要に応じ地域のビジョンづくりも支援しつつ、広域で再生可能エネルギー促進に向けたゾーニングを推進することで、地域企業の脱炭素化支援を含めて地域主導の地域共生型再エネを推進する。
国土形成計画その他の国土計画に関する法律に基づく計画を踏まえ、持続可能で自然と共生した国土管理に向けて、環境負荷を減らすのみならず、生物多様性等も保全されるような施策を進めていく。例えば、生物多様性の保全や回復のための民間活動の促進、森林、農地、都市の緑地・水辺、河川、海等を有機的につなぐ広域的な生態系ネットワークの形成、森林の適切な整備・保全、集約型都市構造の実現、環境的に持続可能な交通システムの構築、生活排水処理施設や廃棄物処理施設をはじめとする環境保全のためのインフラの維持・管理、地球温暖化への適応等に取り組む。
特に、管理の担い手不足が懸念される農山漁村においては、持続的な農林水産業等の確立に向け、鳥獣被害対策、農地・森林・漁場の適切な整備・保全を図りつつ、経営規模の拡大や効率的な生産・加工・流通体制の整備、多様な地域資源を活用して付加価値を創出する農山漁村発イノベーション、人材育成等の必要な環境整備、環境保全型農業の取組等を進めるとともに、森林、農地等における土地所有者等、NPO、事業者、コミュニティ等多様な主体に対して、環境負荷を減らすのみならず、生物多様性等も保全されるような国土管理への参画を促す。
国、地方公共団体、森林所有者等の役割を明確化しつつ、地域が主導的役割を発揮でき、現場で使いやすく実効性の高い森林計画制度の定着を図り、適切な森林施業を確保する。なお、自然的・社会的条件が悪く林業に適さない場所に位置する森林については、公的主体による森林整備を推進する。さらに、多様な主体による森林づくり活動の促進に向け、企業・NPO・森林所有者等のネットワーク化等による連携・強化を推進する。
環境保全型農業を推進するため、土づくりや化学的に合成された肥料及び農薬の使用低減に資する技術、効率的、効果的な施肥や防除方法を普及するなどの取組を進める。
国民全体が国土管理について自発的に考え、実践する社会を構築するため、ESDの理念に基づいた環境教育等の教育を促進し、国民、事業者、NPO、民間団体等における持続可能な社会づくりに向けた教育と実践の機会を充実させる。
また、地域住民(団塊の世代や若者を含む)やNPO、企業など多様な主体による国土管理への参画促進のため、市町村管理構想・地域管理構想の全国展開等による、「国土の国民的経営」の考え方の普及、地域活動の体験機会の提供のみならず、多様な主体間の情報共有のための環境整備、各主体の活動を支援する中間組織の育成環境の整備等を行う。
森林づくり活動のフィールドや技術等の提供等を通じて多様な主体による「国民参加の森林づくり」を促進するとともに森林空間を活用して健康・観光・教育等多様な分野で体験プログラム等を提供する「森林サービス産業」の創出、地域の森林資源の活用や森林の適切な整備・保全につながる「木づかい運動」等を推進する。
公園緑地等において緑地の保全及び緑化に関する普及啓発の取組を展開する。
地方公共団体、事業者や地域住民が連携・協働して、地域の特性を的確に把握し、それを踏まえながら、地域に存在する資源を持続的に保全、活用する取組を促進する。また、こうした取組を通じ、地域のグリーン・イノベーションを加速化し、環境の保全管理による新たな産業の創出や都市の再生、地域の活性化も進める。
社会活動の基盤であるエネルギーの確保については、東日本大震災を経て自立・分散型エネルギーシステムの有効性が認識されたことを踏まえ、モデル事業の実施等を通じて、地域に賦存する再生可能エネルギーの活用、資源の循環利用を進める。なお、これらの再生可能エネルギーの導入にあたっては、景観や生態系、温泉等の自然資本への影響を回避・低減した上で、地域における円滑な合意形成が必要となるため、科学的データの収集・調査等を通じた地域共生型の資源・エネルギーの活用を推進する。
都市基盤や交通ネットワーク、住宅を含む社会資本のストックについては、高い環境性能等を備えた良質なストックの形成を図るとともに、長期にわたって活用できるよう適切な維持・更新を推進する。緑地の保全及び緑化の推進について、行政機関が定める「緑の基本計画」等に基づく地域の各主体の取組を引き続き支援していく。
また、農山漁村が有する食料供給や国土保全の機能を損なわないような適切な土地・資源利用を確保しながら地域主導で再生可能エネルギーを供給する取組を推進するほか、持続可能な森林経営、木質バイオマス等の森林資源の多様な利活用、農業者や地域住民が地域共同で農地・農業用水等の資源の保全管理を行う取組を支援する。
さらに、地域の文化・歴史や森林、景観など農林水産物以外の多様な地域資源も活用し、農林漁業者はもちろん、地元の企業なども含めた多様な主体の参画によって付加価値の創出を図る農山漁村発イノベーションやエコツーリズム等、地域の文化、自然とふれあい、保全・活用する機会を増やすための取組を進めるとともに、都市と農山漁村等、地域間での交流や広域的なネットワークづくりも促進していく。
これらの施策を促進するため、情報提供、制度整備、人材育成等の基盤整備にも取り組んでいく。情報提供に関しては、多様な受け手のニーズに応じた技術情報、先進事例情報、地域情報等を提供するとともに、それらの情報の分析・活用技術の開発・提供等を行う。
制度整備に関しては、地域の計画策定促進のための基盤整備により、地域内の各主体に期待される役割の明確化、主体間の連携強化を推進するとともに、持続可能な地域づくりへの取組に伴って発生する制度的な課題の解決を図る。
また、評価指標の充実を通じた民間投資の促進、コミュニティ・ファンドの活用促進等により、環境負荷の低減等に資する各種プロジェクトの内容や規模に応じた資金調達の円滑化を図る。
人材育成に関しては、学校や社会におけるESDの理念に基づいた環境教育等の教育を通じて、持続可能な地域づくりに対する地域社会の意識の向上を図る。
また、NPO等の組織基盤の強化を図るとともに、地域づくりの政策立案の場への地域の専門家の登用、NPO等の参画促進や、地域の大学等研究機関との連携強化等により、実行力ある担い手の確保を促進する。
中大規模建築物等の木造化、住宅や公共建築物等への地域材の利活用、木質バイオマス資源の活用等による環境負荷の少ないまちづくりを推進する。また、地域の森林・林業を牽引する森林総合監理士、施業集約化に向けた合意形成を図る森林施業プランナー、伐採や再造林、路網作設等を適切に行える現場技能者を育成する。
豪雨や地震等により被災した荒廃山地の復旧・予防対策や海岸防災林等の整備強化による津波・風害の防備など、災害に強い森林づくりの推進により、地域の自然環境等を活用した生活環境の保全や社会資本の維持に貢献する。
景観に関する規制誘導策等の各種制度の連携・活用や、各種の施設整備の機会等の活用により、各地域の特性に応じ、自然環境との調和に配慮した良好な景観の保全や、個性豊かな景観形成を推進する。
古都保存、史跡名勝天然記念物、重要文化的景観、風致地区、歴史的風致維持向上計画等の各種制度を活用し、歴史的なまちなみや自然環境と一体をなしている歴史的環境の保全・活用を図る。
持続可能な社会づくりの担い手育成は、全ての大人や子どもに対して、あらゆる場において、個人の変容と社会や組織の変革を連動的に支え促すことを目的に推進することが重要である。このため、環境教育等促進法及び同法により国が定める基本方針のほか、「我が国における「持続可能な開発のための教育(ESD)」に関する実施計画(第2期ESD 国内実施計画)」(2021 年5月決定)等を踏まえ、以下の取組を推進する。
(1)学校においては、学習指導要領等に基づき、持続可能な社会づくりの担い手として必要な資質・能力等を育成するため、環境教育等の取組を推進する。また、ホールスクールアプローチの観点から、ESD の推進拠点であるユネスコスクールによるネットワークを活用した交流等の促進や、学校施設が環境教育の教材としても活用されるよう、環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備を推進する。さらに、学校全体として、発達段階に応じて教科等横断的な実践が可能となるよう、関係省庁が連携して、教員等に対する研修や教材等の提供等に取り組む。
(2)家庭、地域、職場等においては、乳幼児から高齢期にわたり、意欲に応じて切れ目なく環境について学ぶことができるよう、関係府省が連携して、自然体験活動その他の多様な体験活動への参加の機会の拡充を図る。
(3)環境教育の推進に当たっては、体験活動を通じた学びに加え、ICT の活用、多様な主体同士の対話や協働を通じた学びの充実を図る。また、「体験の機会の場」等を通じた質の高い環境学習拠点の充実や幅広い場での環境教育の推進を図るほか、表彰制度や研修の機会の提供等を通じて自発的な取組を促進していくとともに、ウェブサイト等により優良事例を積極的に発信する。
上記の取組を推進するために、ESD 活動支援センター等の中間支援機能の充実を図り、その活用を促進する。
多様な主体の参加によるパートナーシップを前提とした効果的な協働取組を通じて主体同士が学び合うことにより、地域コミュニティの対応力や課題解決力を高めていくことが可能である。すなわち、パートナーシップの充実・強化は、人づくり、地域づくりにも資するものであり、持続可能な地域づくりのためには、住民、民間団体、事業者、行政等による対話を通じた協働取組が重要である。
このため、地球環境パートナーシッププラザや地方環境パートナーシップオフィスを拠点とし、先進事例の紹介や各主体間の連携促進のための意見交換会の開催のほか、民間団体等の政策形成機能の強化や、自立した地域づくりへの伴走支援等に努め、世代や立場、分野を超えた環境教育や協働取組の促進を行う。また、これらの組織で培った中間支援機能に関する豊富な知見や経験を、地域等で中間支援組織となりうる様々な組織・団体に共有することを促すことにより、地域等の特性にあった協働取組を通じた地域づくり、人づくりを促進する。
第1部第2章「3(3)「参加」の促進 :政府、市場、国民の共進化と人材育成、情報基盤整備」においても述べたとおり、政府(国、地方公共団体等)、市場(企業等)、国民(市民社会、地域コミュニティを含む。)の共進化には、環境情報の充実、公開が基盤となる。このため、第2部第2章の各重点戦略においても述べられているとおり、企業の経営や活動に関する環境情報(例:気候変動や自然関連の財務情報、サプライチェーン全体でのGHG 排出量)や、地域計画・国土利用に関する環境情報(例:再エネポテンシャル・生態系情報)等について、見える化し、各主体が利用可能な形に整備する。また、これらの環境情報に加え、環境関連の統計情報については、「統計改革推進会議最終取りまとめ」(2017 年5月統計改革推進会議決定)及び「公的統計の整備に関する基本的な計画」(2023 年3月28 日閣議決定)等に基づき、客観的な証拠に基づく政策の立案(EBPM)に資するよう、環境行政の政策立案に必要な統計データ等の着実な整備を進めるとともに、統計ユーザー等にとってアクセスしやすく、利便性の高いものとなるよう、ユーザー視点に立った統計データの改善・充実を進める。
国、地方公共団体、事業者等が保有する官民データの相互の利活用を促進するため、「オープンデータ基本指針」(2017 年5月高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定 2021 年6月 15 日改正)等に基づき、環境情報に関するオープンデータの取組を強化する。また、各主体のパートナーシップを充実・強化し、市民の環境政策への参画や持続可能なライフスタイルへの転換等を促進するため、情報の信頼性や正確性を確保しつつ、SNS やAI 等のデジタル技術を活用しながら、いつでも、どこでも、分かりやすい形で環境情報を入手できるよう、利用者のニーズに応じて適時に利用できる情報の提供を進める。加えて、新しい国民運動「デコ活」による脱炭素型の製品・サービスに関する情報提供等を通じ、消費者の行動変容を促す。
政策立案の根拠としては、ランダム化比較試験等の頑健な効果検証の手法により得られた、因果関係の確からしい科学的知見等の客観的な証拠を参照することが望ましい。上記の環境情報の整備や提供に当たっては、証拠としての質(エビデンスレベル)に留意することとする。一方で、常に質の高い証拠が得られるとは限らないため、そのような場合においては、根拠が得られた諸条件や内的及び外的妥当性等に留意しつつ、その時点で得られる最良の客観的な証拠(Best Available Evidence)に基づいて政策を立案することが重要である。
持続可能な社会の実現に向けて計画などを策定する段階から環境配慮の組み込みを図るとともに、国、地方公共団体及び関係団体等が連携・協力した環境影響評価制度によって、事業における適正な環境配慮を確保することにより、健全で恵み豊かな環境の保全を図り、国民一人一人の「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に貢献する。
環境影響評価法については、前回改正144の完全施行から 10 年が経過したことを踏まえ、附則の規定145に基づき、改正法の施行の状況について検討し、より適正な環境配慮を確保するための制度の在り方について総合的な検討を行う。例えば、環境情報基盤の整備を図る等の観点から、環境アセスメント図書の継続公開の制度化について、法的な課題も踏まえ検討していく。また、再生可能エネルギーの中でも今後の導入拡大が期待される風力発電事業に関しては、事業の特性を踏まえた適切な環境影響評価制度の在り方について迅速に検討を進める。
風力発電事業の制度の在り方に関する検討については、具体的に、・風力発電事業のうち、とりわけ洋上風力発電事業に関しては、再生可能エネルギーの主力電源化の切り札として推進していくことが期待されている。一方で、再エネ海域利用法に基づく促進区域指定と環境影響評価法に基づく環境影響評価手続は、それぞれが独立した制度となっているため、両制度が並行して適用されること等による課題が指摘されている。そのため、両法律が適切に接続される制度実現に向けた取組を進めていく。
・陸上風力発電事業についても、適正な環境配慮を確保しつつ、地域共生型の事業を推進する観点から、地域の環境特性を踏まえた効率的・効果的な環境アセスメントが可能となるよう、環境影響の程度に応じて必要なアセスメント手続を振り分けること等を可能とする新たな制度を検討する。
法に基づく環境影響評価制度を適切に施行するため、主に以下の取組を進める。
・環境影響評価に必要となる基礎的な環境情報や過去の実施事例等の情報に係る基盤の整備・環境影響評価に係る最新の技術的手法の研究開発・普及・環境影響評価に係る外部専門人材の育成・環境影響評価手続における審査体制等の強化・報告書手続等を活用した環境影響評価のフォローアップの実施
原子力災害に起因した放射線に関する健康管理・健康上の不安のケアについては、被ばく線量の把握・評価、放射線の健康影響調査研究、福島県の県民健康調査とその対象者の支援及び放射線リスクコミュニケーション相談員支援センターによる支援等の取組を継続して実施するとともに、放射線の健康影響に関する誤解から生じる差別を無くすための情報発信を積極的に行う。特に、特定復興再生拠点区域の避難指示解除により帰還者等が増加する中、帰還者等が地域で主体的に行う取組との連携を進め、対話を通じて得られる参加者の意見を今後の放射線健康不安対策に活かす取組を進める。
公害健康被害補償法に基づき、汚染者負担の原則を踏まえつつ、認定患者に対する補償給付や公害保健福祉事業を安定的に行い、その迅速かつ公正な救済を図る。
水俣病対策については、水俣病被害者救済特措法等を踏まえ、すべての被害者の方々や地域の方々が安心して暮らしていけるよう、関係地方公共団体等と協力して、補償や医療・福祉対策、地域の再生・融和等を進めていく。
石綿健康被害救済法に基づき、石綿による健康被害に係る被害者等の迅速な救済を図る。また、2023 年6月に取りまとめられた中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会の報告書を踏まえ、石綿健康被害救済制度の運用に必要な調査や更なる制度周知等の措置を講じていく。
大気汚染による健康被害の未然防止を図るため、環境保健サーベイランス調査を実施する。また、独立行政法人環境再生保全機構に設けられた基金により、調査研究等の公害健康被害予防事業を実施する。
環境を経由した健康影響を防止・軽減するため、花粉症、熱中症等の化学物質を起因とするもの以外の環境中の健康・生態系影響因子に係る調査研究や理解増進等について、関係省庁と連携しつつ、予防方法等の情報提供及び普及啓発を実施する。
熱中症対策については、「熱中症環境保健マニュアル」等、熱中症対策に関する各種ガイドライン、普及啓発資料の作成・周知、熱中症予防情報サイト等による各種情報発信を通じて、地方公共団体、事業者、国民の熱中症予防行動の促進・強化に取り組む。
花粉症については、令和5年5月の花粉症に関する関係閣僚会議で決定された「花粉症対策の全体像」に基づき、政府一体で取組を進める。
近年の公害紛争の多様化・増加にかんがみ、公害に係る紛争の一層の迅速かつ適正な解決に努めるため、「公害紛争処理法」(昭和45年法律第108号)に基づき、あっせん、調停、仲裁及び裁定を適切に実施する。
住民の生活環境を保全し、将来の公害紛争を未然に防止するため、公害紛争処理法に基づく地方公共団体の公害苦情処理が適切に運営されるよう、適切な処理のための指導や情報提供を行う。
産業廃棄物の不法投棄を始めとする環境犯罪に対する取締りの実効性を更に向上させるよう体制を整備するとともに、社会情勢の変化に応じて法令の見直しを図るほか、環境犯罪を事前に抑止するための施策を推進する。
環境基本計画の着実な実行を確保するため、中央環境審議会は、国民各界各層の意見も聴きながら、環境基本計画に基づく施策の進捗状況などを点検し、必要に応じ、その後の政策の方向につき政府に報告する。
中央環境審議会は、2025 年度及び 2027 年度において、第2部第2章「重点戦略ごとの環境政策の展開」及び同第3章「個別分野の重点的施策の展開」並びに第3部「環境保全施策の体系」について、それぞれの趣旨に基づき、関係府省からのヒアリングの実施等により個別施策の進捗状況の点検を実施する。その際、第2部第3章「個別分野の重点的施策」のうち「1気候変動対策」及び第3部「環境保全施策の体系」のうち「1地球環境の保全」については、「地球温暖化対策計画」及び「気候変動適応計画」の直近の点検結果を、また第2部第3章「個別分野の重点的施策」のうち「2循環型社会の形成」及び第3部「環境保全施策の体系」のうち「3循環型社会の形成」については、「循環型社会形成推進基本計画」の直近の点検結果を、さらに第2部第3章「個別分野の重点的施策」のうち「3生物多様性の確保・自然共生」及び第3部「環境保全施策の体系」のうち「2生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組」については、「生物多様性国家戦略」の直近の点検結果を可能な限り活用する。
中央環境審議会は、2026 年度及び 2028年度において、各前年度に実施した個別策の点検結果を参照しつつ、第1部第2章において述べた今後の環境政策が果たすべき役割である「環境負荷の総量削減」「自然資本の維持、回復、充実」「環境価値の高付加価値化」「「『ウェルビーイング/高い生活の質』の実現」「環境、経済、社会の統合的向上」が、各重点戦略において如何に進捗したかを把握することに力点を置いて点検を行う。また、これらの観点から、重点戦略に関連した官民の取組の優良事例のヒアリングを実施する。併せて、重点戦略を支える環境政策及び環境保全施策の体系についても、各施策が進捗しているかの点検を行う。これらの結果を踏まえ、環境基本計画の総合的な進捗状況に関する報告書を作成する。
点検等に当たっては、環境基本計画の進捗状況についての全体的な傾向を明らかにし、環境基本計画の実効性の確保に資するため、環境の状況、取組の状況等を総体的に表す指標群を活用する。指標の設定に当たっては、可能な限り定量的な指標を用いる。ただし、施策等の性質によって指標の定量化が困難であったり、適切でなかったりする場合には、定性的な評価を基本とし、定量的な指標は補足的に用いることとする。 なお、これらの指標の使用に当たっては、それぞれの指標が持つ特性や限界等に十分留意する必要があるとともに、それらに関して、広く関係者の理解を得るよう努めることが重要である。また、指標が本計画の目指す方向を的確に反映し、かつ環境や経済・社会等の状況に即した適切なものであるよう常に見直しを行い、指標の継続性にも配慮しつつ、その発展のため、必要に応じ機動的に変更を行う。
中央環境審議会の点検結果については、国の政策の企画立案等に活用するほか、環境基本法第 12 条に基づく年次報告等に反映することにより幅広い主体に対して情報提供を行う。
環境基本計画の効果的な実施のためには、まず環境政策の目的である「環境保全上の支障の防止」及び「良好な環境の創出」からなる環境保全とそれを通じた「現在及び将来の国民一人一人の『ウェルビーイング/高い生活の質』の実現」であり、また「人類の福祉への貢献」であることから、その状況について確認する必要がある。具体的には、地上資源を基調とし、環境負荷の総量を抑えて自然資本のこれ以上の毀損を防止するとともに、自然資本を充実させ良好な環境を創出し、持続可能な形で利用することによって、「ウェルビーイング/高い生活の質」に結びつけていく。環境を軸として環境・経済・社会の統合的向上の「高度化」を図り、循環共生型社会の実現を目指すという方針を政府内外で共有し、全ての主体が協力して、この具体化に向け実際に行動していくことが非常に重要である。
政府は、閣議のほか関連する閣僚会議や関係府省間の会合などの場を通じて、上記の方針に対する共通認識を深め、関係機関の緊密な連携を図り、環境基本計画に掲げられた環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に実施する。また、政府は、地方公共団体、事業者、民間団体、国民等、あらゆる主体に対して、上記の方針について共通認識が得られるよう努める。
政府は、環境基本計画に掲げられた各種施策を実施するため、施策の有効性を検証しつつ、必要な制度の整備、財政上の措置その他の措置を講じる。その際、本計画の進捗状況、環境の状況などを踏まえるとともに、必要に応じて改善を行い、これを踏まえ、関係する機関の適切な連携の下で、各種事業が総合的に推進されるよう適切に対処する。また、地方公共団体が地域の実情に応じて自主的積極的に実施する環境の保全に関する施策のための費用について、必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努める。
関係府省は、環境基本計画を踏まえながら、オフィス、会議、イベント等における物品・エネルギーの使用といった通常の経済主体としての活動分野と、各般の制度の立案等を含む環境に影響を与えうる政策分野の両面において、それぞれの定める環境配慮の方針に基づき、環境配慮を推進する。また、環境配慮の取組を一層充実させるため、環境配慮の実施状況を点検し、その結果をそれぞれの活動に反映していくための仕組みの強化等、環境マネジメントシステムに関する取組を積極的に推進する。
各主体それぞれが、環境基本計画に基づいて、公平な役割分担の下に、様々な施策、取組を自主的かつ積極的に推進するために、連携、協力を密にすることが必要である。
各主体は、環境基本計画の上記の方針に沿い、自らの行動への環境配慮の織り込みに最大限努めるものとし、その推進に当たり、環境マネジメントシステムなどの手続的手法の活用を図るものとする。
地方公共団体には、環境基本計画に示された方針に沿いながら、地域の自然的社会的条件に応じて、国との連携を図りつつ、国に準じた施策やその他の独自の環境の保全に関する施策について、環境の保全に関する総合的な計画の策定などにより、これを総合的かつ計画的に進めることが期待される。
経済社会活動が、環境問題とより密接な関係を持つことから、幅広い分野の政策が環境政策と関係を持っている。国は、環境に影響を及ぼすと認められる計画を策定するに当たっては、(1)の方針に沿って、環境の保全に配慮しなければならない。環境保全のための配慮に当たっては、次のとおり臨む。
環境の保全に関する国の基本的な計画である環境基本計画と国の他の計画との間では、環境の保全に関しては、環境基本計画との調和が保たれたものであることが重要である。
国の他の計画のうち、専ら環境の保全を目的とするものは、環境基本計画の基本的な方針に沿って策定、推進する。
また、国のその他の計画であって環境の保全に関する事項を定めるものについては、環境の保全に関しては、環境基本計画の基本的な方針に沿ったものとすることとし、このため、これらの計画と環境基本計画との相互の連携を図る。特に、法令に環境基本計画との調和に関する規定がある計画については、当該規定を踏まえ、本計画の基本的な方向に沿ったものとなるよう留意することとする。
国は、環境基本計画の策定後5年程度が経過した時点を目途に、計画内容の見直しを行うこととする。この際、それまでの中央環境審議会による点検結果を踏まえるとともに、中央環境審議会の意見を聴取する。この計画内容の見直しを踏まえ、必要に応じて計画の変更を行う。なお、計画に定められた各分野の具体的な目標や、それを実現するための個別の施策については、目指すべき持続可能な社会の実現に向けて、内外の経済・社会の変化や施策の検討・進捗状況に柔軟かつ適切に対応できるよう、必要に応じて弾力的に対応することが重要である。